「んん……あ、また来てる…」
「すー…すー…」
何となく身体に違和感を感じつつ、目を覚ます…掛けていた毛布を捲ると…真っ暗な部屋の中でも、割と目立つピンク色の髪が私の胸の上に有るのが見えた…
「ホント、千冬も母さんも…そして、貴女も…私の胸が好きだねぇ…」
千冬が何度も言うからちゃんと測ったら…学生時代に比べて確かに少し大きくなっていた私の胸(一応、誤差レベルでは無くちゃんと数値は上がってた…)ま、それは良いんだけど…
「地味に私と千冬の学生時代のスリーサイズを小数点クラスまで、完璧に覚えてたよね…もしかして、束もそう言う感じなのかな…」
劇的に変わってたとかじゃないし…そもそも普段測ってないから、大きくなったか分からないって千冬に言ったら…どうせ束は分かるから電話しろって…実際聞いてみたら、その場で千冬と私のサイズを纏めて言われて困惑…ま、正直私としては…束は元々そう言う趣味なんだろうなと思ってる(怪しい感じは昔から有るし)…尤も、それに関して気持ち悪いとか思う資格は結局私もそうなんだから無いし…そもそも思う事は無いだろうけど。ただ、私と束が出会ったのは小学校の途中から…小学校六年分はまだしも、私の幼稚園時代の身体データーとかも丸っきり把握してるのはさすがに少し引いた…後で私の部屋の中色々探し回って調べたら、ちゃんと合ってたし……ふぅ…ま、今までのは結局余談…一番思うのは…
「貴女の事も…私は好きだからね。」
私は彼女の事を恋愛対象としては見ていない…それでも、千冬とほとんど変わらないレベルで彼女の事も…大事な存在だ…割と、一人だと気質的にネガティブ思考に陥りやすい私の所に計ったようなタイミング(いやまぁ、実際…彼女は"見て"いてくれてるんだろうけど)で私の所に突撃して来る彼女に関して、多少疲れる事は有っても…鬱陶しい、みたいに思った事は一度も無い。
「貴女の明るさに、いつも…助けられてるんだよ私は…」
束の頭を撫でる……あ、髪がまたごわついてる…束も私と同じで、自分に無頓着だよね…母さんのお陰か、生活状況そのものはだいぶ改善されたみたいだけど…自分自身の事は未だに、雑になるみたい…
「普段は基本的に親友だって言ってるけど…私は、本当は貴女の事を家族だと思ってるんだよ?」
学生時代は普通に同じ屋根の下、寝泊まりしている事も多かったしね…うん、実質…姉妹みたいなものでは有るんだよね…ま、どっちが姉とかは…特に考えてないけど…だって、私はあくまで束とは対等でいたいから…ま、そうは言っても…付き合いの長さ的にはやっぱり家族は家族…ただ、それでも束との関係性そのものは今のまま…親友の方が良いとも思ってる(束にそう深刻に捉えて欲しい訳でも無いし)…ふぅ…結局の所、私的にも色々複雑で…上手く説明出来無いけど、要は…
「ま、だからさ…好きな時に来たら良いよ…ただ、出来れば起きてる時に来て欲しいかな?」
最近は束も色々忙しいのか、来るのは私が寝てる時ばかり…千冬と二人きりの時に来られると…千冬は独占欲強いから何か色々揉めそうだし、束もその辺は分かってるのか…千冬と一緒に居る日は来ないけど…それでも、たまには千冬が来てない日の日中とかに来て欲しいもの…最近はホント暇だしね、私…千冬は千冬で、最近は忙しくて来れる頻度減って来てるし…ふぅ…だから、こうして時折束が来るのは嬉しくも有るけど…会うのは夜中に起きた時だけっていうのは…少し、寂しくも思うのだ…
「と言うか、何なら起こしてくれても良いんだけどね…っ…ん?」
今、束の頭が動いた……実は起きてたりする?
