千冬がバイトに行った日…そして、世間一般では休日に当たるこの日…最近は休日でも織斑家は元より…私の部屋にも寄り付かない事が増えた彼を漸く捕まえる事が出来た…まぁ、もちろんそうしない理由は分かってるんだけどさ…
「…進路?」
「うん…まだ少し早いかも知れないけど、何か考えてる事…有るかなって、思って。」
彼に話を聞きながら改めて思い出す…あの日、二度目のモンド・グロッソ…一夏君が誘拐され…私たちで何とか救出した日…加えて、途中で絡んで来たドイツ軍とのゴタゴタを退け…先に突っかかって来たのは向こうなのに、それを口実にドイツ軍の臨時教官への半ば脅迫地味た打診…あの時ドイツ語が堪能な上、胆力も有る兄さんが交渉役を買って出てくれなければ…私たちは恐らく、簡単に日本へ帰る事も出来無かった…
まぁ、それでも私たちが数ヶ月の臨時教官になると言う条件までしか飲ませられなかったと言う謝罪はされたけど…少なくとも期限無しにされるよりはずっと良かった…そして数ヶ月が過ぎ…久しぶりに彼と再会した時…彼は明らかに前と変わっていた…それ故に、今の千冬ではもう昔の様に彼と会話するのも難しいかも知れない…今回彼と話し合いをすると私が言い出したのは、実はそう言う意図も有ったりする。
「…何で…」
「ん?」
「何で、千冬姉じゃなくて…貴女が聞くんですか?」
「……」
彼の声は敬語になってるのとは関係無く、硬かった…ま、そりゃ不満だよね…
「うん、所詮部外者の私がしゃしゃり出る話じゃ「っ!違う!俺はそんな風には思ってない!」…なら、良かった…ほら、落ち着いて。」
興奮し始めた彼を宥める…う~ん…やっぱり私が来たのは失敗だったかなぁ…あの数ヶ月間も一緒に居た兄さんに間に入って貰うか、兄さんに任せるべきだったのかも…
「えっと…私が来たのはさ、正直一夏君が千冬を避けてる気がしたからさ…」
白々しい…そもそも、彼が家に寄り付かないのは私と千冬に気を使ってるのが大部分だと分かってるのに…
「…あのさ…そりゃ確かに、俺も■■さんの言う通りだと思うけど…でもそれって、そもそも俺個人が千冬姉を避けてるって程度で済む話じゃないだろ?」
「…うん、まぁ…本当は分かってるよ。だけど、それだけじゃないよね…?」
実際、他にも理由は有ると私は思ってる…だから、彼を怒らせるのも承知の上で…私は一旦千冬抜きで話をしようとしてる…
「別にさ…千冬は一夏君を疎ましく思ってるとかじゃないからね?」
まぁ、この言い方はズルい…それも分かってる…所詮口では何とでも言える…何より、自分と最愛の姉…少なくとも家の中では二人だけで完結してた筈の世界に入り込んだ私と言う異物…今思えば、私と千冬が健全(まぁ、当時の時点で少し怪しかったかも知れないけど…表面上は、ね…)な友人関係だった頃…千冬は一夏君を含む三人で居る時も、私をある程度優先してた様にも思う…まぁ、確かに当時の私って…今に比べたら色々と不安定だったとは思うけどさ…
「…ハァ…分かってる、俺も…頭では分かってるんだ…でも…」
「心では納得出来無い?」
「■■さんからあのメールがきた時…二人が漸く付き合う事になったって、そう分かったあの時点で…こうなる未来は見えてた…■■さん、俺ももうそこまでガキじゃないんだぜ…?」
まぁ、君ももう中学生だもんね…色々と分かって来ちゃうか…でもね…
「…それでも、君はまだ子供だよ…ふぅ…ま、私がこんな事言う資格無いかも知れないけどさ…ごめんね、アレだったら私の方から千冬と距離置くよ「ハァ…ここまで言っても分かんないんだな」…え?」
「だから言ったろ、そこまでガキじゃないって…だって俺が二人の関係に納得してないなら…毎日夜になったら、ちゃんと早めにどっちかの家に帰るとかやらない…頼れる人も結構居るし、家出でもしてるよ…ちょうど、■■さんの家に良く泊まりに来てた昔の束さんみたいにさ…実際、二人がドイツから戻る前日に言われてたよ…■●さんから良かったらウチに住まないかってさ…それでも、俺は千冬姉との時間はこうなった今でも掛け替えの無い物だって思ってたし…そして何より…■■さん、アンタの事だって…昔からもう一人の姉みたいな人だってずっとそう思ってた…だから、断った。二人が、俺の事を完全に忘れたり…邪魔になんて思ったりしないって…そう信じてたからさ…もちろん、不安は有ったけど…アンタたち二人は、あの日俺との再会を喜んでくれた…そして、毎日普通に学校へ通って…ちゃんと終わったらどちらかの家に帰る…千冬姉のバイトが休みの日は…正直直前まで、アンタたち二人がそう言う事をしてたんだろうなって…雰囲気で分かる日は今まで何度か有った…それでも、二人は俺が帰って来るのを嫌がらずにいつも笑顔で迎えてくれる…分かってた、二人が…俺を邪魔に思った事なんか無いって…ただ、あくまで俺の居ない時を選んで二人の時間を育んでいるだけなんだって…■■さん、アンタたちの気持ちは俺にもちゃんと伝わってたよ。」
