携帯のボタンを押して、電話を切る…今の電話は、要するに千冬の休みが急遽吹っ飛んだと言う話…ちなみに、今日は世間一般の多くの職場や学校では一応休日に当たる…そして、千冬が休みの筈だったと言う事は…自動的に一夏も夜まで居ない事を意味する…
「…夕飯の準備くらいは…いや、さすがにまだ早いかな。」
ソファは有るけど、何となく床に足を伸ばして座り…壁に背中を預けながら一人で何をするか考える…今はまだ午前中…加えて、ここは織斑家…私の住んでるアパートの部屋では無いから、色々勝手が違う。
一応もう、第二の自宅みたいなものと言えばそうだし…ここに昔から住んでる二人もそう言ってくれてる…でも、私はここに初めて来た子供の頃から一人にされると…何となく、落ち着かない気分になっていた…
…それは、実は今も変わってない。こうして一人でいると…時々、何となく家の方から拒絶されてる様な…そんな気分になる…ふぅ…加えて…
「…フフッ…元々、二人が居ないって決まってた日じゃないから…束が来るかどうかも分からない…」
自然と、自嘲の笑みが浮かぶのが分かる…と言うか私の場合はそもそも、結局"そう言うもの"として振舞ってるだけで…実はそんな"感情"も無いわけなんだけど…ふぅ…ここに誰も居ない今、私は演じる必要も無いわけか…
まさか、この家で自分の中のスイッチが切れるなんてね…ま、子供の頃から数えても…ここまで長時間この家で一人で居られる事が確定したパターンは余り無い所為か、何処か戸惑いの様なものを感じ……ま、実際はそう思い込んでるだけなんだけど。
「……」
いつの間にか、私の良くする癖と言う事になっている独り言も出なくなっている。そして…私は自然と子供の頃の事を思い出す…まだ千冬と出会う前、今となっては曖昧な記憶が多い中…それでも未だ鮮明な、私の中で特に印象的な出来事を…
『……』
母親から買い与えられた"ソレ"を初めて直に見た時、私はすぐにソレが自分に似てると…そう感じた。
ソレは子供向けで、こちらを笑顔で見て来てる様で…実際は目の焦点は有っておらず、使われてる素材の所為も有るのか…何処と無く無機質にも感じられた。そして、口だけはちゃんと弧を描き…全体で見れば一応"笑顔"とは言えるんだろう…ただ、その…多くの"普通の状態の人間"には逆にちょっと浮かべにくいかも、とも言われる事も有る表情…少し難しい言葉で言えば、アルカイックスマイルなんて呼ばれる事も有ると言う…
そんな独特な表情をした、人を模した物体…広義的にはソレを…"人形"と、人は呼ぶ。
当時の私はソレを見て確かに感じた…自分に似てる、そっくりだと…もちろん、顔が似てると言うわけでは無い…と言うか寧ろ、顔そのものは私と似ても似つかない。でも…笑っている様で、実は笑っていない…そんな無機質な所が、確かに自分に似ていると感じた。
…ま、単純に言えば本当にそれだけの話。でも…あの日感じた事は今も、私の中でこうして消えずに残っている…
ちなみにその人形は…今も、私が一人で住むアパートの部屋に飾られている…当時の私からすれば、似ていると言う以上に特別な思い入れとかは別に無いどころか、そもそもそう言う感性自体が私の中には無かったと言って良い…けど、ソレは母親からのプレゼントで且つ…当時まだ家族と住んでいた私の所に遊びに来た千冬が一目見て気に入ってくれたから…
そんな理由から手放す気にもなれず、未だに私の部屋にソレは有る…もちろん、埃まみれとかにはならない様に時々軽くでは有るけど手入れは怠っていない。
今でこそ千冬は置かれてるのを見ても、私の部屋の風景の一部と言う認識なのか特別反応は無い。でも、急に無くなったら私にどうしたのかと聞きはするのだろう…それが起きれば、多分私がソレに愛着を持っていない事がバレる…そしてそれはきっと…私に人並みの感情が宿っていない事が千冬に気付かれる事に繋がるだろう…
だから、余計に手放そうと言う気にはならない。
「…ふぅ…」
溜め息が零れる…でも、それ以上特に私の中で何かが纏まる事も無い。と言うか、元々私にそんな機能は無いのだろう…ただ、それでも…
「…千冬。」
この場に居ない人間の名前が自然と口から漏れる…こんな空っぽで、文字通り暗い闇の中に居た私を照らしただけでなく…その空間に亀裂まで生じさせた最初の存在。当時初めて会った彼女の姿は、全てが灰色にすら見えていたあの頃の私の世界で唯一、色付いて見えていた。
