青髪 作:にゃんくるにゃいさー
ー港に見えたジョリー・ロジャーに、ひどく懐かしさを覚えた。
ある日の昼のこと
海賊が来たという知らせがあって、少年は興味本意でこっそり友人に着いて行った。
程なくして遠くに黒いマントが見えた。
近づこうと思って、ふと足が止まった。
「あ」
帽子が見えた。ドクン、ドクンと鼓動が重く打たれる。
言い知れぬ違和感に背筋が凍った。息が出来なくなりそうで、どこかからキリキリと錆び付いた歯車が回り始める音がした様だった。
「なぁ」
友人に声をかける。
「ちょっと、待ってくれ」
服を掴んだ左手に痺れが走る。その感触もまた懐かしかった。
「なぁ」
声は震えていた。
そんな彼に、疑問符を浮かべた顔で友人は振り返る。
「どうした?」
声をかけたにも関わらず、少年は友人を見ていなかった。まんまるに開かれた目は、変わらず黒マントの男の方に向いていた。
男の足運びがスローモーションに見える。何故か、見てはいけないと思った。怖くてたまらなかった。何かが壊れてしまいそうだったから。
しかし、彼は目を離すことができなかった。
男はこちらに振り返った。振り返ってしまった。
三本傷が見えたとき、ありもしない生々しい感触が左目の周りを痺れさせた。耳元で地を這うような笑い声がした。
炎より鮮やかな赤い髪が見えたとき、思わず少年は口を抑え、えもいわれぬ既視感に慄然とした。同時に自分の視界にチラつく青色に強烈な違和感を抱いた。
記憶の蓋の弾ける音がする。
男が笑った瞬間、目をカッと開き、脳天から足先まで肌が一瞬で粟立った。
赤い髪の男はそのまま頭を動かして
カチッ、と音を立てるように目が合った。
おれは、アイツを見たことがある。
知らないはずのその顔を、少年はよく知っていた。
いつ見た?どこで見た?
あれは、誰だ?
「あぁ、そうだ」
小さく声が出る。
あれはー
「ア」
気がついた途端、思考が尽く崩壊し、溢れんばかりの色が全て埋めつくす。心臓が拍動を行うと共に、覚えのないはずの光景が続々と目の前を駆け巡る。
「アアッ」
頭を抱える。
どこまでも青い海、交わる鈍色の刃、銃声、笑い声、血の臭い、唸る風、身を焦がす覇気、胸に抱えた麦わら帽子
やめてくれ
ガラスを引っ掻くような耳鳴りに頭が割れそうだった。耳を塞いでも、殴り切りつけるような残響が鳴り止まない。頭蓋骨をこじ開けられ、脳みそに熱湯を注がれたような心地だった。光が痛かった。頭がおかしくなって、おかしくなって、吐きそうだった。
「どうした、おい、おい!」
やめてくれ、おれは、知らない、こんなの知らない。
だが悲しいかな。思い違いにするにはあんまりにも見覚えがありすぎた。
「……」
どうして
そう言ったか言ってないかも定かにせぬまま、遠くに男の叫び声がするのを辛うじて感じ、彼の目の前は真っ暗になった。
次に彼の目が覚めたのは、明くる朝だった。
見慣れた天井に、入った覚えのないベッド。ベッドの傍では女性と友人が寝ている。
少年は友人の頭をそっと撫でた。
「ザカリー」
ぼそりと呟く。
「おれは、エール、D……ザカリー」
誰かに言い聞かせる声ではなかった。自分に向けたものだった。
「だけど、おれは」
喉がひくついた。唇が痙攣して、額に汗が流れる。
「あいつは……だけどおれは確かに……」
左の二の腕を摩る。焼け付くような痺れがした気がした。二の句をつごうとする度、現実と向き合おうとする度肺の中が重くなった。
瞼の裏に男の顔が張り付いている。間違いなく見慣れていた顔だ。
「クソッ、一体何がどうなってやがる」
頭を掻きむしる。心がグルグルと渦をまいて、気持ち悪くて仕方がない。走馬灯のように代わる代わる映し出される記憶は誰かのモノで、少年が知るはずのものでは決してないのに。
光が、音が、匂いが、味が、痛みが、その光景を他人事にすることを許さなかった。
「……」
ハァ、と長い息をつく。
「ただ、一つ分かることは」
「おれは、シャンクスだった。」
続くかは未定です