「一夏君「なぁ、■■さん」…何?」
「もうさ、俺に君付けいらないよ…アンタは本当に、俺たちと家族になろうとしてるんだろ?」
「…うん、分かったよ…一夏。」
「ああ…俺もずっとそう呼ばれたかった…で、脱線しちまったけど…俺の進路だっけ?」
「え…あ、うん…そうだね「アンタ今、忘れかけてたろ…」…あー…つい、ね…ごめん…」
君に認められてた…それが嬉しくてつい、ね…まぁ、彼に変に気を使わせてるのも事実だし…そこも何とか話をしないといけないんだけど…
「…その前に一つ、良いか?」
「何?」
「…実はさ、俺…二人が、その…ヤッてるの見た事が有るんだ…」
「へ?…あ…ごめん、嫌な物を見せたよね…」
「何言ってんだよ…あの時は、たまたま俺が忘れ物を取りに戻っただけだからさ…二人はちゃんと俺の居ない時を選んでたのに、その境界を俺が勝手に越えちまっただけだ…で、俺の進路だよな?」
「…え?」
この流れから、何でそこに戻るんだろう…
「…■■さん、俺は姉としてだけでなく…一人の女性としてもアンタが好きだ…俺の物になって欲しい…」
「…ふえ?」
間抜けな声が出た…いや、は?…え?
「それは、Likeの方だよね…?血は繋がってないけど、姉としての私を好きってだけの意味だよね…?」
「…今ちゃんとハッキリ言っただろ、LOVEだよ。」
「…Pardon?」
「煽ってんのかよ…I love you. Will you spend the rest of your life with me?(俺は貴女を愛しています。これからの人生を共に生きてくれませんか?)」
思考が停止して…何故か口から出てしまった英語の聞き直しを意味する単語…そしたら、思いの外流暢な英語で答えが飛んで来た…いや、あの…
「…Je n'ai pas bien entendu,Tu peux me le redire ?(良く聞こえなかったから、もう一回言ってくれる?)」
「…Je t'aime… Veux-tu passer le reste de ta vie avec moi ?…ふぅ…茶番はそろそろ終わりにしようぜ?俺はこの場で返事を聞きたいんだ。」
フランス語でも、ほぼそのままの意味の言葉で返された…彼はフランス語を読む事は以前出来る様になってたけど、まだ話せなかった筈…いや、今はそんな事は良い…本当に待ってよ、私は…
「私、君の姉と付き合ってるんだよ?」
「知ってる…俺は、千冬姉からアンタを奪おうと思ってる。」
「いや、でも…ほら、箒とか「俺の初恋はアンタだ」…私、君よりずっと歳上で…」
「アンタは千冬姉と同年代の筈だし、8年か…10違うってわけでもなし、ギリ行けるんじゃないか?」
「いや、でも…それでも私はやっぱり千冬が好きで「それも分かってる…でも、俺はアンタが欲しい」…何で、そこまで…それに、今までそんな事一言も…」
「二人が両想いなのは前から知ってたし…仮に成就するなら、もちろん俺は自分の気持ちを引っ込めて応援しようと…最初は、確かにそう思ってた…」
「…なら、本当にどうして…」
思考が纏まらない…どうして、今になってそんな…
「あの日、俺は見ちまった…アンタが、千冬姉に明らかに快感とは違う…悲鳴を上げさせられてるのを…」
「っ!…いや、それは「アンタがそれでも構わない…そう思ってるのは分かってる…」…うん、だから…」
「でも、好きになった女が苦しんでるのを見て…俺は黙っていたくない…辛くないってわけじゃないんだろ?」
「…それは、確かにそう…それでも、私は…」
「千冬姉に全てを委ねる、か…アンタを否定したくはない…でも、それって違うだろ?一方的にアンタだけが辛くて…千冬姉の方は楽しんでる…そんなの、絶対間違ってるし…そもそも俺が許せない。だから、千冬姉からアンタを奪ってやるって決めた。」
「そんな…」
私は、そんな事は望んでない…私の意見は、聞いてくれないの?