彼女と出会った私は、自分を変えようと努力した…そうしないと、彼女が私から離れて行ってしまうんじゃないか…そう思ったから…
「……」
それは、空っぽの筈の私に芽生えた恐れとも言えるナニカ…そして、出来上がったのが今の私。彼女を手放したくなくて…どうしても近くに居て欲しくて…そうして"偽りの自分"を創り出した私の周りには、彼女程じゃなくても…私を照らしてくれる存在が増えていた。何なら、元からすぐ近くにも居たのに気付かなかった"家族"と言う存在…多分、何となく私の異常性も察していただろう皆も…私の変化に戸惑う事も無く、普通に接してくれた。…まぁ、両親はともかく…兄に関しては、私の方が最初は余り上手く接する事が出来無かったんだけど…
そしてずっと、創り出した自分を本当の自分だと思い込んで…私は今も生きている。奇跡が起きたんだと、空っぽの人形だった自分が…ちゃんと人になれたんだと…最初はそう思っていた…
だけど…その後も時折、やっぱり自分は空っぽなんだと思い知らされる時が何度も有った…その度にそれは違うと、"あっち"があくまで偽物なんだとそう思って…
「……」
でも、大人になって…今でこそ無職で、こうして無為な時間を過ごしているけど…一時期、一応私は社会に出て…ちゃんと仕事をしていた。そして、その時にハッキリと分かってしまったのだ…全ては錯覚でしかない…いや、と言うよりも…結局は私がそう思い込んでいただけ…やっぱり何処まで行っても私は空っぽなんだって、そう認めざるを得なかった…
「……」
この場所でこうまで明確にスイッチが切れてるのは珍しい…でも、大人になって仕事をして…自分一人で住んでいるあのアパートの部屋で自分以外誰も居ないと…こうして、私のスイッチが自然と切れる事は多かった…今現在も自分で、制御の出来ていないソレ…
その事実から言える事は…やっぱり私は普段"演じている"だけで、結局は空っぽのまま…そして、スイッチの制御が最早出来無くなったと言う事は…それだけ、"私"に無理が来ていると言う事…周りに他に人が居れば今でも何とか取り繕う事は出来るけど…多分、いつかはそれも出来無くなる…
「…千冬。」
また彼女の名前が口から零れる…こんな自分を見せたくないとそう思っているのに、また私の前に現れて…もう一度救って欲しいと、そう…浅ましい望みを抱いてもいるのだ…もちろん、これはあくまで私自身の問題で…彼女にも、もう何も出来無いのは分かっていても…
「……」
改めて私に対して、私が彼女に向けている執着よりも…更に強い"ソレ"を私にぶつけて来る女性の事を想う…彼女の"ソレ"は文字通り強過ぎて、時に私に物理的な痛みを与えてしまう程…それは私には無い"感情"から起因する物だと言うのも、一応私には理解出来てはいる。
そして、それをぶつけられる度にあくまで何も無い筈の…偽りで有る筈の私のナニカが確かに疼いている様にも感じるのだ。それを味わう度に、私はやっぱり"人間"に成れているんじゃないかって…そう思い込む事が出来る…と、同時に思ってしまうのだ…それが感じられなくなる前に私と言う存在を消して欲しい…壊して欲しいと…そんな、私ですら悍ましいと思える願いを抱いてしまう…彼女に、このまま私を殺して欲しいって…
その度に、感情らしき物は無くてもちゃんと私の中に有るらしい"理性"が"私"にストップを掛けているのを感じる…だから、幸い今も口に出さずに済んでいる。
「……」
とは言え、いつまでそうしてられるのかは分からない…こうして一人になると分かるのだ…もう本当に、限界が近いのだと…そこで自分の意識が何故か浮上する…停止していた視界が戻って来て、今の自分が居る場所を改めて見回す…
「…そっか、私は今…一人なんだよね…」
それを認識した時…一つの結論が出た。今なら、私の行動を邪魔する人間は誰も居ない、と。
「ま、ここでやるわけには行かないか…」
取り敢えず、この家に有る私の私物は全部処分出来る様にしてしまおう…最後までする事は出来無いけど、私が居なくなってからも…二人にあまり迷惑を掛ける事が無い様に…
「…じゃ、始めようか。」
