魔法科高校の劣等生〜我が世界に来たれ魔術士〜   作:ラナ・テスタメント

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はい、ノリにノリノリのテスタメントです。まさかの連続更新だぜヒャッハー!(笑)
……いえね? 戦闘描写になると途端に元気になるみたいで(笑)
ついつい全力で書きまくってました(笑)
あ、ちゃんと寝てますからご安心を(笑)
ではでは、まさかの第十四話前編どうぞー。


入学編第十四話「名前には意味があると信じて」(前編)

 

 解決者。あるいは合成人間とも言われる存在。それはネットワーク(こちらではイデア)に蓄積された過去の情報が人の無意識下にある記憶と結び付き、生じるゴーストと呼ばれる現象、それを利用して生成された「実体のあるゴースト」の事である。ネットワークそのものと肉体が直結している為、極めてネットワークを操作する能力に長けており、知覚の速度が時間の速さを超える事すらある――つまり未来予測を可能とする。また、その存在は実体を持ちながらもゴーストが本質である為、基本的に永久不滅であり、他者の理想を己として具現化する為、自然に他者を支配してしまう。ただし、解決者は白魔術に極めて長けた存在であれば、近似の存在として生まれ得る。

 オーフェンの末娘、ラチェットがそうであった。ただ……。

 

(タツヤがそうだとしても、だ。何か足りない気がする――)

 

 つい先程達也に出し抜かれたオーフェンは、装備一式を持って来ている弘一を苛々と待ちながらも考える。

 司波達也。ネットワークを見る「目」を持つ少年。しかもネットワークに干渉して万物の構造を把握し「分解」する事が出来る能力を持つ。オーフェンが知る達也の情報はこんな所だ。いや、ネットワークで彼を調べるにあたって他にも知り得た事はあったが、今はどうでもい。ただ、オーフェンが感じた違和感は、解決者としての能力にいくつか足りない部分があると思ったら、別の能力が備わっている点についてだ。「分解」がまさしくそれである。しかし、他者の理想を現実化している点については半ばしか出来ていないようにも見えた。……いや、オーフェン自身もう一つの仮説は持っている。達也が自然発生の”劣等型解決者”だとすれば、それを元に人工で”優等型解決者”を生み出せなくはないかと――巨人化すら利用してだ。今の所、それは兆しも見せないが……。

 

「オーフェン、また何か難しい事考えてる?」

「ん……まぁな」

 

 唐突にスクルドから話しかけられ、オーフェンは思考を中断する。彼女はいつかのように苦笑して額を指差した。

 

「ここ、シワ寄ってたよ」

「……それな。外でいろいろあった時から言われてたよ。考えが行き詰まるとそうなるってな」

「オッサンっぽいし、やめとこうよ。考え過ぎても仕方なくない?」

「そう言う訳にはいかないさ。ちと厄介な状況だからな」

 

 軽い口調ではあるが、スクルドは自分を慰めようとしている。それはオーフェンにも分かっている事だった。だが、今回ばかりは流石に迂闊だったと思う事を、やめる事は出来ない。

 解決者相手にネットワーク術を長々と仕掛けるなぞ、教科書を広げてテストさせるようなものである。倫理的にも問題だ。だが、倫理とはもっとも縁遠い生活を二十年以上やっていたせいか、それを疎かにしてしまう悪癖が残ってしまっている。これは直さんとなと自嘲して、オーフェンは改めて時計を見た。先程からもうすぐ十五分、そろそろ着きそうなものだが、と思った所で校門からトラックが見えた。間違いなく七草の会社のものである。ようやくかと苦笑した彼の前でトラックは止まり、座席から眼鏡を掛けた壮年の男が下りて来る。

 七草弘一、十師族の七草家当主にして天世界の門ではマンイーターのコードネームを持つ男が。彼は下りて来るなり、跪いた。娘が見ているにも関わらずだ。その先にはスクルドが居る。

 

「遅れてしまい、まことに申し訳ありません。我が女神よ。どうか、慈悲を賜れますよう――」

「コウイチ、そー言うのはいいから」

「……そうですか。なら、早速作業に入らせましょう」

 

 現金なもので、弘一はさっさと立ち上がるなり、共に下りて来た名倉に視線で合図を送る。すると、彼は手早く連れて来た作業者に指示を出しはじめた。それを尻目に、オーフェンは半眼で弘一を見遣る。

 

「……お前ね。その演出好き、どうにかならんのか」

「そうは言われても、これが私の性分だからな」

「お父様ったら……」

 