「埒が明かないな…千冬姉と同じになるし、出来ればこんな手は使いたくなかったけど…■■さん、俺はこれからアンタを犯す…その後は、千冬姉に宣戦布告する…ただ、俺はアンタが子供の頃に性的暴行を受けたのはもう知ってる…だから、抵抗するなら抵抗して良い…アンタなら…本気でやればいくら男の俺でも、所詮はガキでしか無い相手だ…ほとんど労せず、俺を叩きのめせるだろ?そしたら俺は…その時は、潔く諦める。」
「あ…」
ソファから立ち上がった彼に床に押し倒される…抵抗は、しなかった……いや、出来無い。
「…今のアンタの顔を見たら分かる…アンタがやっぱり、俺の事をそう言う意味で好きになるつもりは無いって…でも、何で抵抗しないんだ?」
何で、か…そんな事言われてもね…
「…だって、私は貴方に怪我をさせたくないから…だから、出来無い。」
「どう有っても、アンタにとって俺は…恋人の、織斑千冬の弟…付属物でしか無いのか?」
「…違うよ。私にとって、貴方はもう千冬の存在は関係無く"弟"だから出来無いの。例え、血は繋がってなくてもね…恋愛的意味では決して無いけど、私も確かに貴方を愛してる…だから、貴方が傷付くのは嫌なの…」
「…このままだと、アンタは俺に襲われるのにか?」
彼が私に覆いかぶさろうとする…
「うん、それでも出来無い…だから、どうしてもそうしたいなら…良いよ?」
「っ!アンタは何で…そこまで出来るんだ…!」
「だってさ…千冬も、貴方も…私にとっては大切な存在だから…私には傷付けるなんて、どんな理由が有っても出来無いよ…もちろん、このまま貴方を受け入れたら千冬への裏切りにもなるし…本当は、私も抵抗しなきゃいけないのかも知れない…あるいは、彼女を苦しめるかも知れない…でも、どっちを捨てるかなんて…私には、絶対選べないよ。」
優柔不断なのは分かってる…でもベクトルは違っても、本当に私は貴方たち二人が大事なの…二人の幸せの為なら、私自身をどれだけ捧げたって構わない。貴方たち二人になら、あげられる物なら全部あげる…そう、私は最初から決めてるから。
「……くそっ!」
彼が私から離れて再びソファに座る。
「一夏?」
「ごめん…もう何もしないから、座ってくれよ…まぁ、元々俺の家じゃないけどさ…」
「…"ここ"も、君の家だよ。」
私は起き上がり、彼の隣に座る…さっきより、距離を詰めて…
「っ!…何だよ…」
「?…何が?」
「何って…何でそんなに近いんだよ…」
「…え?君だってさっき私の事を姉だと思ってるって言ってくれたのに、今にも泣きそうな弟に姉として寄り添っちゃいけないの?」
「っ!泣いてない!」
…いや、どう見ても涙が零れそうなんだけど。もちろん、私も敢えてこれ以上何も言う気は無いけどさ…
「っ!アンタ今、俺に襲われかけたんだぞ!?」
「?…だから?」
「だからって「その事と、私も貴方を弟だと思ってる事に付いては何の関係も無いでしょ」……」
「…もし、本当に俺が最後までしてたら…その時は…」
「何も変わらない。それでも君は、私にとって大事な存在だよ…ふぅ…私は昔から不器用だからさ、一度誰かに対してそう思ってしまったら…そう簡単には考えを変えられないし、仮に…どれだけ裏切られたとしても…その相手を捨てる事も中々出来無いんだよ…」
それが私の正直な想い…と言うか、冷静に考えたら今の一夏みたいな理由で仮に襲われたからって…それは単なる裏切りとも言い難いし、あまり嫌う理由にはならない様に思う…まぁ、そりゃ…私が望んでないのは分かってても…私の為と思って突っ走りたくもなるよねって…
「…ハァ…負けたよ、アンタの事は諦める…」
「勝ち負けじゃないし…結局私にとって、貴方が大切だって事は変わらないよ。」
「…駄目だ、ホント敵わない…なぁ?」
「何?」
「家族、なんだよな…?俺は、アンタの弟なんだよな…?」
「うん。」
