魔法科高校の劣等生〜我が世界に来たれ魔術士〜 作:ラナ・テスタメント
ええ、プロローグなのでかなりはしょった筈なのですが、八千文字超え。
あれれ、おかしいぞ(汗)
ともあれ、プロローグ2、どぞー。
七草真由美は、国立魔法大学附属第一高校の一年生……になる予定の少女だ。既に合格はしており、後三日程で入学式を迎える。
新入生総代を勤める事も決まっており、これからの学校生活を華々しく送る事を約束されているような、そんな娘であった。
だが、だからと言って悩みが無い訳では無い。それは家の事もそうだし、魔法についてもそうだ。そして、目下最大の悩みは、執事キース・ロイヤルの事だった。
明らかに外国人然としたこの青年は、三年前にふと現れた。雨の中でぽつねんと立つ彼を、そのままでは風邪を引くと家に連れて行ったのは、他でも無い、真由美だ。
そこまでは良かったのだ。問題は、その後だった。
何故か父、七草弘一と意気投合し、何故か自分専属の執事になり、何故か外出時には付き従うようになり、何故かその度に理不尽な事態を引き起こしてくれた。いや、本当に何故なのか、全く分からないのだが。
ともあれ、そんな手を焼きまくる執事でも有能な事には違いなく(意外な事に、執事として間違いなく有能だった)、今日もショッピングに出掛ける際に、運転手兼執事として付いて来ていた。
しかし帰る時に限って、何故か案の定姿を眩ませたのだ。ただ行方不明なだけならいいのだが、相手はキースである。何を仕出かすのか分かったものではない。
そんな訳で、真由美は携帯端末でコールしつつも彼を探していた。すると、応える声があったので、ホッと安堵しながら街路を曲がる。今回は、果して何を仕出かしたのか――。
「……え?」
そしてアパートに挟まれた路地に入った真由美が見たものは、キースとやたら目付きの悪い”青年”だった。キースと同じくらいの歳に見える。そして、”彼に背後から口を塞がれた中学生くらいの少女”。
はたから見ても――否、どう見てもそれは少女を誘拐しようとする光景に見えた。青年の表情が引き攣るのが、良く分かる。
「き、キース? 何をしてるの……?」
「あ、いやこれは――」
「危ないっ! お嬢様ぁぁぁぁぁ――!」
唐突にキースが叫ぶと、青年とこちらの間に入って両手を広げる。まるで盾になるようにだ。すかさず、言ってくる。
「お嬢様、危ない所でありました!」
「キース? どう言う事?」
「はっ、つい席を外してふらりと、この路地に入ったのですが――そこな黒づくめの目付きの悪い、チンピラっぽい、チンピラ的な、むしろギリギリチンピラそうな男が、少女を誘拐している現場にあいまして! 私は彼女を救おうとしたのですが……!」
「て、こら待て誰がチンピラだっ!」
少女の口を離して青年が叫ぶ。しかし、キースは一片も表情を変えずに向き直った。
「おや? 私は黒魔術士殿がチンピラなどとは言ってはおりませんが?」
「いや、それはそうだが、言ったも同じだろ」
「言い訳はいりませんっ!」
ばっとポージングを決めると、キースは目を拭う。芝居がかった仕種で、黒魔術士殿と呼んだ青年に訴えはじめた。
「私は恥ずかしいです……! 黒魔術士殿! 友と認めた貴方が、よもやいたいけな未成熟な身体に発情し、我慢出来ずに襲い掛かろうとするなんてっ!」
「そ、そんなっ! なら――」
「人聞きの悪い事言ってんじゃねぇ!」
真由美の怯えの混じった視線に、青年は叫ぶがキースは止まらない。この執事は、面白いと思った事を理不尽とノリで物理法則その他諸々を無視して行うと言う悪癖がある。
つまり、今回も行く所まで行く積もりだった。強烈なツッコミが入らない限りは。
「ああ、見て下さいマユミお嬢様! あの少女も怯えております!」
「ねぇ、オーフェン。彼って……」
「言うな、何も言ってくれるな頼むから」
青年、オーフェンと言ったか。彼に解放された少女はジト目で言うが、オーフェンは切実にお願いし、息を吸い始めた。ここらが頃合いだからだ。ツッコミの。
