視線を一瞬落とし、腕時計を盗み見る…う~ん…抱き着かれてから五分は経ったかなぁ…私からは向こうで二人が困ってるのが見えて……いや、束?ニヤつきながらこっち見るの、やめて?
『■■ちゃん?一旦、そのままで聞いて?』
一瞬だけ、ピクっと身体が硬直した…小声だけど、雰囲気で分かる…今日は何度か見せてるけど、普段だと疲れるからとか言って…滅多に出す事の無い母さんの真面目モード…今この状況で出すって事は何か、大事な話…それも、二人には聞かせたくない話かな?……まぁ、私に抱き着きたくなったのも確かだろうけど(私が羨ましがってるとか言って、したいのは結局自分だよね…)
まぁ、向こうがそのスタンスで来るなら私も合わせるべきだろう…そもそも、これでも私は…この人を尊敬もしてるから…
『…何?』
『さっき、クロエちゃんの"眼"を見たんだけど…』
あー…そう言えば、さっきクロエは瞼を開けてたね…薄々、そうだろうなって思ってたけど…母さんはまだ見た事無かったか…ま、私でさえ…あの時はたまたま見ちゃっただけだし…
『うん…それで?』
『あの"眼"…クロエちゃんの方に異常は無いの?』
悲痛な声を出す母さんから感じるのは明らかに心配の感情…娘の友達の娘(しかも、血の繋がりは無い)でしか無い相手にそれこそ、血の繋がった家族に向けるのと同じくらいの"ソレ"を向けられる…それも私にさえ、分かるレベルで…これが出来ちゃうのがこの人の凄い所…当たり前って言う人は想像してみたら良い…多分、実際は精々可哀想ってなるか…単純に面倒臭い奴と関わったとしか思えない人が大半の筈だ…
だって…"皆とちょっと違ってるだけの人"に誰しもが純粋にそんな感情を向けられるなら、この世界はきっと…もっと平和になっている筈だからね…
『うん、残念ながら視力そのものに異常は出ちゃってるみたいだけど…それ以外は何の影響も無いみたい…』
『そう…じゃあ、あの子の"眼"は"単なる個性"と思って良いのね?』
『うん。ISさえ展開していれば…ちゃんとクロエは"見える"から…後は、普通に受け入れてあげて?』
ISを展開していても、さすがにその"眼"の見た目は変わらない…加えてどうしても、彼女は物を見る為に瞼を開ける必要が有る…
『そう、"分かったわ"。』
普通の人なら、どうしてもあの"眼"を見て不快に感じるか…可哀想とか思ってしまうのだろう(前者の存在を…私はどうしても、受け入れられる気がしない)でも、この人なら絶対大丈夫…だって、母さんは家族の誰とも違う私の髪色を受け入れてくれた人だから……あ、でも…最後に確認。
『母さん…素直な気持ちで答えて?クロエの"眼"を見て最初、どう思った?』
『そうねぇ…もしかして、何か病気じゃないかって…思っちゃったわ……私もまだまだね…』
実は母さんにはクロエの出自に付いて、詳しく話してない筈なんだよね…まぁ、言い方は悪いけどその上で見せられたのが"アレ"だと…この人の性格的に心配が先に来るのは仕方無い。
『じゃあ、問題がほぼ無いと分かった今ならどう?』
『そうねぇ…とても、綺麗だと思うわ。』
……今、初めて感性だけなら私と母さんは似てるんだなと…そう、思った。
『母さん…実は私、一回クロエにコスプレさせてみたいんだけど…どんな格好が似合うと思う?』
『…子供の頃の貴女にも着せた、ロリータファッションかしら?』
っ…さすがに当時の事を思い出して、寒気がした…いや、いくら子供の頃とは言え私には似合わないでしょあんなの(まぁ、黒い服だったからまだマシ)…ふぅ…ま、でも…いつの間にか母さんの力が緩んでるのに気付き、私は母さんから離れ、右手を差し出す…母さんもすぐ意図を察したらしく、握り返して来る。
『さすが…』
『当然、私は貴女の母親だもの。』
正直、私も一番クロエに似合うのはソレだと思ってた。
『何とかして…彼女に着せる方法…浮かぶ?』
『…う~ん…一回着てみてって言ってみるだけで良いんじゃないかしら?あの子、貴女の言う事なら聞く筈よ?』
『…んー…まだちょっと弱い気がする……束も巻き込んじゃわない?』
