「…姉さん、その…大会はどうなったの?」
「……十秋、お前が気にする必要は無い。」
「千冬姉?十秋姉にはそんな言い方したらダメだって分かってるだろ?」
「…そうだな…分かった、はっきり言おう…私はお前を助けに行くために試合を蹴った。当然試合は不戦敗だ。日本では今、私への批判が集中しているらしい…」
「そんな…」
やっぱり私が誘拐されたせいで……
「…あー…十秋姉?多分気にしなくても大丈夫だと思うぞ?」
「……どうして?」
「いやだってそれは…あっ、来たみたいだな。」
そう言って一夏はその場で一歩後ろに下がる。その直後に見覚えのある女性が突然現れた。
「やっほー!モガッ!?ムグムグ」
束だ。ちなみに変な喋りになってるのは一夏が後ろから口を抑えてる為である。…前世でも物理法則無視して突然現れたりしてたけど…って、もしかして…一夏、束の気配に気付いてた…?
「やっぱり来た。あー…暴れないで、ここ病院。それから不本意だったんだろうけどあんた一応指名手配だから大人しくしてて。約束してくれるなら離しますから。」
あの束を完全に抑え込んでる…もしかして私…一夏にも負ける…?ちょっとショックかも…
「ぷはぁー…!もう!いっくん酷いよ!せっかくいっくんたちを助けに来たのに!」
「……助けにとは具体的に何でしょうか?内容次第ではこの場で俺と千冬姉が貴女を気絶させて拘束します。」
「え!?ちょっといっくん冗談だよね…!?ちっ、ちーちゃん!?」
「悪いが私も一夏と同意見だ。お前はいつもやり過ぎで話をややこしくするからな。私たちが日本に帰れなくなったらどうするつもりだ?」
「…だっ、大丈夫だって!束さん、ちゃんと考えて「仮に文句言う奴を片っ端から消してくとかだったらこの場で俺があんたを殺しますよ……!」ヒィッ!」
……私の弟がとてつもなく怖い。一夏ってあんな殺気も出せるんだ…良く見たら千冬も顔色が悪い。…私自身も今身体の震えが止まらない。……あれを直接ぶつけられてる束の状態なんか想像もしたくない。
「…一夏、それくらいにしといてやれ。束もそこまで馬鹿ではないだろう。……そうだよな?」
千冬の確認に物凄い勢いで首を縦に振る束。……涙目通り越してもう涙と鼻水で顔がグチャグチャだ。…というかホントに離してあげて?何か過呼吸起こし始めてるから
「……分かったよ。」
「…ヒュー…ヒュー…!」
……あっ、これダメなやつだ。
「一夏!この馬鹿!やり過ぎだ!」
「…一夏取り敢えず紙袋探して来なよ。束さんがいるんじゃ人も呼べないし…」
過呼吸って言えば先ず先にそれだからね…私に言われて渋々病室を出ていく一夏…とは言え…
「…大丈夫か、束?」
「…うん、何とか…」
束が過呼吸になった理由は一夏が圧をかけたせいだからこの場合録に殺気を緩めようとしなかった一夏が部屋からいなくなれば症状は緩和される。
「…で、お前は何を考えているんだ?」
「……うん…ちゃんとちーちゃんもいっくんも十秋ちゃんも普通に暮らせるように考えて来たよ。…と言っても一時は注目を浴びるかも知れないけど…」
余談だが束は何故か私には渾名を付けていない。まあ束の渾名の付け方だとアレな呼ばれ方をする事になるから結果として私は良いんだけど……
「やった事がやった事だからな、多少は仕方ないさ…で、何をするんだ?」
「…一応今回の誘拐事件は日本政府は伏せようとしてたから余計な事をしないように脅しはかけてあるよ。」
「……あの馬鹿共が……!」
千冬がパイプ椅子を握り締める……あっ、手の形に凹んだ。
「…姉さん、病院の備品壊しちゃダメだよ……」
「あっ…しまった…」
「……話を続けるね…誘拐事件の事は明るみに出るから同情票は得られるけど多分ちーちゃんたちはしばらく注目の的になると思う……それに批判はゼロには多分ならない……」
「そうだろうな…」
「しばらくは第三者の護衛が必要かなぁ…こればっかりは束さんにもどうしようも無かったよ…」
「まぁ十分だ。理由も知られないまま一方的に責められるよりは良い。…それに私はしばらく日本には帰れないからな。」
「え?」
「千冬姉、それどういう事だよ?」
一夏…戻ってたんだ…
「そもそも十秋が誘拐されたのが分かったのは一夏が十秋が観客席を出てから戻ってこない事を私に伝えに来たからだが…手掛かりが無かったからな。ここドイツ政府に協力を取り付けるしか無かった…その協力の条件がドイツ軍IS部隊の教官を私がしばらく務めることだからな。」
「千冬姉、何でそんな大事な事黙ってたんだよ…」
「すまなかった…」
その場で深々と頭を下げる千冬…卑怯だなあ…それじゃあ私たちはもう何も言えないじゃない…
「ちーちゃん本当に良いの?連中を黙らせることなら多分出来るよ?」
「もう契約は交わした。約束は守る。…一夏、十秋…後のことは心配するな。しばらく私は帰れないが定期的に連絡はする。」
「ねぇちーちゃん?ちーちゃんがいなかったら二人はどうするのさ?私も様子は見るつもりだけど必ず駆けつけることはちょっと難しいよ?」
「…一応護衛については私にアテがある。…まさか本当に使う事になるとは思わなかったがな…」