持って来たゴミ袋と、この家に有った数少ない私物をどんどん袋に詰めて行く……そうして行く内に何故か、自然と鼻歌の様なものを自分が発してる事に気付いた…ふぅ…実は全くの錯覚じゃなくて、"私"も感情を持つ事が出来ていたのかな…でも、それが完全になる前にきっと私は壊れるだろう…だから、これからしようしている事をやめる気にはならない。
「ふぅ…こんなもんかな「何をしているのですか?」…っ…クロエ…?」
そこに居たのはクロエ・クロニクル…私の親友である篠ノ之束の義理の娘にして…そして、千冬と同じくらい…私に"光"を与えてくれた少女。
「何って…ほら、要らない物の処分だよ…と言うか、いつからそこに…?」
「ついさっき、です。…でも、今日の貴女の行動は…申し訳有りませんが、もっと前から見ていました…」
「そう…」
さっきまで完全にスイッチを切ってしまっていた為に…"普段の私"を演じる事が出来ていないのが分かる…駄目。確かに彼女には私の真実を既に話してはいるけど…今は、ちゃんと演じないと…これから私がしようとしている事を彼女に悟らせてはいけない…彼女に、そんなものを背負わせるわけにはいかない…
「…■■様、もう一度聞きます…貴女は今、何をしているのですか?」
「だから、要らない物の処分を「さっき映像越しにですが、見ました…そこに有る服は、この家に有る貴女の服…全てでは無いですか?」……」
「束様から聞いています…貴女は、衣服を必要最低限しか持っていないと…そして今現在、貴女は自分の家と織斑家を行き来していると…そう、聞いてもいます。」
「……」
「そして私は、完全にとは言えませんが…貴女の選ぶ服の好みは、ある程度把握しているつもりです…先の質問を繰り返させていただきます…その服は、この家に有る貴女の服…全てでは無いですか?」
「…ふぅ…やっぱり、貴女は鋭いね…」
ホント凄いよ、クロエ…分かってはいたつもりだけど…それでも、こんなにあっさり気付かれるなんて思わなかった…
「!…では、やはり…」
「…うん、この袋に入ってるのは…この家に有った私の服だよ…全部ね。」
「……」
「…ふぅ…加えて言うと、ここに有るのは…全部この家に有った私の私物だよ…」
「…貴女はさっき、これらを"要らない物"と言いましたね…?」
「…うん、そうだね…」
「要らなくは、無いですよね…?貴女がこうしてここに生きている以上…どれも、まだまだ使う物の筈ですよね…?」
「……」
「答えてください…何故、処分するのですか…?」
「…言わなきゃ、駄目…?」
「はい。」
今私の前に居る彼女は、私を見てるわけじゃない…彼女は、いつもと変わらず目を閉じている…でも、何となく私は今、彼女に強い視線を向けられている様な…そんな不思議な気分を味わっている…フフッ…まさか、こうして私を止めに来るのが貴女だなんて…本当に、思ってもみなかったよ…
「…ふぅ…ねぇ、クロエ?」
「何でしょうか?」
「…前に話したよね…私が、本当はどんな人間か…」
「…はい。」
「私ね、もう限界なんだ…」
「…どう言う事ですか?」
「"人間"を演じるのに、もう疲れたって事…でも、いずれなるだろう壊れた自分…あるいは、前の空っぽの状態に戻ってしまうのかも知れない…けど、どちらだとしても私は…そんな自分を…今の私を知ってる人には誰にも見られたくないの…駄目、かな…?」
「……です。」
「?…ごめん、良く聞こえなかった…もう一度言ってくれる…?」
「…嫌、です…私は、貴女に生きていて欲しいです…」
いつの間にか、クロエの閉じられた目から雫が落ちて来ていた…"あの日"の様に…
「嫌、なんです…私は、貴女を失いたくないです…」
「クロエ…」
今の私の手元には、あの日と違ってハンカチは無い…あの日の様に、彼女の涙を拭う事は出来無い……と言うより、本当はどうでも良いんだろうね…だってあの日…涙を流す彼女に対して感じた"疼き"も…もう、今の私には感じられないから…それでも…
「どうしても、嫌?」
「はい…」
「…それは、何故?」
「…私は、貴女の事が大好きだからです。」
…空っぽな私でも分かる…クロエのソレは千冬や一夏、束の様な恋愛的ソレじゃない…でも、彼女からは確かに愛情の様な物が含まれていると分かる…つまり、それは…
「貴女は、呼びたいの…?こんな私を…自分の家族だって…」
「はい…だから、嫌です。」
「…どうして、そう思ったの?」