『…と言うか、私は束ちゃんにも着せてみたいんだけど。』
『…千冬の手も借りようか?束は警戒して、着てくれるか分からないし…』
『良いかもね…でも、束ちゃんならノリノリで着てくれそうな気もする…んー…どうせなら千冬ちゃんにも着せたくない?』
『っ…採用。』
一度母さんにサムズアップを向けてから、すぐに鼻を押さえた。いや、想像しただけで何か一気に血が上ったのが分かる…千冬のそんな格好…可愛過ぎてもう、色々駄目なんだけど…咄嗟に押さえたけど、今手を離したら鼻血出そう…
『…久しぶりに貴女も着ない『それは断固拒否……あ、どうせなら…母さん着てみない?』え…私?』
見た事は無いけど想像は着く……いや、この人…ある意味千冬も含めた四人の中で一番似合いそうだよね…実はこれだけ若々しい見た目で(多く見積もっても二十代後半くらいにしか見えない…)既に結構歳行ってたりするから魔女か何かかと思う…まぁ…"美魔女"って意味なら正しいかもね…
ちなみに父さんと出会った時は…父さん曰く、普通に見た目は高校生くらいの少女に見えたとか(まぁ、アジア系の人は元々童顔の人が多くて…実年齢より若く見えるとは良く言うけどねぇ…)ところで、その見た目の母さんに普通にアタックしたあの人の趣味については気にしない様にしてる…一応、今も母さんの事は愛してるみたいだし…尤も、実はあの時母さんは短大行った私と違って…普通に四年制大学卒業した後、そこから一年間独学で日本で更に色々勉強してから、フランス留学に行ったとの事で(定番のアメリカじゃなくて、何でいきなりフランス行ったのかは聞いてない…てか、普通留学って在学中に行くからそう言われるんだろうけど…本人は何故か、そこら辺は毎回濁すから私もスルーしてる)既に歳は二十三だったらしいからね…改めて考えると、この人やっぱりリアル魔女だったりしない?…さすがに有り得ない事の筈なんだけど…正直この人の場合、何か否定しきれないかも…
まぁ、そこからは兄さんを妊娠して産むまでに一年くらいとかって…確か、一般的には子供を妊娠して出産するまでに掛かるのは十月十日…つまり、十ヶ月と十日と言われてるけど…実際には九ヶ月と少々くらいらしいんだよね…そうなると、妊娠発覚して出産まで二人は遠距離恋愛とかって話だけど…計算上、留学中にもう兄さんが出来てたのかもね……うん、また思考が関係無い方に飛んだね…
『母さんもう歳だから『うん、それは言わせない』…え?』
「束、クロエ…母さんっておばさんに見える?」
「ふえ?何、急に…う~ん…でも、そうだなぁ…正直に言えば…見えないよね、全然…■ちゃんに■くん…二人も成人した子供居る様には思えないよ。」
「そうですね…私から見ても■▲様はとてもお若く見えます…」
「そう。じゃあ、二人とも…ちょっとこっち来て…」
二人がこっちにやって来る…えっと…携帯で……んー…あ、出た出た…
「母さんに一回コレ着せたいと思ってるんだけど…どう思う?」
携帯でネット検索…出て来た写真を二人に見せる…
「…おお!良いんじゃない!?」
「クロエはどう思う?」
「初めて見る系統の服なので、正直私には何とも…」
まぁ、それはそうだよね…ふぅ…でも、ここはこのまま畳み掛けるところだね。
「ほら母さん…束はこれでもセンスは確かなんだから、絶対似合うよ。」
「…そうかしら?」
「うん、大丈夫。」
……このまま押し切れば、私はこの服を着ないで済むからね…母さんに似合うと思ったのは事実だけど、正直…今回はその思惑も大きい…さて、一気に詰めて行こうかな。
「じゃ、ついでに二人にも着て貰うから。」
「…二人って…え!?束さんも!?」
「そうそう、クロエと一緒に…」
何気に満更でも無さそうな母さんが我に返る前に、どんどん話を進めてしまおう…取り敢えず、私が着ないで済んだら何でも良い…いや、いくら黒が好きでもこの歳でここまで少女趣味の服着るのは罰ゲームでしか無いから…束は寧ろ、普段からここまででは無くても…近い系統の服着てるから問題無いだろうけど…
『…どうしても着ないと駄目?』
束が小声で聞いて来る…あれ?嫌?
