親友の妹に転生しました   作:三和

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以前、柳韻先生…束の父親から聞いた話だ…

「千冬君。」

「…はい、何でしょうか?」

「少し話が有るんだが…構わないかな?」

そこで先生があいつの方に顔を向ける…外してくれ、と言う意味なのだろう…

「…じゃあ私、外で待ってるね?」

「ああ、分かった。」

「すまないね、■■君。」

「いえ、大丈夫ですから…失礼します。」

「…あいつに聞かせられない話ですか?」

「…うむ。彼女の事についてだからな…」

「それは…一体、どのような…?」

「…彼女もこの道場に通う様になって、そろそろ長くなるね…」

「そうですね…」

私が小学生の頃から通うこの道場…私の一年遅れで入って来たあいつは、今も私に勝ち切る事こそ無いものの…それでも、今の私にとって唯一の好敵手と言って差し支え無い…私と打ち合って、制限時間一杯まで私の攻撃を受け切り…結果、引き分けるなんて芸当が出来るのは現状あいつだけだ…正直、これから先もそんな存在は他には現れないのでは無いかとすら感じている…

「正直、あいつがここまで強くなるとは思っていませんでした…私を追うようにここに来たものの、あまり向いてないのでは…と、最初はそう思っていましたから…」

「確かに今の彼女の性格的には剣に限らず武、そのものが向いてないのかも知れないね…が、それとは裏腹に…彼女は武の才能自体には恵まれている…」

「以前言っていた話、ですか…」

これも先生から聞いた話だが…恐らくあいつはここに来て初めて"剣"に触れたその瞬間…あくまで無意識的にだろうが、既に自分なりの剣の理を見出していた筈だと…本当は、教える必要はあまり無かったのだと…それどころか、実際はそもそも他者からの助言そのものが彼女にとってただのノイズでしか無く…言ってしまえば何処までもマイナス要素でしか無いのだと…当初、私はこの話に付いて懐疑的だった…が、今日まであいつと剣を合わせて行く内…あいつに対してヒヤリとさせられる瞬間を私は何度も味わって来た…それは要するに、私とあいつの使っている篠ノ之流…その裏をかく動きを、あいつがそれだけの回数繰り出して来たからに他ならない…

仮にも元は戦場で生まれたと言う実戦剣術…いくらそれをあくまで剣道と言う命のやり取りの無い、ルールに縛られた試合形式の場で使っているとしても…その理念そのものが完全に失われたわけでは決して無い…もちろん、あくまで人間が作ったものなのだから確かに弱点は有るだろう。ただ、それを発見し…且つ突いて来ると言うのをやるのはそう簡単に出来る事じゃない…実際、あいつも私も現状同年代の中ではお互い以外に敵無しと言っても過言では無い。

つまり、それだけ優れた技術をあいつは試合中に普通に破るのだ…しかも、本当に単なる思い付きで…加えてその後のあいつの様子を鑑みるに、そんな凄まじい事をあいつは完全に無意識下でやっている…突き詰めれば、あるいは新しい流派すら作れるかも知れない事をだ…もちろん、あくまでそれは物に出来ればの話だ…実際に自分が繰り出した動きを、試合後のあいつは基本的に覚えていない…仮にそれをあいつが意識して出来るなら、あくまで篠ノ之流に依存する形で今の強さを得ている私など…今日ここに至る前に何処かで敗れているだろう…一度で有るなら、私も反射で受ける事が出来る…今まで実際にそうして来た…だが、それがもし仮に二度三度と続いたら?しかも、一回の試合中に起こるなら?一撃…二撃…三撃目までなら多分私も受け切れる…が、四撃目…それをあいつが篠ノ之流を使いつつ、且つ…時折混ぜて来る形なら…

それ以上考えるまでも無い…その場合、やはり堕ちるのは私の方だ…だが、そこまで考えた私に先生は言った…恐らく、そうはならないと…何故なら、あいつは自分が"枠組み"から外れるのを本能的に恐れている節が有ると…だから、いずれはこちらの裏をかく様な行動は消えて行き…最後は未だ改善の余地が無いあいつの唯一とも言える弱点…スタミナ不足の面だけが強く出る筈だと…だから、これから先もずっと私とあいつの差は縮まる事は決して無いと…あいつが篠ノ之流と言う"枠組み"にこだわり続ける限り…

