「っ…」
「おっと…すまん、痛かったか?」
「…いや、大丈夫だけど…一つ、聞いても良い…?」
「ん?何だ?」
「…千冬はさ…何で、そんなに私の胸ばかり弄るのかな?私の反応はともかく…こんな小さい胸、いつまでも触ってたら…さすがに飽き「それは無いな」て…え?」
「私は…お前の胸に触れたり…その、吸ってると不思議と落ち着くんだ…何故かは、私にもハッキリ説明出来無いがな…」
千冬は…私に一体、誰の姿を見てるのかな…ま、その辺は…結局私が気にする事じゃ無いけどね…
「そう…なら、千冬のしたい様にすれば良いよ。」
「ん?」
「私に変に気を使わなくって良いって言ってるの…最近、千冬は私に負担掛けない様にしてくれるけど…やっぱり、物足りないでしょ?」
最近の千冬は何するにしても、付き合い当初からは考えられない程優しい…いや、態度は付き合う前…出会った頃から基本はそうだけど…その、シてる最中は…胸だけにしても、揉む力がとにかく強過ぎるのか…指の形の跡がしばらくアザみたいに残ってたり、吸うにしても…終いに噛み付いて来るから、キスマークだけならまだしも…大抵は歯型が生々しく残ってるレベルで…まぁ、とにかく痛かったのだ…ただ、私も痛いのが好きって訳では決して無いけど…それでも、悪い気はしてなかった…だってそれは…それだけ、千冬が私を欲してくれてる証…終わった後に残るその痕跡自体は、一種のマーキングみたいな物と私も思ってたし(噛まれた後とか、たまに出血してて…こっちで色々後処理もしないといけないのにはさすがに困ったけど…終わって、寝落ちした千冬を起こす訳にもいけないし)
ただ、最近はそれが嘘の様に無く…寧ろ、私は逆に落ち着かない気分だった…だって、千冬が本当にそれで満たされてるのか分からなかったし…まぁ、優しくしてくれるのはそれはそれで悪い気はしないんだけど…
「…そう言ってくれるのは、私もありがたいがな…今回は、断る事にしよう。」
「?…何で?別に、我慢しなくて良いんだよ?」
「私としては…お前を壊してしまうのは本意では無い、と言う事だ…末永く、一緒に居たいんでな。」
「ハァ…私は…千冬になら、それも別に構わないのに…」
「私がそれを嫌だと言ってるだけだ…と言うか、何度も言ってるがな…」
「何?…っ…」
千冬の手が胸から移動し、脇の下に手を入れられて持ち上げられ…千冬の膝の上から下ろされる(私も体重軽い方では無いと思うんだけど…何でそう、涼しい顔で出来るかな…)そして千冬の横に座らされ、千冬と向き合う形になる…
「嫌なら嫌と言え…何度も言ってる筈だ…私も毎回、抑えられる訳じゃないんだぞ?」
…そう言われてもねぇ…
「ふぅ…私も何度も言ってる筈だよ。基本、私は千冬に求められる事が…とにかく嬉しいの…例えそれが、どんな内容でもね…だから、私は断らないよ…大体、嫌って言ってる時もちゃんと有る筈だけど?」
「以前も聞いた筈だが…私が死ねと言えば死ぬのか?」
「それが千冬の望みなら、ね…出来れば、千冬の手で殺して貰えたら嬉しいかな…自殺しろって言うなら…それも聞くけど。」
「…私と別れろ…もし、そう言ったら?」
「その願いはさすがに聞くのは苦しいけど…でも、千冬が望むなら仕方無いかな…」
他に好きな人が出来た…そう言う話なら、私は…身を引くしかないだろうね…幸せな夢が終わった…結局ただ、それだけの話。
「…引き留めよう…そんな風には思わないのか?」
「私にそんな権利は無いでしょ…私は、千冬の重荷にはなりたくないし。」
「…ハァ…仮に本当に別れたとしても、親友として…お前から目を離せなくなりそうだな…」
「そこは…私じゃなくて、他に見るべき人が居るでしょ?」
「ん?」
「責任感の強い千冬が別れたいと言う時は…必然的に、私より好きな人が出来たって事…そっちを優先しなよ。まぁ、家族の一夏君でも良いけどさ…」
「…ハァ…安心しろ、今のはあくまで例え話だ…私は、お前と別れる気は無いからな。」
「そこは…現状とか、今はとか…付けなよ。」
「……お前は別れたいのか?」
「まさか。でも、これから先…千冬の方はどうなるか、分からないでしょ?」
私は未来に何が有ろうと…貴女以外を恋愛対象に見る事は絶対に無い…でも、千冬は違う。
「私が邪魔になったら、いつでも言ってね?私は、大丈夫だか「ふざけるな!」っ…千冬?」
いきなり千冬に抱き着かれて困惑す…え?身体が震えて…嗚咽が聞こえて来る…嘘、千冬…泣いてるの…?