「まさしく天をも恐れぬ所業! ああ、神よ。何故こんなチンピラを世に解き放ったのか――!」
「チンピラって言ってんじゃねぇかぁぁぁぁぁぁぁ――――!」
直後、真由美は信じられないものを見た。オーフェンが突き出した右手から、光と熱が溢れ、解き放たれたのだ。これは、フォノン・メーザー? しかし、彼はCADを持っているようには見えない。無論、なくても魔法は使えるが、彼は永唱等を一切使わずに魔法を行使したのである。
オーフェンが放った光熱波は容赦なくキースにぶち込まれ、吹き飛ばす。しかし、次の瞬間にはあっさりと元居た位置に戻っていた。
「さて、冗談はここまでにいたしましょう。ご紹介します、黒魔術士殿。こちら、現在私が仕えさせて頂いている主、七草マユミ様と申されます」
「ねぇ、オーフェン」
「さっきも言ったけど、こー言う奴なんだ」
「……うん、何となく分かった」
まるで何事も無かったかのように、素知らぬ顔で紹介するキースに、早くも何かを悟ったのか、少女は頷き、青年は嘆息する。そんな彼等を真由美は見て。
「ええっと、とりあえず私にも紹介して貰えます? あと、状況も教えて貰えると」
そんな、とても正しい事を言ったのだった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
一同は七草家の車――やたらでかいリムジンだ――に乗り込み、キース運転の元で自己紹介を兼ねた説明を始めた。
まぁ、車に乗る際にも一悶着(青年が車に驚き、キースが引っかき回して、ツッコミの魔法)あったのだが、それはまた別の話しである。
「つまり、貴方――オーフェンさんは、キースのご友人と言う事ですか?」
「あ、ああ。その、友人のような、友人ぽい、友人かな? な関係だ」
「黒魔術士殿……恥ずかしがらずに、無二の親友と言ってくだされば」
「誰が認めても俺が認めるかそんなもん!」
友人と言うのに激しく抵抗を感じているらしいオーフェンに、真由美は無理も無いと頷きつつ、彼の横に座る――リムジンは対面式だった――少女に目を向ける。彼女も一つ頷いた。
「私はスクルド。オーフェン……兄さんの妹です」
「は? お前何痛ぇ!?」
オーフェンに最後まで言わせずに、スクルドが横の足を踏み抜く。凄まじい音が鳴ったのは気のせいか。彼女はにっこりと、真由美に微笑んだ。
「普段はオーフェンと呼び捨てで呼んでるんです」
「そうなんですか? 変わってますね」
「兄とか妹だと記号的でよろしくないと言う家風でして」
全く表情を変えずに、しれっと嘘をつくスクルドに、オーフェンは顔が引き攣ってるのを悟らせないように横、窓を見る。
景色が、次々と流れていく。それは、今乗っているものが、かなり高速だと言う事だった。車と言ったか。
(俺らの世界と数百年単位で技術レベルが違うんじゃねぇか、ひょっとして)
ひょっとして、ではなく間違いなくそうなのだろう。ドラゴンの中にあるこの世界は、時間の速度が相当速いのかも知れない。
しかし、元居た世界の、さらに内にあるのは確かだった。何故なら”魔術が発動したから”。
オーフェンが使う魔術は、世界と密接に繋がっている。
常世界法則と言う世界最原理を欺瞞し、錯覚を起こさせ、一時的に自分の理想を限定化された空間に投影する能力だ。オーフェン達人間種族の魔術士は、これを音声を媒体にして行っている。音声魔術と言うものだ。
つまり、本来世界が完全に変われば、オーフェンが魔術を使える筈が無い。少なくとも、全く違う世界ならば。
「そう言えば、オーフェンさん。ちょっと聞きたい事があるんですけど」
「ん、何だ?」
段々とこの少女の口調が砕けたものになりつつあるのを認識しつつ、オーフェンは頷いてやる。
自覚があるのか無いのか、真由美は頷いて問いを寄越した。
「先程の魔法なんですが、どうやってやったんですか? CADも持っていないようですし、今思い出したんですが、想子(サイオン)に干渉もしていなかったような……」
(……ん?)