……と言うのは、既に終わった話だ…結局あいつの才能どうこう以前に、あいつがやりたいと望んでここに来て、それを今日まで本人が嫌な顔一つせずに続けている以上…"習わない方が強いから"と言う理由で辞めさせる、と言う事は私は元より…先生にもさすがに出來無いからな…とは言え私としては寧ろ、本気でやり合った先であいつに敗れると言うならそれはそれで本望では有るし…何なら親友のせっかくの才能が肝心の本人も気付かないまま、埋もれて消えて行ってしまうのは非常に残念な事では有るのだが…

「…で、それが何か?」

「…いや、さっきのは本題では無いんだ…千冬君、君は君に出会う前の彼女の事を彼女の口から聞いた事が有るかね…?」

…嫌な話を思い出した…

「…すまない…彼女が当時虐めに遭っていた、と言う話も既に私は聞いている…」

「…あいつから、聞いたんですか?」

私は先生に対してその事を口に出した事は無いし、束が言うわけも無い…

「うむ…少し前にね…」

「…そうですか…で、今更その事で何を私に?」

「…いや、コレも本題では無いんだ…そうだね、更に話はズレるが…君は彼女をどう言う人物だと思う?」

「…つまり、私から見た彼女の人物像を聞きたいと?」

先生もあいつの事は良く分かってる筈だが…

「そうだね…君から見て彼女はどう言った人物かな?」

「…そう、ですね…こう言った表現を使うのは的確かどうか分かりませんが…良く言えば、聖人…悪し様に、と言うか…ハッキリ言えば、最早病的とすら思える程…それこそこっちが呆れるくらいのお人好しですね…いつも私や束、あるいは他の誰かの為に自分をすり減らす様に…毎回他人の為に奔走している…加えて言えば、束を含む多くの人間に振り回されてもほとんど文句も言わない…その上、抱えている物が自分の能力を超えていても…ギリギリまでこっちに何も言わないどころか、そもそもこちらが気付くまで口に出そうともしない…嫌いな人物では決して有りませんが、いつもどうしてそう…人の問題にばかり首を突っ込み続けるのかと不思議に思います…その癖、自分は賞賛は元より感謝の言葉もまともに受け取ろうとせず…照れ臭いからと言って茶化す…一緒にいて退屈もしませんが、損な性格をしてるなと…」

正直、上手く纏まってる気はしない…と言うか、改めて考えても本当に冗談の様な人物評だ…知らずに聞いたならとても現実に居る様な奴には思えない…ただ、実際あいつの事を長く見て…今日まで付き合って来た私からすれば、そう間違って無い評価の様に思う。

「ふむ、成程…では、もう一度さっきの話に戻るんだが…君は彼女から自分が虐められていた理由に付いて聞いた事が有るかね?」

「…そう言えば、確かに理由を聞いた覚えは有りませんね…先生はそこまで聞けたんですか?」

「うむ…彼女はこう言っていた…当時の自分は、家族を含む他人に全くと言って良い程に興味が無かったと…かと言って、そんな自分が周りにどう見られているかすらも考えた事が無かった…と。」

「…つまり、当時彼女が虐められた原因は周りを顧みなかった事によって生じた軋轢だと?」

「彼女の言っている事が正しいならそうだろう…」

「それはまた…今とは全く、真逆の人物像ですね…」

正直、そんなあいつの姿は余り想像が付かない…初対面の時こそさすがに硬さは有ったが…それでも、そんな奴じゃ無かった様に思う…

「彼女は…千冬君、君に出会ってから自分は変わる事が出来たと言っていたよ…」

「…私に会ったから、ですか…?」

「人が誰かと出会った時…そのたった一つの出会いが、凝り固まっていた筈の価値観まで大きく変えてしまう…と言うのは何も珍しい話では無い…人が人に与える影響と言うのは、それだけ大きな力を伴う事は確かに有る…」

ここで私は一つ疑問に思った…先生の言ってる事自体は確かに理解出来る…普通人に影響されると言うのは、大抵はその人物に対する憧れから起因する物だろう。

つまり出会い、憧れたその人物に自分を近付けようと考え…努力する。それが、要は影響を与えられたと言う事になるだろう…

…が、ここでやはり一つ疑問が生じる…"私"と言う人間と出会った奴が…今まで人をろくに顧みなかった状態から社交的な性格に変化する、と言う事が果たして有るのかと…

…あの時先生は結局話を強引に打ち切ったが…私にはあの人が何を言いたいのかは分かっていた…"私"と出会った事…それがあいつの今の性格に変化する理由になるとは考えにくい、と…何故なら、私も本来他人にはあまり興味が無いのだから…