「その、ごめん…何か私、貴女を悲しませる様な事言った…?」
私は人の感情が理解出来無い…それでも、千冬とは何とか寄り添えてるつもりだった…でも、そうでも無かったみたい…
「いい加減理解しろ…!私の方が、もうお前と離れたくないんだ…!」
そっか…う~ん…でもね…私は千冬の背中に手を回す……この状況でも、千冬の腕にほとんど力が入ってない…まだ私に気を使ってるんだね…嬉しくも有るけど…少し寂しくも有るかな(ま、仮に…千冬に本気で抱き締められたら…その瞬間に、私は死ぬんだろうけどさ)
「うん、そう言ってくれるのは…私も嬉しいよ。でも…以前も言ったと思うけど…結局未来は誰にも分からないよ…私は、千冬の事を縛っていたくないの。だから…私からは何も求めない。決めるのは全部千冬で良いよ…私の事が飽きたり、邪魔になったら捨てる…それだけ、約束して欲しいな?」
「っ!嫌だ!」
「えー…何で?」
「何でも何も有るか!嫌なものは嫌だ!」
いや、理由……あー…取り敢えず落ち着かせるのが先かなぁ…このままいつものトーンで私が話しても、ずっとこのままになりそう…
「ほら、泣かないで。」
「泣かせてるのはお前だ!この大馬鹿者!」
いや、そんな事言われても…ホント、何で私…こんなに千冬に執着されてるんだろう…私の気持ちは重いって思ってたから、中々こっちは告白も出来無かったのに…いざ蓋を開けてみたら…千冬の方が明らかに激重と思う瞬間の方が多かったんだよね…まぁ、正直…私も嫌ではないんだけど。
「どうしたら泣き止んでくれる?」
「私から離れないと約束しろ!」
「…ごめん…無理。その約束だけは、絶対に出来無い。」
「何故だ!?」
「だから…未来なんて結局誰にも分からないもの…私から離れるつもりは無いけど…千冬は、心変わりするかも知れないでしょ?」
そもそも、私も…一体いつまで、今のキャラが保っていられるのか…それすらも分からないし…
「それは無いと言っているだろう!?」
「…ふぅ…例えば、十年後も私の事を好きでいられる自信…有る?」
「有る!」
「いや、それはさ…結局今だから言える話でしょ?」
まぁ、さすがに私も今は…酷い事言ってる自覚は有るけどね…ただ、未だに理解出来て無い私でも…結局それが人の感情と言うものだと私は思ってる…日本にはいくつか、言われる言葉が有るけど…有為転変、消息盈虚仏教用語になるけど、空識是空や諸行無常何かも該当するかな…これらの言葉で共通する事は何かと言えば、結局…万物は移ろいやすいと言う事だ…人の感情にも、それが該当してしまう…仮に人の心が不変だと言うなら、世の中に居るカップルや夫婦は永遠に別れないって話になるからね……ま、そんな事は現状無いんだけど…この世の中…出会い、付き合い…結婚してそのまま生涯一緒って例より、結局は別れる例の方がずっと多い筈だしね…
……言ってしまえば私は…結局、千冬の事を信じられて無いのかも知れない。…いや、そうじゃないか…本当の問題は別に有る…
「ごめん…千冬のその言葉、信じたいって言うか…そもそも、信じても良いんだけどね…その、私は…"私自身"の事を一番信じられないんだよね…」
「?…何を言ってる…?」
「私は千冬の事を愛してる…それは、これから先も変わらないと思う…でもね、私の方が…これから先の未来でも"千冬が愛してくれた私"でいられる自信が無いの。」
そう、それが最大の問題…私がいつまで…"今の自分"を保っていられるか、それが…分からない。
「…ハァ…お前な?私が、本来のお前がどんな奴でも捨てると思ってるのか?」
「ふぅ…千冬の方がどうとかじゃなくてさ…結局、いざって時は…私が捨てて欲しいの。」
