結局私と一夏の更識家入りは覆らなかった。…ちなみに一夏は私が電話して来て初めて事情を知ったらしい…電話口から聞こえた声から察するに…ほとんど半狂乱で千冬を問い質していたようだ。たまたま様子を見に来ていた束曰く…
『ちぃちゃん伝えるのを忘れたみたいだよぉ…』
……私は一夏に思いっきり絞っておくよう束さんに伝えてもらった。…一夏は言われなくても状態だったみたいだけど。
「…えーと…取り敢えず引越しの荷造りしちゃおうか?貴女の分と一夏君の分、それから貴女のお姉さんの向こうでの荷物ね…ああ、うちの方の人たちでやるから貴女は動かなくて大丈夫よ、指示してくれれば良いから。後、大体の物は家にもあるから消耗品はあまり持って来なくて良いわ。……しばらく家を留守にする以上電気は止めるから冷蔵庫の中は空にしなきゃ行けないけどね…ドイツに長期滞在するなんて予定は無かったんだから食材は色々残ってるでしょ?」
「…はい…お世話になります…」
千冬ってば…これじゃあ私初対面のこの人に頭上がらないじゃない…荷造りの手伝いすら自分で出来ないなんて…一夏と代わってもらうんだったかな……それはそれで地獄だけど。
「さて、これで終わりね。」
家の中から家族二人分の私物が持ち出され車に積まれる…私のは…
「……ねえ十秋ちゃん?貴女の私物ってこれだけ…?」
「そうですけど…何か…?」
「……化粧品とかは?」
「?…化粧水は使ってますけど…?」
「……これは磨きがいがありそうかな…十秋ちゃん、楽しみにしてて♪」
「……」
笑ってるのに目が笑ってない顔って言うのはあんまり目にする機会は無いけど今正にこの場に笑顔の鬼が顕現していた。……私の私物ってそんなにおかしいかな……前世でもそうだった千冬みたいに服の九割がジャージって訳じゃないし…
「…いや…おかしいからね?いくら中学生でも今どきは最低限お洒落くらいするからね?服は機能性だけじゃなくて見た目の良さも重視するものよ?化粧品持ってないのは分かるけどさすがに中学生で化粧水のみっていうのは、ね…?」
……そんなにおかしいかな?私自身前世の時は中学生で化粧をするなんて考えもしなかったしそれからも私自身があまり好きじゃなかったから化粧はかなり薄目でしかしなかった。……というかまた心を読まれた?
「十秋ちゃんが分かりやすいだけだからね?…さて、と。せっかく素材が良いんだから磨かなきゃね。お姉さんに任せなさい♪」
……拒否権は無さそう。面倒な人に目を付けられたかな……一夏!早く帰って来て!?
更識家の車に刀奈と乗った私の中では往年の名曲ドナドナのミュージックが流れていたのだった…