「…じゃあ家族にキスでも「それだけで良いの?」…っ…アンタさぁ、俺の気持ちが受け入れられないって言ったのに…何でそんな聞き方するんだよ…」
「だって、一夏はしたいんじゃないの?一夏なら、本当に良いよ?」
「いや、だから…それは、あくまでその後の千冬姉への宣戦布告がメインで……くそっ!したいさ!そりゃ…出来るならしたいに決まってる!でも、それだと俺としては何か惨めだし…つか、千冬姉が…」
んー…さっきあんな言い方したのにアレだけど、ここで仮にそうなっても…実際千冬はあんまり怒らない様な気がする…と言うか、そもそも…
「ねぇ、一夏?」
「何だよ…」
「…そもそも一夏は、千冬の私に対する気持ちに関して…実際に千冬から教えられる前に、既に気付いてたパターンだったりする?」
「…まぁ、確かに…そうだったな…」
ま、彼は私の千冬への想いにも気付いてたし…そうだよね…で、問題はここから。
「…んー…だったらさ、一夏が千冬の気持ちに気付いた様に…実は逆も然りだった、そう言う可能性も有ると思わない?」
「っ!…まさか…」
「千冬も…多分、敢えて指摘しないだけで…一夏の気持ちには初めから気付いていたんじゃないかな。」
実際、もし自分が亡くなったら一夏と…みたいな事言ってたくらいだしね…急に何を言い出すのかと思ってたけど、今思えば…一夏の気持ちに気付いてたからなんだろうね…
「…でも、だからってヤるのは「ちなみに…」…何だよ。」
「束も、実はそうなのは気付いてた?」
「…そりゃ、もちろん「そっか…でも、コレは知らないよね?」え?」
「私、実は束とも身体の関係有るんだよね…」
「…え…マジで?」
「うん、マジで。」
「…いや、それって浮気「いやまぁ、これだけ聞いたら確かにそうなんだけど…でも、さっき私を襲おうとした君がそれ言える?」う…そりゃそうだけど、でも…千冬姉に対する裏切りなのは変わらないだろ?」
いやぁ…千冬も実は知ってるんだよねぇ…正直な話、私としても色々複雑なんだけど…
「千冬の場合…心が間違い無く自分の元に有って、自分の事が最優先になってるなら…そこまで気にしないみたいなんだよね…そもそも、私が今更束を見限れないのも分かってるんだろうしさ…と言うか、既に全部把握した上で千冬の方からアイツにも時間作ってやれとか言われてるから…もう浮気も何も無いんだよね…実際、私がそう言う意味で好きなのだって…あくまでも、千冬一人だけだし。」
「…千冬姉はそれで良いにしても、■■さんは良いのか?」
「何が?」
「何って…二人の人間から身体を酷使されてる事だよ…千冬姉が認めてる以上、裏切ってる的な精神的負担自体は無いんだろうけど…相手は二人居る事になるんだし、単純に身体の疲労自体は倍になるだろ?」
「…う~ん…そう言われてもね…束の方は私に痛い事はそんなにしないし、普段千冬程激しいわけでも無いから…ま、仮にこれで束も千冬と同じタイプだったら…私もどっかで限界来てたんだろうけど。」
「…ホント、聖人だよなぁ…」
「んー…?何で?」
「何でって…■■さんはいつも俺たちの要求嫌な顔せず応えるじゃんか。」
「…勘違いしないで欲しいんだけど…私もさすがに断る時は断るし、何より…私がここまでするのは"身内"だけだよ。実は私、本当は束と同じタイプなんだよね…」
私と束は似たもの同士…違いが有るとすれば、一つは"有象無象"に最低限の社交辞令なら返せるか否かって事…そして、もう一つは…
「…じゃあ、俺にもここまでしてくれるのは…結局、■■さんにとって俺が弟だから?」
「うん…ま、それでも束よりは判定緩いつもりだけどね…」
そう、それがもう一つの違い…実際ドイツ軍で教官してた時なんかは…出会い方こそ最悪では有ったけど、気付いたら…担当してた面々に対しては色々な部分で結構甘くなってて…さすがに情を持ち過ぎだと千冬に釘を刺された事も有る…ま、あくまで数ヶ月での契約だし…完全に一人前になるまで見れるわけじゃないんだから当然だよね…