私の場合…結局、本性は腹黒いとかそんな程度じゃないからね…無感情、無関心…凡そ、人の持ちうる感情のほとんどが欠けていて…他人の感情は自分の事以上に理解出来ず、ほぼ最低限の自我だけが残る怪物…今の私を形作る虚飾を取り払ったら、残るのはそんな私だけ…そして…千冬に出会ってから、今この瞬間まで続けてる"演じる"と言う事…その間、今も時折聞こえる耳障りな軋み音…もう慣れた気ではいたんだけど…ここ最近の私は…今、自分が何をしているのか分からなくなる事が多々有る…
少しずつ…"自分"が磨り減っている…限界が、だんだん近付いて来てる…このままだと何れ…私が、私じゃなくなるのが分かるのだ…その時が来た時、"私"がどうなっているか…私にも分からない…それでもハッキリしてるのは"終わった私"を見せてしまえば千冬を酷く傷付けてしまうと言う事…それだけは今の私にも分かるから…
「ハァ…私は、お前を捨てないさ…絶対にな。」
「ま、今はそれでも良いよ。」
"その時"が来てしまえば、間違い無く…捨てたくなるだろうからね…だから、今はそれで良い。
「束ちゃん♡」
「ぎゃあ!?やめてぇ!?」
「ほら、クロエ…こっち来て…クロエはやられたくないでしょ?」
現在、身体も洗って…四人で湯に浸かってる所…で、束がさっきの私と同じ目に遭わされてたり…ハァ…ホントにあの人は…クロエの前ではやめてって言ったのに…
「その…束様が…」
「うん、ああ言う風に…娘が受けるだろう苦難を代わりに受けてあげるのも…多分、母親の役目だろうし「■ちゃん助けて!」…ふぅ…そろそろ上がろうか。」
「しかし…」
「大丈夫…アレは、あくまで親子のスキンシップ…束だって…そもそも、本気で嫌がってないから。」
と言うか、束になら…母さんを排除するのは簡単な事の筈なのだ…それでもやらないのは、それは…結局束が母さんを大好きで有ると言う事。ま、だから…やられてる方が本気で嫌がってないなら、それはセクハラにはならず…二人の関係が、例え血の繋がりは無くても…疑似的には親子と言える状態になってる以上…あくまでも"アレ"は"親子のスキンシップ"なのだ(仮に、実年齢はともかく…母親が二十代後半にしか見えない見た目で、娘が既に成人してる上…スタイルが抜群なせいで絵面が凄まじい事になっててもそうなる)
「ま、あの二人はしばらく放っておけば良いから「ぎょえ~!?」「フフフ…本当に可愛い」…さっ、行こっか…クロエ。」
「えっと…はい…」
戸惑いつつも、私に促される形でクロエも一緒にお風呂場を出る……さっき、地味にニヤニヤしてるだけだった束の姿を…私は、忘れてはいない。うん、そんなに楽しい光景だったって言うんなら…貴女も一回体験してみると良いよ(母さんに抱き着かれてるだけで、顔真っ赤にして…涙目だった貴女が耐えられるわけ無いけどね)今は、戸惑いの方が大きそうだけど…終いに泣くでしょ、絶対……まぁ、母親が泣かされる所を今のクロエに見せるのはちょっとって感じだし…このまま束を見捨てるのも仕方無いって事で。
「ちょ!?■ちゃん!?見捨てないでぇ!?」
「頑張って束!」
私の出来る渾身の笑顔でサムズアップ…もう片方の手でお風呂場に続くドアを閉める……ふぅ…
「…そう言えば、母さんが買って来た物の中にアイスが有ったね…一緒に食べようか?」
「本当に良いんでしょうか…」
「ま、別に怪我したり…何なら、死ぬ訳じゃないからね…」
何気に、母さんはあの束を完全に抑え込んでいた…千冬程じゃないかも知れないけど…それでも、束だってそれなりの腕力の持ち主の筈なんだけどね(間違い無く、その辺の成人女性より遥かに上)ま、母さんは昔から暴れる束を涼しい顔で制圧出来ちゃう人だったし…当然と言えば当然かなぁ…一応今なら、私でもある程度出来無くは無いけど…実際仮に…本当に本気の束と敵対するってなったら…それでもそれなりに大きな怪我は覚悟しないとならないけどね…ま、やるとしたら最悪命懸けにもなる千冬よりはマシ…基本、千冬相手なら敵対と言う選択肢自体…選ばないけどね、私は。千冬が殺してくれるなら、私にはそもそも抵抗する理由すら無いし。
