「…え?」
親友にして、最愛の人が亡くなり…そして、残されてしまった彼女の弟…この世で文字通り一人ぼっちと言える状態になった彼に…私がそう声を掛けたのは最早、必然だったと言える…
「…■■さん、本当に良いんですか…?」
「良いも何も私は…結構前から君の事を家族だって、そう思ってるよ…君は違うの?」
「俺は…」
「もちろん、無理強いする気は無いよ?でも…千冬から親戚の話については私も聞いた事無いし…君も、実際会った事とか無いでしょ?」
「はい…」
「もう千冬が亡くなった事は新聞に載せた…でも、今日に至るまで親類らしき人からの連絡は無い…このままだと、君は施設に行くしか無くなる…だから、どうかなって…」
「……」
「もちろん、私じゃなくても良い…兄さんも君を引き取っても良いって言ってるし…何なら、ウチの両親も…まぁ、ウチの両親の所って言うと君は向こうに住む事になっちゃうけどね…でも、経済的には私と兄さんより安心だろうね…」
「……」
「あ、ごめんね…無理強いしないとか言ったのに…返事は急がなくても良いから…けど、出来れば早めにお願いしたいかな…」
彼にとって最愛の姉が亡くなってからまだ一ヶ月程度しか経ってない…私や兄さん、それにウチの両親もこうやって交代で一人きりになった彼の様子を見に来てるけど…それでもずっと…このままって訳には行かない…彼には酷な話だとは思うけど…
「…ごめん、そろそろ帰るね…今日はこの後兄さんが来る事になってるから…」
「あ、はい…その…いつもすみません…」
「…一夏君、こう言う時は謝罪じゃなくて…ありがとうで良いんだよ。」
「…はい、ありがとうございます。」
「…じゃ、また来るね。」
「…一夏君、本当にそれで良いんだね?」
「はい…俺は、■■さんの所が良いです…」
「…そっか、ありがとう…」
「ありがとう…?お世話になるのは、俺ですよ…?」
「…私としてはさ、ありがとうなの…その、実は私も寂しかったからさ…」
「■■さん…」
「あ、違うよ?君を千冬と同一視してるとかじゃないから…君は、君だよ。私の親友の弟で、私にとっても弟みたいな…そんな存在。」
「はい…」
「さて、と…じゃあ、取り敢えず引っ越しの準備だね…」
「あ、はい…荷造りするんで手伝って貰えると…」
「ん?ああ、言ってなかったね…引っ越すのは私だよ。」
「え?」
「君、いくら近くだからって思い出の有るこの家から離れたくないでしょ?私がこっちに引っ越すから…織斑家に。」
「…いや、でも…」
「気にしないで。私が居るのはアパートだから、荷造り終わらせて…手続きすれば出られるよ…まぁ、完全に契約切れるまで間が出来ちゃうけど生活拠点は先にこっちにしちゃうから…そんなに君を待たせる事は無いよ。」
「そんな…■■さんだって自分の家に「無いね」…え?」
「私にとってあの部屋は…千冬が来てくれて初めて思い入れの出て来る場所でしかないから…居ないなら、愛着なんて無い。それなら、私も千冬の存在のカケラが残るここが良い……駄目かな…?どうしても嫌なら、君が私の部屋に来てくれても良いけど…」
「…いえ、そう言う事なら…分かりました。」
「うん、ここに住まわせて貰うね…と言うか一夏君、一つ良い?」
「何ですか?」
「…今更、私に気を使わなくて良いよ。家族になるんだよ?前までみたいにタメ口で良いよ。」
「…分かった、これから宜しくな。」
「うん…じゃ、明日にはここに越して来るから宜しくね?」
「分か…え…?…今週とかじゃなくて…明日!?」
一夏君の反応を見て、私は笑ってしまう…今結構悪い笑いしてるんだろうな…私。
「実はもうほとんど荷造り終わってるんだよね。手続きはさすがにまだだけど…」
「…じゃあ…初めからここに来るつもりで…?」
「そうだよ。」
「…いや、俺がそっちに行きたいって行ったらどうする気だったんだよ…?」