「…束?」
「すー…すー…」
呼吸は深め…まぁ、寝たフリじゃなさそう…たまたまかな。と言うか、私の胸がそんなに好きなのか知らないけど…ちょっと、頭の向きは変えて欲しいかな…うつ伏せだとちゃんと呼吸出来てるのか心配になるし(一応寝息は聞こえてるけど)何より、シャツ越しでも息が当たると…ちょっと、くすぐったいんだよね…
「ごめんね?…ちょっと動かすよ……ん、これで良いかな。」
束の向きを身体ごと変える…ちなみに、私の感覚だと束って割と軽いから…特別乗られていて重いとは思わない……いや、ホントに軽いね…ちゃんとご飯食べてるのかな…またニンジン齧って済ませてるとか言わないよね…?今はクロエもだいぶ料理出来る様になってるし、きちんと食べてると思いたい…何気に束も徐々にだけど上達して来てるって、母さんやクロエから聞いてるけど…ま、束も自分の為には作らないタイプだろうしね…とは言え初めの内は、自分が作ったものを自分で食べて…今の自分の腕を自分で計るとかしないと中々上達しないんだけどね…ま、正直言っても無駄そうだし(食べられるレベルにはなって来てるみたいだから…後はクロエが判断出来るでしょ)
「ふわぁ……また眠くなって来た…おやすみ、束……たまには、おはようくらいは言わせてね…?」
束の肩より少し下、背中の方に手を置き…目を閉じる…千冬も来れないし、今回はこのまま居てくれたら嬉しいかな…
「…ハァ…ズルいよ、■ちゃん…」
"私"は目を開ける…バレなくて良かった…■ちゃん鋭いし、さっきのは…本当に気付かれたかと思っちゃったよ…
「いつも…迷惑掛けてるって、思ってたんだけど…」
どうしても寂しくて…こうして毎回の様に■ちゃんの所に来てて…負担を掛けない様に、いつも朝には帰ってたのに…
「寂しいなら、言ってくれたら良かったのに…」
不思議と昔から…私は、■ちゃんの考える事は何となく分かっちゃう事が多い…今なら、"同類"だからだと分かるんだけどね…でも、大人になってからの■ちゃんは本音を隠そうとしてて…私も、分からない事が何度か有った…
「私だって、■ちゃんの事は…家族だって、思ってるよ。」
最初は…ちーちゃんに集る有象無象の類だと思ってた…でも、途中から…
「ちーちゃんのついでだから一緒に居たんじゃない…私は、■ちゃんの事がね…」
途中から…ちーちゃんを通してじゃなくて、■ちゃん個人が気になってた…いつも、突拍子も無い行動をしちゃう私を笑って見守ってくれる■ちゃん…私は…
「好きだよ…■ちゃん。」
ま、今は以前の■ちゃんの気持ちが分かっちゃうなぁ…自覚したのは、本当に後になってからだけどね…
「もし、束さんがもっと早く気付いて…告白したら…一緒に居てくれたのかな…」
仮定の話を考えるのは嫌いじゃない…それでも、この事に関しては…シミュレーションするのが怖い…
「本当は、分かってるんだけどね…」
初めて会ったその日から…多分、■ちゃんはもう…ちーちゃんに惹かれてた…だから、気持ちを自覚して…すぐに分かった…私じゃ、絶対二人の間に入り込めないって…それでも、その時はまだ…■ちゃんがちーちゃんの気持ちを確かめてる様子は無かったし…私でもワンチャン行けるかも、何て…
「…ハァ…うん、無理だよね…それも分かってるんだぁ…」
■ちゃんはちーちゃんを好きになった時から、ちーちゃん以外をそう言う対象として見る気が無かったんだって…そもそも、出会いからして…私は無理だった…多分、いじめられてる■ちゃんを見掛けても…私は助けなかっただろうし…
「ちーちゃんが■ちゃんをフッてくれたら…何て、本当は…それも分かってたんだけどね…」
確かに私は…他人の感情は理解出来無い…でも、ちーちゃんと■ちゃんの事は全部じゃないだろうけど…分かるから…それに、結局…
「私はさ…結局、ちーちゃんに尽くす■ちゃんが一番好きなんだろうしね…だから、私はずっと応援してるからね。」
本来、二人の邪魔しない様に身を引くのが正解なんだろうね…でも、■ちゃんの方が私を求めてくれてるのも…今回分かったしね…でも、ごめんね…
「今日はそろそろ帰るよ…クーちゃんの事も心配だし…また今度…ちーちゃんの居ない時に二人で遊びに行くから…」
■ちゃんの手を退けて、私は起き上がり…ベッドから降りる…毛布を■ちゃんの身体にしっかり掛け直した。
「…またね、■ちゃん。」
ドアを開け、私はそっと…部屋を出た。
トイレに向かう間、特に会話は無く…いやまぁ、そもそも昔から束って…実は私と二人きりの時って意外と、何も喋らない事が多々有るんだよね(学生時代なんかは、精神状態がそれなりに荒れてたせいも有るだろうけどね…)
なので、特別そこについて私も何も思う事は無い(束は嫌なら『どっか行って』と、言えるタイプだからねぇ…)
無言のまま、二人で個室に入り…用を足す……いや、同時に出るのはさすがに可笑しく無い?…まぁ、その辺別に聞くつもりも無いけどさ…
これまた無言のまま…喫煙所へ…部屋に置かれた半透明のボックスの中に入り…中の椅子に座り、持って来たタバコとライターを取り出す…タバコを咥えて点火……ふぅ…
「■ちゃん…」
「…ん?何?」
