「えっと…これとこれと……あ、これも似合いそうだね…」
「…あの、■■様…?」
「…これも……ん?何、クロエ?」
「…ここは、何処ですか…?」
「…服屋だけど?」
ここはレゾナンス内のブティック…着いてすぐ、私は真っ先にクロエ連れてこの店に向かった。
「洗剤を買うのでは…」
「それも後でちゃんと行くよ?」
「…何故、先にこの店に…?」
「……あ、そっか。」
結局まだクロエに伝えてなかった…
「貴女に服を買ってあげようと思ってさ…ま、今貴女が着てる服より少し、ランクは落ちるかも知れないけどね…」
実際、束が買い与えたのだろう…クロエが今着てる服はかなり素材が良さそう…ショッピングモール内に有る大衆向けのブティックじゃ、ちょっと釣り合わないだろうけど…まぁ、こう言うのは…結局気持ちの問題だろうし、良いんじゃないかな(何れ、ちゃんとしたのを贈るつもりだけどね…)
「私、貰えま「気にしない気にしない……それとも、私に服を買って貰うのは嫌?」…そう言う訳では…」
私は千冬との付き合いで学んだ…結局の所、こう言うのは相手に有無を言わさず強引に行った方が良いのだ(相手が本気で迷惑だと思っている様なら、一度退く事も必要だけどね…)千冬は現金そのまま渡してもどうせ受け取ってくれないし(当たり前と言えば当たり前だけど…)なら、さっさと購入して"物"にして…無理矢理押し付けてしまった方が良いのだ…
「貴女は結構スタイルも良いからね…あ、これも似合うかな……と、私一人で選んでるのも駄目だね…クロエ、気に入ったのは何か有る?」
「えっと……」
クロエが千冬以上に遠慮するタイプだと言うのは何となく分かってた…このまま、一気に進めた方が話が早い……あ、そうだ…
「んー…クロエ?」
「はい?」
「…束の服も、選んであげない?」
「!…はい!」
自分のを選ぶ時より嬉しそう……薄々感じてたけど、私と似たタイプでも有るのか…う~ん…束だけを責められないね…コレは、苦労するよ…
「束はいつもあの服だからね…フフッ…大切な人を着飾らせる楽しさ、私が教えてあげる…」
たまに私の選んだ服も着てくれたりするけど…基本はそうなんだよね…ま、娘から貰った服ならもっと頻繁に着るでしょ…ちなみに、それでも千冬にも束にも良く言われる事…それは"選ぶ目"…私はとにかく目利きは確かだと言う事……一応、数少ない母さん似の部分かな…正直、あの人の"ソレ"には私も敵わない…(その辺りがあれだけ面倒臭くて、色々ぶっ飛んでたりするのに…それでも、あの人が男女問わず多くの人に好かれる要因の一つなんだろうね…)
「!…はい!お願いします!……あの…」
「ん?何?」
「■■様は、宜しいのですか…?」
……はぇ…?私…?…あー…
「私はね…大事な人に選んであげる方が好きだから良いの。」
そして…"与える"のがね…
「じゃ、早く選んじゃおうか…ほら、行こ?」
「!…はっ、はい…!」
訝しげなクロエの手を引く…そんな顔しないで…私の事なんて、別に気にしなくて良いんだから。
「…■■様は黒色が好きなのですか?」
「…ん?そうだよ。」
束の服を選んでる最中…無意識に色々目が行っていたのか、クロエに私の好みを言い当てられる…やっぱり貴女は結構鋭い方なんだね…
「……買わないのですか?」
「ん?…んー…今日は良いよ。」
私の場合、服はある意味千冬以上に…完全に実用性で考える方。そして…今は特に新しい服を買う必要は無い(ストックは十分)ま、年単位で着回すとさすがに傷んで来る事も有るから…自分で服買うとなったら、そんな感じのが続いてストックが減って来た時くらい…要は、本当に年に一回有るかどうかのレベルにはなる(まぁ、一着駄目になった程度なら基本的に買わないし…)
「…束様と私には明るい色の服を選ぶんですね…」
「貴女も束も…そっちの方が似合うよ、絶対。」
ま、選び慣れてる束の方はともかく…クロエの方は一回着て貰った方が良いかな…二、三着は捨てになるかも知れないけど、ほとんどの服は行けるでしょ。
「……」
「?…どうかした?」
急にクロエが静かになった…
「貴女の服…私が選んでみても良いですか……あ、いえ…結局買うのは■■様なのは分かっているのですが…」
「……私の?どうして?」
声に乗ってたりしないよね…?ハッキリ言うと…クロエはまだ芽こそ出てないけど、多分私よりセンスは良いと思う。偉そうに言ったけど、今回そんなに教えられる事は無さそう…それでも、その提案は私にとっては非常に面倒臭い話。
「その、私や束様の物ばかりでは申し訳が「良いの良いの…気にしないで」…■■様?」
「えっと…ごめんね…?正直私、どうしてもそう言うの…昔から苦手でね…?」
母さんの"ソレ"はさすがに私も拒否しきれない…でも、千冬とはその手の話は散々した…何度か、言い争いになってしまった事も有る…
「この手の服は、結局似合う人たちが着れば良いの。私は…ちょっとね…」
もちろん嘘だけどね…
『■ちゃん…たまにはこう言うのも着ましょう?』
『■ちゃん!コレ着てみなよ!絶対似合うから!』
『ハァ…何度も言うがな…?お前は結局、本当はこっちの方が似合ってる……卑下するな。お前は、間違い無く私より容姿は優れてる…チッ、いい加減分かれ!』
……二人が証明してるんだよねぇ…寧ろ、私は好みは別にしても…結局、似合ってるのはそっちだって(母さんにも昔から言われてたし、二人にも学生時代から散々言われたから…私も理解せざるを得なかった…それでも、納得は今でもしがたいけど…)