つまり、あいつが変われた事には…きっと、他に何か理由が…そこまで考えた所で、あの時の私の頭には…もう一つの疑問が浮かんでいた…

本当にあいつは、変わる事が出来ていたのか…?と…もしかしてあいつは、今も…




「…むっ…寝てしまっていたか……ん?」

「すー…すー…」

目を覚ました私の耳に静かな息遣いの音が届く…音の方向に従って視線を向けると…そこには愛しい人間の顔が…と言うか、この体勢は…そして、次に背中に少し冷たくは感じるが…僅かな温もりを感じる物が…その内、眠る前の記憶が蘇って来る…

「全く…あれだけ酷い目に遭わされたのに、どうしてお前は元凶で有る私に対してそんなに優しく抱き締めるなんて事が出来るんだ…」

「…ン…それはね、千冬…私が、それだけ貴女を愛しているからだよ…」

「…起きていたのか?」

「…ついさっき、ね…千冬の独り言が大きかったから…」

あいつの閉じていた目が開く…

「成程な…すまん…」

「ううん…良いよ…ふぅ…あー…今何時?」

「今か?…ちょっと待て…」

壁に掛けられている筈の時計を見ようとして気付く…ここが私の部屋ですら無い事、そして…寝る時は外している筈の腕時計がそのままで有る事…つまりコレは…

「…ああ、成程…昨夜は帰って来て早々…お前を押し倒したんだったな…」

「ちょっと…忘れてたの?…ハァ…ま、良いや…で、何時?」

そう言われて私は腕時計を見直す…ふむ…

「三時過ぎだな。」

「…午前のね、了解…んー…もうちょっとしたら一夏も起きて来るね…ほら、降りて降りて…服着ちゃいたいから…」

「…あー…そうか、お前は今裸だったな…」

「…いや、だからそれも気付いてなかったの?ま、とにかく早く降りて…」

そう言われ、私は取り敢えず横に転がって軽い衝撃と共に床に落ちる…ソファも近くに有ると言うのに、結局そのまま床の上で寝ていた様だな…

「…と、忘れてたけど…"コレ"、いい加減外してくれない…?」

「ん?」

そう言われてあいつの方に目を向けると…仰向けで横たわるあいつが両手を上に掲げている…その両手首に銀色の輪が嵌り、その輪を鎖が繋いでいる…

それは一般的に、"手錠"と言われる物で…

「…ああ、何故かこの部屋に有った物を昨夜お前に嵌めたんだったな…」

そう、それは確か…以前一夏に買ってやった玩具だった様に思う…

「…もう突っ込まないよ?とにかくコレ早く外してよ…鍵は何処に有るの?」

「…いや、私も知らないぞ?」

「へ?」

「それは元々一夏の物でな…何故この部屋に有ったのかも私は知らん…鍵が今この部屋に有るのかも分からん…」

ここは要は、私と一夏の住む織斑家…その居間に当たる…本来アレは一夏の部屋に有るのが自然で、何故ここに有るのかも分からん…いや、勢いで嵌めておいて何だが…本当に鍵の在り処が分からないんだよな…

「勘弁してよ…一夏が起きて来ちゃうでしょ…私、これ外さないと服も着れないんだけど…」

「そもそも何で、この部屋に有るんだろうな…一夏とそう言うプレイでもしてたんじゃないのか?」

「…いや、昨日千冬が帰って来る前に彼としたかと言われればしたけど…さすがにそんなプレイはしてないよ…と言うか、今は良いでしょそんなの…早く鍵探してよ…」

「……」

「…うん、嫉妬する気持ちも分かるんだけどさ…千冬だって今日も早いでしょ?とにかく鍵「それは以前一夏に買った玩具だ」…それで?」

「所詮子供向けの玩具で有る以上…安全の為に、鍵が無くても外す事は出来るんじゃないか?」

「成程……ん、ひょっとしてこのレバーかな……ふぅ…やっと外れた…」

手錠が外れて顕になったあいつの手首には、思った以上に痛々しい痣の様な跡が…

「…痛むか?」

「…ああ、コレ?確かに痛いっちゃ、痛いけど「すまん…」…ま、別に良いよ…気にしないで…」

「…ところで、一つ良いか?」

「何?」

「…もう一回、それを嵌めてくれないか?」

「…ハァ…この流れでそれ言うかな普通…ま、良いけども…その前にそこに落ちてる服は着させて…後、胸だけにしてよ?もうちょっとしたら一夏の起きて来る時間なんだから…」