『道連れが居ないと母さん着ないから…てか、割といつも似た様なタイプの服着てるのに…嫌なの?』
『いや…コレはまた違うんだけど『実は千冬にも着せようと思ってるんだけど』…う~ん…』
うん、まぁ…悩むよね…実はこの場合、千冬に着せるのが一番の問題(やろうとしたら全力で逃げるのが想像付く…)…で、束も当然…着てる所を見たい筈。それに加えて、今回…実は束は手を貸すだけで自分は着なくても良いんだけど…このまま押し切れば、自分も着ないとこの催しに参加出来無いと思い込む…私は着なくて済むし、最早こう言う服がその為に作られたのかと思える程…とにかく、抜群に似合う面々が実際に着てる所を私は見れる、と。
何気に、束は私を休ませる為にプラン組んでくれたんだろうけど…もう既に予定は完全に崩れてるだろうし、そもそも私にとっては…こう言うのが一番の癒しだったり…あー…楽しみになって来た…ま、とは言え今はまだ皮算用…もう一人、この場に呼ばないといけない人間が居るし。
「…本当に着ないと駄目…?」
「うん、駄目……あ、千冬?今って忙しい?…そう、休憩中…うん、提案なんだけど…二、三日でも良いから…休みって取れない?」
出てくれるかなって思ってたけど…幸い心配は杞憂…千冬はすぐ、電話に出てくれた。
『…何だ、突然…まぁ、取れるか取れないかで言えば…別に取れなくも無いが…寧ろ、お前は忙しいんじゃないのか?』
「束のお陰で明日から二週間分お休み貰ってるの…で、ちょっと協力して欲しい事がね…うん、千冬にしか出来無い事……あ、そんなに気合い入れなくても良いよ?そんなに大した用事じゃないし…無理そうなら、断ってくれても良いし…」
そうそう、私の為に千冬が出来る事……まぁ、正直…"私の為"って時点で…既に、私らしくない。ただ…今回だけはワガママを言いたい…一回見たいって思ったら、止まらなくなっちゃった…やっぱり逃したくないよねぇ…千冬の可愛い所見れるタイミングなんて。でもま、それはあくまで私の都合でしか無いから…千冬が嫌なら、諦めるつもり…実際、この三人だけで十分と言えば十分だから…それ以上を強く求めるのはワガママが過ぎるとも思ってるし。
『…まぁ、休みは取れるし…お前から頼み事なんて珍しいしな…大丈夫だ…さすがに明日いきなりは無理だが、二週間の内…何処かで休みを取る。』
「ホント?ありがとう…うん、うん…分かった、じゃあね…」
電話を切る……まぁ、そりゃ…すぐには無理だよね…こうなると、この三人に先に着せてしまった方が良いかも…冷静になられると私が着なくても良い流れになってるの、気付かれかねない。
「…と言うわけで、千冬も来る事になったから…」
「こう言う時の行動力、ホント凄いよね…■ちゃん…」
「まぁね…さてと、取り敢えず…ご飯食べちゃおう…まぁ、もう冷めてるだろうけど…」
「あの…私、本当に着ないと駄目かしら…」
……え"照れてる?この人って照れる事有るんだ…まぁ、驚いたのは束の間…正直、改めて見ると…照れてるこの人普通に可愛い…いやぁ…持つべきものは美人の母親って感じがして来るね…ま、この人は正直何着せても大体似合うタイプの人だから(歳的に本来ならキツイコスプレ系もそこ気にしなければ見た目的に十分イける)あんまり選び甲斐は無いんだけど…それでも見れるだけで、十分楽しいよね(普段忙しい人だから、中々こんな機会無いし…)
「ここまで来たらそこは着て貰わないと…ほら、束とクロエも着るし…千冬も私が何とか説得するし…」
「えっと…結局私も着ないと…?」
「大丈夫!似合うから!」
クロエは押しに弱そうだから問題無し…束と母さんもこの流れで嫌とは言い難いだろうし、後は千冬だね…ま、そこは追々考えようか……あー…楽しみ。
……ちなみに、結局千冬が休みが取れたのが私の休みの最終日近くなってからの上…且つ、そこで時間を開けた所為なのか(千冬の休みのタイミングが、もう少し早かったらなぁ…)母さんが後になってから私の思惑に気付いてしまい…結局、私も着る羽目になるのは余談だったり…う~ん…こうも簡単に、因果って回って来るものなのか…私、悪巧みって向いてないタイプかも知れないね…