あちこちウロウロしてる内にそろそろ良い時間になった(と言うより、私が我慢出来無くなったんだけど…)から取り敢えずレストランの方に…混んでるかな、と思ったけど…ランチタイムもそろそろ折り返しの時間なせいか、普通に座れた。
メニューを見る振りをしつつ…チラチラと視線を彷徨わせる…
『おい、あんまり見るな…』
私の対面に座る千冬から小声で注意される…でもねぇ…
『いや、ずっと付けられてるじゃない?』
『知ってる。日本国内ならこっちから声掛けても良いが、ここだと下手に騒ぐだけ面倒だ…』
まぁ、海外旅行者…特に日本人が現地の警察に連絡してもなあなあで済まされると言うのは良く聞く話…真面目に対応する気が無いと言うより、大抵は言葉が通じない事が原因だったりする…何を言ってるか分からなければ、警察の人も結局どうしようも無いからね…もちろん逆も然りだけど。何より、日本人旅行者は海外の人にはトラブルメーカー的な存在だと思われてる節は有る…まぁ、向こうの風習とかもろくに調べずに好きに行動する人が多いのは確か。
実際、日本では何でも無い事でも…国によっては罰金くらいなら取られる事は有る……とにかく、海外では何か問題が起きても大抵はこっちで対応するしか無いパターンが多いと言う…と言うか、どう見ても被害者なのに向こうの勘違いで捕まる例も多々有るから…言葉が通じないのもそうだけど、人種の違いって言うのは結構大きい…
最も、普通に差別なんだけど…正直、何か起きたら地元の人より余所者を先に疑いたくなるのは日本人でも普通に有るから…そこら辺はこっちも強く言えない辺りでは有る…
『と言うかだな…私も候補は何人か見付けてるが、まだ何とも言えん…』
『結局の所、ハッキリ誰かは分からないと…』
面倒臭いなぁ…
「ところでお前、ドイツ語も話せたのか?」
……一旦この話は終わりって事かな。じゃあ私も普通に対応すべきだね…
「ネットの紹介見たら、ドイツ国内の店はかなりの確率で英語が通じるパターンがほとんどだけど…稀に通じない所も有るって書いてあったから、最低限必要な言葉だけ覚えただけだよ。」
英語で呼んでみても店員の反応が鈍く(と言うか、最初は普通に無視されたのかと思った…)仕方無くドイツ語で声を掛けて持って来て貰ったメニューの表記はどう見てもドイツ語オンリーだった…この時点で、この店は本当に英語が通じないんだなと分かった…一応ここって観光都市の位置付けって聞いてたんだけどそう言う場合も有るんだね…一部とは言え、ドイツ語覚えておいて良かった…
「まぁ、この場合不味いのがね…基本的に海外の多くのレストランって水が有料で、注文しないと持っても来てくれないから…」
「日本人の感覚からしたら、水無しでの食事は辛い物が有るな…」
そもそも出て、当たり前だと思ってるしね…
「ま、海外で飲み水と言ったらほとんどの場合ミネラルウォーターが普通だから、有料で当たり前と言えば当たり前なんだよね…日本ではいくら水が安全でもほとんどのレストランは水道水そのまま出す事は無いだろうし、ミネラルウォーターだとしても普通に無料だけど…ちなみに日本だと季節によっては冷たい水じゃなくて、温かいお茶を出してくれる所も有るとか…」
「詳しい…いや、お前が食べ物の事で詳しいのは今に始まった事じゃ無かったな…」
さすがに失礼だと思ったけど、割とその通りだから反論しようが無かったり…
「ま、どうせそう思われてるならこっちも開き直ろうかな…じゃあ豆知識。国にもよるけど、レストランで頼む水の値段って馬鹿にならないから…どうしてもその辺気になるなら裏技も有る…」
「裏技?」
「水道水なら基本的に何処もタダ…でも、日本を除くほとんどの国の水道水は飲めたものじゃない…日本人がこれやると、普通にお腹壊す場合も有るね…それも、大抵数日は寝込むくらい酷い下痢になる…」
「じゃあその方法使えないだろ……まさかお前、水道水頼んでないよな?」
「いや、私だってお腹壊したくないし…普通にミネラルウォーター頼んだよ…後、多くの海外のレストランは普通のミネラルウォーターと炭酸水の二種類有るからそこも注意かな。」