まずオーフェンが疑問に思ったのは、魔法と言うものだった。
もちろん、彼が使ったのは魔法ではない。魔術だ。魔王術ならいざ知らず、魔術は魔法――万能の力では無い。
ついで、全く覚えの無い固有名詞だ。CAD? 想子? どれも聞き覚えが無い。そもそも。
「……魔法、使えるのか?」
「え? ええ、私は魔法師の卵みたいなものですから。七草家と言えば、結構有名と言う自負があったのですけど」
「家? 血筋が関係するのか?」
「ち、血筋と言うか、演算領域の才能が――」
「魔法はどう言った手順で行使出来る? さっきCADとか想子とか言ってたが、関係は?」
「え、ええっと」
「黒魔術士殿」
と――運転席から、キースの声が掛かり、オーフェンは息を詰めた。つい熱くなっていた事を自覚する。
「魔法に関してや、”ここ”の説明は、後で私から。マユミお嬢様の手を患わせないで頂ければと」
「……頼めるか?」
「承知。それとマユミお嬢様、そろそろお屋敷に到着致しますが、彼等も中に入れて良いでしょうか?」
「そうね。キースのご友人なら問題無いでしょう。家の者には連絡を?」
「既に行っております。彼等の身の保証は私が致します」
真面目なキースと言うのは、大変珍しい気もするが、今回ばっかりは助かった。オーフェンは息を吐き出すと、車がゆっくりと減速していくのを知覚する。
やがて、車は随分と大きな邸宅に到着した。大邸宅と呼んで差し支えない、その家も興味をそそられるものではあったが、オーフェンは沈黙を守った。
かくして、オーフェンとスクルドは七草家へと到着したのであった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
七草家当主、七草弘一をオーフェンが見て率直に思い出したのは、元部下であるクレイリー・ベルムだった。印象は真逆なのに、何故か同じイメージを受ける。
そんな彼と、真由美の下の妹である双子を紹介され(兄が二人いるそうだが、仕事で出ているらしい)、オーフェンとスクルドは七草家に一泊する事となった。執事の友人と言うだけで、ここまでもてなしてくれるのは正直に言って驚いたが。
とにかく、これで時間が持てた訳だ。キースと話す時間を。
「お待たせしました、黒魔術士殿、スクルド様」
「ああ、随分と遅かったな」
キースが自室に――どうやら住み込みで働いているしい――戻って来たのは、夜も更けた頃だった。
家事他諸々をする必要は無いとの事だが、どうも秘書のまね事もしているらしい。一介の執事の部屋にしては広い部屋の椅子に腰掛け、オーフェンはキースに頷く。横ではスクルドが眠そうに目を擦っていた。神人なのに外見通りらしい。まぁ、だからといってどうだと言う話しではあるのだが。
「さて、約束した通り教えてくれるんだろうな?」
「もちろんです黒魔術士殿。では早速――」
「ああ、ちなみにもうギャグもおふざけもいらんからな」
にっこりと笑いながら編み上げた攻城戦術級レベルの魔術構成規模を見て取ってか、キースは一瞬だけ固まる。……どうやら、かます気だったらしい。
自分の性格的に、ツッコむ為ならば他人の家でも容赦しない事を悟ってか、キースは息を呑む。
「黒魔術士殿……私が真面目で無かった時がありましたか!?」
「そうだな、真面目にフザけてただけだよな?」
「黒魔術士殿――」
こちらの言い分に幾分か傷付いた表情を見せるキース。しかし、オーフェンはジト目で見るだけ。なんとなく、オチが見えていたから。
「真面目にバカにしているが抜けておりますよ?」
「どやかましいわ!? いいからさっさと話しやがれ!」
「黒魔術士殿……短気……早○……」
「今とんでもない事言わなかったか!?」
「いいから、さっさと話し始めなさいよ。私眠いんだからー」
「どいつもこいつも……」
他人事だとさっさと話しを進めようとするスクルドに、オーフェンは頭を抱える。
ともあれ、キースは頷くとようやく本題に入り始めた。
「さて、どこから話すべきでしょうか。次元背面跳びから?」
