「ふぅ…」
開会式もさっき終了し、私は今自分の控え室に居る…と言うか、千冬が無理矢理捩じ込んだせいで扱いに困ってるのは分かるけど…それにしたって、特に今日はこれ以上予定の無い私がこうしてISスーツ着て…控え室で待機しておかないといけないのは何でなのか…
最も、選手扱いの私が客席に行くのは当然駄目だし…今大会から用意されたって言う選手の家族なんかに宛てがわれる関係者用の部屋に行くのもアウトだけどね…だって家族来てるのは、私と千冬だけじゃないし…と言うか、何で前回は無かったのかも疑問だし…
「ハァ…」
まぁ…正直に言えばその辺は今更だともう思ってるし、私の頭の中では別の問題がぐるぐるしてたり…
「何で、ああも堂々と宣言しちゃうかなぁ…」
『ん?コイツは私の恋人だからだが?』
『ちょ!?』
私を抱き抱えたまま、普通にリングまで出て来た千冬…しかもちょうどそのタイミングで開会式が始まってしまったのは仕方無いにしても…私を下ろしてくれなかったんだよね…一人一人選手が紹介される中、千冬のタイミングが来た所で当然私を抱き抱えたままの理由を聞かれ…普通に私を恋人だと言ってしまったのだ……いやまぁ、嬉しいんだけどさすがにシャレにならないよねぇ…
もうその後は空気が凍ったし、私も実況の人や解説の人の言葉なんて耳に入らず…何か、気が付いたら終わってた…おまけに思いの外私もショックが強かったのか聞いた筈の他の選手の名前とか、皆頭から飛んじゃった…ハァ…もうどうしたものか…ん?
「どうぞー…」
ノックの音が聞こえ、私は半ば投げやりに返事をする……千冬じゃないのは分かる…千冬なら、多分ノックもしないで入って来るだろうから。とは言え、そうなると誰が?さっきのアレを運営の人が注意しに来たのかも知れないけど…アレは千冬がやっちゃった事で有り、私に言われても困るんだけどなぁ…もちろん、別れろって話なら拒否するし…
「どうも、お久しぶりです…」
「ん?…あ、どうも…久しぶりって言っても三日前の話ですけどね…」
大会のリングの様子を映していたモニターを見詰めていた私はドアの方…私の後ろから声が聞こえたので振り向いた…そこに立っていたのはドイツに来て初日、ホテルで私にライターを貸してくれたあの女性?が立っていた(いや、改めて顔見ても女性と分からないんだよね…まぁ、あの時は身体のラインが分かりにくい服着てたとは言え…今のISスーツ姿だとハッキリ女性だと分かるんだけど……てか、着痩せするタイプだったんだね…結構胸大きい…)
「それで何か?選手の皆さんはこれから試合でしょう?」
正直に言うと…私は結局この人の名前を覚えてないのでこうやって顔合わせるのは気不味い…だから、当たり障りの無い事だけ話してさっさと帰って貰おうと思ってる…と言うか、このギリギリのタイミングで本当に何の用なのか…ここに来てる訳だから、彼女は第一試合には出ないんだろうけど…
「もちろん、貴女に会いにですよ。」
「はぁ…それで、結局何の用なんですか?」
「……」
彼女は何も答えず、私の方まで歩いて来る…その場で何も言わないって事はよっぽど突っ込んだ話が有るのだろうか…ハァ…しょうが無い。
「お茶でも入れますよ「いえ、そのままで」え?」
座っていた椅子から立ち上がった私に対して動くなと言う…と言うか、このまま座ったら駄目なの?
そんな事を考えてる内に彼女はどんどん私の前にまで近付いて来る…自然と私の足は彼女を避ける様に下がった…
「おや、どうしました?」
「あの…何で近付いて来るんですか?」
「近くに行ってはいけませんか?」
「……」
特に駄目な理由は無い、筈…でも…私は何故か今、彼女に対して少し危険な匂いを感じてる…あ。
「……何故逃げるんですか?」
「せめて理由を言って欲しいんですけど…!」
後二歩くらいで眼前まで来る、と言う辺りで私は彼女から視線を逸らさないまま横に逃げた…彼女はまだ追って来る…てかうっかりしてたけど、さっきの場所は確かに逃げ場が無かったとは言え…良く考えたらこっちも駄目なんだよね…後ろは壁だし。
完全に逃げ場が無くなった事を悟りつつも、私はそのまま後ろに下がる…何かこれ、自分から追い詰められに行ってる気がしないでも無い…と言うか、こうして冷静な思考が出来てる私も何なのかとは思う…だって、私は今彼女が怖いから逃げてるのだ…あの日も見た、あの笑顔を浮かべたままこっちに距離を詰めて来る彼女がとにかく怖い…って、もう壁に着いたじゃん…そして彼女が私の目の前で足を止める…取り敢えず深呼吸して、落ち着く事にする……いや、そのまま待ってくれるの?
