魔法科高校の劣等生〜我が世界に来たれ魔術士〜 作:ラナ・テスタメント
今回もサブタイは無謀編からのリスペクトとなっとります。では、キース大暴れの第二話。どうぞー。
あの後、オーフェン達と別れ――どちらにせよ、キースが現れるまで何の対処も出来ないからだ――達也は、入学式が執り行われる講堂に入った。
既に席は半分以上が埋まっている。そして、新入生の席は、あからさまな規則性があった。
前半分が一科生、後ろ半分が二科生だ。在校生はと言うと、クラス別ではあるが、そのような事になっていない。
新入生の間では、そういった意識がある証拠だ。一科生にしろ、二科生にしろ。どちらが悪いと言う訳でもないが。
(どうでもいいか)
一々逆らうつもりもなく、達也は中央に近い空き席に着く。ここは、二科生が集まる席では壇上にもっとも近い。何かあったらすぐに行ける筈だ。
そう思いながら、達也はオーフェンから聞いたキースの説明の通り一遍を思い出す。
(キース・ロイヤル。七草家、直系の長女である会長の専属執事)
そう、執事だ。執事のはずだ――多分執事。ちょっと自信が無いが、それは仕方ない。
(身元不明出身地不明。そもそも人間かどうか、生物かどうかも不明。考えるな、感じろ。全くもって意味不明の論理で生きてるせいか、次パターンが読めるようでいて、読めない。唐突にどんな武器を出してくるか分かったものでも無ければ、どんな技を隠してるかもようと知れない。ノリで魔法まで使った事もある。とにかく、自分がちょっとでも面白いと感じたなら、あらゆる常識、物理法則、世界最原則を無視して、それを実現させてくる。ここから導き出される、答えは――)
考えて、考えて……達也は泣きたくなった。いや、泣けないけども。
なんだこの理解不能生物。それが、なんでこの世にいるのか。いや、何故執事をしているのか!
(真面目に考えるのはやめよう。壊れる)
早くも悟りの境地に入りつつ、優先すべき事を考える事にする。つまり対策だ。
いくら何でも無敵と言う事は無いだろう。多分。しかし、講堂内で魔法は使えない。CADの持ち込みまでは、さすがに許可されていないからだ。なら、素手で取り押さえなければならないが、そちらは幸い得意分野なので問題無い。後は、いつ現れるかが全てだ。
(オーフェンさんや会長は、今まで対象は新入生総代が答辞のタイミングで介入して来たと言っていた)
これは二年続けて必ずらしい。なら、まず間違いなく今年もその筈だ。出来るなら壇上に上がらず、舞台裏で決着をつけたい所である。目立つ訳にはいかないのだから。なら、放置すれば良いかと言えば、それも違う。
今年の新入生総代は、司波深雪。自分の妹なのだから。
オーフェンとスクルドは舞台裏でスタンバイしているらしいし、生徒会長である真由美もCADを準備している。くわえて、二人は魔法使用の許可まで取っていた。全ては、初撃で決める為。
(深雪の答辞の邪魔はさせない)
決心を固め、ちらりと壁の時計を見る。式開始まで、後二十分。
「あの、お隣は空いてますか?」
(ん……?)
戦闘準備をする心地でいると、唐突に声が掛けられた。見ると、一人の女生徒がいる。おそらく同じ二科生の新入生か。
「どうぞ」
断る理由も特に無いので、すぐに頷く。すると礼を言い、彼女に続いて三人の少女が腰を下ろした。
どうやら四人で座れる場所を探していたらしい。確かに、自分の隣は席が空いていたが。
友人かと訝しむが、どうでもいいかと思い直す。それより今は、来るべき決戦に備え、精神集中するべきだ。そう思い、彼女達に対する興味を失った所で、隣の少女から声が掛かった。
「あの……私、柴田美月といいます。よろしくお願いします」
いきなり自己紹介され、達也は怪訝に思う。眼鏡を掛けた、見るからに大人し気な少女なのだが……。
(誰かから、何か言われたか?)