「それは…私も、まだハッキリとは分かりません…でも、やっぱり私は…貴女を失うのは嫌です。」
その、抱いている本人ですらちゃんとした言語化が難しい…それでも複雑な、"想い"…それを私は…知識と、私自身の経験で知っている…重たくて、複雑で、厄介な…私も子供の頃から確かに何度もぶつけられた事が有るモノ…私には、理解は出来無くても…ちゃんと、"そう言う物"として知る事が出来たモノ…私の抱く"執着"とは違って暖かく…それでも時に、私の"執着"よりももっと…ドロドロしたモノ。
そう、それは本当に…"自分の愛しい家族"に多くの人が向けている所謂、"無償の愛"と言うモノで…私には、決して抱く事が出来無いモノ…そっか、貴女にはやっぱり…ソレをちゃんと理解して、こうして人に向ける事が出来たんだね…
それは、こんな私でも素直に嬉しいと思えるし…祝福を贈りたいとも思う……でも、ソレはこんな私に向けたら駄目だと思う。だって、ソレは…
「クロエ…貴女のその想いを向けるべきなのは、私じゃないよ。他にそうするべき相手がちゃんと、貴女には居るでしょう?」
「…束様には、もう伝えました…そして、私にとっては貴女も…確かに"そう言う存在"の一人なんだと…私は、知って欲しい…」
「クロエ…」
「本当に、もう駄目なんですか…?」
「…無理、かな…ごめんね…」
「…それは何に対しての謝罪ですか?」
「それは、ごめん…私にももう、良く分からないかな…」
うん、やっぱり私…今も空っぽのままだね…
「…分からなくても、良いんじゃないですか?」
「…え?」
「束様が言ってました…本来"感情"と言うのは、ロジックなんかでは決して語れない…決して、簡単に言語化出来たりもしないモノなんだと…計算で計る事も出来ず、あるいは…時に、急に予期せぬ時に芽生えたりもするモノなんだと…それは、機械で有れば一種のエラーとも言える物…でも、さっきも言った様に理屈では絶対に語れないそれを…私たち人間の間では、"感情"と呼ぶのだと…」
「……」
「分からなくても、良いじゃないですか…他人の事は目で見て…そして、どれだけ長く接してもその人の本当の気持ちなんて…結局分かりません。でも、自分自身の事なんて…ハッキリ分かっている様で、実際は時に新しい発見が見付かる事だって有る…つまり、誰も他人の事も…自分の事だって、本当はろくに分かってないんです…それは別に、貴女だけじゃないんですよ…?」
クロエが私に向かって歩いて来る……って、ちょっと!?
「クロエ!?杖は!?」
「咄嗟だったので、持って来ていません。」
「じゃあISを「持って来てません…私は今日、ただ…貴女を止める為だけにここまで来たんですから」じゃあ止まってよ!」
「嫌です!」
クロエが両手を前に伸ばし、目を閉じたまま…私の方まで歩いて来る…フラついてる…多分、普段は杖を突いて歩いているから余計に歩行が困難なんだろう…今は目も見えて無いから、恐らく距離感も掴めていない…あ。
「あー…もう!」
悪態を吐きつつ、私は床に有るゴミ袋を踏んづけてバランスを崩して倒れ込みそうになったクロエの方に向かって行き…受け止めた…そしてそのまま、私は彼女を抱き抱えたまま床に倒れる…もちろん、彼女を下敷きにしない様にして……ハァ…本当に、心臓に悪い…
「…もう…勘弁してよ、本当に「動けたじゃないですか」っ…え?」
「私を、助けに来てくれたじゃないですか。」
「何を…」
「本当に貴女に何の感情も無いなら、私の事なんてどうでも良い筈…助けになんて、来ない筈です。」
「その、それは…」
「貴女の言いたい事は分かります…きっとそれは、貴女が千冬様に向けているのと同じモノ…執着だって、言いたいんですよね?でも本来それは、愛着の有るモノに向けているモノ…つまりそれは、"感情"じゃないんですか?」
「あ…」
「そしてソレは…ほとんどの人は、これから壊れそうなモノ…既に壊れてしまったモノに向ける事は無いと思います…でも貴女は、こんなに必死になって私を助けに来てくれました…そして私は今、改めて実感しました…やっぱり、貴女は優しい人なんだと。」
「…それだけの為に、こんな事を…?」
「…正直に言うと、コケるのは私も予想外でした…」
「もう…寿命が縮むかと思ったよ…」
「それは、困ります…貴女には、まだまだ生きていて欲しいので。」
「ハァ…分かったよ、もうちょっと…頑張ってみる…」
