やることは無い。だから、己の足で彷徨うことにした。
それからは、本当に彷徨っていた。旅をしていたと言ってもいいだろう。
詳細を余すことなく語りたいところだけど、それには時間がかかりすぎる。だから、端折りながら大きな出来事のみをかたろう。
初めの頃は大変だった。元々少食な方らしくて、そこまで食料の消費は激しくなかった。が、それでもどうしても減っていく。
そんな折に、小さな村に助けられた。
凍原の傍にある村。人口も少なく、帝国から隠れるようにひっそりとあった。
住民は暖かく迎え入れてくれて、食料も少ないだろうに、わけてくれた。きっとこの大陸の中でもとても珍しい場所だったと思う。感染者が居たが、差別されている様子もなかった。
しばらく滞在させてもらった。僕はお礼にできることはと考えて、主に子供達へ読み書きを教えた。
楽しかった。慣れない農業や工芸も学びつつ、もうここの住民になってしまおうと考えていた。
なら何故旅を続けているのか?理由は至極簡単だ。
……村は、燃えた。突如やってきた帝国の兵士によって焼かれた。
その時僕は、少しだけ離れた位置にある薪を取りに行くために村から離れていた。
戻ろうとして、正面からやってきた子供に言われた。
「───先生、これ持って、逃げて!村に戻っちゃダメ!」
渡された鞄は、子供────生徒達がなにやらコソコソ作っていたものだと知っていた。しかし、子供達が「サプライズだから先生には内緒だよ」と話しているのを偶然聞いていたから、ちょっと楽しみにしていたものだ。
僕に鞄を渡した子供──生徒は、そのまま力尽きて倒れ、動かなくなった。当然だろう。あまりにもヒドイやけどと流血の状態で、何とか僕に渡してくれたのだ。
もしも自分に医療の知識があれば、助けられたかもしれない。しかし、自分はその場から生徒だった遺体を持って逃げることしか出来なかった、
鞄の中は、沢山の食料と水、幾らかの手当のための道具、ナイフがひとつ。
食料は自分が持ってきていた袋に纏まっていたが、道具とナイフは乱雑に入っていた。急いで入れてくれたのだろう。
あとから村の様子を見に行った。もしもそこに兵士がいたらきっと大変な事になっていただろうが、その時の自分はそんなことも考えられないくらいに混乱していた。
村は無惨に荒らされていた。転がされていた住民だって遺体は損壊が激しく、判別できるかどうかギリギリのラインだった。
住民の数は20に満たない。それらを何とか埋葬してから、スコップと鞄を持って村だった場所を離れ、また彷徨いはじめた。
そのまま失意と共に彷徨っている中、生徒が出来た。それも、2人。
凍原を彷徨っているうちに、出会った少年だ。
鱗を持った黒い少年と、黒い少年に隠れるようにしていた白い少年。
名前を、それぞれ『サーシャ』と『イーノ』。
────後の、「アークナイツ」におけるレユニオン幹部、『メフィスト』と『ファウスト』となるはずの少年たちだ。
はじめ、サーシャは弓をこちらに向けて来ていて、何より2人とも警戒マックスだった。
が、食料を分け与えて傷の手当をしてやって、少しずつ話していくうちに心を開いてくれた。
今では2人とも、「先生」と呼び慕ってくれている。
そうして、2人とともに大陸を歩いた。
そのさなか、ひょんなことから極東に行った。
そして滞在中、僕は「海」へと落下してしまった。なんてことの無い事故だ。
青年は日本人だったから、海には親しみ深い感覚が自分にもある。しかし同時に、恐ろしい場所であるということも知っていた。
「先生!」と叫ぶ2人の声が遠のきながら、意識を失った。
意識を失う直前に、何か赤色のドレスが見えたような気がするのは、未だに気の所為だと思っている。
目を覚ましてから、どうしてかアーツを使えるようになっていた。アーツユニットなしで、だ。
だと言うのに、自分に鉱石病の兆候は一切無い。そういえば、感染者である生徒2人と過ごしているのに、村に感染者もいたのに、自分には鉱石病の兆候とかなかったことを思い出した。
2人にハチャメチャに心配され説教されて、それから3人で首を傾げたのはいい思い出だ。
─────そして、『チェルノボーグ事変』についての情報を手に入れたのは、『チェルノボーグ事変』が終わってから数日後の事だった。