見えないように小さく苦笑し、彼女に向き直る。理由はどうあれ、勇気を振り絞って挨拶してくれたのだ。なら、応えるのが礼と言うものである。
「司波達也です。こちらこそ、よろしく」
なるたけ意識して、柔らかな態度で挨拶を返す。すると、少女――美月は、見るからにホッとした。
そんな彼女の眼鏡を見て、達也はふむと頷く。この御時世、眼鏡を掛けていると言う事は、ファッションか――。
(霊子放射光過敏症か……)
見え過ぎ病とも呼ばれる体質の事だ。言ってしまえば感覚が鋭過ぎるだけのものなのだが、精神の均衡を崩しやすい傾向にあるので、その対処として、特殊なレンズを使った眼鏡を掛けているのだろう。
しかし、常時眼鏡で霊子放射光を遮断しなければならない程のものは、さすがに珍しい。もし感受性が極端に高いものならば――自分にとって困った事になる。
司波達也には、秘密がある。彼女の目は、それを白日の元に晒しかねない。
(……彼女の前では、いつも以上に注意しておくか)
気を揉んでいても仕方ないので、心に留めるだけにした。
「美月も紹介したなら、あたしもしないとね。千葉エリカ。よろしく、司波くん」
「ああ、こちらこそ」
達也の思考は、美月の向こう側に座っている少女に中断された。闊達そうに笑いながら、挨拶して来る。
達也はそちらにも頷いて、表情に出さずに訝しんだ。
千葉。その性に覚えがあったから。数字付き(ナンバーズ)、百家の千葉――。
(あの千葉にエリカと言う名の娘はいなかったと思うが)
しかし、傍系の可能性もある。当の彼女は、自分達の性が、何だか語呂合わせみたいと笑っていたが。
そして、残り二人の自己紹介と、ちょっとした雑談を経た所で時間となった。達也も、自然と気を引き締める。
2095年度、第一高校の入学式が始まる。それは、キースの到来が間近である事を予感させた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
つつがなく、入学式は始まり、校長挨拶、在校生代表の送辞と続く。祝辞は、やはりと言うか、真由美であった。プログラムでは、次が本命である。
(行くか)
「ちょっとすまない。席を外す」
「司波くん?」
「なに? トイレ?」
不思議そうな顔をする美月の向こうでエリカが意地の悪そうな顔で言ってくる。それには適当に答え、体勢を低くしながら後ろに抜ける。そして、今度は袖から前へ。
舞台裏に行くと、そこではスクルドがちょこんと座っていた。
「タツヤ、遅い」
「……? 新入生総代の答辞には間に合ってるが?」
「ちがーう、暇だったの。オーフェンは向こうにいるし」
言われて視線を向けると、オーフェンが反対側に居た。影になるように控え、こちらを確認し、手を振って来る。ちなみに、彼女は最初からこちらを下の名前で呼んで来ていた。
「いい? 作戦言うよ。まずキースが現れたらオーフェンが仕掛けて、次にマユミ。そして私が直接取り押さえに飛び掛かる。タツヤは最後」
「……なんか、俺おまけみたいだな」
「ううん、むしろ本命だよ。私までは読まれてると思うから」
そう言えば、この三人はキースの身内みたいなものである。三段攻撃までは確かに読まれてる公算が高い。だからこそ、オーフェンはああまで、自分に協力させようとしたのか。
(食えない人だな)
苦笑して、スクルドの横に屈む。真由美の祝辞が終わろうとしていた。次は、いよいよ深雪の出番だ。
「参考までに、一昨年は聞いたけど、去年はどうやって対象は現れたんだ?」
「去年は床から」
「……床?」
「うん、床。思えば、そこで気づくべきだったよねー」
そう言えば、去年は落とし穴トラップからの地下大迷宮だったか。なるほど、確かに伏線になっている。
「今年はどうくると思う?」
「無理だよ。予想なんてつけらんないってば。キースだもの。壁ブチ抜いて来ようが、飛んで来ようが、ワープして来ようが、驚かないよ」
「…………」
つくづく自分が何と対峙しようとしてるんだろうと、悩んでしまう。しかし、そんな時間もなさそうだった。真由美の祝辞が終わり、舞台袖に下がり――オーフェンと合流したのが、ここから見えた――司会が、新入生総代の答辞を告げる。そして、深雪が呼ばれ、壇上に上がった。その瞬間!