貴女にこんな事されたらもう、そう簡単に死のうとも思えないよ…
「別に、頑張らなくても良いじゃないですか。」
「へ?」
「もう良いじゃないですか…本来の貴女で、皆さんに接したら…」
そこでクロエが私の胸に手を当てる…
「…やっぱり貴女は、バケモノなんかじゃ有りません…こうして暖かく、ちゃんと今も鼓動を刻んでいる…貴女は、正真正銘…"人間"です。」
「クロエ…」
「きっと貴女は、何らかの理由で今日まで"感情"をちゃんと理解出来て無かっただけの人です…でも、理解出来て無かっただけで…ちゃんと貴女にも有るんだと、今日こうして…証明されたんです…後は私と、他の皆さんと一緒に学んで行けば良いじゃないですか…」
「…今からでも、遅くないと思う…?」
「はい…私は、貴女がそれを出来ると思います…そう、私は信じます…」
「…それは、どうして?」
「…貴女は、ずっと私の事を信じてくれてたんじゃないですか?」
「え?」
「私がいつか、分からなかった事も分かる様になると…」
「それは…うん…確かに、信じていたよ…」
それは、本当に嘘偽りの無い確かな気持ち…私の中の捻くれた部分が何度警告を発しても、決して変わらなかったモノ…クロエなら、彼女なら…きっと出来るって。
「だからです…貴女が信じてくれたから、そんな貴女を私も信じたいと…そう思ったんです…私の期待に、応えてくれますか…?」
「…ふぅ…敵わないなぁ…分かったよ…何とかやってみる…」
千冬と同じく、貴女の事は私には裏切れない…こんな私に、そこまで期待してくれるなら…信じてくれるって言うなら、やらないわけにはいかない。
「…ハァ…貴女がこんなに積極的で、突拍子も無い事をする子になるなんて…思ってなかったなぁ…」
「そう思うなら、それはきっと貴女の所為です…貴女が、私をそうしたんです…」
「…参ったね…じゃあ、責任は取らないと駄目かな…」
「…それは、プロポーズですか?」
そう言うのも、もう分かるんだ…
「…んー…貴女はどうしたい?」
「…私は、遠慮します…多分、私が貴女に向けている気持ちはそう言うモノでは無いので…」
「…そっか。」
正直に言えばホッとした…私も、これ以上そう言う相手を増やしたくないからね…
「何より、千冬様に一夏様…それに、束様には勝てそうに有りませんから。」
「っ…束から、聞いたの?」
「いいえ…ですが何となく、そうなのかと…」
うん、やっぱりこの子…鋭かったね…ホント、敵わないし…何より子供だと思って侮れない…ある意味、彼女の事が恐ろしくも感じるよ…
「…ふぅ…ところでクロエ?」
「何でしょうか?」
「…今日ここに来る事、束には言った?」
「…貴女の様子が可笑しいので見て来ますとだけ…」
クロエのその言葉を聞いて、速攻で束に電話して…彼女にここでさっきまで有った事を全て話した。
『…そっかぁ…クーちゃん、頑張ったんだね♪』
「…ふぅ…やっぱり、驚かないんだね…」
『何が?』
「その、私の事…」
『…うん…学生時代には、もう何となく分かってたよ…』
やっぱり、そうだったんだね…貴女なら、気付いてるんじゃないかと思ってた…
「…ありがとね、今日まで…千冬たちに黙っててくれて…」
『気にしないで良いよ…で、やっぱりちーちゃんたちに伝えるの?』
「…うん。それで仮に千冬にフラれたとしても…もうそれでも良い…こんな事になった以上、余計に…ね。これ以上、二人を裏切れないし…」
『そっか…あ、クーちゃんどうしてる?』
「今は私と一緒に…っ…どうしたの、クロエ?」
未だ私の腕の中から出ようとしないクロエが、私の服を強く掴んだ…
「…私は、まだ帰りたくないです。」
「クロエ?」
「束様に、そう伝えてください。それと…」
「…成程。うん、分かったよ…今日は貴女の言う事を聞くから…」
『クーちゃん、何か言ったの?』
「今日は私と離れたくないんだってさ…それで、一つお願いが有るんだけど…」
『……うん…うん…分かった…じゃ、クーちゃんの事は頼んだよ?』
「了解。ちゃんと、傷一つ無くそっちに帰すから『クーちゃんは聞く限り、何か望んでるっぽいし…■ちゃんなら良いよ?』…馬鹿な事言わないの、自分の娘なんだから…将来の事はちゃんと考えてよ…」
『は~い……じゃあね♪』
「うん、それじゃあ……これで良い?」
「はい。」