「それはもういい。……そうだな、この世界の魔法の成り立ちから、まず聞こうか。んで、この世界の常識辺りを聞かせてくれ――誇張や嘘は抜きで」
「何故、一文を追加したかは聞きませんが。了解しました。では」
そう言って、キースはとつとつと語り始めたのであった。
魔法――この世界では、伝説やお伽話とさていた力が、現実の”技術”になったのは、近代になってからだった。
二十世紀末に、とある預言者の預言を実行しようとした狂信者集団達による核兵器――戦略レベルの反応兵器の事だ――テロを、特殊な能力を持った警察官が解決した事が、近代以降に魔法が確認された事例となる。
それ以降、研究が各有力国家により進められ、魔法の再現がなされるようになった。
当然、”才能”は必要であったが、それはどんな分野でも同じ事である。ともあれ魔法は技能になり、世界に広まっていった。兵器として、また力として。
その技術として生まれたのが、先の固有名詞だった。
個別情報体――エイドス。
情報体次元――イデア。
起動式。
想子――サイオン。
霊子――プシオン。
術式補助演算機――CAD。
それらを使用する魔法技能師、魔法師。これらが、この世界における魔法の基礎だった。
――固有名詞の詳しい説明や、魔法の手順、必要とされる才能、その他諸々を聞いて、オーフェンはふぅと息を吐く。隣のスクルドはもう寝ていた。まぁ、無理もないが。
それはともかく、オーフェンはこの世界の魔法について納得する。つまり、自分達の世界における魔法(ソーサルロウ)、”常世界法則を直接操作し、世界を根本から書き換える”、言わば万能全能の力とは全く別の、むしろ魔術に近いものだと言う事が良く分かった。
「……やれやれ、どうやらこれも奴が関わってる可能性大か」
「スウェーデンボリーですか。私はついぞ会った事がありませんでしたが」
「そういやあいつ、お前と会うのは徹底して避けてたな」
こちらの事情もついでに説明したキースに、オーフェンは頷く。
芸風が違うとか、私でも理解不能とか、なんか無茶苦茶言ってたような気はするが。
「さて、然るに黒魔術士殿。奴を探し出すのが目的と思われますが――心当たりは?」
「あるわけねぇだろンなもん。まだ一日経ってねぇんだぞ」
「それもそうですな。では、衣食住、全てがお困りなのでは?」
「それも問題なんだよな……」
キースの説明が確かなら、この世界の身分証明はしっかり管理されているらしい。戸籍も何も無いオーフェンは、言ってしまえば浮浪者みたいなものだった。
当然、働き口なぞ望める筈も無く、則ち金も稼げない。いつかの時代に逆戻りだ。
(まぁ、はぐれ者ってことなんだろうが)
「では、黒魔術士殿。いっそ、ここで働きませんか?」
「は……?」
唐突に齎されたキースの提案に、オーフェンは間の抜けた声を漏らした事を自覚する。しかし、キースは構わず続けた。
「マユミお嬢様の護衛――若いボディーガードを近々雇おうと、旦那様が考えていたもので。力量的に黒魔術士殿ならば、問題無いかと」
「キース――」
思わず、彼の名を呼ぶ。キースは、微笑んで頷き。
「で、本音は?」
「ボーナス二倍はおいしいのです。黒魔術士殿」
とても分かりやすい理由をキースは白状した。まぁ、そんなもんだろう。
しかし、悪い条件ではない。元々適当に仕事を紹介して貰うつもりではあったのだ。
「ボディーガードねぇ……ここ、相当な家柄なのか?」
「この国における最強を意味する魔法師集団たる十師族、その代表格の一つとなりますな」
……思ったよりも、相当な家であったらしい。さすがにオーフェンは苦笑する。まさか偶然に、こんな所に流れつき、偶然キースと再会するとは。
自分にしては運が良すぎるような気もするが、そこは気にしても仕方ない。
「よし、ボディーガードの件、口聞き頼めるか?」
「勿論です。私と黒魔術士殿との仲ではありませんか――謝礼は、給料の半分で宜しいですね?」
「宜しいわけがあるか!?」
とりあえずブン殴って床にキースを沈めて息を吐く。全く――と、そう思った所で何か違和感を感じた。
先程のキースの台詞、何かおかしく無かっただろうか……”若い”ボディーガード?