『は――はっはっはっはっはっはっ!』
「……来た!」
「ああ」
スクルドに頷きつつも、内心で舌打ちする。どうやら、派手に壇上に登場するつもりらしい。こうなっては、目立たず取り押さえるのは不可能だ。
願わくば、スクルドまでで捕まえられたらベストだが。
オーフェンと真由美も反対側で、それぞれ構えるのが見えた。後は、どこから来るか。そして、次の瞬間――達也は限りなく珍しく呆然とする事になった。我を忘れたと言ってもいい。何故なら。
「……タツヤ、ごめん。驚かないって言ったけど。あれ撤回するね」
スクルドが何か言って来るが、それも聞こえていない。当たり前だ。”講堂の天井が瞬時に消えたのに”、どう反応を返せと言うのか。
講堂には、春の日差しと抜けるような青い空が見えている。
「……あれ、何したんだ」
「変形させたんじゃない?」
「変形て」
「キースだから」
いや、それだけで片付けられても困るのだが。ともあれ、天井が消失した事に、新入生達は見るからに動揺しているのがここからでも分かる。在校生はと言うと、何故か全員諦めの境地のような顔をしていた。
そして、ついにキースがその姿を現す。開いた空から。
ばさばさばさと羽を羽ばたかせるような音を鳴らして、あの執事が腕組しつつ舞い降りるのが見えた。落下地点は、案の定壇上! 達也は明確に舌打ちする。深雪に逃げろと叫ぼうとするが、それよりキースはなお速い。
羽? をしまったかと思うと、体勢を変更。くるくると身を丸くして回転開始。そして、急速度で壇上へと――真っ逆さまに頭から落ちた。
ごぎっ! と凄惨な音がなり、壇上に頭から突き刺さるキース。某犬神家を連想させる光景だ。
『『…………』』
誰も彼もが沈黙。あれは、死んだのでは? とさすがに思った所で、やはりと言うか、キースがにゅっと立ち上がった。
「はじめまして! もしくはお久しぶりでございます! 第一高校の皆様! 私は七草家執事の、キースと申します!」
「…………おい」
「キースだから」
スクルドは即座に回答。いや、答えになってはいないが、それで納得するしか無いらしい。
「一昨年、去年に引き続き、今年もまたお祝いのサプライズをお届けに参りました。さぁ、ご覧あれ――」
「我は放つ光の白刃!」
皆まで言わせずに、オーフェンが開いた手から光熱波を叩き込む! 一瞬それを見て、達也は怪訝そうな表情となった。彼の腕には汎用CADがあるが、”今、それを使ったか”?
だが、それを疑問に思う暇は無い。オーフェンから放たれた光熱波を、しかしキースはくるりと身を翻して躱してのけた。空で一回転し、再び壇上に立つ。
「おや、これは黒魔術士殿。どうなされたので?」
「どうも何もあるかこのくそたわけ! 今年こそは、お前を止めてやる!」
「そんな……!」
言われた台詞に見るからに動揺の表情を見せるキース。彼はわなわなと震え、いかにも芝居がかった仕草で天を仰いだ。
「ああ、まさか我が友にして兄弟と呼んでも差し支えない。むしろ兄弟である我等に、かような裏切りがあろうとは!」
「誰が兄弟か不名誉な!」
「お兄ちゃーんと呼んで下さい」
「俺の魂にかけて断るっ!」
最後の一声で、再び放たれたる光熱波――やはりだ、彼の魔法は何かおかしい。何故、”空間に術式を投影しているのか”? しかし、放たれた光熱波は、やはりキースに躱される……光速で転移する熱衝撃波をどうやって回避してるかは謎だが、やはりキースだからなのだろう。
だが、今度はそこに真由美が飛び込んだ。左腕に装着したブレスレット、汎用CADに滑らかに指を滑らせ、即座に魔法式を起動する。
魔弾の射手、起動――キースを複数の銃座が包囲する!