「って、言われてもねぇ…家具とかはほとんど最初から有った物しか私は使ってないし…後から買った物も大体売りに出したし…まぁ、その時は取り敢えず服とかの荷解きして…足りなくなった物は買い直すだけだね♪」
「いや、思い切り良過ぎだろ!?マジでそうなってたらどうする気だったんだよ!?」
笑いが止まらない…そりゃ思い切るよ、"君の為"だもの。
「君が不自由しない為なら私は…何だってするよ。」
「…千冬姉も過保護だって感じてたけど、アンタそれ以上だよ…マジで何なんだよ…」
顔を手で覆って溜め息を吐くその姿は幼い彼には似合わない歳不相応な仕草…いやぁ、薄々感じてたけど…千冬は結構過干渉する方だったんだね…でも、千冬の気持ちは凄く分かるなぁ…
「千冬程君に制限掛ける気はないよ…でも、君の願いなら全力で叶えてあげる…」
「そんな…ワガママは「違う。それはワガママじゃないよ」…え?」
「君はまだ子供で、私は大人…何より、家族なんだよ?可愛い弟分のお願いなら、いくらでも聞くよ…そうだね、手始めに…お小遣いはいくらからが良いかな?」
「…ちなみに、いくらまでなら出せるんだよ?」
それは私に対する挑戦?子供の癖に大人を試すのは感心しないな~…
「んー…じゃ、取り敢えず月二万円くらいにする?足りないなら、もっと出すよ?十万でも二十万でも…貯金はたくさん有るから。」
「…そんなに貰っても、俺返せない「返さなくても良いよ…出世払いってやつだし」…出世払いってそんな…将来どうなるかなんて…」
「お。意味分かるんだ?凄い凄い。」
手を伸ばして彼の頭を撫でる…うん、やっぱり撫で心地良いね……千冬とはまた違った感触だよ。
「からかわないでくれよ…だから、俺が将来出世するかなんて「法律的にはそりゃ、将来余裕が出来てから返さないといけないけど…直近の家族間ならまた違うよ、一夏君」…え?」
「悪いけど私、そもそも将来君に余裕が出ても一銭も受け取る気無いから。育てるのに掛かった費用を大人になってから耳揃えて返せなんて言う親…ゼロとは言わないけど、そんなに居ないよ…こう言うのは結局、ただの建前なんだよ。」
「いや、でも…」
「強いて言うなら私は…君の日々の成長を見れたらそれで満足だから…私は、これからの君にとって千冬に代わる姉代わりの存在で…そうだね、一種の踏み台みたいな物だと思ってくれて良いから。」
「そんなの出来る訳な「受け取ってくれるって約束してくれないなら取り敢えず、今有る私の貯金全部君用の口座作って移しちゃうから…何なら、口座の名義そのまま君の名前に変えても良いよ」…何でだよ、何でそんな事言うんだよ…」
ありゃりゃ…泣かせちゃった…でも、コレは譲れないんだよね、私もさ…取り敢えずハンカチを出して彼の涙を拭いてあげる…
「理由なんて結局単純だよ。君が、千冬の弟だから。」
「…本当に、それだけなのか…?」
「そっ。それだけ…別に変な下心とか無いよ。」
まぁ、これだと…何も知らない子供を大人が無理矢理言う事聞かせようとしてる構図に見えなくも無い。でも、そうじゃない…
「強いて言うなら…私は君を幸せになるのを見届けるのがこれからの目標なの。」
そして、それが私の義務……っ…ずっと目を逸らしてた事柄が頭を過ぎる…千冬が居れば大丈夫だと、そう思ってたけど…こうして居なくなったら分かる…私には、もう時間が無い…彼が大人になるまで"私"を保つ自信が…無い。本当は、全てを兄さんに話して…任せるべきだったのかも知れない…でも、彼は私を選んでくれた…だったら、残り少ない時間でも出来る事をやるしか…無い。
「…ハァ…分かったよ…でも、小遣いはそんなに多くなくて良いから…」
「そう?足りない時は、遠慮無く言ってね?」
…まぁ、どうせ初っ端から彼の口座に大量に放り込むけどね…
「たくっ……とんでもない人好きになっちまったよ…」
「ん?何か言った?」