 額に手を当てて、真由美が嘆息する。つい数年前までは父がこんな性格をしていると思ってもいなかったのだ。しかも、黒竜人の鎧まで着込んでいる(上にコートを着ていたが)始末である。そんなに自分は天世界の門だと主張したいのか。いや、入れないけども。

 

「とにかく、学校内の巨人は頼む。『剣』を回収したら、『変化』させて戻すから」

「少々勿体ない気もするな。生徒達の方は最初期の巨人化で済んでいるのだろう? そのままには出来ないか?」

「無理だな。調整体魔法師ならともかく、急激な『変化』で巨人化させられた奴らは一気に異形化しかね無い。……と言うより司甲はしたらしい」

「そうか……残念だな。とにかく了解だ、クプファニッケル」

 

 あっさりと頷き、弘一は手に持った銀色のケースを渡して来る。それに苦笑してオーフェンは受け取るとすぐに中を開けた。

 そこに並ぶのは、オーフェン――いやクプファニッケル専用の装備である。ケースの中央に納められた魔術文字を手に取ると、胸に当てる。するとすぐさま鎧は装着された。黒竜皇の鎧である。続けてケース内に入れられた短剣を手に取り、腰に差す。そして鎧の首元から口元に指を這わすと、その部分がぴったりとしたマスクに覆われた。情報認識疎外がこれで掛けられ、許可した人物以外顔を認識出来ない筈であった……一部を除いて。そして鎧の各部にスローイングダガーと暗器が装備されているのを確かめ、オーフェンは頷いた。

 

「よし、準備完了だ」

「成果を期待しているよ。スポンサーとしてもな」

「ああ」

 

 弘一に頷き、振り返る。その先では、ちょっとばっかり不機嫌そうなスクルドと表情のすぐれない真由美が居た。言葉にはせず――しても聞かないからだ――態度で文句を言って来るあたり何だかなと笑って、オーフェンは一応弁解をする事にする。

 

「一人で行くのは、俺一人で大丈夫だからだ。分かるだろ?」

「別に、なんにも言ってないし」

「ならふて腐れた顔するなよ。マユミも、あんまり心配するな」

「だって、オーフェン一人で行くって……」

「ガキ共とっ捕まえて、敵の使いっぱしりからカツアゲするだけだ。人手なんかいるか?」

 

 あえておどけた表現をするオーフェンに、二人は少しだけ顔色を明るくする。完全にでは無いものの、ちょっとは不安を取り除けたか。そんな彼に小さくため息を吐いて、スクルドが告げてくる。

 

「オーフェン、分かってると思うけど、第一に自分の命が最優先だからね。オーフェンがやられると全部終わりだよ」

「……俺は、お前こそがそうだと思うけどな」

「そう? だとしても言ったもの勝ちだよ」

 

 つと、今のやり取りに既視感を覚え、オーフェンは苦笑した。外の世界でリベレイターとやり合った時のクレイリーとの会話そのままであったから。違うのは、クレイリー側が自分だと言う事。立場の違いを認識する……もっとも、あの時も公式には、はぐれ魔術士だったのだが。

 

「分かった。気をつける」

「うん」

「あー、それからマユミ。タツヤ達は、ある程度痛い目に合わすが構わないか?」

「……体罰を行うなんて先生、最近いないわよ」

「古臭い教師なもんでね」

 

 ようやく、ようやく真由美の表情から険が取れた。そして悪戯めいた笑いを浮かべ、頷く。

 

「いいわ。第一高校生徒会会長として認めます。存分にやっちゃって……それから、オーフェン自身も無理しないで」

「了解。どのみち説教しねぇとな。最近の若い奴らは堪えが無いってな」

「オーフェン、やっぱりおっさん臭い」

「悪かったな。じゃ、行ってくる」

 

 スクルドの最後の台詞には憮然として、オーフェンは鎧の魔術文字に起動を命じる。

 情報演算処理モードにて、制御介入補助。ネットワークに接続開始。

 続けざまに鎧から剥離し、燐光の如く周囲を回る魔術文字達。同時にオーフェンは偽典構成を展開していく。空間に描写される莫大量の構成と共に、オーフェンの周囲を巡る魔術文字は量を倍々に増していった。まるで、魔王の力を従えた時のように。当たり前だ。あれを元にこの鎧を作ったのだから。

 黒竜皇の鎧――その力は、沈黙魔術による情報干渉能力である。より簡単に言うと、情報干渉を万能にして行うものだ。万物を情報として捉え、それに介入する能力と思えば分かりやすい。