「キース……! この五年、いろいろありまくった諸々を含めて覚悟っ!」
「そんなマユミお嬢様! この私めが一体何をしたと言うのですっ!?」
「自分の胸に手を当てて考えてみなさいっ!」
それ以上話すつもりも無いのか、全包囲からドライアイスの塊を亜音速の弾丸にして、キースへと撃つ。これだけの包囲だ、回避はさすがに不可能……な筈なのだが、キースは首をひょいひょいと動かすだけで避けて見せた。
「はっはっはっは! お嬢様もまだまだ未熟っ!」
「あなたがきっぱりと人外なだけよ――!」
全くもって同意である。混乱する新入生と保護者を除いて全員がうんうんと頷く中、オーフェンからも何かしらの魔法が放たれるが、そちらも含めて回避される始末だ。
達也としては間近で唖然としている深雪を何としてでも下がらせたいのだが、生憎呼びかける事も出来ない。
ぐっと我慢した所で、ついにスクルドが動いた。
音も無く、全く挙動を見せずにキースへと一気に飛び掛かる。魔法は使っていない。だが、それにこそ、達也は目を丸くした。
あるいは自分と互する程の、見事な体移動だ。あれに不意を打たれれば、対応出来るのは師匠である八雲だけだったろう。
しかし、そこに一人加わる。何とキースは、後ろから突っ込んで来るスクルドを、どうやってか後方一回転で捌いてのけた。
空を回転するキースの下を、スクルドが通り過ぎていく。やはり、スクルドまでは読まれていたか。
(だが、ここまでだ!)
スクルドに遅れること半秒で、達也も彼女に負けず劣らずの速度でキースへと迫る。
彼は空から回転を終了し、壇上に降り立つ所だった。そこを捕まえる!
「お兄様!?」
こちらに気付いた深雪が叫ぶが、今は応えてやれない。
キースの腕を捩り上げ、頭をわし掴みにすると壇上へと引き倒す。
全ては一瞬の出来事。四段重ねの奇襲は、見事キースを無力化した。
「先程の借りはこれで返した」
「新入生殿……! まさか、あなたが協力しようとは! 先程の友情はどこにいったのですか!?」
「そんなものがいつあった、いつ」
思わずツッコミを入れながら、嘆息する。横で「お兄様がツッコミを……!」を驚愕している妹はさて置くとする。
捕まえる事に成功したキースを見てか、真由美達もこちらに近付いて来た。
「よくやったわ、達也君!」
「いえ……達也?」
「どうやらここまでのようだなぁ、キース?」
「く……! 私めはただ、第一高校に入学する新入生の皆様達に、思い出を提供したいだけですのに! 何が悪いと言うのですかっ!?」
「もーいい何も言うな黙れ」
「絶対自覚あるよねー、これー」
捕らえられたキースを囲む一同。壇上の下では何があったのかと、新入生達がポカンとしており、在校生達は喝采を上げていた。
――と、そこで唐突に地響きが鳴り始める。これは……?