「何でも無いよ……ハァ…ホント、千冬姉も苦労するよな…こんだけ鈍感だと…」
「……」
まぁ、全部聞こえてるんだけどね…何なら、察してたし…でも、その気持ちは仮に千冬が許してくれるのは何となく分かってても…受け取れないけどね…私は、この世に長く残れないだろうし…ま、相手にしなければ…一時の気の迷いとしてすぐ忘れるでしょ…彼を好きになる子はこれから先も増えていくだろうし…こんな歳上の女相手にしなくても良いでしょ……てか、千冬も実はそうだったのか…先に告白しておけば…いや、してたら私が立ち直れなかったかもね…彼女はもう、居なくなっちゃったしね…
「…さてと、じゃ…今日は帰るよ…まだ荷造りの仕上げ、残ってるし。」
「あ、俺も手伝うよ。」
「え?大丈夫だよ?」
さっきも言った通りほぼ終わってるし…
「いや、一応…」
あ、そっか…
「…今日はウチの両親も兄さんも来れないしね…なら、そのままウチ泊まる?」
「っ…そうするよ…」
ハッキリ言ってくれれば良いのに、と言う言葉を私は飲み込んだ…コレは、これから姉代わりを務めるのに彼の寂しさに気付けなかった私が悪いよね…今の私が油断するとこうなるのか…気を付けないとね…
「あのさぁ…■■さん、風呂入った後…上はシャツだけど下はパンツのままとか、やめてくれって…」
「え?…あ、ごめん…暑かったからつい…」
まぁ、そう考えてる側からやらかしてるんだけどね…ま、でもさぁ…
「千冬は裸とか、下着のまま出て来たりとかしてたのに…そんなに気になる?」
「勘弁してくれよ…」
まぁ、私も彼の気持ちが全く分からない訳でも無い…とは言え、ね…
「…てか、普通に一緒にお風呂入ったのに今更気にしても仕方無くない?」
「アンタが勝手に入って来たんだろ!?」
「まぁまぁ…君の年齢的にこう言うのは今の内しか出来無いんだし、役得って事で……ま、と言っても君も私の裸にそこまでの興味は無いだろうけど。」
何せ自他ともに認める、起伏の乏しい身体だからね……う…ちょっと自分でも落ち込むかも…
「……興味無い訳無いだろ…ホントに勘弁してくれよ…」
「……」
結構ガチな反応返された…いや、そんな事言われてもね…
「あのさ、一夏く…いや、もう良いか…一夏、ちょっと聞いて。」
「…何だよ?」
「私と一緒に住むのを決めたのは一夏だよ?これから先…別に私がからかうつもりとか無くても…あの家だと、例えば着替え中の私と遭遇するとか…色々と"事故"は起こり得るでしょ?」
あの家は正直、男女が一つ屋根の下で住むのは本来色々と構造的に厳しい…何らかのそう言う事故が起こる可能性は十分に有る…
「一夏の気持ちが分からないとは言わない…けど、慣れて貰わないとさすがに私も困るよ。」
「いやまぁ、そうなんだけどさ…大体、■■さんは気にならないのかよ?」
「何が?」
「いや、俺に裸見られたりとか「全然。全く、これっぽっちも」…マジかよ…」
今、彼の男としてのプライドも何もかも…ズタズタになってるのは見てて分かる…けど、一緒に住む以上…先に、ハッキリさせないといけない事が有る…
「一夏、私にとって貴方は…あくまで家族。貴方が私に対してどう思っていたとしても…私には、大事な弟としてしか見れないよ…例え、血が繋がってなくてもね…」
「……■■さん、俺は…」
「ふぅ…黙っておくつもりだったけど、やっぱり言っておくね?私、一夏の気持ちには気付いてたよ。」
「!…マジで?」
「うん、マジで。」