「言いたい事は分かったけど…実際判定かなり甘くないか?確か■■さんって、弾や数馬にも妙に優しいよな?」
「まぁ、そうかもね…」
何なら弾君の妹の蘭ちゃんにも割とそう…まぁ、気付けば私も千冬と一夏同様…向こうに家族みたいに扱われてるから…当然私も、その気持ちに返したくはなる…
「私は…最初は私が好きになった人たちが幸せだったらそれで良いかなぁって、その程度だった…でもまさか、あるいはそうなってくれたらなぁって程度の私の願い…秘めておこうと思ってたそれが、実際にこうして叶っちゃうどころか…特に価値みたいのを感じてなかった私自身をこんなにも求められるなんて…ホントに、思ってもみなくて…」
「…つまり?」
「私は今、凄く幸せなの…例え、君の目からは辛そうに見えてたとしてもね…いやまぁ、もちろん本音を言えば…実際身体的には辛いのは辛いけどさ…」
「……」
「私が大好きな皆が幸せで、私までこれだけの幸せを貰った…後、他に私から求める物は本当に何も無いの…でも、私の所為で君に我慢を強いている事についてはごめんね…」
「…良いよ、実際はそんなに我慢してるってわけでもないしさ…それにさっきも言った通り、二人して少しでも俺への時間を作ろうとしてくれてるのは分かってるからさ…」
「…ま、不満が有ったらさ…千冬はもちろん、私でも兄さんでも…何なら、父さんや母さんでも良いしさ…ちゃんと言ってね?」
「ああ…で、その…」
「何?」
まぁ、彼の今の雰囲気で言いたい事は何となく分かるんだけど。
「……」
敢えて彼の瞳を覗き込む様にすると俯いて黙ってしまった…ありゃ、プレッシャーになっちゃったかな…でも、その願望はちゃんとこっち見て言って欲しいなぁ…
「ほら一夏、言いたい事が有るならちゃんと私の顔見て言って?」
「!…■■さん、分かってて言ってるよな…?」
「フフ…さぁね?」
「っ…ハァ…ホント、アンタには勝てないよなぁ…」
「コレも勝ち負けじゃない…今は、ただ君が言えるか言えないかの話だよ?」
一回口に出して…私の反応から脈無しを理解して…一度諦めたけど…それでもあるいは、身体だけの関係なら…あるいはイケるかもって、そう思ったら…まぁ、再びソレが戻って来てしまったと…うん、私も…君になら、構わない…でも、あくまでこの場でそう言う事をしたいのは君で有って…私じゃない。だから、君から行動しないといけない。
「その、アンタの心は手に入らない…それは分かった…でも今、もし俺がしたいって言ったら…?」
「…フフ…ちゃんと聞こえたよ…うん、良いよ。」
「!…本当に?」
「私は君なら構わないよ…ただし、条件が有るよ。」
「何だよ?」
「…何処まで行っても、私から君への気持ちは絶対変わらない…それを必ず念頭に置いて欲しいって事、それから…千冬に何もかも、ちゃんと包み隠さず説明する事…それが条件。」
「っ…それかぁ…」
「いや、束もちゃんと自分で千冬に話してるからね?まぁ、今回は事後承諾で良いとは思うけど。」
「…ちなみに、やっぱりいつかは俺に気持ちが移ったりは…」
ふぅ…無理だって、もう言ったんだけどなぁ…
「無いねぇ…悪いけど、それは本当に無い…私、心も命も全部千冬にあげたからさ…ま、私の身体の方は千冬だけでなく…現状束と千冬の共有物になってるけどね…」
「命もか…それ、冗談じゃないんだよな?」
「うん、それは千冬も理解してるよ。」
「…理解してて、あれだけ負担掛けてるのか…」
「まぁ、ね…でも、制御しきれないアレが千冬なりの愛情なんだとも思ってるし…」
「…ふぅ…ま、俺はもうこの場では何も言わないよ…その資格も無いだろうし…」
「…そう卑下しなくても良いでしょ。束ですら、あまりに目に余ると思ったら時々千冬に色々言ってるみたいだし。」
