「成程、難儀な話だな…」
「……えっと…まさか、その言葉だけで終わりとか言わないよね…?」
結局…千冬に私が見た夢の話が出来るまで更に優に二時間程掛かった…"彼女"の事は心配だけど、まぁ、それ以前に明日…私は大事な行事が待っている…気絶こそしなかったけど、身体を散々貪り尽くされた事も有りさっさと寝たいのが本音…でも、長くなりそうだしなぁ…
「長くなりそう、とか考えてないか?」
「!…何で分かるの?」
「お前のその深刻そうな顔を見たらな、分かるさ…ただ、内容が内容だけに私もまだハッキリ纏まって無いが…多分、結論はすぐに出るぞ?」
「……ねぇ、ちゃんと真面目に考えてくれてるの?」
「お前自身…夢の話だから、私が適当に言ってるとか思ってるかも知れないがな…ちゃんと真面目に考えてるさ…そうだな、ちょっと外に出ないか?」
「……この格好で?」
今私は何とか下着だけは着けた所…千冬に至っては全裸…ちょっと目のやり場にも困ってる…
「そりゃ着替えるさ…と言うか元々、素の私に結論を出して欲しい話じゃないんだろう?」
「ん…まぁ、そりゃ…」
千冬は割と頭の硬い所は有る…私の相談には基本、一見どんな下らない内容でも彼女は何だかんだいつも真面目には聞いてくれるけど…それでもどうにもこう、自分が普段の悩まない様な話にはちょっと私には若干受け入れにくい意見を出してしまう事は有る…
ま、そうは言っても何らかの意見を出してくれるだけで私には十分ありがたいし…私も元々天然入ってる方で、自分が一般人代表だなんて思わないけど…千冬の場合普通の人なら手に余る事でも自力でどうにか出来る分、本来で有れば何の問題の無い事で悩む事が多いせいで相談云々については逆も然りだったりするから…そう言う意味でも、やっぱり私たちの相性は良いんだろうね…
「普段の私なら…『いくらそれが本当に別の世界に存在するお前の事で有っても、それは今この場に居る"お前"の気にする事じゃないんじゃないか?』…と言う結論になるが、そう言う言葉が聞きたいんじゃないだろう?」
「うん、それじゃ困るかな…あの子、多分急がないと大変な事になると思うから…」
一般人とズレまくっていても感性そのものは一般寄り…でも、それが千冬の長所でも有り、短所でも有る…だって、いくら一般寄りでも千冬自身の能力は結局一般人のそれじゃない…要は、完全に相手の気持ちに寄り添うのは難しいのだ……まぁ、元々他人の気持ちが一ミリも出来ず…その癖変に頭の回転が早いせいも有って、人の感情を一切考慮しないまま斜め上過ぎる解答を出して来る束よりマシだろうとは思う…
えっ?他の人?真っ当な方の友人なら困らせてしまうだろうね、こんな相談しても…兄さんは発想が束以上に常人のソレじゃないから論外だし…
「じゃ、出掛けるとするか。」
「良いけど…そろそろ何処もお店、閉まっちゃうよ?」
「元々店に入る気は無いからな。」
「そう…」
じゃあ何処に?と言うのはこの場では聞かないでおいた…付いて行けば分かるだろうし。
「…で、ホテル前でタバコ…?」
敢えてスルーしたとは言え、素の私がどうのとか言ってたから何の事かと思えば…えー…
「何もそうジト目を向けなくても良いだろう?お前は私のタガが外れる姿ばかり見てるから、信用出来無いのは分かるがな…コイツはリラックスするのにも良いんだぞ?」
「……千冬は毎回、羽目を外し過ぎだと思うけどね。」
まぁ、リラックスについては私も実感有るから分かるけど…
「ふぅ……さて、じゃあ分析と行こう…お前も時間が無いと焦るのは分かるが、先ず…向こうのお前が可笑しくなった理由も分からないんだろう?じゃあこのまま会いに言っても言い方は悪いが無駄だ……まぁ、実際に行けるかは別にしてだがな…」
「!…うん、そうだね…」
意外にまともな言葉が出て来て少し面食らう…そう出来るなら、普段からそうしてよ…
「…でだ、正直不確定な要素が多過ぎるから私もハッキリとは言えないが…顔の違うそいつがお前だと断定出来たと言う事は…それだけそいつがお前に似てる雰囲気だったと言う事だ……違うか?」
「うん、合ってると思う…」
あの子の顔は一夏君そっくりだった…当然髪の色だって私とは違って黒髪…何より、身長も彼女の方が明らかに低かった…まぁ、あの子多分…顔立ちから判断するに普通に高校生くらいだろうし、当然二十歳過ぎてる私より若くも見えた…うん、改めて考えたら見た目は…本当に私と全く共通点が無いね…
「当然だが、自分と同一の存在が目の前に現れると言う事は普通無い…何より、見た目が違うのに中身は同じなんて発想には至らないだろう?」
