…で、部屋まで転送……と言っても、着くのはマンションの前か、あるいは部屋のドアの前とかだと思ってたんだけど…(一応、部屋の鍵は借りてるし…)
「…何でいきなり部屋の中…しかも、どうして荷物が普通に部屋の中に…」
着いたのはほとんど物の無い、多分マンションの一室のリビング…ま、物が無いって言っても…某大手通販サイトのロゴが印刷されたダンボール箱が複数置かれてはいるんだけどね……いやまぁ、そこがそもそも可笑しくは有るんだけど…
「箱の封は開いてない…何で、配達される荷物が最初から部屋の中に有るかな…」
ロケット内には一応食糧庫は有る様で、別に一時ここに保管しておく必要とかは無いと思う…と言うか、届いた荷物をちゃんと束(は、無理かも知れないけど…)あるいはクロエが受け取った上で部屋の中に有るなら…少なくとも中身は確認するだろうし、封が開いてないと言うのは先ず無いだろう……つまり、この状況は…
「いくら実質荷物置き場にしか使ってないにしても…宅配業者を普通に部屋に入り放題にしてちゃ駄目でしょ…」
配達日を把握してない以上…万が一、鉢合わせするとかなったら非常に面倒でしょうに…(クロエはともかく、束は見付かったら通報される可能性が有る…)……ま、この場でそんな事言っても仕方無いけどね…いや、と言うか…良いと言われてるからって配達業者も普通に中に…いやまぁ、お客さんの要望じゃ仕方無いとも思うけどね……ま、結局私が気にする事じゃないね…
「…取り敢えず、ここで待つしかないね…」
部屋の鍵は掛かってる(いや、業者は合鍵渡されてるの…?)部屋の広さ的に結構グレードの高いマンションだと思うし…ま、来客有るとしても業者だけで…仮に来ても何とかなるでしょ…(住人じゃない私が応対するのはヤバいとも思うけど仕方無い…)
「…母さんに会ったのなら、しばらく二人は離して貰えない筈…ま、早くても大体二時間は動けないだろうね…ん…」
眠い……このまましばらく寝てても良いよね…?…あ、配達業者来るかも……でも、ちょっともう限界…
「■■様、起きてください…」
「ん……クロエ…?」
微かに聞こえたクロエの声と身体を揺さぶられる感触で、私は目を覚ます……んー…
「ふわぁ…んん…クロエ、迎えに来てくれたの…?」
「はい…携帯に掛けても出なかったとの事で…」
「…そっか。わざわざごめんね…?」
身体を起こす…そこで気付いた。
「もう夕方なんだ…」
部屋の窓から夕日が差し込んでいる(いや、カーテンすらないんだよね…見えてる景色見る限り…ほぼ覗きとか、泥棒入れるとは思えない高さにこの部屋は有るみたいだけど…
「…ちなみに、母さんから解放されたばっかりだったりする…?」
「っ!……はい…束様はまだ…」
「そう……クロエは、母さんにじゃれつかれるのは嫌…?」
どうにも…嬉しそうな顔はしてない。クロエは元々そんなに自己主張する方じゃないのは知ってるし、もし嫌なら私から言うしか無い…クロエも別に、母さんの事自体を嫌ってる訳じゃないんだろうけど…過剰なスキンシップは嫌とかなら…
「!…いえ、そう言う訳では…ただ…」
「?…ただ?」
「…束様もそうなのですが、あまり抱き締められた経験が無いもので…その、どう言う反応して良いか、良く分からなくて…」
あー…嫌がってるとかじゃなくて…そもそも戸惑ってる方か…この様子だと、それが愛情表現の一種で有る事もまだちゃんと理解出来て無いっぽいね…う~ん…説明すべきなんだとは思う…ただ、私もその辺はハッキリ言語化出来る自信は無い…てか、私自身…今に至るまでちゃんと理解していない。私としても、あれだけ子供に愛情注ぐ母親から生まれといて…それもどうかとは思うんだけど…実際、分からないものは分からないのだ…