「束、すぐに貴女のISを転送してくれるって…」
彼女からの提案は二つ、今日はこのまま私と居たいって事と…もう一つは、私と何処かに行きたいって事…とは言え、彼女はISが無いと視力が無い様なもの…いくら私が居るとは言っても、その状態で出掛けるのはちょっと不安だからね…
「楽しみです…」
「うん、何処行こっか…」
「そう言ってくれるのは嬉しいのですが…ただ…」
「ん?何?」
「…出掛ける前に、ここに有る物は片付けた方が良いかと…」
「あ…」
忘れてた…
「…私のISが来たら、お手伝いします…」
「…うん、頼むね?」
前までの私なら、きっと彼女に負担を掛けたくないとか思って…一人でやろうとしてただろう…でも今、私の口からは自然とそんな言葉が出ていた。
「!…はい、任せてください。」
…ちなみに、その後ISを受け取った彼女は凄かった…寧ろ、私が下手に手を出す方がかえって効率が悪くなる程に…さすがにちょっと情けなくはなったけど…ま、良いかな…今は、彼女の成長を喜ぶべきだと思うしね…
「…おい、ここは本編が書かれる部分じゃないのか?」
「そうなんだけど…こっちの本編って割と長期間止まってるし…何だったら、今は本来の前書き部分で私の未来の話を書いてるしね…順番的にも、入らないんだよ…」
「…なら、素直に本編の続きを書いてから後書き部分にコレを持ってくれば良かったんじゃないのか?」
「いやぁ…さっきも言った通り長期間に渡って本編の話が止まってるのともう一つ、まだ肝心の続きが作者の中で纏まって無いから…書けないんだよね…」
「…どうせそれがメインの理由だろ?」
「あー…あはは、まぁね…」
「ハァ…ま、作者の不甲斐無さを責めても仕方無いと言うか…何ならコレを書いてるのも自分なわけだから、これ以上続けても恥の上塗りになるのか…」
「と言うかある意味…多重人格的なアレを演じてる感じに近いって言うのかな…中二的にも思えるけど、作者的には要は…結局私の様なオリ主含めて登場人物を頭の中で演じた方が色々と書きやすいんだって。」
「ああ、だからいつも…誰かの視点から話が始まるのか…」
「逆に言うと、三人称視点では何故か…昔から書きにくいんだって…読んで理解する事は出来るけど。ま、それでも…話にそこまで具体的に関わって来ないけど…その世界には居るモブの視点って感じならある程度書けるみたいだけど。」
「…って言う話をこの場で続けても不毛じゃないか?」
「まぁ、純粋な読者にはハッキリ言ってどうでも良い話だし…書き手の人には、こんなの今更な話だからね…」
「…じゃ、さっさと今回の話の内容にシフトするか。」
「…ふぅ…まさか、彼女が私を止める鍵になるなんてね…」
「調べた感じ…本来の原作では、あくまで束とワンセットになるパターンが多いとか言う話だったか?」
「そうみたい…ちなみに多くの二次創作だと…一夏君や、オリ主相手のハーレムの一員になる事は有っても、逆に彼女と言う存在をここまで掘り下げてるパターンは見た事が無い気はする…」
「自画自賛に聞こえるぞ?」
「…いや、そもそもは元々そう言う話じゃなくて…本来この場面には書き慣れて来たキャラである千冬か、一夏君が来る予定だったんだって…何か、気付いたら彼女を寄越してたとか何とか…全然キャラ把握出来てもいないのにね…」
「…と言うか、普通に別物になってそうだな…」
「いやぁ…下手したら何か、色々怒られそうだよねぇ…」
「…それはコレを読まされる読者からにもじゃないか?」
「それは有るかも…まぁ、作者的にはもう…浮かんだものを好きに書くって決めてるから良いかなって…後気にしてるのは話の整合性くらい…でも正直、確認しきれないくらい矛盾が有りそうってなってはいるみたいだけどね…ま、そもそもこっちの番外編の方では話どれだけ進んでも…原作時空に私が関われる事はそんなに無さそうって感じだから、余計に良いかなってのも有るみたい…」
「…ま、一夏の双子の姉になったあっちと違って…こちらのお前はあくまでも私と同い年の大人だからな…原作の時間軸だと、有ってもお前は学園の教師にしかなれんからな…本来、主役である一夏と深く関わる方が可笑しいか…」
