「痛っ…!千冬、痛いってば…もうちょい優しく…」
千冬の手に私の乳房が押し潰されてる…いや、私の場合大きくないから本当に潰される寸前なんだよね…
「……」
「ヒィッ…」
千冬の顔に浮かんでるのはまるで能面の様な無表情…もっ、もしかして…聞こえてないの…?
「ちっ、千冬…お願いだから…んむっ!?」
千冬が私の唇に自分のソレを押し付けて来て……あがっ!?
「ぷはっ!…ちょ、ちょっと千冬…!苦しいって…!」
唇を押し付けられると同時に片手で首を掴まれ、締められる…唇は離してくれたものの、私の首を掴む手は離してくれない……ヤバッ…!もっ、もう意識が…!
「ち…ふ…ゆ…」
……今日ここで私、死ぬの…?でもまぁ、千冬に殺されるなら悪くない、かな…
「っ!…すっ、すまん…」
その言葉と共に首に掛かってた力が抜け、呼吸が出来る様になった…
「ケホッ……千冬…何度も言うけど…私は別に千冬の前から居なくなるつもりなんて無いからさ…」
千冬と付き合う様になってからまだ三日…それでも分かる様になった事が有る…千冬自身は言葉にして出す事こそ少ないけど…いつか、私が千冬の前から消えるんじゃないかって不安がってるのを…そして、そのストレスをそのまま私にぶつけて来てる…
「分かっている…悪かった…」
「良いよ…」
「…しかし…どうしてお前は抵抗しないんだ…?痛いし、苦しいんだろう?」
「ふぅ…だって、結局千冬がそうしたいなら…仕方無いじゃない?」
そう、言葉でいくら嫌がってはいても…私はそれ以上の抵抗は特に何もしてない…どれだけ痛くても、苦しくても…やっぱり千冬の望みには応えたくなっちゃうんだよね……あ、千冬が凹んでる…そんな顔して欲しい訳じゃないんだけどなぁ…
「えっと…そろそろ試合じゃないの?」
「む…ああ、そうだな…」
今日は順当に行けば、千冬は合計三試合戦う事になるそう…にしても、千冬の場合ほとんど一瞬で終わったりするから…それ程の労力は掛からないだろうね…
「ほら、行って来なよ…ここで応援してるから…」
「ああ…」
「さてと…」
千冬が部屋を出るのを見送り、私はバッグから汗拭きシートを取り出す…っ…
「痛っ…」
シートを身体に当てた瞬間に頭の芯にまで響く物が有った…うっ…ちょっと染みる…まぁ、拭くのは軽くで良いか…
「ふぅ…」
何とか一通り拭き終わり、床に落ちてるISスーツを手に取…?
「えっと…ちょっと待って貰えます?」
また部屋に響くノック…今度は誰…って…
「あの…一応待ってと言ったんですが…」
ドアが開く音が聞こえたので後ろを振り向けば…さっきの女性が立っている……警戒はしてないし、慌てるつもりも無い…彼女の気持ちが分かった今、特に狼狽える事は無い。
……え?裸?一応同性だし…まぁ、それで欲情されて…とかならさすがに抵抗するし…
「まだ何か?…いや、取り敢えず少し待って貰えます?」
入って来てから言葉を発しようとしない彼女を怪訝に思いつつも、私は彼女に背を向けてスーツを着る…
「その…先程の…」
「あー…もしかして聞こえてました?すみません、煩くて「いえ、そうでは無く」…何でしょう?」
「彼女は…ブリュンヒルデはいつも貴女に…」
「……まぁ、暴力を振るわれているのかと聞かれれば…そうです、としか答えようが無いですけどね…」
確かに普通の感覚で見たら、同性だからとか関係無く異常な状況だとは思う…
「どうして…」
「…私と千冬、どっちに向けての言葉か分かりませんけど…千冬に対してなら…千冬は…不器用なんです。千冬にとっては、私はいつ消えるか分からない儚い存在に見えるらしく…どうしても離れて欲しくなくて、想いをそのままぶつけようとしたら…自然と暴力的になったと言うか…で、その言葉が私に対してなら…答えは一つしか無い…千冬が望むなら、私は…出来るだけ応えてあげたい…ただ、それだけです。」
私は振り向いた…もう、スーツは着終わっている…
「…で、他には何か有ります?」
「……分かりました…それでしたら、一つ聞いて貰えますか?」
「何でしょう?」
「もし、私がブリュンヒルデに勝てたら…私の気持ちを受け入れて貰えませんか?」
「……は?」
思った以上に低い声が出た…当然ながら、私にはその宣言を受ける理由が無い…大体において、私は千冬を拒んで無いのだからその言葉に揺れる事は無い…とは言え、彼女が大真面目に宣言してるのは分かる…
「その宣言は…私じゃなくて、千冬にした方が良いですね。」
私じゃ、彼女には勝てないかも知れない…でも、千冬は勝てるだろう…そして、結果はどうあれ…千冬が彼女に私を託すなら私がそこに否を唱える事は出来無い…だって、彼女が嫌になったのなら…私はそれに文句を言う権利が有るとも思えないし…
「ええ…ブリュンヒルデに宣言させて頂きます…私が勝ったら、貴女は私が貰う…と。」
「……ええ。」
千冬は多分、この宣言に乗る…そして、千冬は絶対に負けない…最もそれでも私を彼女に渡す、と言うなら…私はそれに従う…
「では、失礼します…」
彼女は部屋を出て行った……と言うか私、未だに彼女の名前分からないんだよねぇ…仮に付き合う事になったら凄く面倒臭そう…まぁ、そもそも…基本的に私は千冬一筋なんだけどさ…でも、千冬が嫌なら仕方無いな…とは思う……あ。
「お腹減った…」
お腹が鳴る…いや、さっきまで真面目な話してたのにね…
「お昼までまだ時間有るなぁ…」
基本、昼時と今日の試合が全部終わるまで…私はここから出られない…むぅ…もっと早くホテル出てたら何か買えたのに…ここ、見た感じ飲み物しか無いんだよねぇ…どうしたものか…あ、そうだ…
「……」
私はバッグから携帯を取り出し、電話を掛ける…
「…あ、兄さん?…うん、私…てか携帯に表示されてるでしょ?…うん…それで、ちょっと頼みが有るんだけど……あ、分かる?どうにか、ここに持って来れないかなぁ?…いや、大丈夫でしょ…兄さんなら。」
まぁ、我ながら無茶振りしてるなとは思う…さすがに、いくら家族とは言え…選手の控え室の有るフロアに来るのは問題だろう…しかも相手は男だし。
「良いじゃない…女装、したいんでしょ?」
……兄妹でする会話じゃないよねぇ…まぁ、私は別にあの人の趣味に口出しする気は毛頭無いから……こっちに迷惑掛けない分にはだけど。
「うん、じゃあお願い…」
電話を切る……これでご飯確保、と…まぁ、お昼になったらどうせまたお腹空くんだろうけど…