「目に余るって…束さんが何でそこ言えるんだよ…普段見てるわけでも無いだろうに…」
「あー…良い機会だから言っておこうか…実はね、ウチは元より織斑家も…どっちにもカメラと、後は集音器か盗聴器…んー…多分両方かな、仕掛けてるから…束が。」
「…へ?…マジで?」
「うん、マジ。」
「…やめさせないのか?」
「暗黙の了解ってやつかなぁ…何より私も千冬も…特に今更、束に隠す様な事無いし…」
「…じゃあ時々、あの人がまるで計ったようなタイミングで現れるのって…」
「うん、アレは要するに…本当に自分が必要になるタイミングを確認してから動いてるの…ちなみに、最近は千冬も結構大人しいよ。時々反動で激しくなるけど…」
「…その、もしかして…あまりやり過ぎると…あの人が殴り込みに来るって分かったから…」
「うん…と言うか、実際…一回普通に束が来た事有るんだって…最中に。」
「……その時、千冬姉は■■さんに何をやってたんだ?」
「う~ん…私は途中で完全に意識飛んでたみたいで詳しく知らないけど…首絞められてたって「大丈夫だったのか!?」ああ、その辺は大丈夫…ま、絞められた時の跡はしばらく残ってたけどね…とは言え、さすがに束もその時は文字通りブチ切れてたみたいでさ…本当に堪えたみたいだよ…あの時から、千冬も前までに比べたら遥かに優しくなったなぁ…」
ま、千冬も何処かで耐えられなくなるのか…ある程度するとまた乱暴にはなるけど…少なくとも、首を絞められる事は無くなったなぁ…
「…にしても失神する程って…千冬姉、どれだけ■■さんに負担掛けてんだよ…と言うか、■■さんも嫌だって言ってるだろうに…」
「んー…私の声は届いてないだろうね「いや、届かないってそんな」…だって私、千冬の行為を本気で拒否する気は無いから…強く言ってない以上、そりゃ届かないでしょ。」
「…いや、それでも■■さんだって他にも抵抗「あ、私それもしないから…基本的に」…は?」
「私、最中に千冬からどれだけ酷い事されたとしても本当にそこまで抵抗するつもりないから…仮にまた首絞められたとしても、掴まれた瞬間は本能的に手を出すかも知れないけど…すぐに抵抗はやめるだろうね…」
「何でだよ…そしたら■■さんが辛いじゃないか…」
「だって、千冬がそうしたいのを私は止めたくないし…何なら無理に抵抗して、千冬に怪我もさせたくない。」
「だから、毎回■■さんが耐えるって…?」
「…そう言っちゃうと聞こえは悪いけど…でも、結局それは千冬がそれだけ強く私の事を求めてくれてる証では有るだろうし…それに関しては、やっぱり嬉しいからねぇ…そこ嫌がるって気にはならないかな…あ、でも最近は首絞められて無いよ?」
「…本当に俺、■■さんとヤッて良いのか…?」
「良いよ、私の事なら気にしないで…あ、何なら一夏も…私の首、絞めてみる…?」
「っ…やめろよ…俺、そんなのしたくない…」
「そっか……絞めるとアソコも締まるから具合良いらしいけど?」
「そう言う問題じゃない…俺は、そんな事したくない…」
「そう…で、結局するの?」
「うん…その、優しくするから…」
「その辺は、一夏に任せるよ。」
「…責任重大だな、分かったよ…」
…その後は、正直…時間こそ長くなったものの一夏の方が満足出来たのか不安になるくらい彼は優しかった…ま、これくらいで本当に良いなら…束の他に彼が増えても大丈夫だけどさ…
「…ふぅ…」
ロケット内に用意された実質私専用の喫煙所…レゾナンスから戻ってすぐ、私はここに直行していた。
「…■ちゃん。」
「ん?何?」
実は何故かまた束が付いて来てたり…まぁ、ここで私が吸いに行くって言うと…結構な頻度で来るんだけどね…別にそうやって見張らなくても程々にしか吸うつもりないんだけど……警報鳴っても困るし。
「…少しはやめれないの、ソレ。」
「んー…禁煙しようって、実際何度か思ってはいるんだけど…中々ね…」