「ふぅ…あの…結局何の用で…っ…は?」
「…実を言うとあの晩…貴女に会えた時から既に目を付けていたのですが…じっくり落とす気でいたのにまさか…貴女があのブリュンヒルデの恋人とは…」
彼女の伸ばした手は私の胸の上に有る…その手は小刻みに動いている…ハッキリ言えば彼女は私の胸を揉んでいるのだ…正直、私は彼女に対して本気で恐怖していたから…この結果に拍子抜けしてる…いやまぁ、何か向こうも凄い申し訳無さそうな顔してるし…
「っ…一応言っておくと、あの晩の時点ではまだ千冬とは普通に友人でしたよ…私たちが付き合い始めたのはあの後ですね…」
「つまり、やはりあの晩に誘っておけば「ん…すみません…私は昔から千冬が好きでしたし、多分脈は無かった様に思います」…それはそれは…ところで。」
「っ…何ですか?」
「怒らない…と言うか、抵抗しないのですか?」
「そう言われても…っ…異性からされてるならまだしも同性からこんな事されても特に減る物じゃないですし…ん…」
最も彼女の場合…所謂そっちの人なんだろうし、抵抗すべきなんだろうなとは思う…ただ…
「っ…それに、そんな顔されたら怒れないですし「それだけですか?」え?」
「その…これでも自分のテクニックには自信が有るのですが…」
……まぁ、感じてないと言えば嘘にはなる…と言うかさっきから自分でもそう言う声出てると思うし…とは言え…ぶっちゃけ、しっくり来ないとか…物足りないと言うのが本音だったり…
いや、私はこの三日間ずっと千冬にされてた訳だけども…千冬の場合胸揉むにしてもほとんど握り潰しかねない力で揉み潰して来るし、何なら噛み付くし…下手すると首を締められるから…もちろん、それに関して気持ち良いだけかと言えばそんな事は無い…普通に痛いし、苦しいのが先に来る…とは言え、千冬に散々そうされたせいで私の身体は完全にそれに慣らされているらしく…さっきから違和感が凄い…
「っ…用がこれだけならもう帰った方が…多分、千冬はすぐ自分の試合終わらせてここに来るでしょうし…こんな所見付かったら…多分、殺されますから…」
「それは…私の身を案じてくれて「違います…千冬を人殺しにしたくないだけです」…ふぅ…惜しいですが、本当に可能性は無い様だ…」
彼女が手を離す…私はその場に座り込んだ…強がってもみたけど…私の身体は一応反応はしてるんだよね、残念ながら…
「分かりました…ブリュンヒルデに見付からない内に帰ります「ハァ…一つ良いですか?」何でしょう?」
「ハァ…ハァ…貴女多分、モテる方ですよね?何で私を…?」
あの日のアレは…今思えばナンパのつもりだったのだろう…とは言え、正直アレはヤケに手馴れていた様に感じる…
「ええ、まぁ…そうですね…正直に言えば、最初はブリュンヒルデと一緒に居た貴女に興味を持っただけなんですが…」
モテるの辺りを否定しないんだ…呆れとも感心とも言える複雑な気分になりながらも、私は続きを促す。
「じゃあ、何で?」
「……その…一目惚れと言いますか、私としても初めての感情でして…貴女との試合の時に言うつもりだったのですが、ブリュンヒルデが貴女を恋人と宣言したので…」
「気持ちが暴走しちゃって、ここまで来てしまったと?」
俯きつつも頷く彼女に溜め息を吐きたくなる…最も、私としては…
「ふぅ…私は怒ってませんし、この事を千冬や運営の人に言うつもりは無いです…」
一目惚れ…は、私もそうだったからねぇ…そう言う理由だと文句も言えないかなぁ…と言うか胸揉まれた以外、何された訳でも無し…
「宜しいのですか?」
「と言うか、早く行ってください…千冬が、来ますから…」
「分かりました…その…ありがとうございます…」
彼女が私に背を向け、ドアまで歩く…その後は一度も私と目を合わせず、ドアを開けて出て行った…