……そんな事をつらつら考えながらも身体を拭き、髪の水気を吸わせる為に頭にタオルを巻く……あ。
「クロエ、髪乾かしてあげる…」
銭湯風、と言う事も有り…置いてあるドライヤーを手に取る…
「その…自分で出来るのですが…」
「良いから。やってあげる…」
……ま、そうは言ったものの…少し、緊張するのは確か…千冬や束に一夏君…後は、箒や鈴にもやってるかな…経験は一応有るけど…やっぱり、人にやるってなると…つい、私は身構えてしまう…自分の髪と違って、適当にやるわけには行かないしね…まぁ、そもそも…自分のだからって…適当にやってるとバレたら、怒る人が今日は居るんだけどさ…ちなみにドライヤー使うのも、タオルで水分取らせるのもそれぞれ…メリット、デメリットは有ったり(両方やる必要は無いかな…)ドライヤーの場合、どうしても髪が傷む事が有るし…タオルで水分吸わせるだけだと完全には水気が取れない上、湿気に晒された状態でパックしてる様な状態になる為か…後でごわついたりもする…朝とか私は良く、凄い事になってるし…直すのも結構大変なんだよね…(やっぱりそろそろ髪切ろうかな…洗うのも最近ちょっと、面倒になって来た…)
ま、それでもドライヤー使う方が…結果的には水分吸わせるだけより遥かに良いのも確か…温風では無く、冷風使えば乾くのは時間と手間も掛かるけど…髪へのダメージも少なくなるし。
「さっ、そこ座って?」
「…分かりました…お願いします。」
椅子に座ったクロエの髪に、ドライヤーを近付け過ぎない様に気を付けながら冷風を当てて行く…クロエの髪も結構長いからね…やり甲斐が有るよ(やっぱり私、人にやってあげる方が好きみたい…)
「ハァ…ハァ…酷い目に遭った…」
「ん?…束、おかえり。」
既にお風呂場を出て、クロエと二人でアイスを食べていたところで予想通り泣いたのか、目を赤くした束が漸く戻って来る…あー…よっぽど母さんから逃げるのに必死だったのかな、髪が滅茶苦茶…どう見てもまだちょっと濡れてるし…身体拭いて、服着るだけで精一杯だったみたいだね…
「もう!束さんを見捨てて逃げるなんて酷いよ■ちゃん「ほら束…あ~ん…」ふえ?…あ~ん…美味しい!…じゃなくてさ!」
木製スプーンで掬ったバニラアイスを束の口に運ぶ……これで誤魔化されてくれないかと思ったけど、そうも行かないみたい…
「束様…申し訳有りません…」
「あ、クロエは謝らなくても良いよ…私が良いって言っただけなんだから……ふぅ…束、さっきの私の気持ち…少しは分かった?」
「う…それは…ハァ…分かったよ…ごめんね、■ちゃん…」
「うん、私からもごめんね……さてと…束もアイス食べる?」
「うん!食べさせて!」
「…いや、束の分出すし…自分で食べたら良いじゃん。」
「束さんは、今■ちゃんが食べてるやつが良いの!」
……。
「じゃあコレあげるよ「じゃなくて!」ん?」
「あー…」
自分から口開けて雛鳥みたいに待ってる…いや、最初に食べさせた私が悪いのかも知れないけど…娘の前でそれやっちゃ駄目でしょ…ハァ…しょうがないなぁ…
「はい。」
「!…美味しい!」
「そう…」
さっきからかなり大袈裟に喜んでるなぁ…別に、何処にでも売ってる様なアイスなんだけど…
「あー…」
口開け再開……ふぅ…ま、良いか。
……結局、そんな感じで…残ってるアイスを束に全部食べられてしまったり…まぁ、これくらい別に良いんだけどさ…今回の場合、私が買った訳でも無いしね…唯一の疑問は、私の食べてたやつを…何故か、そのまま食べたいと要求された事だったり(既に半分くらい食べた後だったんだけど…)まぁ、本人は何か満足そうだし…機嫌が直ったなら良いけど。
ちなみに、その後…一人で戻って来た母さんに髪の状態を見られて…乾かす為にお風呂場まで連行される束の姿を見る事になったのは余談だったり(まぁ、今度はセクハラされないだろうし…良いでしょ)