まぁ、ハッキリ確信出来たのは…生憎千冬が亡くなった後の事なんだけど。一応、早くから薄々そうじゃないかとは思ってたけどね…ちなみにその辺に付いて、敢えて私は千冬には何も言ってない…その頃はまだ、本気なのか…憧れレベルなのかとか分かってなかったし…ま、千冬は気付いてたとは思うけどね…一応彼からの好意に関しては、一度分かってしまえば…少なくとも、千冬よりは遥かに分かりやすかったと言える…何せ、千冬に付いては今考えてもハッキリそうだったと思える事柄がまるで思い浮かばないし…と言っても、私は彼を気に掛けてるつもりで…無意識に千冬の方を優先してたんだろうから…彼の事をちゃんと見てれば…もっと早く彼の気持ちには気付けた筈なんだけどね…その点は、彼に対して申し訳無くも思う…でもね…
「…ふぅ…そうだね、貴方も知ってる通り…私は、千冬の事が恋愛対象として好きだった…」
彼にはもう伝えてある…ま、そもそもバレてたけど…
「ああ、そうだな…「でも、千冬がもう居ないからって…私は貴方を選ぶ事は出来無い」…今でも、千冬姉を…?」
「それは有るよ?でも、それとこれとは別の話。仮に私が千冬に対して恋愛感情は抱かず…普通に友人関係のままで済んでたとしても、私は…一夏の事を選ぶ事は出来無い。」
「!…何でだよ…俺が子供だから「もちろんそれも有るけど…でも一夏、仮に君が大人になっても私の事を好きでいてくれたとして…それでも私には、応えられないよ」…だから、何で…」
「それは、やっぱり貴方が千冬の弟だから…恋愛対象かは別にしても彼女はそもそも私の親友…そして、貴方はそんな彼女の弟。そんな大事な存在の人生にさ、私みたいな歳の離れた女がしゃしゃり出て来て足引っ張るとか…駄目に決まってるでしょ、そりゃ…」
「……」
一夏は俯き、黙ってしまった…ふぅ…恋愛対象には見れなくても、一夏は大事な存在だし…ここまで手酷く振ったら、私もさすがに罪悪感は感じるよね…
…やがて、彼は顔を上げ…真剣な目で私を見た……凄いね、千冬に良く似てる…やっぱり二人は姉弟なんだね…っ…千冬の姿がチラついた所為かな…ちょっと、ドキッとした…
「なぁ?」
「何?」
「どうしても、駄目か…?」
「逆に、何で私が良いの?見ての通り、私は千冬とほとんど変わらないレベルでガサツだし…そもそも脈は無いって言ってるんだよ?一夏の事は大事だけど、弟としか見れないって…そう言ったんだよ?」
「それでも、俺はアンタが良いんだ…」
「っ…」
気圧される…そんな、千冬そっくりな目で見詰めないでよ……ハァ…仕方無い。
「ふぅ…分かった…じゃ、取り敢えず妥協案。」
「妥協?」
「そこまで言うなら、一夏の気持ちを受け入れてあげる「本当か!?」…待って。妥協って、言ったでしょ?条件が有るよ。」
「…条件?」
「さっきも言った通り、私は一夏に恋愛感情は抱いていない。でも先ずは、気持ちに絆されたって事で受け入れてあげる…恋人代わりとしてね。」
「代わりだって…?」
「そう。これから先きっと…一夏の前には何人も魅力的な女性が現れると思う…その時私以上に愛したい存在が見付かったらこの関係はおしまい…それまでは、一夏の姉代わり兼…恋人でいてあげる。」
「そんな相手、他に見付かる訳「分からないよ?君はまだ子供なんだからね?決め付けるのは早いよ?」…見付からなかったら?」
「仮に大人になっても見付からない…それか、私の方が君に本気になった時…その時はちゃんと私の方からも応えてあげる…この条件で、どうかな?」
こんなの不健全も良い所…でも、こんな目を向けられたら、ね…私も、彼に何も思わないのは難しいよ…ごめんね、千冬…こんな優柔不断な親友でさ…
「取り敢えず…しばらくは恋人で居てくれるって事で良いんだよな…?」
「君に他に相手が見付かるまでは、ね…」
何より、無責任…私がこれから先…いつまで一夏が好きになった"私"のままで居られるかも分からないのにね…それでも、私はこれ以上彼の気持ちを無視する事も出来無い…私が、壊れる前に彼が相手を見付ける事を祈るしか無いか…
「念の為もう一つ言っておくよ?基本、私は君に恋人としての気持ちは向けないよ?嘘は付きたくない…私はあくまで姉だから。君の気持ちを受け入れてはあげるけどね…」