その癖、三人して服は明るい色持って来る割に…小物は黒色持って来る配慮までするからタチが悪い…ハァ…毎回断りにくいんだって、本当に…あんまり拒否すると千冬なんてしまいに怒り出すしさぁ…
……結局私は、誰かにオシャレさせる方が楽しいんだって…(他の友人にも結構な頻度で色々言われるし…ハァ…)
「ま、だから気にしないで……あ、コレは千冬に良いかな…お、クロエ?これ着てみない?」
「…私にですか?…ですが、サイズが…」
「大丈夫。今はちょっとブカブカだろうけど…貴女は今、成長期だし…すぐ着れる様になるよ…っ…」
……服に付けられたタグに書かれた値段を見つつ、頭の中で計算する…結構溜め込んでたつもりだけど、さすがに出費が…後々の諸々考えるとちょっと、何か副業でも始めた方が良いのかな…確か、ウチの会社は禁止して無いんだよね……ふぅ…ま、今は良いか。
「さすがにこんなものかな…あんまり荷物増えると後が大変だし「既に籠が一杯なのですが…」ん?袋貰えれば持てるから、大丈夫だよ。」
もちろん、初めからクロエには荷物は一つも持たせる気は無かったり…そう言うお手伝いとかは、先ずは束相手の方が良いしね…今思い出したけど、一応変装の方法は有るみたいだし…束はもっと、クロエ連れて親子で頻繁に出掛けるとかして欲しいもの(本気で"母親"になるなら、コミュ障とか言ってられないだろうからね…その辺は、母さんがガンガン言ってくれるだろうけど…)
「取り敢えず、大変だと思うけど…これ全部一度着て貰える?…私も実際に見てみないと何とも言えない部分は有るし…」
「これを、全部…ですか?」
「そう、全部。」
何気にクロエに選んだ服は十数着有ったり……うん、顔色悪くなるのは仕方無いよね…私だって、自分の立場だったら嫌だし…
「ごめんね…私もまだ、実際に着て貰わないと何処まで似合うか…分からないから…」
自分のセンスに自信が無いとは言わない…それでも、頭の中で想像するのと…実際に見た結果は結構違ったりするものだ…(それでも、選んだ服が全て外れた経験は今まで無いけどね…"身内"の着る物なら、必ずいつも一着は正解を引いてたつもり…)
散々見て来たから、今ではほとんどの知り合いは…例えその場に居なくても似合う服を選んであげられる…ま、学生時代は当然千冬も束も成長期と言う事も有って…サイズミスはさすがに何度か有ったけどね…二人とも、日々成長してたし…
今では当然、そっちのミスは無い筈…と言うか、どうせ普段から大して食べてないのは分かるけど…それでもあれだけ自堕落な生活してて、ほとんど太らない束ってホント凄いよね…まぁ、私も両親と住んでたころはともかく…今は結構適当な食生活してるのにあんまり太らないけどね…(ドカ食いした次の日ですら、ほとんど体重に変動無いどころか何故か寧ろ痩せてた事も有るし…体質的には私も色々可笑しいんだろうけど…)
「……分かりました…着て来ます…」
「ごめんね?次からは多分…大丈夫だと思うから…」
今回見れば、私は絶対"忘れない"…何なら、次からはクロエは居なくても…ちゃんと似合う服を選んであげられるだろう……試着室の前で足を止める。
「…えっと…私はここで待ってるから、何か分からない事が有ったら声掛けて?」
「……はい。」
……まぁ、暗い顔したくなる気持ちは分かるから私も何も言わない…謝罪ももう良いだろう…クロエもそろそろ、うんざりだろうし…試着室のカーテンが閉まる…ふぅ……んん…
「ふわぁ……あー…まだ寝足りないのかな、私…」
ま、ここ最近は仕事も忙しくて…日付が変わるまで残業が続いてた事も有った…正直、あんまり寝れてないのは確か。
「……」
取り敢えず、立ったまま目を閉じる…本で読んだけど、目を閉じたままでも少しは休めるとか何とか…っ!
「…駄目だ…本気で寝てしまいそう…」
まぁ、私は基本…朝のラッシュ時の電車の中ですら、吊り革捕まったまま寝落ちしそうになる事も結構有るからね…(……痴漢?服の上から触るくらいなら好きにさせてる…実質無害みたいなものだし、何より…とにかく面倒だから…)
『…■■様?』
「っ!……何?」
何とか起きたつもりだったけど…結局途中からうつらうつらしてたみたいで、クロエの声が試着室の中から聞こえて慌てて目を覚ます…
「コレの着方が分からなくて……っ…」
「開けないで…他の人に見られるから。」
試着室のカーテンが途中まで開かれた時点で、もう下着姿のクロエが目に入ったので慌てて彼女の手を掴んで止める……ハァ…やれやれ…取り敢えずクロエを奥に下がらせて、靴を脱ぎ…私も中に入る……ふぅ…
「…クロエ…分からないなら、そう言うだけで良いから…」
「すみません…」
「あー…謝らないで、ちゃんと言ってなかった私が悪いんだし…」
これもう…私も中に居て手伝った方が良さそうだね…ふぅ…何か色々手は掛かりそうだけど、ここまで素直で良い子相手だと…やっぱり疲労は感じなくなるね…と言うか、クロエは地頭は良いだろうし…こうなると母親の束の方が心配…母さんの能力は疑ってないけど、正直…これから先束がどうなって行くかは、まだ何とも言えない…ま、二人は色々見てて飽きないし…この不器用な親子の世話を焼くのは本当に楽しそうだけどね…ま、しばらくはこの二人を傍から眺めて楽しむとしようかな…