「…言っておくけど一度に吸うのは三本までね?それ以上吸うと警報鳴る様にしたから…その後は、一時間鳴りっぱなしになる様にしてるからね。」
「うわ…」
うん、完全に私対策…確かに最近も本数増えて来てるしなぁ…
「…母さん起きて来ちゃうね、分かったよ……束?」
「何?」
「…心配してくれてありがとう。」
「…分かってるなら…普段からせめて、もう少し吸う本数減らして…病気になっちゃうよ?」
「分かってるよ…」
一応、ね…何だかんだ、千冬と二人きりでも吸いたくなるし…一人だと、もっとガッツリ吸っちゃうし…何とか抑えたいとは思ってるんだけど…千冬が来る頻度、もう少し増やしてくれたら…そう考えるのはさすがに、ワガママかな…結局、こう言うのは自分の努力の問題だろうしね…
「…ふぅ…で、束?…何か、話が有ったんじゃないの?」
「…ううん…特に無いよ…でも、強いて言うなら…」
「?…言うなら?」
「ただ…私が■ちゃんと一緒に居たかっただけ。」
「そう…」
そう言うの…普段からもっと言ってくれて良いんだけどね…夜中にこっそり私のベッドに入って来るくらいならさ…まぁ、私の場合どうしても…千冬が最優先になっちゃうけどさ…それでもこっちも何とか、予定調整するし…
「…う~ん…でも…」
「?…でも…」
「今日みたいなの、昔みたいで懐かしいなって…」
脈絡は無いけど…何となく、束が何を言いたいか分かった。
「ふぅ…んー…学生時代の話?」
「そう。私、良くそっちに泊まりに行ってたでしょ?」
「…泊まるって言うか、ほとんど一緒に住んでたじゃん。」
束は私物、ウチに持ち込んでたしね…普通に、一ヶ月くらいはそのまま私の家から高校行ってるパターンも少なくなかった…で、大体その後は束は一度帰る…一応箒の事は気になってたみたいだしね…でも、大抵は三日と経たずにウチに戻って来る…まぁ、言ってしまえば当時ウチは普通に束の家から徒歩十分と掛からない程度だし…プチ家出みたいなものかな(実際は普通にウチで生活してた訳だし、第二の自宅と言うか…最早、実家と言っても良いかも知れない)
「…そう言えば今更だけど、迷惑だったりしなかった…?」
「…ハァ…本当に今更だね…アレで、嫌なら嫌ってちゃんと言うから、ウチの家族はさ…もちろん、私もね…」
「そっか…」
ちなみに私の家族にとっては…大人しい私とは対照的な、やんちゃな娘(妹)が出来たみたいな感じだったみたい…ま、毎回色々振り回されるし…疲れたとも、思ってる私とは違い…要するに、"一緒に居て楽しい"以外の感情は特に無かったみたい…そもそも、母さん何か特に…そこで文句言う訳無いんだけど(良くも悪くも博愛主義)何より、いつも満面の笑顔浮かべて懐いてくれる子を…あの人たちが嫌う訳無いだろうね(ま、当時の私は唯一…束が兄さんと仲が良い事だけはあんまり理解出来無かったけどね…)
「ふぅ…当時皆、束の事が大好きだったみたいだよ…ま、もちろん今もだろうけど…束は、違うの?」
「!…そっ、そんな事無いよ!束さんだってそりゃ…!」
「…うん、母さんなんて…昔みたいに、そうやって素直に言ってくれた方が嬉しいと思うよ?」
何気に束は…大人になってからは、アレで色々抑えてる方なの…私は、気付いてる。
「そうかな…」
「…ふぅ…貴女はもう…"母親"になった…でも、母親になったからって…自分は"母親"に甘えたら駄目とか…別にそんな事は無いんだよ?」
「でも…」
「甘え方…そして、愛し方…それがろくに分からない人が、そもそも親って出来ると思う?…一度気を抜いてみるのも必要だと、私は思うよ?」
千冬に一夏君…そして何より、娘で有るクロエには負担は掛けたくない…それでも愛情に飢えた状態のままで、誰かを愛するなんて出来無い…私にも、それは分かる…束は特にそうなんだから、享受出来る時に享受しておいた方が良いのだ…相手は母さんでも良いし、人選ミスだとは思うけど…まぁ、私でも良い…極端な話、兄さんだって良い(何だかんだあの人…こっちが弱音吐いたら、すぐにでも予定空けて来そうだね…)父さんは……まぁ、束がそうしたいなら良いんじゃないかな…(正直、来てくれても…基本は置物化するだけの様な気がする…)
「…甘える相手は…■ちゃんでも良いの?」
「…ふぅ…もう良いって……あ、言ってないのか…ま、それこそ…今更じゃない?」
普段から私の家に勝手に来てるじゃない……ま、もう長い付き合いだし…今なんて特に色々大変なのも、ある程度は分かってるしさ…寄り掛かりたいって言うなら、別に肩くらいならいくらでも貸してあげる……ま、何なら胸でも良いけどさ…(本当に癒されてるのかは知らないけど)
「…あ、コレ四本目か…」
火を着けようとした所で気付く…危ない危ない…
「…改めて言うけど…ソレ、もし火を着けてたら…本当に警報鳴ってたよ。」
「ふぅ…ま、仕方無いか…」
家主の方針なら、泊めて貰ってる身の私は反抗する訳には行かないね(元々、そんな気は無いけど)
「んー…そろそろ、部屋に戻ろうか?」
「うん…■ちゃん?」
「ん?何?」
「…大好き!」
「…フフッ…私も、束が大好きだよ。」
ま、もちろん家族としてね…束も、そんなつもりで言ってないと思うし…そこからは、また特に会話も無く部屋に戻る……いや、また私が真ん中?…ふぅ…ま、別に良いけどさ…