「…分かった…俺に惚れて貰える様、頑張るよ。」
「うん…じゃ、どうする?」
「へ?」
「…いや、一時の間かも知れないけど…私は、貴方の気持ちを受け入れるって言ったんだよ?何か、私に"そう言う要求"は無いの?」
「…え?…良いのか!?」
「受け入れるって言ったんだから、良いに決まってるでしょ?」
「じゃ、じゃあ…この後早速…!」
おー…凄い目がギラギラしてる…このまま即座に同じ布団に入りたそうな勢いだけど…
「…あ、その前に買い物行って良い?」
彼が肩から崩れ落ちた…
「何だよ…期待したのに…こんな時間から何処に何を買いに行くんだよ…」
「何処ってすぐそこのコンビニ…買う物に付いてなら…ほら、避妊具くらい聞いた事有るでしょ?」
「っ!」
人間の顔って、こんなに分かりやすく赤くなるんだね…
「君はまだ子供作る訳に行かないし…必要でしょ?」
「いやまぁ、そりゃそうだけど…最初の一回くらい…」
「ふぅ……一回で終わる自信、有る…?」
「っ……無理かも知れない…」
「でしょ?じゃあ、私は着替えて行って来るから。」
「良いけどさ…何か慣れてる感有るよな…」
…ハァ…
「慣れてなんか無いよ…余裕も、本当は無い…」
「へ?」
「いや、朧気な知識に従ってるだけで…普通に私、初めてなんだよね…」
行ってから身体に震えが来た…今更になって、怖くなって来たかも…でも、ここまで来たら大人として…引けない…
「その…俺も行こうか?」
「それは、どう考えてもアウトだね…まぁ、そこは気にしなくて良いよ…じゃ、行って来るから…」
「あ、うん…行ってらっしゃい…」
…ハァ…初日から、と言うか…これから先が一気に不安に…どうしよう…ふぅ……ま、今更グチグチ言っても仕方無いか、どうにかなるでしょ……多分。
その後一夏の中でどう言う変化が有ったかは分からないけど…最初の一、二年こそそう言う誘いを何度も掛けて来たけど…段々回数は減って行き…その後は無事、一夏は私を振り切って箒と結ばれる事に…幸い、彼に私が恋愛的執着も抱く事も無く…本当にホッとしたよ…
「…って言う夢を見たんだけど…」
「ほう。お前の事だから、あるいはそれも…並行世界のお前の話になるのかもな…」
「いや、だとしたら何かめっちゃ複雑なんだけど…向こうの私、爛れ過ぎでしょ…」
「…まぁ、その状況じゃ仕方無いと思うがな…」
「…私から話しといて何だけど…千冬は気にならないの?一夏君とそう言う事してたって言うのは…何なら、普通にまだ子供と言える歳の彼とそうなったんだよ?」
「まぁ、法的に良くは無いだろうがな…ただ…もう一度言うが、その状況じゃ仕方無いだろうな…仮に私がお前と同じ立場だったとしても、そうした可能性が高いしな…」
「それは、一夏君が千冬の弟じゃなくて私の弟で…亡くなったのが私の方だった場合の話?」
「ああ。」
「それは、千冬が一夏君を弟だったと言う世界の記憶が有る場合の話じゃなくて?」
「仮にそう言う記憶が無くても、一夏がお前の弟と言う前提だったら恐らく私も…そうしただろうな…」
「そう…」
「やはり複雑か?」
「…まぁ、そっちの方で改めて考えてもそりゃあ、ね…でもま、確かに千冬の言う通り仕方無かった気はして来る…」
「ま、実際こっちではそうなってないんだから…それで良いだろ……他に、何か不安が有るのか?」
「…一夏君が箒を選んでくれる所までは見れたから安心はしたんだけど…あっちの私は何か他に大きい悩みを抱えてたっぽいんだよね…それが何なのか、思い出せなくて…」
「成程な…で、どうする?」
「え?どうするって何が?」
「そんなに気になるなら、そっちの世界にも行ってみるか?」
「…行くとしたら例のあの子の世界を先にすべきだとは思うけど…う~ん…あっちに行くのはやめておこうかな…」
「何だ、良いのか?」
