左右に複数の店舗の並ぶこの通りはツァイル通りと呼ばれているとか。
「どっか入るか?」
「……千冬の服、選ばせてくれる?」
「やっぱりやめておこう。」
「もう…」
まぁ、気持ちは分かる…千冬連れてブティックに入ると私はずっと千冬の服選んでる事も多いからね……でも、だからって何も即答しなくても…
「お前な…毎回自分の服は二の次で、しかも私が選ぼうかと聞こうものなら不服そうな顔するだろ?」
「まぁ、そうだけど…」
千冬の場合、自分の服に関して求めるのは機能性重視…元々あまりお金が無かったのが影響してる…さすがに大人になった今では、そんなに無駄遣いしなければ多少気に入った服を買う余裕は有る筈…でも、今でも千冬は自分で選ぶ時は機能性重視…とは言え、実際に千冬に服を選んで貰った事が有るから分かるけど…千冬のセンスに疑いの余地は無い。確かに私に似合う服を選んでくれる……ただねぇ…
「いや、だって…千冬が私に勧める服って明るい色ばかりだから…」
「別にそれで良いと思うが?…大体、時折着てるんだから気に入って無くは無いんだろ?」
「まぁ、そうだけど…」
せっかく千冬が選んでくれたんだから、着ないと言う選択肢は私には無い…そして、気に入らなかった訳でも無い…ただ、どうにも明るい色ってあんまり私的には似合ってない様にも感じるのが正直な所…
「暗い色が悪いとは言わないけどな…お前の場合、そればかり着るからな…」
「千冬だって服に求めるのは安さと機能性でしょ? 」
「……やめるか、この話。」
「そうだね…」
私も海外までやって来て、下らない事で言い争いしたくない…まぁ、日本国内でも嫌だけど…こんな感じになるからここ数年は二人で出掛ける事になっても服屋にはあまり入らない…学生時代はまだしも、今更そんな事で一々ケンカしたくない。
「服屋以外なら、日用品か?」
「ここなら色々有ると思うよ。」
私も千冬も本来物に求めるのは先ずは実用性と機能性…見た目の良さは二の次…ドイツメイドの品はどれも頑丈で軽い物が多い…特に千冬の場合は普通の成人男性すら超える身体能力が有るせいか、安物だと脆くてすぐ壊すなんて事も稀に有るので…とにかく頑丈な物を求める事になる…つまり、ドイツメイドは千冬との相性は良いと言える……まぁ、気になるのは本当に値段くらい…
「日本でも有名なブランドから行くと…例えばここはRIMOWA…とにかく頑丈で軽いスーツケースが欲しいならここ…万年筆やボールペン、それから財布に時計などの実用系の小物が欲しければMontblanc…足にフィットする靴やサンダルが欲しいならBIRKENSTOCK…コルク製の靴底を使用していて、履いてると足に合わせて形状が変化して行くの…だから履けば履くほど足にフィットして来るのが特徴。」
「詳しいな?」
「この三ブランドの商品はどれも日本で買えるよ。まぁ、私は買った事は無いんだけど…」
だって、私の場合は千冬程に物に頑丈さを求めなくて良いから…従って、安物でも問題無い。
「しかし値段がな…」
「これでも日本で買うよりは安い筈だけどね…」
最も、それでも千冬の金銭感覚に合わせると少々お高い様である…ホテルの宿泊費と違って、観光に使うお金は自腹だから余計慎重にもなるのだろう…まぁ、このまま実用系の品をこうして眺めてるのも良いし、何なら普通に私がどれかプレゼントしても良い……最も今回、私はどうしても千冬を連れて行きたい店が有ったりする…
「ま、このまま見てるのも良いけど…私、実はちょっと行きたい所が有るんだよね~…」
「何だ…それなら最初に言えば良かったんじゃないか?」
そう言う訳にも行かなかった。だって、千冬の方がこうして少しは乗り気になってくれないと…とても一緒に入ってくれない店だからね…訝しげな顔をする千冬の顔色を伺いつつも、手を引いて行く…
「おい…これは何の店だ…?」
「ここはSteiff。ドイツのぬいぐるみブランドの店で……ちょ、帰らないで…千冬、こう言うの好きじゃない?」
「嫌い…では、無いがな…」
嘘。実は千冬は、こう言う可愛い物が大好きなのを私は知ってる…まぁ、学生時代…この趣味が他の人に知られていれば、多分ギャップで凄い人気が出たと思うんだよね…だから知って欲しくも思いつつ…やっぱり知られない方が良いかも、なんて複雑な気持ちを抱いていたり…だって、千冬が本当の意味で人気者になったら…私なんて近寄れなくなるからね……ま、そんな話は今は良い。
微妙に渋る千冬の手を引いて、半ば引き摺る様にしながら店内に入った。
「なぁ、お前は見ないのか?」
「見てるよ~?」
「さっきから私の顔しか見てないだろ…」
いやだって、ここのぬいぐるみは確かにどれも可愛いけど…それでも私からすると、それをこうして眺めてる千冬の顔の方が可愛いから……本人はニヤけてる自覚も無さそうだけどね…お?