ちなみに私、あんまり炭酸水そのまま飲むの好きじゃないんだよね…お酒の割り材として使うなら全然問題無いけど。
店員が頼んだ料理を持って来てくれたので声を掛ける…
「Ich danke Ihnen(ありがとう)」
……何か反応が欲しい、と言うのは私のワガママかなぁ…ま、今まで一々言われる事が無かったんだろうけどね…実際、この手のお礼を言うのはほとんど日本人くらいだとは聞くけど…
「もう少し、愛想が欲しいなぁ…」
「フッ…お前、あの店員の顔見なかったのか?」
「へ?」
「男性店員だっただろ?多分お前の美貌に当てられたんだろうな…」
う~ん…
「どうした?」
「千冬、仮に向こうが見惚れたんだとしたら…それは多分千冬にだと思う…」
「私に?」
「ドイツではね、日本人は男女問わず結構モテるんだよね…見た目も性格も、どっちも好きなんだって。」
「……」
「思いの外、微妙な顔してるね?」
まぁ、私としては脈が無い方がありがたいけどね…
「ま、好みでは無かったしな…」
「一応言っておくと、ドイツの男性は割としつこいらしいよ?」
「……どれくらいだ?」
「日本だと普通にストーカー扱いされるレベルでも、まだアプローチの範囲内だとか…要するにあからさまに脈無しでも、当人が心折れない限りはとにかく付きまとってでも相手が落ちるまで只管アタックし続けるスタンス…」
「とんでもないな…」
まぁ、日本人の感覚だとそうなる…私でもそれは無いと思うし…ただ、ここだと割と普通なんだよね…
「最も、仮に向こうが本気になったとしても…千冬は断るのはそこまで難しくないんじゃないかな…」
「何故だ?」
「並の男性じゃ、千冬に勝てないから。」
私がそう言うと千冬がニヤッと笑う…
「確かに、私に真っ向から挑んで勝つとしたらお前くらいなものだな…」
「束は?」
「いや、あいつも力では私に勝てん。」
「じゃあ…私が仮にアタックしたら靡いてくれたり?」
冗談混じりで聞いてみる…千冬の答えは…
「そうだな、お前が本当に私に勝てたら…考えても良い。」
……うん、まさか本気のテンションで答えを返して来るとは…
「私、女だけど?」
「お前が言ったんだろ?大体、私が男と普通の恋愛なんて出来ると思うか?」
「……」
まぁ、正直無理だろうなと思う…
「お酒は……飲んで無いか。」
「あのな、注文したのはお前だろ?」
いや、だって…千冬に勝たないと駄目とは言え、ガチトーンでこんな事言われたら酔ってるのか疑うって…もちろんまだ昼間だし、飲み物は水だけで…お酒は頼んでなかった筈だけど…
「あの…本当に良いの?」
ここで千冬の反応確かめる気は無かった…本当に冗談のつもりだったんだけど…
「お前が勝てたら代表なんて嫌でも引退だ…私だって家庭に入る権利は有る…相手がお前なら、私にとっては申し分無い……と言うか、ここまで来たら私がもうそれを待っていられないがな。」
「もしかして、私の気持ちに…」
「あれだけアプローチされてて気付かなかったら、私はもう鈍感なんてレベルじゃ済まされないな…いつ言うのかと思っていたが、まさかこんなムードもへったくれも無いタイミングで…しかも雑に言われるとは思わなかったがな…」
「えっと…いつから?」
「学生時代には普通に気付いていたぞ?」
「……本当に、私で良いの?」
「私の気持ちだけで良いなら、良いぞ。私も、お前を憎からず思っているからな…」
私の目から流れる物が有る…
「どうした?」
「いや、あの…嬉しくて…!」
だって…告白はしようとしてたけど、さすがに私…振られるとばかり…!
「そもそも、こっちも色々アピールしてた筈なんだがな…お前は影で私を鈍感だと言ってそうだが、私からすればお前の方が鈍感だな…」
「ごめん…!私、本当に気付いて無かった…!」
まさか両想いだなんて思わなかった…!涙を腕で拭いつつ…ついでに頬を抓ってみたけど普通に痛い…夢じゃ、ない!
「じゃあ、あの…今回部屋を同室にしたのって…」
「一夏も居ないし、私はそのつもりだったのだがな…昨夜は私が酔い潰れたのも予想外だが…まさか、手を出された形跡が一切無いとは思わなかったぞ?」
いや、そんなジト目向けられても…まさかOKだなんて思わなかったし…!