「うん…」
「それでも似てる、と判断出来たと言う事はだ…お前の言うそいつの前世…そいつはそこでそれ相応に長く生きた経験が有り、何よりお前と似た境遇だったと言う事だろうな。だから、転生した際に見た目などが全て変わっていたにも関わらず…その前とほとんど変わらない雰囲気になっている訳だ…」
「だいぶ肉体に準じた性格になってる節は有ったけどね、それでもやっぱりあの子は私だと感じたよ。多分…前世では私とそう変わらない年齢で亡くなっちゃったんじゃないかな…」
「成程な…で、まぁ…私も一概に言える訳じゃないがな…そいつ、大体高校生ぐらいに見えたんだろう?」
「うん…まぁ、改めて考えたら…あの見た目だと中学生の可能性はゼロでは無いけど…」
あの子、結構小柄だったしなぁ…発育的には私よりも育って無い様に見えて……まぁ、おっぱいの大きさはパッと見私とそんなに変わらない様にも見えたけど…だから最初、余計に一夏君が女装してる姿に見えたんだし…
「そうか…まぁ、どっちかはこの際置いておこう…で、思春期の頃の定番の悩み、何か分かるか?」
「?…そこ関係有るの?」
「有るさ、雰囲気は似てても…そいつ、何処か見た目に準じた性格でも有ったんだろ?」
まぁ、確かに今の私には無い幼さみたいなのは有ったねぇ…そう考えたら、関係は有るのかも…
「……成程。じゃあ上げてみよっか…あー…って言っても、私たちの学生時代って…」
「私たちは色々特殊だったからな…ま、それでも一般的なのは浮かぶだろう?」
「う~ん…そうだなぁ…例えば、勉強が難しいとか?」
学生と言う身分を考えたなら、普通は先ず最初にそこだと思う。
「そこに行き着くなら、当然進学でも悩むだろうな…とは言え、仮にもお前と似た奴ならそこ悩むと思うか?」
「……悩まない、かな。」
実際、私自身は何だかんだ勉強面でそこまで悩んだ記憶は無い気がする…いや、私って昔から時間忘れて没頭する様な趣味は特に無いから小学生の時みたいに虐められてる、みたいな事情が無ければそこに十分に時間を割けてしまう…まぁ私の場合は、身近に規格外の親友が二人も居たせいも有るだろうけどね…二人とも人に教えるのが決して上手い方では無いとは思うけど、それでも少なからず影響は有ったと言える…
「じゃあそれは除外だな…次は何だと思う?」
次ねぇ…私は学生時代にそこまで深く悩んだ記憶って、やっぱり無いからあんまり思い浮かばない…う~ん…あ、でも確かに…私にも悩んだ経験自体は有るね…
「……じゃあ、恋愛…とか?……あ。」
不思議と私の中にストンと落ちる様な物が有った…もしかして、正解なの…?もちろん、本人に聞ける訳じゃないけど…いや、単なる勘じゃなくて何となく根拠は有る気が…
「結論は同じの様だな、多分ビンゴだ…とは言え、そこまで自分を追い込む理由は何なのかだ…根が深い所を見ると、多分前世からそのままずっと悩み続けているんだろうな…」
私が告白を思い留まる程の恋愛相手……いや、"彼女"が本当に私だったなら…それこそ考えるまでも無いかも…
「自惚れで無ければ…恐らくそいつが好きなのも私だったんだろうな…で、告白出来無いまま死んでしまい転生したと考えるべきか。」
「おー…凄いね、答えが出て来たよ…」
いやぁ…多分私一人じゃここまで辿り着けなかったよ…
「……まだ終わってないぞ?」
「へっ?」
「お前の様に私を好きだった奴が死んだ…そして幸い、かどうかは分からんがまた私の居る世界に転生して来た…今度は私の妹としてな。」
「えっと…結局悩む理由はそれじゃない?同性の上、実の姉だったら…普通告白も何も無いよね…?」
同性と言うハードルは確かに高い…私もそれなりに悩んだし…でも、赤の他人では無く実の姉妹と言う関係性なら…ハッキリ言ってそれ以前の話にはなる…多分、同じ立場だったら私も相当悩んでただろうし…
「そうだな、ただそれなら…前世でお前の様に告白しなかった理由にはならないだろう?言い方はアレだったが…お前は一応、自分から私に告白出来たんだからな…」
「!…確かに。どうして彼女は言わなかったのか…」
もし前世で告白出来ていたなら、多少は吹っ切れてても良い筈…仮に告白してすぐに亡くなったにしても、彼女もあそこまで思い悩まない様な気はする…
「一応私には可能性が一つ思い浮かんでるが、聞くか?」
「うん…聞かせて?」
「多分、そいつは…フランス生まれ、フランス育ちだったんじゃないか?」
「?…それって、そこまで問題?」
確かに私は日本生まれ日本育ちだけど…そこまで価値観変わる?
