平衡世界
また、目を覚ました。そこは、見慣れた知らない場所だった。
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「…………?」
途切れた意識が浮上すると、人工的な天井が目に入った。
人工的というか、機械的というか。
周囲の状況を確認すれば、どうも自分はベッドの上で寝ていたか寝かされていたらしい。
自分は、天災で降ってきた塊に潰されたはずじゃ?わからない。
自分はそんなに物理強度は高くない。種族もそんな強度が高いような種族じゃ無いはずだし。
混乱する思考の中、ふと横から声をかけられた。
「目を覚ましたのですね。大丈夫ですか?」
その方を向けば、コータスの少女が居た。茶髪の、コータスの、少女。
「……!」
その少女を、僕は知っていた。
『ロドスアイランド』のCEO、最初に仲間になる星5術士。
名前を、アーミヤ。「ドクター」のことを最も知る人物のひとりであり、「自分」は関わることがなかった少女。
そうなると、ここは恐らくロドスの治療室だ。どういう事だ?サーシャかイーノが説明でもして救出してくれたのだろうか?
と、アーミヤはとても心配そうな眼差しを向けているのに気づいた。
「……僕は、大丈夫ですよ。ここは?」
「ロドスの治療室ですが……」
なんとも言えない表情をするアーミヤ。
「ロドス……えっと、聞きたいことがあるのだけども……いいですか?」
「はい」
「どうして、僕はここに?」
まずはこれだ。とりあえずこれを質問しなければ始まらない。
「あなたは、作戦中に倒れていた所を救出されました。ロドスの制服を着ていましたが、あなたの記録を確認することができませんでした。ですから、今から多くのことを質問しなければなりません」
「は、はあ……」
「体調は、大丈夫ですね?」
別に痛いところも動かないところもない。意識自体も────相変わらず記憶が無いのは除けば─────何も問題ない。
僕は、頷いた。
◆◆◆
念の為、と医療オペレーターによって検査された後に、別室へと連れて行かれた。なにやら医療オペレーター達が慌ただしそうだったが、製薬会社だしそういうものなのだろう。
連れていかれた部屋には、アーミヤと、何名かのオペレーターと、緑髪のフェリーン………何故か、ケルシー先生もその部屋にいた。
なんというか、威圧感が強い。気圧されるようなそんな感覚だ。
正面に座るのはアーミヤそのななめ後ろにケルシー。
「まず、状況を説明しますね」
と、アーミヤは改めて状況を整理してくれた。
ロドスのある作戦中に、倒れている僕を見つけて救出したこと。ロドスの制服を着ているのに、僕についての情報が一切ロドスに無いこと。
しかし、気絶しているのを無理矢理起こすことは、不可能ではないができない。
だから、検査の結果大丈夫の確認ができたため聞き取り調査となる、ということだ。
「私は、このロドス・アイランドのCEOの、アーミヤです。あなたは、誰ですか?」
誰、と言われて困った。確固たる名前が無いのだ。
基本的に、村の人達や生徒達からは「先生」と呼ばれていたから、別に名前がなくても問題なかった。
しかし、ここに来て呼び名がないのはな……何かいい名前……
「……とりあえず、『ロミオ』と呼んで欲しいな。生憎、僕はある地点から昔の記憶が無くて、自分の名前すら覚えてないので」
ぱっと思い浮かんだのは、ウィリアム・シェイクスピアの戯曲の中でも有名なものの中に出てくる、男主人公の名前だった。
彼らはお互いの名を憎んでいたけど、それすら羨ましいな、なんて考えるのはちょっと感傷的なのかもしれない。
「わかりました、ロミオさんですね。では────」
そこからは、質問攻め。出身や年齢、経歴など。
しかし、それら全て自分でも分からないのだ。正直にそう答えると、困ったような表情をされた。
「えっと……それでは、逆に聞きたいことなどはありませんか?」
「沢山あるけど……そうだ、2人は……サーシャとイーノっていう、鱗のある黒い男の子と、白くてふわふわした男の子を見ませんでしたか?!」
「おっ、落ち着いてください!」
オペレーター達の視線、特にケルシーからの視線が痛くて、前かがみになった姿勢をなおした。
「サーシャさんとイーノさん?ですが、ロミオさんの言う特徴に合う人物は周辺には確認されていません。そもそも、ロミオさんを見つけたのは都市の中です。天災も起きていませんでしたし、起きた痕跡もありませんでした」
「はい?僕は、都市の外に2人と共に居たはずなのですが……?」
「「????」」
そもそも都市の中で倒れていたということがわからない。都市の外で天災に見舞われたのだから、そんな所で倒れているわけがない。
「……私からひとつ質問だ。『ロミオ』、君は……どこからの記憶ならある?」
「………!」
ケルシーから飛んできた質問に、名前以上に口ごもった。これは果たして、言ってもいいものなのだろうか?
しばらく続く沈黙。
「ロミオさん……?」
あ、なんだか怪しまれている。早く答えなければ。ここは、誤魔化そう。
「すみません。目を覚ました前後をよく覚えていないんです」
「……そうか。」
ケルシーはそう言うだけで、それ以上何も言わなかった。
「では、ロミオさん。これは、私からの提案なのですが……」
また少しの沈黙の後、アーミヤがきりだした。僕は顔を上げて聞くことにした。
「はい」
「ロドスで働きませんか?」