…その後は本当に手錠を嵌めた状態のあいつの胸を一夏が起きるまで堪能させて貰った……実はその間も、さっきの夢で思い出した嘗ての疑問がずっと頭の片隅に有った…

つまりあいつは、本当は今現在も変われてなどおらず…空っぽのままなのでは無いかと…

そう考える度に得体の知れない恐怖を感じた…あいつに一言確認すれば、きっとあいつは答えるだろう…そう言う確信は確かに有る…だが、それは同時に…今のあいつとの関係に亀裂が入る事になるのでは無いか…そう言う予感が有った…

疑問は今日の仕事に追われて行く内に以前の時の様にまた消えていくだろう…実際は、見ない様にしてるだけ…それも分かっている…だが、破滅に繋がるスイッチを分かっていて押す勇気は…今の私には無い…

仮に許されるなら、今しばらくはこのままでいたい…それを甘えだと断じる事は、こうして幸せを得てしまった今の私には出来無かった…


*157

「急にどうしたの?…私と一緒に寝たいって言い出すなんて…」

 

今日は私の休暇の最終日…昨日までの様にまた皆で寝るのかと思ってたら、ここに来てから一人部屋だった千冬が急に私と寝たいと言い出して…その後束も母さんは元より、クロエまで束の部屋で寝ると言い出して…結局、こうして私と千冬が同じベッドに入ると言う構図が出来上がってしまっている…何せ部屋にベッドは一つしか無いからね…

 

「何だ、嫌なのか?」

 

「…別に嫌じゃないけど…どうしてかなって、

思って…」

 

と言うか、同じ部屋で寝るのは昔からお互いの家に泊まるとかやってた私たちには良く有る事では有るし…同じ寝床、と言うのも一応無くは無いけど…さすがに大人になった今では、泊まる事は有ってもそれは基本無い…どうしても意識しちゃう…

 

「深い理由は特に無い…強いて言うなら、私が久しぶりにそうしたくなったと言うだけだ…嫌では無いんだろ?」

 

「…まぁ、うん…さっきも言った通り、嫌では無いよ。」

 

良く考えたら、私が変に考え過ぎてるのかも…と言うか、何らかの間違いが起こる事を期待しちゃってるんだろうね…とは言え、千冬には当然その気は無いんだろうし…ハァ…私に度胸も無い以上、"何か"が起こるわけも無い…か。

 

「しかし…昨日まではあいつらと一緒に寝てたんだろ?」

 

「うん、母さんの希望でね…あの人寂しがり屋だから…」

 

ま、偉そうに言ってなんだけど…ある意味私も人の事は言えないだろうとは思う…一人で部屋に居ると、割と千冬の事が恋しくもなるし…何なら、夜中に自分の部屋で目を覚ました時に…束が布団の中に居ると安心してしまうのは学生時代は元より、今も変わらない…本人に直接言った事は無いけど、束も寂しがり屋で有る事に私も助けられてると思う。

 

「そうか…じゃあ私一人だけだと不足か…」

 

「そうでも無いよ…ふぅ…正直に言えば、結局私もそうだからね…こうして親しい人間が一緒に寝てくれるって状況は結構落ち着く面は確かに有るんだよね…別に人数は問わないよ…と言うか、さすがにあの三人と一緒だとベッドが広くても割と窮屈でさ…何故か、大体三人共私にしがみ付く様にして寝てたから…」

 

「その状況だと暑さも伴って、私なら悪夢を見そうだけどな…」

 

「…幸い私は見てないけど、確かにそうなってた可能性は有るかも…」

 

ただでさえ暑い上に三人もの人間にしっかりとしがみ付かれてる状況…何だろう、確かに言われてみればキツイ悪夢を見そうな気がする…そうだね、例えば…

 