実際、私にとっては…普段束の提唱する理論と同クラスに不可解に思える……ま、そんな私でも軽くは説明出来るけど…一般的な親子の説明しても、行動の多くがかなりぶっ飛んでる束が母親って事考えると…当てはまる点があまりに無さ過ぎてほぼ無意味になる気がする…ま、幸い…本人は母親の自覚自体はちゃんと有るのがまだ救いだけどね…
「例えば…抱き締めると言う行為にどんな意味が有るか、分からないって言う事なら…母さんに聞けば良いよ。」
「……あの方に?」
……前に聞いたけど…クロエは何と、私の母からおばあちゃんと呼んで良いと言われてるそうな…完全に束を実の娘扱いで、クロエは束の娘だから当然の如く孫感覚だね…まぁ、私もそろそろ子供居ても可笑しくは無い歳だけど。ま、今の所…私はそのつもりも無いと言うか、仮に付き合うとしたら同性の千冬ともう決めてるから…逆に言えば、いつか千冬に告白して…フラれたら、私はその後異性同性誰とも付き合う気が無いって事……だから、私があの人に孫を抱かせるのは無理…兄さんは…束と良い感じだし、くっ付いてくれたら行けそうだけど…と言うか、仮に本当に兄さんと束が結婚したら、義理とは言え…本当に束が娘になるんだね……あ、また脱線してる…
「そう…私じゃあちょっと、分かりやすく説明出来そうも無いから…でもね?反応についてなら、クロエの思う通りにすれば良いよ。」
「私の…」
「そうだよ…今は分からないならそれでも良い、その内多分…貴女は大きく二つの感情、どちらかを抱く筈だから…嬉しいか、嫌か…そのどっちかをね…貴女は、その時抱いた感情に応じて行動すれば良いの。」
クロエは…確実に"私とは違う"。いつかは、きっと理解出来る筈…
「私の感情に…」
「嬉しいなら、ただ相手に笑い掛けてあげれば良いし…嫌なら…口でそう言うか、暴れて抵抗するか…って感じにね…」
「■■様は…抱き締められるとどんな気分になるんですか…?」
「…私?私は……」
私の場合、向こうに分かりやすい悪意でも無い限り…仮に、全く知らない男性とかにいきなりやられても下手したら…ほとんど抵抗しないかも…だって、わざわざその程度で、一々何か行動起こすの…ハッキリ言って滅茶苦茶面倒臭いから…それ以上に手を出して来るなら抵抗考えなくも無いけど(痴漢とかもこっちが完全無視だと、大抵は諦めるしね…)
それでいて、千冬を含む"身内"からそうされた場合も…確かに何となく感じるものは無くは無いんだけど…仮に、それを感情と呼ぶにしても"ソレ"がどう言うものかは…私には良く分からない。分からない以上、言語化は出来無い…
「…ハァ…ごめん、私からは…ちょっと何とも言えないかな…」
「■■様も実際には分からないと…?」
「…そうだね、偉そうな事言っててなんだけど…私も、実は分からないんだよね…」
クロエはまだ子供で…何よりとても純粋で、無垢…私も、大人として…あまり嘘や誤魔化しはしたくない…ふぅ…両親や兄…束も性質的には近いから気付いてそうだけど…こうしてハッキリ伝えるのは…彼女が初めてになるかな…
「クロエはさ…"嬉しい"はまだ分からなくても、"悲しい"は分かるでしょ?」
「!…それ、は…」
「っ…ごめん、そんな顔させたい訳じゃなかったんだ…」
「…いえ、大丈夫です…でも、どうして急にそんな事を…?」
「クロエには…もうこの場で言っておこうと思ってさ、私ね…実は、どっちも良く分からないの…」
「分からない…?」
クロエでも悲しいは分かる…やっぱり、私と彼女は全然違う…どれだけ無表情を装っても貴女には確かに、"ソレ"が有る。
「私は…"感情"が分からないの…他人のソレも自分のも…と言うか、私自身は単に…ほとんど無いって感じだけどね…」
今日までゼロなんだと思ってた…でも、私でも怒る事は出来たみたいだから…ただ、あんまり制御は出来無いみたいだね…束にやったアレは…今思えば、ちょっとやり過ぎたとも思うから…