「フランスと言う国を貶す気は毛頭無いが、そいつにとっては問題にしかならないだろうな…フランスは確か、カトリック信者が多いんだろう?カトリックでは、同性愛を禁止してるんじゃなかったか?」
「!…まさか、そのせい…?」
「お前と同じく、母親が日本人だったなら無神論者の可能性は有るがそれでも…子供の頃から日常的に教えを聞く機会が有ったなら多少なりとも影響を受けてても可笑しくは無いだろう?ちなみに、カトリックでは近親婚も宜しくないんじゃなかったか?」
まぁ…そこら辺は単純に倫理的な問題や、血が濃いと障害の有る子供が生まれやすいから後から禁止したとか…色々別の要因も有るけどね…そこに忌避感有るなら確かに厳しいかも…日本は今の所同性婚こそ出来無いけど…何だかんだそこら辺結構緩いと言うか、周囲の理解を得られる事は多い様にも思う…私の場合は、最早私の背中を押すと言うか…全力で蹴りに来てる人が大半の気もするけど…う~ん…私って、結構運が良かったのか。
「でもそうなると、私に出来る事って…」
「本人に自覚が有るにしろ無いにしろ、元々価値観そのものが違っているならお前が背中を押すのは難しいな…と言うか、お前がそいつともう一度会うの自体…既に悪手の気がするがな…」
「何故?」
「お前に分かったなら、向こうも途中からお前が自分自身だと…お前に指摘される前に気付いていた可能性は高い…そして、思ってしまう筈だ…お前が、反吐が出る程に嫌いな存在だと。」
「え…私、そこまで憎まれる理由有るの…?」
「有るな。だってそうだろ?目の前に居るのは自分がどうやっても手に入れられなかった物を手に入れてしまった存在だぞ?仮に向こうがそこまで分かったなら、どうなる?」
「……私の存在そのものが彼女に対する否定になる…?」
千冬が頷く…そんな、私は…
「ま、だからと言って諦める理由は無いと思うが。」
「え…」
「今は生まれ変わったんだ、当時の価値観にもう意味なんて無いだろ。わざわざそこで踏み留まってるバカのケツを蹴りに行ってもバチは当たらんだろう…お前にとってそいつは立場こそ違えど赤の他人では無く、自分自身なんだからな…その権利は当然有る筈だ…何より勝手に嫉妬されてると知って、お前はどんな気分だ?」
「……何か、ちょっと腹立つかも…」
私と彼女は少なくとも今は違う存在…にも関わらず、一方的にそんな風に思われるのは気に入らない…大体、結局貴女に意気地が無かっただけじゃない…
「じゃあ簡単だ、お前の気持ちをそいつに思いっ切りぶつけてやれば良い。」
まぁ、理屈は分かる…たださ…
「…って言うけど、焚き付けて良いの?だって今のその子にとって…千冬は実の姉だよ?」
その子が前世で告白出来無かったなら、必然的に気持ちを伝えるのは今世でしか無い訳で…
「ん?別に良いんじゃないか?」
「えー…」
それはさすがにどうなの…?
「実の姉妹だからとか関係無く、結局決めるのはそいつの姉である向こうの私だしな…大体、仮に振られたとしても告白出来無いまま悩んでるより遥かにマシだ…それにそいつも私で有るなら、それが原因で姉妹の縁を切るとかは先ず有り得ないだろうしな…ま、そもそもどうせそいつは…自分の姉の気持ちをきちんと確認してもいないんだろうがな。」
「何で分かるの?」
「決まってる…私の目の前に居るのがそう言う奴だからな、似たそいつも…当然そうなんだろうさ…」
「……説得力は有るね。」
まぁ、私だってうじうじしてたしね…あの子よりマシなんだろうと今では思うけど…
「ま、これらはあくまで推論だが…参考にはなったか?」
「うん…」
「そうか…ま、とは言え…これらが本当に正しいとしたら…今すぐにお前が会いに行くのはやめた方が良いだろうな…」
「うん…そうだろうね…」
確かに時間は置いた方が良さそう…あの子も頭を冷やす時間が必要だろうし…
「何より、お前には時間が無いのは分かってるか?」
「分かってる、今は大会の事に集中するよ。」
「なら良い…さて、そろそろ部屋に戻るか?」
「うん…ありがとね。」
「良いさ、何せ大事な大会の前だ…面倒事は先に解決しておくに限るだろう?」
「ふぅ…これで負けたら、とても言い訳なんて出来無いよね…」
「言っておくが、ここまで来て私以外の奴に負けるのは許さんぞ?」
「分かってるって。」