「んー…アレかな、地獄で大量の亡者にしがみ付かれてる様な…」

 

「状況が現実とほぼまんまで、捻りも無いが…確かにそう言う夢は見そうだな…」

 

急に頭に浮かんで来たソレ…突拍子も無い様で、実際は何となく私の中でしっくりと来た…思い浮かんだソレは映画のシーンか何かだろうか…出自はハッキリとしないけどね…っ…

 

「ん…ふわぁ……ふぅ…ごめん…何かもう限界みたい…悪いけどそろそろ寝るよ、明日は早いし…」

 

「心配しなくても、私ももう寝るから気にするな…」

 

「うん…おやすみ、千冬。」

 

「ああ、おやすみ…」

 

さっきまで意識してしまって寝れないかと思ったのに意外とすぐに眠気が来た…ま、思ってた以上に色々疲れも溜まってたのかも知れないけど…何か、私も結構単純だよね…このまま寝れないよりは良いんだけどさ…

 

 

 

 

 

 

 

「寝たか…」

 

こいつの場合、何だかんだ昔から寝付くまでは長くても一度寝るとその眠りは急激に深くなる…つまり、本人は何をされようが基本的に起きて来る事は無いと言う事だ…

 

「……」

 

掛けていた毛布を退けて、横で寝ている奴に目を向ける…最終的に身体の上に乗る形になったがそれでも起きて来る気配は無い……と言うか微かだが…寧ろさっきより何処か、穏やかな表情に変わった様な…

 

「…いや、それはさすがに無いか…」

 

私自身太ってるわけでは決して無いと思っているが…一定の重さは有る筈だ…それが身体の上に乗っていて苦しくない、と言う事は…

 

「…そう言えば、こいつは夜中に不法侵入者である束が身体の上に乗っているのに気付いても寧ろ安心する様なタイプだったか…」

 

つまり、こいつにとっては寝ている時に誰かが身体の上に居る…と言う状況は寧ろ自然なわけだ…なら、安心してても可笑しくは……何故、だろうな…つまり今の状況は、普段気付いたら自分の寝床に入っているどころか…普通に身体の上で寝ている束と私がこいつに同一視されているのか、とそう頭に浮かぶと同時に…何となく、それが気に入らないと思えて来た。

 

「…学生時代はともかく、今はお前が私に抱いていた気持ちが何だったのか…それは理解出来ている…そしてそれが…私が今、お前に向ける気持ちと同一の物で有る事も…」

 

答えが出るのに時間は掛かってしまったが、な…が、にも関わらず…私たちの仲は未だに進展する様子は無い。今ではお前の望んだ通り、ちゃんと両想いだと言うのにな…

 

「…と言うか、お前の抱く"ソレ"もプラトニックな物では無いんだろう…?」

 

当然答えは返って来ない…ただ、小学生の頃からあれだけ人に情熱的な視線を向け続けて来たんだ…アレで情欲は含んでなかったら逆に驚きだし、普通に考えにくいがな…

 

「まさか、私の方からこの状況を作ってやったのに普通に寝るとはな…」

 

本当に、こいつは私が好きなんだよな…?意中の相手がすぐ横に居て、そのまま寝れるのはある意味感心する…こっちは興奮で、今も目が冴えて仕方が無いと言うのに…

 

「…まぁ、良い…お前がそう来るなら…私ももうしばらく、こう言う時間を楽しませて貰うとしよう…」

 

奴の着ているシャツに手を掛けて持ち上げる…私自身、卑怯通り越して完全にクズ同然な事をしている自覚は有るが…知らん。今は、ただ…この欲望を優先したい…劣情に身を委ねて…このままこいつを滅茶苦茶にしてしまいたい…何なら、未だに告白もして来ず…人にお預けを強いるこいつが悪いのだ…我慢など、してやる気にもならない。

 

…まぁ、もちろん…私から告白すればそれですぐに決着が着くのは分かっているのだが、な…ただ、正直に言えばこいつの告白の内容を聞いてみたいのが本音でも有る……決して、私に意気地が無いと言うわけでは…

 

「いや、誰に言い訳してるんだろうな…」

 

纏まらなくなった頭を振って切り替える…取り敢えずはこの視界に入る、決して大きくは無いが…しっかり存在を主張して来る山を堪能させて貰うとするか…

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