「ハァ…」
朝…目を覚ますなり思わず溜め息を吐いてしまう…うう…身体中がヒリヒリするよ…ハァ…もう一度溜め息を吐きつつ、私は取り敢えず上体を起こす…
「うわ…」
身体に掛かっていた毛布が下に落ち、何となく下を見て…視界に入った光景に思わず引いてしまう…いや、おっぱいにさ…痛々しい跡が残ってるんだよね…具体的にはハッキリ指の跡だと分かる赤黒い痣の様な物と、加えて歯形みたいのも思いっ切り残ってる…う、見てたら余計痛くなって来た…これ、簡単には消えないよね…どうしよう…?
「ハァ…ま、仕方無いよね。」
元々望んだのは私、そして…好きな人から与えられた痛みだもの…受け入れる事なら出来る……もちろん痛いけどね…だけど、これで私は正式に千冬と結ばれた実感も出て来るし、私の身体にハッキリ跡を残してくれる程愛してくれたのも伺えて…何より、私の身体にこうして傷を残してくれたのが…私が千冬の物になった証の様な気もして……まぁ、とにかく…私は嬉しいんだよね…昨日の時点では私はまだ半信半疑だったから…千冬が私を好きだったなんて、そんな上手い話が有る訳無いと。
だけど、そんな私の疑いが一瞬で吹き飛ぶ程…私は千冬に執着された…今はまだ上半身の一部しか見えてないけど、この毛布を退けて全身確認したら…もっと酷い事になってるだろうね…それでも私は……
「…とか、朝になったらお前は考える訳だ。」
「うん、私…そこまで狂ってないからね?」
そう、今のは現実の話では無い…朝どころか、今はまだ普通に夜中…さっきまでのは全部千冬がさも有り得る事の様に語った内容…ピロートークにしてもちょっと生々しい…と言うか、私今…身体中がヒリヒリ、ズキズキと…あちこち痛みを訴えてる状況だから千冬が言った様に寝落ちレベルに自然に眠りに落ちて、そして普通に起きるなんてとても無理…
「大体さ、便宜上"夜中"としか言い様無いんだけどさ…今、何時か分かる?」
「午前三時だが?」
「……あのね千冬、午前の三時って夜中って言うより…一般的には普通…明け方近くって認識なんだよね…」
今現在も私に眠気はあまり無い……もう身体中が痛過ぎて、眠気も飛んじゃってる…
「胸に歯形と指の形の痣…だけならまだしも引っ掻き傷まで有るし…と言うかこの痣だって、もう打撲痕にしか見えないレベルだし……私、本当に千冬に殺されるかと…」
まぁ、加減はしてたとは思う…だって千冬が本気だったら、私の身体はそれこそ物理的にズタズタにされてるだろうしね…とにかく私はずっと地獄を味わってた訳だ…普通に六時間近く。途中から時間の感覚なんて無かったねぇ…千冬は、何となくSっ気は有る方だと思ってたけど…ここまで暴力的に襲われるとは思ってなかった…
「私がお前を殺す訳が無いだろう「私の首に指の形した痣が有るんだけど?」それはアレだな、興が乗ってしまってな。」
「ハァ…もう良いよ。」
ジト目を向けても飄々とする千冬に呆れる…何かもう、これからはこれが日常になるのかって考えると…さすがに、ちょっと憂鬱…
「安心しろ。私は散々待たされた分の鬱憤を晴らしただけだ…これからは普通にする。」
「そうでないと困るけどね…」
こんなの毎日続いたら私は本当に死ぬ…千冬に殺されるなら良いかなぁ…って、思わなくも無いけど…さすがに、ここまでの苦痛を感じながら死ぬのは勘弁願いたい…
「ふぅ…」
肩に回されていた千冬の腕を退けつつ…私はベッドから出た。
「ん?どうした、シャワーか?」
「いや、身体中ヒリヒリしてるから無理だって…ちょっと、タバコ吸いたくなってさ…」
ホテルの客室での喫煙はあまり宜しく無い…ただ、このホテルの場合…今私たちが止まってる部屋みたいにバルコニー有れば、そこで吸う分にはOKだったりする。
「何だ、またか……私も貰って良いか?」
「良いけど…せっかく禁煙してたのに、破って良いの?」
「恋人に合わせられる部分は合わせるもんなんだろう?」
「……その言葉はさっき、思い浮かべて欲しかったかな。」
何せ一方的に攻められたからね…結局私は千冬に指一本触れさせて貰えなかったし……ふぅ…まぁ、それはそうと…
「私、禁煙始めようかな…」
「何だ突然?」
……ま、こうしてタバコ咥えた状態でそれ言っても説得力無いとは思う…でもさ…
「恋人に合わせるなら、私も禁煙成功してた千冬に合わせるべきかなぁって…」