「お兄様……?」
「ああ、聞こえてる。なんだ、これは」
「おい、キース?」
怪訝な顔となる深雪に達也と頷き、オーフェンは真由美とスクルドと共に引き攣った顔を、キースに向ける。すると、かの迷惑執事はおおっと声を上げ。
「これはつい忘れておりました。前回は迷宮でしたので、今回は『驚愕! 巨大ロボット襲撃! 君は、生き残る事が出来るか……?』なんぞを企画してみたのですが。到着したようですな」
『『企画すんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――!』』
講堂にいる全ての人間から総ツッコミが入り、同時に開いた天井からそれは顔を覗かせた。
ついに、今年度入学式におけるキース渾身のもてなしが姿を現す――!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
最初に達也が見たのは、巨大な影だった。濃密な影だ……いびつな巨人を思わせる。
それは正しかった。影の主は巨人だったからだ。無骨と呼ぶには、やたら四角めいたシルエット。愛嬌を感じられないことも無いが、あまりに生物感は無い、分かりやすく言うと、ドラム缶のような体型。そこに、適当にくっつけられた、どう考えても重量を支えられる筈の無い細い手足。手に至っては、ペンチを思わせる造形のものがくっついていた。
あまりに現実味の無い――当たり前だ――な存在を前に、絶句する一同へと、取り押さえられたままのキースが言う。
「キーガシリーズ第二弾にして量産型……ビッグキースと名付けました」
「なんだ第二弾て。あんなのに第一弾があったのか?」
「おや、黒魔術士殿、覚えていらっしゃらないのですか? ほら、ヴォイム――」
「うう、そんなよく分からないぽいものっぽいぽいなぽい固有名詞を言われても分からないものは分からないぜ……」
「実は分かってるでしょ、オーフェン」
「そんな事はないっ!」
きっぱりとオーフェンは言う。ともあれ、今回のキースの仕掛けはアレであるらしい。ビッグキースとか言ったか。明らかに物理法則に全力で反している形状をしているが、達也はもう気にしない事にした。
あれを、キースはどうするつもりだったと言うのか。
「とりあえず、私の指示が五分以上無い場合は、適当に生徒を襲うようにプログラムしてあります」
『『すんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――!』』
またもや総ツッコミが入り、タイミングを見計らったように目をキランっと光らせ、ビッグキースが動き出した。すかさず、何人かが立ち上がる。
「総員待避! 保護者の方と、新入生を優先して講堂から避難しろ!」
わぁっ! と男子生徒の指示に従い、避難が始まる。さすがは魔法科高校と言う事か、もしくはキースの騒動で鍛えられているのか、在校生達はすぐさま魔法をCAD無しで発動させ、迎撃せんと動き始め、または避難誘導を始める。そこに一科生、二科生の区別は無い。
ビッグキースがそのあまりに大きな質量で講堂にのしかかり始め、建物が軋む音が鳴り始めた。これは、まずい。
「オーフェン!」
「ああ、まずい。俺達も一度脱出するぞ! タツヤ、キースを逃がすなよ――」
そこでオーフェンが止まる。皆も、達也もだ。何故なら、先程までは確かに捕まえていたキースがどこにもいなくなっていたから。
自分に全く気付かせもせずに、どうやって抜けだしたのか。
「はぁーはっはっはっはっ! まだまだ甘いようですな、黒魔術士殿、新入生殿!」
「ちちぃ、そこか!」
叫び声が響き、オーフェンが振り向く。声は、ビッグキースの頭上から来ていた。そこに、執事はポージングなぞをしながら居た。どこをどうやって一瞬であそこに移動したのかは……考えない方が幸せになれると達也は確信した。
「お兄様、あの方は一体……?」
「深雪、この世には知らない方が幸せな事があるんだ。お前が知る事は無い。こんな……理不尽」
「タツヤが何か悟ってるよ、オーフェン」
「気にすんな、誰もが通る道だ」
「達也くん……」
真由美が同情の視線を向けて来るが放っておいて欲しい。
とにかく、状況は最悪だった。キースには逃げられ、ビッグキースなるロボは自分達に襲い掛かろうとしている。あの質量だけでも、十分凶悪だ。下手をすると、死傷者が出かねない。
「ああ、ご安心を。このビッグキース、人命最優先ですので、死人は出しません」
「……はぁ」
