『ところで…』
『ん?』
漸く解放された私…例の尾行してる人の事を聞く為に小声で声を掛けつつ…千冬の方を見た所でそれ以上言葉が出なくなる…何か千冬の肌ツヤが良くなってる様に見える…ついでに言えば相当機嫌も良いみたい……まぁ、私をセクハラしただけで千冬が元気になるなら良いかな…と、思わなくも無い…私は今相当顔色悪いだろうけどね…セクハラ、それも千冬からされるんだから減るもんじゃないとか思ってたけど…何か色々吸われた様な気もする…
『どうした?…私に見惚れでもしたか?』
……何処から出て来るんだろう、その自信…
『ふぅ…見惚れたのは否定しないけどね、それはともかく…例の人たちはまだ?』
『ああ。寧ろ、お前は分からないのか?』
『そろそろ夕方だしね、人も増えて来たから良く分からないかな…』
街中の探索に戻った私たち…ドイツの店には夜には閉まるせいか、結構人の入りが多くなってる…
『と言うか、ドイツの人?』
『さすがに男だとは思うが、人種までは判断付かんな…』
基本的に、アジア系の人たちは欧米人の顔の見分けが付かないパターンがほとんどだからね…逆も然りだけど。だから、こうして千冬が顔を記憶出来てるの自体…一種の奇跡とも言える……いや、待った…そう言えば聞いてなかった…
『私は何となく付けられてる感じがしただけだけど…千冬の方は顔が分かったんだよね?アジア系の人は居ないの?』
『ああ、三人とも欧米系人種なのは間違い無いな…』
当然ながら付けられる事に関して心当たりは無い…う~ん…
『三人の髪の色、分かる?』
『髪は…黒が二人…茶髪が一人だな、三人とも目は青い様だが…』
特徴聞いて思う事が一つ有る…
『うん、ごめん…聞き方が悪かったかもね…目が青いなら欧米の人かも知れないけど…その髪色だと判断難しいかな…』
『ん…そうなのか?』
『実は地毛が金髪って、欧米でも全体的に見たら意外に少数なんだよね…白人だと男女共に金髪イメージの強いアメリカやイギリスでさえ…実は結構茶髪の人が多いそうだから…そして、黒髪は欧米でも結構多いの…まぁ、そもそも染めてる可能性も有るし…何なら、瞳の色はカラーコンタクト着けてれば変えれるんだよね…』
『……つまり、見た目だけでは人種を示す証拠にならない訳か…』
『残念ながら、ね…えっと…どうしようか?』
『なら、どうもしない。向こうが付いてくるだけでそれ以上動きが無い以上、こちらからは手を出しようが無い…私たちにとってはアウェーになるこの国で、誘き出すなんて以ての外だからな…』
『つまり、このままホテルまで付いて来られても無視するしか無いと…』
『ホテルの部屋の方まで移動出来る辺り、宿泊客と考えるのが普通だからな…そうなれば向こうが直接的手段に出て来ない限りは排除する方法が無い。』
時々勘違いしてる人が居るけど…基本的にホテルはイベント等で施設解放してるとかでも無い限り、通常宿泊客以外の出入りは禁止になってる…ついでに言うと、職業柄ホテルの従業員は宿泊客の顔を忘れない…だからイベント開催期間で有っても、宿泊客以外の人が宿泊フロアで出会ったりすると大抵は止めらるし、何なら追い出されたり、最悪警察呼ばれる事も有るとか…ま、当たり前と言えば当たり前だけど…
逆に言えば、向こうがチェックインを済ませて宿泊客になっているのなら…余程ホテル側や他のお客さんに迷惑が掛かる事をしなければ追い出されない事になる…こうして私たちを付けていたとしても証拠が無ければ、こちらは対処する手段が無いのだ…
「面倒だなぁ…」
これ以上尾行者について話し合う意味も無い…そう思ったら、自然と普通の大きさの声が出た。
『言っても仕方無いさ…ま、向こうが何もしなければこちらも何かする理由は無い。』
『ま、そうだけど…』
「と言うか、私は余計な事は考えず…お前と二人で居る時間を楽しみたいんだが?」
「うん、分かってるから先ずは夕飯買お?ホテルの部屋の中でなら…その、好きにしてくれて良いからさ…」
疲れも有って、少し投げやりにはなってるけど…元々千冬の方から求められるのが嫌な訳も無い…最も、優しくしてくれないと困るけどね…
「今この場でキスしたい、と言ったら?」
「部屋に入ってからね。」
いや、外は困る…と言うか、何で千冬がこんなに積極的なのか…私、千冬にこんなに愛されてたのも知らなかった…てっきり気付かれてないか、そもそも脈自体無いかのどっちかだと思ってたのに…
ふぅ…嬉しいのは確かだけど、それでもやっぱり…ちょっと、色々複雑かな…贅沢な悩みだとは思うけどね…