「……おい、キース。若いってのは、どー言う事だ?」
「おや? お気づきになられてないのですか? ちなみに黒魔術士殿、今の年齢は何歳で?」
「四十五だ」
「そうですか、ではこちらをどうぞ」
言うなりどっから取り出したのか、観音開きのやたらでかい鏡をキースはオーフェンの前で開いた。そこに映るのは自分の姿だ。
黒髪黒目、やたら角度が鋭い、言ってしまえば悪い目つき。皮肉気な容貌は、相変わらずだった――そう、相変わらずだ、”二十年前くらいと”。
オーフェンはしばらく絶句し、若返った自分の顔に触れる。二十年の激務は相応に自分を老けさせていた筈だが、その象徴たる皺が無い。
やがて、ギギっと眠ったスクルドを振り向くと、キースが起こしている最中だった。彼女は欠伸を一つして。
「ああ、うん。私、中年趣味じゃないから」
「お前かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――!」
オーフェンは全力で叫び、七草家の執事の部屋に声がこだましたのだった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
あの後、寝ぼけつつスクルドが説明したのを信じるならば、どうもネットワークから再構成の最中に、若い頃――二十歳くらいに年齢を設定して再構成したらしい。
余計な事をしやがってと文句を言ったが、既に後の祭りだ。しかし、確かに若い事に越した事は無いのだ。外よりこちらは遥かに時間速度は速いらしいし、就職するにも中年よりは青年の方がいい。スタミナもある。なので、あまり強くも言えず、オーフェンは嘆息するしか無かった。
「……で、何がどうなって、こうなってんだろうな」
ふ……と周りを見渡す。そこは有り体に言うと、競技室のような部屋だった。『牙の塔』――オーフェンのかつての母校だ――の体技室に似ている。
そこで、オーフェンは初老の男と向き合っていた。確か名前は、名倉三郎と言ったか。実直そうな男である。さて、何故彼と対峙しているかと言うと。
「キース殿のご紹介とは言え、お嬢様のボディーガードを望まれるなら、まず実力を見せて頂かねば……」
まぁ、こう言う事だった。
キースが、七草弘一にオーフェンの事を持ち出したのは、朝食が終わった後の事である。
何故、そこまで信頼されているのか不可解だが、弘一はすぐにオーフェンを雇う事を決定した。身分も何も明らかにしていないのにだ。
しかも真由美まで激しく賛同する始末。あのお嬢様の目は、確かにこう言っていた。キースの相手をお願いねと。
しかし、反対が無かった訳でも無い。その筆頭が、真由美のボディーガードである名倉であった。
(ま、そりゃそうだよな)
いきなりどことも知れぬ馬の骨が、自分を押し退けてボディーガードの座に着こうと言うのだ。こうなる事は自明の理である。
しかし、オーフェンとて譲る訳にはいかない。折角、即座に就職先が決まりそうなのに、ここで無くなると後が面倒だ。そこで腕試しと相成った訳である。
「準備はよろしいですか? オーフェン殿」
「ええ、いつでも」
頷き、渡されたCAD――特化型CADと言うらしい銃型のそれを振る。これが一種の魔法起動に必要な装備である事は理解した。
理解はしたのだが……。
(どうやって使えばいいんだろうな、これ)
案の定使い方が分からず、オーフェンは手の中でCADを弄んだ。銃の使い方は熟知しているが、外見が似ているだけのものだ。使用方法が全く分からない。そもそもこの世界の魔法を自分は使えるのか――。
(ま、いいさ。使い方なんぞいくらでもある)
「では、はじめ――」
審判役のキースが号令をかけると、名倉は即座に自分のCADをオーフェンへと差し向ける。
起動式読み込み、変数追加、魔法演算領域に転送、魔法式構築、『ルート』に転送し『ゲート』から『イデア』に出力し、座標指定、エイドスに干渉し、事象の書き換えを行う。これらを半秒にも満たぬ時間で終わらせ、名倉が見たものは、唐突に顔面へと迫り来る物体だった。これは、CAD!