 これを作ったきっかけは、この世界の魔法に於ける情報強化を知ったからだ。それをより高度なレベルで制御して使えないかと、オーフェンが試行錯誤を凝らし、現代技術に沈黙魔術を加えた結果、生まれたのがこの鎧であった。

 緋魔王の鎧や緑宝石の鎧のように強力な能力では無い。だが、一切の限定が無い万能性がこの鎧にはあった。情報介入を行う事によって、演算処理強化を行い、干渉、領域、処理を大幅に強化させたり、身体能力を情報介入により強化させたり、と言った具合にだ。それを幾つかの機能(モード)で選べるようにしている。

 だが欠点が無い訳では無い。いや、致命的な欠点がこの鎧にはあった。制御がひたすら難しいのだ。実験で七草のスタッフに使わせた事があったが、まともに制御出来た試しが無い。魔法を使わせても魔法式に魔術文字の情報介入が制限なく行われたり、身体能力を強化させてみれば体が持たなかったりだ。よって、この鎧は制御力を極めたオーフェン専用となっていた。

 文字数は十万八千文字。大意は「其が名に我は意味をつける」だ。ちなみに量産を見据えた黒竜人の鎧は文字数を半分に削り、モードを制限させている。加えて、情報干渉強度もかなり抑えてあった。

 オーフェンは全身から溢れた魔術文字を、展開した偽典構成に乗せ、さらに制御の構成を仕組む。凄まじい記述量の構成は、絵画と言うよりは建築にもはや近い。それを持って、空間転移を発動する。行く先は、ブランシュ日本支部。やがてオーフェンの口から魔王の声音で呪文が解き放たれ、瞬間的に彼はこの世界から消えたのだった。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 染み渡るように感覚から、そして肉体が現実に復帰する。空間転移の直後は必ずそうなった。それは、世界の原則を破った技故なのか――空間の移動は、様々な意味で法則を打ち破る。

 この世界から消え、また現れた自分は果たして前の自分のままなのか。確率は五分五分だ。それを確かめる者は誰もいない。シュレディンガーの猫とやらの話しを一度聞いた事があるが、あの猫ならそれに答えられるだろうか? そんな益体もない疑問に苦笑し、自分を皮肉ってオーフェンは目を開けた。

 ブランシュ日本支部は街外れの丘陵地帯にあるバイオ燃料の廃工場にあった。閉鎖された工場は電気を最小限にされている為か昼間にも関わらず薄暗い。しかし、その一部から光が差し込んでいた。その先には一台の大型車、オフローダーがある。どうも突っ込んで来たらしい。車にダメージが無いのは硬化魔法でも使ったか。移動中の車が工場に突っ込む瞬間に硬化魔法を掛けるとは。かなり高レベルの運用法の筈だ。なかなかやるなと一人ごちて、それを使ったであろう男子生徒と話している女子生徒を見る。

 西城レオンハルトと千葉エリカ。達也と友人であり、真由美達の報告通り講堂から出ていった二人であった。

 

「……おい、何分経った?」

「二十分かそこらじゃない? て言うか、あんた落ち着きなさいよ」

「そうは言うけどよ。達也たち、心配じゃねぇのかよ」

「あんたじゃあるまいし、達也くんと深雪なら大丈夫よ。桐原先輩も十文字先輩と一緒だし、あんたが心配するなんて千年早いでしょ」

「お前な――」

 

 と、そこでオーフェンは黒竜皇の鎧を起動。情報干渉を身体強化モードに設定する。鎧各部の魔術文字が今度は離れずに、鎧上で光った。同時に滑るように駆け出す。

 これに最初に気付いたのはレオだった。ハッとするなり、プロテクターを兼ねたCADを構える。だが起動式すらオーフェンは展開を許さなかった。するりと懐に滑り込むと、息が掛かる距離まで踏み込む。そして、ポンっと脇腹に拳を添えた。これにレオは反射的に押し返そうとして――火薬を爆裂させたかのような音が、オーフェンの踏み込んだ足から響き渡る。

 寸打。あるいは重心打ちと最近では呼称される打法だ。拳は存分にレオの脇腹から肋骨を叩き折った感触を寄越した。だが、その感触を受けながらオーフェンは理解する。レオの身体強度は人間のものでは無い――。

 

(軽度のヴァンパイア症……調整体魔法師ってやつか)

 

 弘一に聞いた事がある。遺伝子操作により生まれた魔法師がいると。それが調整体魔法師だった。遺伝子操作は、そのまま巨人化の引き金となる。もちろん、この世界では軽度のものとなるだろうが、それでも巨人化の強度は常人を軽く超えるものだった。