「それ、気に入った?」
「!…あー…まぁ…そう、かもな…」
……ほとんど聞く前から顔に答えが書いて有る様な物だけどね…ちなみに千冬の視線が固定されたのは、パッと見は良く有るタイプの茶色い毛のテディベア…さすがに色々調べてはいても商品名はこの場ではちょっと分からない…ただ、SteiffのぬいぐるみはどれもButton in Earと言って…耳にSteiff社製を示す布製のタグがボタン留めされて付けられている…で、問題は…
「(タグが白で、社名が赤文字表記…多分限定品だ)それ、欲しいの?」
「!…いっ、いや…そんな事は無いぞ!?」
私なら良く有るけど、千冬がこう言う反応見せるのは珍しい…この顔見れるだけで連れて来て良かったと思う……ただ、顔を見るだけで終わりなら貰ってるのは私だけになる…私はひょい、と千冬の手からテディベアを取り上げた。
「プレゼントしてあげるよ。」
「!…いや、そんな訳には…」
「良いって。日頃お世話になってるお礼みたいな物だから…他にも欲しいの有ったら言って、これを入れて三つまでなら買ってあげるから。」
取り敢えずレジまで向かいながら思う…Steiffはドイツ最高級のぬいぐるみブランド…そこの限定品なら結構するかも…千冬は値段まで見る余裕無かったみたいだし、恐ろしくて私も値段確認してない…シャレにならない出費になるかも知れないけど、私にとっては千冬の喜ぶ顔を見れるなら十分にお金出す価値は有る……後々、苦労はするだろうけどね…
……最も、それでもまさか…このぬいぐるみ一つで日本円でいきなり十万円以上が飛ぶのは私もさすがに予想外…まぁ、多目にお金持って来てるし、この滞在中のお金には困らない、筈…
ちなみに、いくらだったかの千冬の質問は何とか誤魔化して逃げ切った…と、思う…ただ、結局受け取ってすぐに店を出たいと言い始めたり、値段が高いのには勘付かれていたらしい…まだ買ってあげるつもりだったから少し肩透かしの結果にはなったけど、何だかんだ笑顔見せてくれたから私的には満足。
ただ、値段が値段だったし…盗難が怖い…やっぱり商品が見えない様にラッピングして貰うべきだったなぁ…千冬が渋ったからそのまま受け取って出て来たけど…まぁ、それでも…この移動中に盗まれる可能性は低そうに見える…だって…
「ふふふ…」
千冬がテディベアを抱き抱えたまま、離そうとしないからね…まぁ、完全に自分の世界に入ってる様に見えるから…盗難とは別の不安を感じるんだけど…さすがにそのままにも出来ず、私は声を掛けた。
「ほら千冬、そろそろ移動しないと…」
「……一旦、ホテルに戻って良いか?」
「テディベア、置きに行くの?」
「ああ。」
ま、その方が良いかな…最も、部屋に入ったら入ったでそのまま離れなくなる気はする…
「じゃあ、一度戻ろうか。」
それでも、私は…千冬の笑顔を見れれば良いから別に構わないけど。