「もう…そんな事言われたら私抑えられなくなっちゃうけど…本当に良いの?」
「良いも何も…!」
「ちょっ…!?」
千冬が私に向かって身を乗り出して来る…近い!近いって!?
「そっちは散々思わせぶりな事をしておいて…こっちが本気になったのは気付かないし、仕方無いから距離を詰めようとすればお前は普通に退く……結果、今までずっと待たされた私の気持ちが分かるか?」
「ごめんって…嬉しいけど、ここお店だから勘弁…」
「と言うか、私は学生時代…何度かお前の家に泊まったよな?で、部屋もお前と一緒だったろ?」
「そう、だけど…もしかして私、何かした?」
「いや…お前は、何もしてないな……こっちは一応待ってたんだがな…?」
「だからごめ……いや、待って…お前はって、どう言う事?」
何か強調されてた気が…
「私の方からは普通に何度も手を出している、と言う意味だが?まさか口を無理矢理こじ開けて、舌を入れても起きて来ないとは思わなかったぞ…」
私は今、何も聞かなかった事にしたいと思ってる…いや、私は手を出さなかったのに先に向こうから出されてたなんて…思ってもみなかったし…
「えっと…それ以上は、何もしてないよね…?」
あまりの衝撃に、涙ももう引っ込んでしまった…手を出されてた事について私から言う事は特に無い…だって私は望んでた訳だし…でも、それなら今まで我慢してた私の苦労は…
「どうだろうな?」
……私、寝てる間に何されてたの!?ちょっと、怖くなって来た…いや、嬉しくも有るんだけどさ…
「ま、これでお互い両想いだと分かったんだ……今夜は、寝られると思うなよ?」
「その…お手柔らかにお願いします…」
「無理だな、こっちは何年待たされたと思っている?手加減など、出来る訳が無いだろう?」
……私は千冬に勝って正式に告白するつもりだったんだけど…千冬の方がもう待てないみたい…私は今夜、千冬に食われるんだね…嬉しいけど、何か複雑…まぁ、元々相手が千冬なら食われるのは私と言うのは道理といえば道理だけど…それでも、まさか今こうなるとは思ってなかったから心の準備が…
『…と、なれば…邪魔者はとっとと排除すべきだな…』
『!…やっぱりまだ居るの?』
私は何とか意識を切り替える…そう言えば私たちは付けられてたんだったね…
『ああ、もう大体絞れた。三人程、見覚えの有る顔が店内に居る…私の記憶が確かなら、今朝ホテルを出た時から付いて来てるな…しかも、一度ホテルに戻った時にも中まで付いて来てる筈だ…』
『それだと…三人全員がそうなんじゃ?』
『そうとも限らん…不自然では有るが、二人は偶然私たちと同じホテルに泊まってる普通の旅行者と言う可能性も一応無くも無い…もちろん、三人とも旅行者で…たまたまここまでの行動パターンが私たちと全て被っている、と言う事も有り得るな。』
それは相当低い可能性なんじゃ…少なくとも、一人は確実に尾行者だと思うけどね。
『どうするの?』
『三人とも男だと思うが、正直目的がハッキリせん…ま、仮に邪な目的だとしたら…』
「え…ちょっと…!?」
頭の後ろを千冬に押さえられたから逃げられなかった…まさかこんな所でキスされるとは……いや、長い!てか、舌入れようとしてる!?やめ…んん!?
「……これだけやれば、そう言う目的の男は寄って来なくなるんじゃないか?」
千冬が私から離れるのに合わせて、ツーっと唾液のアーチが出来る…うう…店内の照明に照らされて光ってるのが余計恥ずかしい…
「……酷い、何もこんな所でしなくても…」
「嫌じゃないんだろ?」
……確かに私だって嬉しいけどさ…さすがに、お店の中ではして欲しく無かった…
「騒がしくなって来たな…もう食べ終わってるよな?」
「まぁね…」
騒がしいのは、千冬のせいだけどね…
「良し、なら出るぞ。」
立ち上がった瞬間に肩に手を置かれ、抱き寄せられた……いや、歩きにくいって!?てか、リードしようとしてるけど…千冬はドイツ語全く話せないんだからお金払えないでしょ!?……もう、まさか千冬がここまで独占欲見せるなんて思わなかった…ホント、今更違う人なんて選べないけど…改めてとんでもない人好きになっちゃったと思う……いや、ここまではまだ序の口か…大変なのは夜からだよね…私、どうなるんだろう…