「何でかね…細かい所は覚えてないのにさ、行ってももう手遅れな世界って感じがしてるんだよね…理由は良く分からないんだけど…」
まぁ、全く思い当たらない訳じゃな……う…何でか分からないけど嫌な予感が…何か、これ以上はあの世界に付いて考えない方が良いのかも…
「それはそうと…何かごめんね、朝っぱらからこんな話…」
「確かにそれなりに衝撃的な内容だったがな…何せ、私が死んだと言う所から始まる話だったしな…ま、良いさ…私の知らない所で悩まれるよりはな……少しは落ち着いたか?」
「うん……ありがとね?」
「気にするな…これでも普段、お前に無理を強いてる自覚も一応有るからな…こう言う時くらい支えさせろ。」
自覚が有るなら、もう少し自重して欲しいんだけどね…って言っても、多分無駄なんだろうなぁ…
「ふぅ…何か、疲れた…」
「いやいや…ちーちゃん来たら説得するんでしょ?そんな状態で大丈夫…?」
「まぁ、多分…ここまで来たら、絶対着せてみせるよ。」
そうしないと私が治まらないからね…ま、千冬にとっては八つ当たりも良い所だけどさ…
「ふぅ…でもま、この写真見てるだけで癒されはするよね…」
「今更だけど…ちーちゃん以外に見せないでよ?」
「分かってるよ。束はパッと見分からない程度に変装してるけど…クロエはそのままだからね…万が一の事が有ったら困るしね…」
クロエは元々、軍で作られた試験管ベビー…しかも、こう言う言い方はしたくないけど失敗作。救出時はかなり無茶な事して連れ出したって話だから…生存がハッキリ確認されたら、向こうがどんな行動を取るか分かったもんじゃない…
「その代わりって訳じゃないけど、私の写真は千冬に見せないでよ?」
「せっかく可愛いのに…」
「だって恥ずかしいし…見られたくないよ…」
「……」
…この時束がハッキリ見せない、と言ってないのを確認しなかったのは私の油断だよね…まぁ、言っても無駄だった気はしないでも無いし…何より、仮に束から言質を取れてても母さんの方の口止めを忘れてた時点で今更だとは思うけど…そうでなくても束の場合…屁理屈捏ねて結局見せそうでは有るからどっちにしろどうしようも無かったかな…ふぅ…さてと。
「じゃ、行こっか。」
「はいは~い…お母さん、クーちゃん…もう帰るよ?」
「はい…では行きましょうか。」
「ええ。」
…手を繋いでる。クロエはホント、母さんに懐いたね……これから先、しつこいくらい構われるだろうけど…ま、しばらくはその方が安心かな。
行く前は散々凹んでた割に今母さんは滅茶苦茶機嫌が良い…まぁ、恥ずかしいだけでもこの人泣きそうだから…それよりは良いんだろうけどね…で、今はクロエと二人でキッチンに立って夕飯の用意をしてる所。それを見ながら、ふと思った事を口に出す…
「何か、こうやって見ると…母さんとクロエの方が母娘っぽいよね…」
「…実の娘の■ちゃんがそれ言って良いの?」
「…私はあんなに懐いてた記憶無いしね…ま、向こうでもチラッと言ったけど私も嫌ってる訳じゃないし…それも一つの母娘の形なんじゃないかな。」
とは言え、素直なクロエの事は母さんも可愛いだろうし…私自身そこに思う所は無い…強いて言うなら、二人が幸せそうならそれで良いかなって…ま、それはそうと…
「私はともかく…血は繋がってなくても母親を名乗ってる束としてはどうなの?アレ見て…」
「う~ん…確かに若干複雑では有るけどさ…ま、やっぱりこう言う面でお母さんには勝てないしね…仕方無いかな…でもま、これから先はお母さんっぽく振る舞える様に束さんも頑張るよ。」
「そっか…良いんじゃない?」
今の束はまだまだ未熟かも知れない…でも、クロエを見詰めるその顔は母親のソレに、私には見えた…これから先どうなるかは分からないけど…今の彼女とクロエなら大丈夫なんじゃないかって、不思議とそう思えて来る。ま、何ならしばらく母さん通うだろうしね…どうにかなるんじゃないかな。