 案の定、レオは苦痛を飲み込むと右手を伸ばして来る。寸打に耐えるとは、見事だが……苦痛が倍増するだけだぞと、声には出さず忠告してやり、オーフェンは身を翻す。レオの手をかい潜り、摺り抜けるように背中に回ると、アキレス腱を狙って踵のエッジを打ち込んだ。

 軸足のアキレス腱は巨人化の強度を持ってしても耐えられない。ぶちぶちと音を立てて、引きちぎれる。これには流石に悲鳴を上げて倒れるレオに、オーフェンは容赦なく側頭部に肘を叩き込んだ。

 快音一発。ついにレオの巨体が崩れる。そしてオーフェンが見たものは、倒れる彼に動揺も見せず自己加速術式を発動し、警棒を構えるエリカの姿だった。

 躊躇もしねぇのかと苦笑するオーフェンへと、エリカが視認すら霞む速度で迫る。だが、二人の間には崩れるレオがいた。いくら警棒があっても彼が居てはオーフェンまで届かない。さて、どうする? と思っていると、エリカは驚くべき行動に出た。こちらに後二メートルといった所で踏み切ったのである。飛び上がる彼女は容赦なくレオの頭を踏み、こちらへと形のいい足で蹴りを放って来た。

 

(思いっきり良すぎだろ)

 

 かつての妻を彷彿とさせるエリカの行動に懐かしさを覚えつつも、情報干渉で強化された筋力でオーフェンは蹴り足をあっさり掴み、捕らえた。これで後は床にでも叩きつければ終わり――だと思ったがエリカの判断はそれを超える。掴まれた慣性を利用して警棒を頭上から打ち込んで来たのだ。さしものオーフェンもこれは予想外で手を離さざるを得ない。慌てて屈むと、頭の上を風切り音が響く。

 エリカは打撃の勢いを利用して、その場で半身の宙返りを捻り付きで行い、オーフェンは屈んだ姿勢から地面を蹴ってその場から離れる。開いた間合いは、そのまま空白の時間を生んだ。

 

「……あんた、何者?」

 

 訝しむような問い。だがオーフェンは答えない。答える意味が無いからだ。彼女は生徒である……そして今は敵だ。

 彼が答えないと見てか、エリカは再び自己加速術式で踏み込んで来た。流石に警棒と素手でやり合う愚は避けて、オーフェンは腰から短剣を抜く。それは黒い刃の短剣だった。どこからどこまでも、隙の無い漆黒の剣。まるで黒曜石から削り出されたような光沢の刃が、薄暗い照明の光すらも吸い込む。そして凄まじい速度で踏み込んで来たエリカの警棒を真っ向から受け止めた。弾かれる両者の獲物。エリカは構わず、自己加速術式と慣性制御を全開にして回り込みながら一撃を見舞う。だが、オーフェンはそれに即座に対応してのけた。短剣の刃が、警棒をエリカごと弾き飛ばす。オーフェンの空間把握力は、それこそ空間に触覚を伸ばすが如く冴え渡っているのだ。いくら早くても、防ぐだけなら容易い。そして防ぎ弾いたならば隙が出来る。再び開く間合いに、オーフェンは止まらない。届かない筈の短剣を振るう――次の瞬間、エリカが吹き飛んだ。

 ごろんごろんと転がり、くはっと息を吐く。それを見ながら、オーフェンは手の短剣に視線を落とした。その刃が伸びていた……いや、違う。黒い短剣は柄だけが握られていた。刀身は複雑なジグソーパズルのピースのように、ばらばらになって宙に浮いている。まるで元々組み合わさっていた形を間延びさせているようだった。

 星の紋章の剣――ムールドアウルの剣。それが、その短剣の名だった。かつて外世界で死の教師であり、最強の敵の一人でもあったクオ・ヴァディス・パテルが所持していた一振り。そして一年前の事件で、自分達の前に現れた賢者会議からの暗殺者が持っていたものだった。今はオーフェンの愛剣である。何せクオが好んで使っていただけあり、使い勝手がいい。弘一が是が非でも量産出来ないか? と聞く程度には上等な業物であった。ちなみに何本かオーフェンは作って、天世界の門の成果として上げている。

 その星の紋章の剣を、オーフェンは引き戻しながらエリカを見る。今の一撃は、あえて防御させた。流石に自分の教え子を、このジグザグの刃で切り刻む趣味は無い――激烈に痛いのだ――し、性差廃絶主義者を自認する自分だろうと、傷跡を好き好んでつけたくは無かった。