「私は今から破るがな…大体、お前の場合長続きする気がせんが?」
「……最もな指摘だね。」
確かに私の場合は何だかんだ一年ともたない気はする…でも、せめて応援の一つでもしてくれたら良いのになぁ…って、そう考えるのは贅沢かな…ま、今はその辺の事は良いや。
取り敢えず二人して床に落ちているシャツを羽織り、ボタンを止める……バルコニー出ようとして思ったけど、この姿見られたら色々問題になるよねぇ…やっぱり、ちゃんと着替えた方が…
「行くぞ。」
「え…?ちょっと!?待って千冬!?」
「何となくだがお前の考えてる事は分かった…ここは高層階の部屋だし、早々見付からんと思うが…覗かれてるんならそれも良いさ、寧ろ見せ付けてやろう。」
「待って!?私千冬程身体に自身も無いし「私からしたら…世界で一番、お前は魅力的な身体をしてるがな」もう…」
そんな事言われたら否定する方が失礼になるじゃん…ハァ…私、これから先も千冬に色々振り回されるんだろうね…それでも、そんなのも悪くないと思ってたりもするけどさ…そう思いながらも千冬とバルコニーまで出て来てタバコに火を着ける…う~ん…季節柄大丈夫かとも思ったけど、格好も格好だからか少し肌寒いね…一本吸ったら部屋に戻ろう…
「はい、ライター「ちょっと待て」どうしたの?」
既にタバコをやめてる千冬はライターなんて持ってない。だから渡そうとしたら何故か止められた…
「お前も知ってるだろ。」
そう言って私に顔を近付けて来る千冬…あー…成程ね。
「もしかして、やりたかった?」
「まぁな…最も、先に私がやめたから実現は無かったが…」
先にタバコに火を着けた方の燃焼部分を火種にしてもう一人のタバコに火を着ける。着ける時はお互いの顔を近付けないとならないから…そう言う行為をシガレットキスや、シガーキスなんて呼ぶ…要はタバコ越しのキス。
喫煙所で映画などの創作物に影響され、憧れた喫煙者同士の若いカップルがたまに挑戦する事も有ると言うコレ…傍から見ればオシャレにも見えるんだろうけど、実際にやってみると…ぶっちゃけそうでも無かったりする…
「ん……思ったより難しいんだな…」
先ず、いざやろうとすると意外に難しい…どっちもそれなりにタバコ吸い慣れて無いと何かしっくり来ない感じになるのが定番…実際、今みたいにちょうど良い距離が分かりにくかったり、後は…
「っ…」
どうしてもタバコの味が変わるんだよね…何より火種になる方は強く吸う状態を長めにする必要が有るから、当然葉も凄い勢いで燃えてるし…
「ケホッ…久しぶりに吸ったが、思ったよりキツいな…」
実は火を着けて貰う方もある程度強めに吸わないと火は着かない…だから味もいきなり辛くて、喉を焼く感じになってると思う…ブランクの有る千冬には本当にキツいんだろうね…
と言うか、同性同士が吸う場合って単純に火種欲しさにやる場合すら有るって言うし……まぁ、それら事情を大体知ってる私からしたら…どうしても色々複雑な気持ちにはなる…
「えっと、どう?」
「お前…こうなるって分かってたのか?」
「多分、千冬は微妙な気分になるだろうなとは思ってたよ。でも、やりたいって言ってるのに無理に止める事も無いかなと思ってさ…」
火を着けるのすら、慣れて無いと案外難しいシガーキス…カップルが初挑戦すると、二人の間の空気は少し悪くなるかもしれないね…まぁ、それだけで別れるとか言い始めたらあまりにもくだらない理由だと思うけど。
「そうだな、多分…二度とやろうと思わないだろうな。」
「だろうね…」
取り敢えず強く吸い過ぎたのか、千冬の咥えてるタバコの灰が早くも凄い事になってるから携帯灰皿を渡した…
「普通に吸いたいなら、あまりやるものじゃないと思うよ…どうしても燃え尽きるのも早くなるし。」
息の吸い方を調節する事で味の調整も出来るのがタバコ…深く吸えば火の勢いは強くなるし、そして…勢いを強くし過ぎるとタバコは辛くなる…普段から吸い慣れてる人たちでも、実際コレやったら後悔したって言う話も聞いた事有るし…
「えっと……もう一本吸う?」
「……貰おうか。」
思った以上に微妙な雰囲気になったので、取り敢えず千冬にタバコを勧める私…吸ってる間って気持ちは落ち着くけど…どうにも頭の回転は鈍くなる気がする…何と言うか、話題が全くと言って良い程浮かばないんだよね…
ま、私は元々静かに吸う方が好きだし…無理に会話しなくても良い気はするけどね…