「ふぅ…」
彼女が出て行ったのと同時に安堵の息が漏れる…うん、思った以上に気張ってたんだね…私…あ。
「……誰から?」
バッグの中で携帯が鳴ったので確認しようとしたものの、上手く立ち上がれない…あー…膝が笑ってる状態だね、完全に…仕方無い…ほとんど床を這う様にしながらも何とかバッグを置いたテーブルまで向かう……着いた…さて、一体誰…
「うわ…」
液晶に表示されてるのは上司の携帯の番号…多分今日は仕事だろうから、普通の用なら職場の電話を使う筈…にも関わらず自分の携帯で掛けて来てるって事は…
「出たくないなぁ…」
嫌な予感しかしない…何か色々有り過ぎて、私もそろそろキャパオーバー…無視しようか。
「……止まりそうにないね…」
放置しようとしたものの…着信は止まらない…どうしようか…?
「仕方無い…」
取り敢えずテーブルの側に有る椅子に座り、携帯のボタンを押す…
「はい、もしもし…?」
ドアが開く…うん、やっぱりノックして来ないね…まぁ、普段ならさすがに気にしてくれるだろうけど今の千冬…それなりに興奮してるんだろうしね…
「…見ててくれたか!?」
「うん、ちゃんと見てたよ…」
ドアを開けて入って来たのはもちろん千冬…試合は見てたのでもちろんそのまま答える。
「カッコ良かったよ。」
「そうか……何か有ったか?」
「へ?別に何も無いけど…どうして?」
「嘘だな。」
「……いや、だから何?急に…」
「何か有ったんだろ?」
さっきまで笑顔だった千冬の表情が消えてる…う~ん…答えないと駄目か…千冬の視線が私から全く離れないし…
「ハァ…そうだね、うん…でも、何で分かったの…?」
「何となくだな…確信はして無かったが。」
「……」
要は私…カマかけられただけ?うわ…なら、このまましらばっくれれば良かったかな…もう遅いけど。
「…と言うか、誰か来てたのか?」
「……うん、来てたよ。」
来てないと答えようとして、思い留まった。ちょうど匂ったんだよね、彼女の付けてた香水の匂いが…千冬ならすぐ気付くだろうし、嘘つかなくて良かった…
「ほら、例のワイン贈って来た人…」
「あー…何の用だったんだ?」
「改めて私に挨拶しに来たみたいだね…」
「……成程な。」
納得してない感じだね…ま、私はこれ以上彼女について何か言うつもりは無いけど。
「…で、他に何か有ったのか?」
「さっき職場の上司から電話有ってさ…私と千冬との事で、取引先から職場に問い合わせの電話殺到してるんだってさ…」
「……それで?」
「その……多分私、クビになるかも…」
「成程、お前の様子が可笑しかったのはそのせいか…」
まぁ正直…その前に来たあの人の事が本当にどうでも良くなるくらいにはショックだったりする…
「後悔してるか?」
「え?」
「私と恋人関係になった事だ…」
「それは無い…けどね…言ったとは思うけど、元々嫌いな仕事じゃなかったし…それ以上に、これからどうしたら良いのかって…」
「言った筈だぞ?お前の事は私が養っても良い、と。」
「っ!……少し、考えさせて…」
千冬の言葉に揺れたけど、何とか言葉を飲み込んだ…そもそもまだクビが確定した訳じゃないし…何より…養って貰うだけとか普通に嫌…大体、一夏君の事も有るし…
「ま、一応貯金は有るし…本当にクビになってもしばらくはどうにかなるとは思う…」
「お前、相当溜め込んでそうだな…」
「ん?欲しいならあげるよ?」
「……これからどうしたらとか、言ってなかったか?」
「ま、そうなんだけど…」
そうは言ってもねぇ…と言うか、黙っておくつもりだったのについ…口が滑った…
「んー…正直言っちゃうけど、実は私は…二人の為にお金貯めてたりするんだよね…」
「……どうせそんな事じゃないかと思っていた…にしてもお前、そんなに金余ってたのか?」
「基本的に私が自分の物でお金掛けるのって、食事ぐらいだからね…他にどうしても必要なお金引いても残るんだよね、これが。」
「……色々言いたい事は有るが、その辺は大会終わってからにするか。」
「私もまだクビと確定してないしね…」
ほとんど決定の雰囲気だったけどね…ハァ…
「さて…」
「……えっと…椅子は他にも有るのに、どうして私の方まで来るのかな?」
「フッ…分かるだろ?」
「ハァ…私が悲痛な声出すと人来るから、お手柔らかに…」
「善処はするさ…」
「……それ、しない人のセリフじゃん…」