姉さんが開始の合図を出してから二人はほとんど動いていない…時折竹刀を持ち直したり、すり足から微妙に位置を変える以外は何も…
「ふぅ…やれやれ…」
気付けば姉さんが横に来ていた。
「あれ?姉さんこっち来て良いの?審判でしょ?」
「…あの二人、多分一般的な剣道のルールで戦う気など無いぞ。」
「え!?それってさすがに不味いんじゃ…」
「…教師としては今すぐにでも止めなければならないんだろうがな…まぁ…暴走しているのは箒だけの様だから何とかなるだろう…」
姉さんがそう言った直後、私の見ている前で箒が動いた。
「ハァァァァ…!」
真っ直ぐ一夏に向かって行く姿を見て思わず言葉を零す…
「…気合いはともかく…また正面から?」
「一夏に聞いたが、正面切っての面打ちがあいつの決め手だったか?」
「うん、そうみたい。」
「…力技で何時までも勝てる程甘くは無い…仮にあいつが入ったのが普通の高校で剣道部に入っていたなら、早い段階で破る人間も現れていただろう…そうでなくても一夏は初見で勝ってるんだろう?」
決勝戦の映像は見たから全くの初見でも無いけど…それは良いか。
「そうみたい…と、言っても実際に二人の試合を見た訳じゃないけど…」
「お前から見て…今の一夏の強さはどれくらいだ?」
「…本当は試合には出ちゃいけない人…かな?」
「…それはどういう意味だ?」
今、私と姉さんの前で箒の振るう竹刀を受ける事無く、避け続ける一夏がいる…
「私たちは更識家にいたでしょ?」
「ああ…」
「あそこの人たちに万が一の為にって事で、護身術の様なものを教えるって言われたんだけど…」
「……それで?」
「いや…模擬戦の時はさすがに使わないんだけど…あの人たちの言う護身術って…相手を怯ませるでも制圧するでもなく…相手を壊す方法の事なんだよね…本当に万が一の時しか使えない奴…」
「…そんなものを習ったのか…」
「私は気質的に向いてないって言われたから普通に制圧レベルのを習ったしあんま使いこなせないんだけど…一夏はそれを習って…ちゃんとお墨付きを貰ってるんだよね…」
「……」
「素手なら良いんだけど…武器を使ってのやり方を中心に修得してるから…これが試合じゃないなら多分不味いと思う…」
箒の竹刀を自分の竹刀で横に弾いてずらし、そのまま押し付けた竹刀を回転させ、箒の手から竹刀を飛ばす。
「面!」
竹刀が宙に舞った直後に箒の頭上に一夏の竹刀が振り下ろされた。
「…巻き上げ技か。こんなのまで習ったのか?」
「いや…多分習った事の応用の範囲かな…そもそもあの人たちなら…竹刀なら喉仏や口の中を突けって言いかねないし。」
「それは…相手が死んでしまうだろ…」
「…私たちが預けられたのがそういう場所なの忘れた?」
「……すまなかった…」