「それは…本当なのですか?」
「うん、本当。」
「…辛くは、ないのですか…?」
……どうして、貴女がそんな顔するのかな…いくら私に感情が無くても、何か…貴女にそんな顔されるのは嫌だなぁ…
「クロエ…辛いも何も、私は…"ソレ"も分からないから…」
「!…ごめん、なさい…!」
「ちょ!?」
クロエの目から雫が垂れて行く…いや、何も貴女が泣かなくたって…
「あー…ほら、泣かないで…少なくとも私は、特に今まで困った事は無いしさ…」
クロエの涙をハンカチで拭う……ふぅ…私からすれば…感情値がほぼゼロ、と言うのは…逆に言えば人と感動などを分かち合えない事くらいしか、デメリットは無い。…寧ろ、それ以外だと色々便利なパターンの方が多いのだ…特に戦闘面では重宝…する、筈…私の場合、初めて触った武器でもある程度扱えるとか…一応の天才性は有るみたいなのに…ホント、何で千冬に勝てないんだか……ま、そこは置いといて…後、これだけは言わないとね…
「クロエ…気付いてるよ?束は元より、私の事も…意識してるでしょ?」
「っ…」
「束は…正直、あんまり参考にしたらいけないかな…と、私としても思う…でも、私の事はもっと駄目。私は…だって…私はただ人のフリしたバケモノでしかないからね…その点では、束の方がまだ良いと思う。」
私から見れば、篠ノ之束と言う女性は超優秀な頭脳を持った…感情豊かな、"普通の人間"だからね…実際私なんて、あくまで"人間"を演じてるだけ…実際、いつも…今やってる事が本当に正しいのかと自問したくなる(それでも今はある程度は経験則で分かるし、時間の無駄だからあんまり悩まないだけ…)異常なら異常だと…ハッキリ指摘してくれなきゃ、私も分からないまま……そう言えば、束には一回そう言われた気も……あー…ハッキリ覚えてないなぁ…
「後は…私の母さんか、千冬や…一夏君に聞くのも良いと思うよ?」
「……■■様では駄目ですか?」
「…私?…ふぅ…だから言ってるじゃない…私はただ、"模範的善人"のフリしただけのバケモノだって…それでも、私に聞きたい?」
「…はい、私は貴女にも教えて欲しいです。」
……クロエの存在に救われてるな、私…千冬の事を天使だなんて思った事有るけど…彼女も、そうかも…
「そう…なら、私の分かる範囲でなら教えてあげる…でも、感情の伴う話されても私は一般論しか言えない…それは、分かってくれる?」
「はい…」
「後、一つ約束…」
「?…何でしょう?」
「今の話は…千冬や一夏君には絶対内緒にして欲しいの…良いかな…?」
「…お二人は知らないのですか?」
「今の所、ね…ちなみに、束は気付いてると思うよ…でも、出来れば…束にも、あんまり言わないで欲しいかな…」
私自身、演技だけなら完璧だと思ってる…実際、それでも束は気付いてるんだろうなとは思うけど…それはあくまで束に、私と近い部分が有ったから…(本人は感情豊かだけど…他人の感情を理解したり、共感する能力に乏しい…ましてや身内相手ですらそうで、そもそも"身内"以外だと名前は覚えられないし…多分、顔もちゃんと認識出来て無い)
「…ふぅ…で、約束してくれる?」
「…分かりました…この事は、私の胸の中に仕舞っておきます…」
「…ありがとう。」
まぁ…貴女の今浮かべてる表情が、不満が有りますって言うソレなのは私も一応分かるよ?…でも、私は気付かなかった事にする。
「さてと…そろそろ行こっか。母さんがいい加減、貴女が戻って来なくて痺れ切らしてる頃だろうし…」
「…計算の上だったんですか…?」
「まぁね…でも、今までの話は嘘じゃないよ?」
「…■■様。」
「何、クロエ?」
「……お母様は、貴女の事も待っていると思います。」
「…そうかもね。」
そう言われた私は…胸の辺りで少し何かが疼いた以外、結局…何も感じなかった。