「代わりに、ちょっと攻撃します」
「そのどこに安心する要素がある!?」
すかさずツッコミを入れるが、はた迷惑執事は聞いていない。はっはっはと笑い、ビッグキースが目を再び光らせる。
「お見せしましょう! ビッグキースに搭載された、108の機能の一つ! キースビィィィィィィムゥゥゥゥゥゥゥっ!」
『『っ!?』』
かっ! と一際目が光り輝いたかと思うと、そこからみょんみょんみょんとアレでソレな感じのビームが放たれる。
それは、避難していた新入生と誘導していた在校生を飲み込んだ。
「て――てめぇ! どこが人命最優先だっ!」
「いえ、誰も怪我などしておりませんよ? ただ脱がすだけです」
『『……は?』』
脱がす? と、怪訝そうに一同はビームが直撃した辺りに視線を巡らせる。
そこに居た皆は、確かに怪我も何もしているようには見えない――そう、”あらわになった肌には怪我一つ見えない”。一瞬の空白を挟んで、悲鳴が轟いた。
『『きゃああああああああああああ――――!』』
脱がされた女子達が、悲鳴を上げながらしゃがみ込む。周りに居た男達も脱がされてはいるのだが、こちらはさすがに何も言わない。ただ、さっと視線を外しただけだ。
「ふ……言った筈です、人命最優先と。つまり、それ以外なら何でもオッケーと言う事!」
「んなワケあるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――!」
オーフェンの叫ぶが、勿論意に介した様子は無い。ビッグキースは、無差別にビームを連射し始めた。怒号と悲鳴が連続する。
「くっそー、いちいち下らん真似をやりやがる」
「どうするんですか? 死人も怪我人も出そうにないですが」
「そりゃそうだが、放置も出来んだろ」
「ならアレを壊しますか」
「そうしたいとこだが――見ろ」
言って、オーフェンが指差す。そこは、ビッグキースの胴体だった。在校生が放つ魔法が直撃している。しかし、凹みが出来ているくらいで全くこたえた様子が無い。
「どうやら、やたらめったら頑丈に出来てるらしいな。あの野郎程じゃないにしても、厄介だ」
「待って下さい。それだと、あの執事がロボより頑丈だと言う事になります」
「疑う余地なくそうだろ」
オーフェンは迷い無く断言する。達也は一瞬何か言いたそうな表情をして、だが諦めたように首を振った。
「オーフェン、ここからアレを破壊出来ない?」
「出来ん事も無いがな、ンな大規模な術を使うと、ここら辺ろくな事にならないぞ」
真由美に問われ、答えるオーフェンに、出来るのかと達也は見えないように苦笑する。どうやら彼は、傑出した魔法師らしい。しかし、名を聞いた事も無いのだが。
「なら、とれる手段は一つしかありませんね」
「内部に侵入――だね。誰が行く?」
外からダメなら中から潰す。単純明快な答えだ。
オーフェンもそれは考えていたのだろう。こちらへと視線を向ける。
「タツヤ。お前、機械には強いほうか?」
「人並よりは多少」
「上等だ。なら、俺とお前で行く。障害は俺がブチ壊すから、お前がアレを止めろ」
「待って下さい……!」
そこまで言った所で、今まで黙っていた深雪が遮った。オーフェンをきっと睨む。
「何故、お兄様をそんな……兄を巻き込まないで下さい!」
「と言ってもな。彼も、もう立派な当事者だ。勿論、タツヤが嫌がるなら、無理にとは言わない」
「やります」
「お兄様!」
即答した自分に、深雪が責めるように見る。しかし、達也は微笑した。
「言ったろ深雪。俺は、お前の晴れの姿を楽しみにしてたんだ。それをこうまで台なしにされたんだ。仕返しもしたくなる」
「ですが……」
「大丈夫だ。”お前が心配しているような事にはならないさ”」
ハッと、深雪が我に返ったように目を見開く。それは、自分の意図が正しく伝わった証。達也は頷いてやると、オーフェンの前に進み出た。
「いいんだな?」
「はい。行きます」
オーフェンに答え、二人はビームを連射するビッグキースに向き直る。そして、示し合わす事も無く二人揃って駆け出した。
(第三話に続く)
はい、第二話でした。まだ終わらぬ入学式……これぞ入学編(違っ
ええ、決着は次回に持ち越しです。
しかし、キースははっちゃけ過ぎるとろくでもなさ過ぎると言う……(笑)
では、次回もお楽しみにー。
PS:たくさんの感想やお気に入り登録ありがとうございます! 一瞬現実かしら? と目を疑いましたが(笑)
とても嬉しいです。重ね重ね、感謝を。