「今でこそ彼が私に恋愛的矢印向けてる展開だけど…あくまで、私は千冬一筋だし…何なら、性格だけとは言え魔改造されて…原作で良く見られる、とにかくすぐ手が出る性質の無くなってる箒が彼のメインヒロインの予定みたいだし…と言うか、アレさえなければ元々逆に…他の子は入り込む余地がほとんどが無いだろうってのが作者の認識だからね…と言うか実際、あの性格さえ矯正されるなら…どう考えてもヒロインとしては完成されてるだろうって感覚だしね…」
「割と長々語ったな…実は好きなキャラだったりするのか?」
「いや、別に?そもそも作者の場合…アニメや小説…あるいはそう言うゲームにしても、推しが居るみたいな感覚は昔から持った事無いし…完全に客観的意見だね。」
「ほう…他に原作開始前にお前の影響で矯正されてる可能性が有る奴が居るとすれば…凰か。あいつはどうなんだ?」
「鈴の話?彼女の場合、そもそも箒みたいに変に弄らなくても元々…ちょっと落ち着くだけでまともになれるタイプって感じだし…ただ、元々あれだけサバサバしてるタイプだと…逆に他にもまともな候補居たらくっ付きにくいんじゃないかなって、思ってるんだって…ギャルゲーとかだと正ヒロインや、推しを選んでエンディングを見た後に、コイツも悪くないなって認識されるタイプかなって…要するに、元々友達ポジと認識しやすいキャラだと…逆に最初には選ばれにくいかなって。」
「ふむ…他は原作開始前には出会いにくい奴しか…いや、ドイツ軍の教官をやってたんだからボーデヴィッヒには会えるのか…あいつはどうなんだ?」
「ラウラ、ね…彼女に関しては、一応原作の方と大きく性質は変わるだろうけど「そうなのか?」…ふぅ…いくら私でも、世間の常識を全く知らない状態の彼女をそのままにするわけないでしょ?そりゃ、全然原作とは違う性格になるだろうね…ただ逆に、その所為で一夏君との恋愛フラグは立たないだろうって認識。」
「何故だ?」
「だって本来軍人で有る彼女がまともな方向に行くって言うなら、仮に彼がどれだけ頑張っても…属してる国こそ違えど、やっぱり守るべき民間人って言う以上の感情を持つ筈無いでしょ…何なら原作の一夏君って要は、未熟な正義感を持つだけの…結局、持ってる能力こそ高いけど…正規のそう言う訓練をちゃんと受けてる人間からしたら、完全に鼻で笑われる様なタイプ…本来ラウラみたいな正規の軍人が彼に恋愛的に惚れるって言う方がもう可笑しい…だって、原作の彼って要は…さっきも言った通り、能力が有るのと…多くの事件が実は束のお膳立てだったから活躍が出来ただけ…仮に真っ当な軍人だったら、自分たちの前で起きる事件が色々可笑しいと感じないといけないし…何なら、何処かでマッチポンプを疑うのが普通だと思う…その上で、最終的にやけに活躍の多い一夏君が黒幕だと疑うのが普通の感覚で…最終的にそうでないと気付いたとしても、彼の正義感がある種の矛盾を孕む事を指摘する役割になるのが本来模範的軍人の行動でしょ?そこから恋愛に発展する確率って丸っきりゼロとは言わないけど、低いと言わざるを得ないでしょ…もちろん、その正義感自体を完全否定するのもまた違うとは思うし…ちゃんと一定の評価は下した上で、きちんと矛盾を突けるのがまともな軍人じゃないかな…」
「だから、一夏とラウラがそうなるのは有り得ない…と?」
「…ふぅ…ここの本筋の世界は元より、私が転生した本編でも…一夏君の性格は色々と変わってはいるけど…だからこそ、余計に一夏君もラウラを選ばないし…ラウラの方も一夏君に惚れる事は無い。何故って、そもそも二つの世界の一夏君はどちらも…身の丈に合わない正義感は抱いていないから…彼が欲しいのは、あくまで身近な人を守れるだけの強さ…その上で一夏君が彼女に関わるとすれば、それは…あくまでも友人的な付き合いを望むのと、そして…彼女からその強さを学ばせて欲しいって頼む時くらいじゃないのかな…その上でラウラとしては、初めはあくまで教官で有る織斑千冬の実の弟って事と…もう一人の教官で有る私の弟分ってだけで、それ以上特に彼にそこまで強い思い入れを持ってなかったけど…そこで今度は彼と言う人間に対してある程度高い好感度は持つとは思う…でも、軍人と民間人と言う関係性で有る以上…やっぱりお互いの感性は完全には合わない。何なら、帰属する国も違う…だから、お互いにきちんと線引きして…結局二人は良い友人以上にはならないだろうね…」
「成程な…残りの連中についてはどうだ?」