「なん!?」
驚愕しながら、反射的に自らのCADで叩き落とす。金属製の甲高い音と共に、CADは床に転がった。
これは間違いなく、オーフェンに渡したCADだ。しかし、何故それが自分の元に飛んで来たのか――決まっている。投げられたからだ。何の挙動も無く。
いつ放たれたかも分からなかった事に悪寒を覚えつつ、やはり何故と思う。彼は魔法師ではないのかと。
それは当たりだった。彼は魔法師では無い。魔術士だった。
空間に投影されるは、最も使いなれた構成。魔術士が、世界を欺瞞すべく作られた設計図だ。そう言う意味では、魔法式と似ているかもしれない。
「我は放つ――」
幾何学模様で編まれた構成は、それこそ半秒どころか刹那に魔力を注ぎ込まれ、存在感を獲得する。紡ぎ出された声を媒介に、解き放たれる!
「光の白刃!」
叫びと共に光熱波が光速で放たれ、唖然とする名倉へと突き進む。それは、投げつけられたCADを右に弾いた為、そちらへと振るわれた名倉のCADを容赦無く飲み込み、爆裂した。当然、名倉を巻き込んで。
吹き飛ばされ、しっちゃかめっちゃかになった初老の元に向かうと、オーフェンは意識が無い事を確認。ふぅと息を吐いた。
「とりあえず勝ったが――これでいいのかね?」
「いいのでは無いでしょうか」
ぱたぱたと何故かちっさい旗を、オーフェンに振りながら、キースは頷く。
名倉三郎に勝利。オーフェンは見事、真由美のボディーガードを勝ち取る事になった。
……しかし、オーフェンは知らなかった。自分が倒した相手が、エクストラ・ナンバーズ、『数落ち』と言われる者であった事を。
その相手にあっさり勝つと言う事が、どのような意味を持つか、彼はまだ知らなかった。
――そして、舞台は二年後の春に移る。
(第一話に続く)
はい、プロローグ2でした。次回から入学編なのですが、オーフェン、真由美のボディーガードなので魔法科高校となんの関係も無いと言う、この事実。ああ、無情……しかし、オーフェンの代わりにもう一人が学校には入る予定ですんで、ご安心下さい(笑)
さて、キャラ紹介その2。今回は、スクルドです。ある意味オリキャラなのです。
スクルド・フィンランディ(オーフェンの妹として通しているので、フィンランディ性を名乗っている)
外見年齢、12〜13歳。
神人種族、運命の女神の末妹、未来の女神である。
スウェーデンボリーが、かつて設定した世界の終末そのものであり、その力は強大(神人種族が、無限の力から一つ足りない程度の力と言われる)。
オーフェンも第四部時点で勝てないと断言していた。単身で世界を滅ぼせる程の力を有する。
しかし、現出した彼女は基本脳天気であり、今の所人類と敵対するつもりは無い模様。オーフェンと共に、劣等生の世界に来た。
目的はスウェーデンボリーを抹殺する事らしく、それが何故なのかは語られていない。
こんな所でしょうか。外見イメージは、ああ女神様のスクルドをイメージして頂ければと思います。
さて、次回からようやく本編開始! ようやく登場だ達也さん、深雪さん、しかしキースのキャラが濃すぎて困る。でも出したい……なんだこれ。
そんな訳で、次回もお楽しみにー。