ちなみに主人公が強い回です
豪炎が駆け抜ける。火傷は酷いが、それでも痛みに目を瞑れば動くことが出来る。
「───お前も逃げぬのか」
「まあね。これでも、同僚が自分たちのために死ぬとか言うのは苦手なんだ」
できる限りの穏やかな笑顔をつくる。同時に、Aceに耳打ちをする。
「……いいですか?できる限り、ひとかたまりになって動かないで」
「何故だ?そうすると、一網打尽にされるのが見えているが……」
「『アーツ』を使うので、巻き込まれないようにです。……僕は、あなた達を死なせたくない」
正確に言えば、『アーツ』を全力で使う。正直ぶっつけ本番だし、どうなるかは全く分からない。
少なくとも、Ace達を巻き込まないようにするために、動かないで欲しい。
「……分かった。だが、危険と判断したらその時は」
「ありがとうございます」
無理を言っているのは億承知。やるだけやる。
「何をしようと、お前たちの死は免れない────」
タルラがまた、アーツを放とうとしようとしているのが分かる。だが、それを気に留めはしない。
『自分』の内側に、目を向ける。今の今まで、目を逸らしていたもの────『ドクター』でも、『青年』でもない何か。
あの海に落ちた日から、どうしてか使えるようになったこのチカラ。どうしてか鉱石病にならないこの体。
……どうしてか、青年の記憶のはずなのに思い出せない部分があること。
今はそれがなんでもいい。そのチカラなら、間違いなく……少なくとも、僅かでも、タルラにも届く筈!
「それは、どうだろう───ねッ……!」
酷い頭痛が走る。思いっきり頭に刃を突き刺されたような痛みとともに、ズキズキとしている。
……それでも、
■■■
───────レユニオンの構成員のひとりは、その光景に動くことが出来なかった。いや、動こうとすら思えなかった。
何やらフードを目深に被った人物が前に出てきたことに、彼は「タルラ様の前に愚かな」なんて思った。あの盾を持った男たちならまだしも、ボロボロのカバンをかけて片手に銃のようなものを持っただけの、細い男だ。どう見ても、防御出来るような人物には見えない。
ひとつ気味が悪いと思ったのは、こんな惨状でピンチなのに、とても穏やかな……子供にものを教えるような声色だったことくらいだ。それ以外は、今は逃げたロドスの面々よりも非力に見える男だ。
ならば術師か?と思ったが、その男がアーツを使った様子は、今の今まで無かった。少なくとも、その構成員には彼がアーツを使っていた記憶はなかった。
いや、分厚い盾だろうと、強力なアーツだろうと、タルラの前に為す術なんてどこにも無いのだと構成員は考えていた。
もしも、万が一対抗策があるならば、今この場にいないコータスの少女……ロドスのトップだったか、彼女だけだろうとも。
だから、その男を馬鹿だと思った。そのすぐ後に、タルラがよろめくのを目にするまでは。
「ッ────!」
突然、タルラがアーツを霧散させてよろめいた。
「貴様、何をし──────」
「────その焔、邪魔だな。弾薬がある中では火気厳禁って、教わらなかった?」
明瞭で朗々とした声で、男は言った。それは蔑むでも馬鹿にするでもなく、心底……心底心配するような、それでいて明るい場違いな声色。
その瞬間、広場は阿鼻叫喚の地獄へと変貌した。
その構成員は無事だったが、突如として隣にいた同志たちが、おかしくなった。
「あ、ああ!花、花が……大輪の、大輪の!!」
「嫌だ、嫌だ来るな来るな来るな来るな!」
「絡めとられる、絡まれ絡みからからむ……ふ、ふへへへへへへははは!」
「讃え崇め、あが、あがががががが」
叫び、笑い、祈り、狂い出す。先程まで同志だったそれらは、縋り付いてくる。
あまりの理解のできなさに、彼らを蹴飛ばす。
リーダーは……タルラ様はどうしたんだ?!と周囲を見回す。
レユニオンの幹部格は、三者三様だった。
スカルシュレッダーは頭をおさえながらも、何とか立っている。
アンフィテアトルムはその場から微動だにしていない。隠された顔のせいで、どんな状態かも分からない。
メフィストは……理由は分からないが、キラキラとした目で男を見ている。その隣にいるファウストも、若干表情を歪めつつではあるがメフィストと似たようなものだった。
『フードを被った黒いコータスの少女』は、無表情に虚空を見つめていた。
そして、タルラはというと。
「何をっ、した……!!」
アーツを使おうとして、霧散、使おうとして霧散を繰り返していた。
男は、フードの下から弧を描いた口元をのぞかせながら、軽く腕を振り上げた。
途端、同志たちのうちの一部が、不可視のなにかに潰された。
それはまるで、重量と柔軟性を兼ね備えたような……あまりにも大きな触手や蔦とか、そんなものに潰されたような跡だった。
「何をしたんだろうね?まずは、考えてみようか。それでも分からなかったら、もう一度質問して欲しいかな」
そして男が腕を振り下ろした時、その構成員は見た。視えてしまった。
男を中心に伸びる『根』を、その『根』の中央に大輪の花のように『花弁』を纏う男を、その男の伸ばす『根』の先から伸びる複数の巨大な『蔦』を。
……その『蔦』が、もう頭上にまで迫っていることを。