物事をある程度計画的に進められる人からしたら甘い事を言ってると…そう言われるとは思う…でもやっぱり、今更やめられない。
「元々は吸ってなかったのに…」
「…元々は、あの頃色々抱えてた千冬の気持ちが少しは分かるかもって…そう思って、既に千冬がやめて…少ししてから何となく買って吸ってみただけなんだけどね…最初の一本を吸った瞬間に噎せて、そこから散々咳き込んで…気持ち悪くもなって…だから、一緒に買った灰皿に必死にタバコを押し付けて火を消して…箱ごと残りを捨てようと…確かに、そう思ったんだけどね…」
「でもしなかった……何で?」
「…ふぅ…そもそも…何で今、そんな事聞くの?」
「…束さんには、教えられない?」
「…別に、そんな事無いけど…んー…そうだね、あの時は…捨てようとして、そこですぐに動きが止まった…何でか、文字通り指先含めてその場で完全に動けなくなった…とにかく何でそうなったのかの理由を考えてたらさ、気付いたの。」
「何に?」
「…コレは、きっと今の私に必要な物なんだって…学生時代…千冬は千冬で色々悩んでたんだろうけど、私も…あの時は色々参ってたんだろうね…そこまで考えた所で、私の身体の制御が戻った…その瞬間箱と灰皿掴んで自分の住んでる部屋を出てアパートの裏に…空気が籠らない外で、咳き込みながらもちょっとずつ慣らして行って…無くなったら銘柄は気にせず適当にまた買いに行って…その日はずっとその繰り返し…そこからはこうして…今もズルズルと、ね…」
「ホントにもうやめれないの…?」
「…ふぅ…やめるやめるって、普段千冬や一夏君には言ってるけど…貴女には正直に言おうか…多分、無理かなぁ…本数は減らせるだろうけど…きっと、一生無理…本当に死ぬまで。」
「そんな寂しい事言わないでよ…」
「…あ、いや…別に束にそんな顔して欲しいわけじゃないんだけど「何か悩みが有るなら相談してよ!」…って、言われてもね…私の中でこのモヤモヤを上手く言語化出来無いんだよね…だから相談しろって言われても、ね…」
「だって…吸ったら少しでも気持ちが楽になるとかなるなら私も大目に見るけどさ…少なくともちーちゃんはそうだったんだと思うし…でも、■ちゃんは吸えば吸う程…何か逆に苦しそうな顔になって行くから…」
「…そうなの?」
それは気付かなかったなぁ…ま、でも…
「…ふぅ…こうして始めから有毒だと分かってる煙を吸って、吸いきれない分を吐き出す…喫煙って、要はそう言う事で…付き合い方次第で薬にもなるって言われるアルコールとは全然違う…それは分かってる…こうしてる間も、私の肺には有毒物質がどんどん溜まってくんだろうって…百害有って一利無し…そう言われるのも分かる…でも、やっぱり私には必要なんだよ…少なくとも貴女だけには、分かって欲しいな?」
「…ハァ…年一回の健康診断、サボっちゃ駄目だよ?」
「…ふぅ…アレ現状の私の職種だと義務だから、どうせサボれないけどね…」
とは言え、仮に医者にやめろって言われたとしても…多分、コレに関しては絶対やめられないけどね…
「…■ちゃん、もうそれ四本目…警報鳴るよ?」
「っ!」
手が止まる…うー…今はまだ吸いたい…
「束?…その、今日だけで良いから「駄目!」…まだ何も言ってないのに…」
「どうせ今だけ警報止めてって話でしょ?駄目。」
「…だって、次は六時間待たないと警報生きてるんでしょ?」
さすがにガチで吸いたい時に、三本吸ったら次は六時間も開けないと結局また警報鳴るとか…ちょっと辛い…いくら何でも徹底し過ぎだよ…と言うか、時間開けた所でどうせ健康的には大差無いでしょうに…
「せめて束さんの近くに居る時はそれくらい聞いてよ…絶対、譲らないからね?」
「…ハァ…分かったよ、親友で…ここの家主の束に従うよ…」
ま、最悪また夜中に吸おうかな…ふぅ…これぐらいは私の自由にさせて欲しいんだけどなぁ…