「私としても、一夏君に対して余りに積極的過ぎる彼女たちをそのまま野放しにするつもりは無い。その上で、原作とは違う一夏君と箒の関係性を見た場合…勝手に諦めざるを得なくなると思うよ…だってあの二人…これで逆に付き合ってないのかと思うくらいに、距離は歳頃の異性間とは思えなくなるくらいに近くなる筈だもの…もちろん、その時点では多分…一夏君は私との関係はまだ完全には清算してないんだろうし、それを箒にもちゃんと伝えるんだろうけど…箒も今更完全には諦められないんだろうし、何なら…今の彼女ならそれでも普通に一夏君との友人付き合いを続ける事を選べるだろうね…だから、仮に一夏君が彼女を選ばないとしても…彼女たちは確実に勝手に諦めてるね…そこら辺気にしない人が居るとしたら、鈴くらい…だから、さっきも言った通り今度は二番目の相手として彼女が選ばれる可能性が高い…何なら、それでも箒は二人の共通の友人扱いで一緒に居るだろうね…そして、鈴が選ばれたなら彼女も逆に諦めが着くんじゃないかな…何だったら、その後普通に良い人見付けて結婚してたりするでしょ…これまたさっきも言った通り、彼女に関しては…あの厄介な性質さえ改善されてるならやっぱりヒロインとしては完成されてる存在だろうからね…特別、心配も要らないでしょ。てか、そもそも皆一夏君にこだわる必要無いよね…結局の所、あくまで一番身近に居るのが彼ってだけで…学園を卒業するか…何なら普通の学校に転入さえしたら、他にもまともな人は同年代でもちゃんと何人も居るだろうし…もっと言えば卒業したら、きちんと探せば皆普通に良い出会いが有る様に思うけど。一部アレな人が居るだけで…ほとんどの子は見た目はとにかく抜群で、性格も元々別に悪くないんだし…高校三年間で、散々事件に巻き込まれて…その中で、一躍ヒーローになった彼が輝いて見えるのはそりゃ分かるけども…でも、実際くっ付いて見たら…最初は良いかも知れないけど、最終的には…それなりに彼に関して、何とも評価のしづらい部分も見えて来る筈。それでも愛せるって言うなら良いけど…実際は多分、幻滅する人が多いんじゃないかな…そう言う意味では、昔に既に彼に会ってる箒と鈴の方がまだ色々…彼に対して一定の耐性は有る筈…結局、二人のどちらかを選ぶ方が…何なら一夏君的にも色々楽だし、普通に…幸せになれるんじゃないかな…」
「…色々と無駄な部分も多かった気はするが、まぁ…言いたい事は分からんでも無いか…」
「…ふぅ…と言うか、何だったら一番一夏君の良い所も悪い所も余さず理解出来てるのって…実は千冬だよね…"実の姉"って立場さえ無ければ、一夏君が選んでたのは貴女だったと思うよ?もっと言えば、ちゃんと彼を一人の人間の…等身大の男性として、客観的にしっかり見れる女性も他に居ないでしょ?」
「…私としては色々と複雑だが、確かにな…」
「原作の方でも彼って、シンプルな様で実は色々と面倒臭い性質では有るみたいだし…ホント、私としても複雑なくらい…お似合いな二人だと思うよ…」
「…ま、原作の私たちはどう考えてもお互い…典型的なシスコン、ブラコンの様だしな…尤も、あくまでこっちの私たちはお前の事を好いているわけだが…結局二人して同じ相手を選んでしまう辺り、似た者同士と言う事か…ふぅ…ま、少なくとも私は…後悔はしてないがな。」
「そう言ってくれるのは嬉しいけどね…さてと、長く語っちゃったけど…そろそろ閉めるよ。」
「結局、こっちの本筋はいつ更新するんだ?それと、転生したお前の居る本編は?」
「その辺は未定。じゃ、居ないかも知れないけどここまで読んでくれた皆さん…良ければ次の更新をお楽しみに……はい、終わり終わり…」
「随分あっさり気を抜くな…」
「…ふぅ…もう本筋の私が、本来の自分を隠さないって決めてるし…なら、この楽屋オチ状態の私ももう…それで良いかなって…こんな私は嫌…?」
「いや?寧ろ、惚れ直した…本筋の私も、結局そう言うだろうな?」
「…嬉しくも思うけどそれはそれで何か複雑…私の十数年って、結局何だったんだろうって…」
「良いじゃないか…まだ遅くはないと、今は…そう思ってもいるんだろう?」
「…ま、そうなんだけどさ…で、この後どうする?」
「…ふぅ…ま、その辺はゆっくり考えるとしよう…まだまだ私たちには、たっぷり時間も有るからな…」
「前向きだねぇ…ま、貴女がそれで良いなら…私も良いんだけどさ…」