 

「……起きろ。寝たフリは意味が無い」

「あはっ、バレてた?」

 

 快活に笑って、ひょっこりとエリカが起き上がる。この娘、ある意味妻より猟奇的な性格かも知れない。その笑顔にそう思いながら、彼女が警棒を構えるのを待つ。

 

「その剣、魔法道具の一種? サイオンも使ってないけど」

「答える意味が無い」

「そうね。……あんたをぶっ倒して手に入れればいっか」

 

 笑顔だけなら魅力的だが、発言はあまりに物騒だった。次が決着になるなとなんとなしに悟りながら、オーフェンは短剣を構え直す。それに目を爛々と輝かせて、エリカが襲い掛かって来た。先程よりなお早く、なお鋭い踏み込み。あるいはオーフェンの迎撃をその一撃は抜けられたかもしれない。だが、彼は最初から剣で勝負する積もりは無かった。

 

「我は生む小さき精霊」

 

 ぽつりと呟き、差し出された手からエリカの眼前に凄まじい光が生み出された。明かりを作る、それだけの構成だ。しかし光量を最大にすれば目くらましにもなる。まして薄暗い工場の中だ。不意をつかれたエリカに、これは覿面(てきめん)に効いた。

 目を灼かれ、その場につんのめる。しかし、転倒はしなかった。だが、オーフェンの姿は見失ってしまった……。

 

(どこ?)

 

 ちかちかする視界で、それでも必死にエリカは黒ずくめの姿を探す。だが、どこにも無い――当たり前だ、彼は”天井に逆さになって居た”から。あの一瞬で重力制御術を使い、飛び上がったのだ。

 混乱する彼女を見ながら、音も無くオーフェンは舞い降りる。そして、エリカの頭頂部に迷わず拳を叩き込んだ。鈍い音が鳴り、エリカはそのまま床に倒れる。頭頂部の急所を打たれ、意識は景気良く飛んでいた。

 気絶したレオとエリカを見て、オーフェンはやれやれと肩を竦める。今年の一年坊主共は個性的過ぎるだろうと。ちなみに、情報干渉により呪文は全く意味の無い言葉に聞こえた筈である。二人が当分目を覚ましそうに無い事を確認してから、手をまずはレオへと差し伸ばす。

 

「我は癒す斜陽の傷痕」

 

 黒竜皇の鎧を情報演算処理モードで制御補助し、レオの全身を治療する。本来なら骨折を完全に治癒する事は不可能だが、鎧を使えば可能だった。続けてエリカも治癒させてから、置きっぱなしになっているオフローダーに二人して投げ込む。第三者から見ると、誤解を受けそうな形で折り重なる二人に苦笑し、さてとオーフェンはネットワークによる思念通話を飛ばそうとして。

 

「……いや、あんたに頼めば話しは早いか」

「おっと気付かれていたか」

 

 そう言ってオーフェンが向ける視線の先に、闇から染み出すように人が現れた。先程までは陰も形も無かった筈なのにだ。だが、オーフェンの感覚は確かに彼を捉えていた。気配ではなく、存在を。

 

「初見で見抜かれたのはちょっと記憶に無いよ。ショックだなぁ」

「抜かせ。笑い顔のままのくせしやがって。……あんた、タツヤの関係者だろ? ネットワークで見覚えがある……」

「ああ、あの紐は君だったか」

 

 彼にも気付かれていたか。オーフェンは嘆息し、どっちがショックだとぼやく。そして睨むようにして彼を見据えた。

 

「一応聞いておこうか、あんた名前は?」

「九重八雲。通りすがりの忍びさ」

 

 そう笑いながら、九重八雲――達也の体術の師にして忍び兼僧侶。そして、現状存在する中でただ一人、賢者会議と接触した事のある者。彼は、にやりと人の悪い笑みをオーフェンへと向けたのであった。

 

 

(中編に続く)

 




はい、またかテスタメント中編か(笑)とか言われそうですが自重しませんええ(笑)
オーフェン、レオとエリカをボコるの巻。エリカはともかくレオが酷い(笑)いや治したけども(笑)
さて、テスタメントがブランシュ編で何がしたいか、この時点で何をしたいか分かる方々も結構いるでしょう(笑)
まさか一巻の内容でやるのかお前と。しかし、ガチで行かせて貰います。
イメージは某Zeroラストバトル(笑)
ではでは、次回もお楽しみにー。

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