「アレがお前の本気か… 」
医務室に入ってみれば、ベッドの上でそう呟いてる箒と…
「……」
普段失敗の少ない弟…一夏の苦笑顔があった。
『…やはり、箒はアレを一夏の全力だと思ってしまったか…』
『しょうがないよ。なまじ姉さんの動きを見た事があるせいで速さに多少慣れてるから…アレが錯覚の方が大きいなんて思わないだろうし…確かに一夏自身としての速さもそうだけど…』
小声で声を出した千冬に習って私も千冬にそう返す…
『…いや…私のせいか…?』
『だけとも言いきれないけどね、多分一夏は箒が本気で練習すれば追い付けるギリギリまでスピードを抑えたんだろうし…』
『全くあいつは…下手な期待をさせてどうすると『そうでも無いよ?』…ん?』
『一夏は現状速いだけなの、だから今からでも箒が真面目に取り組めば剣の腕で届く筈なの。元々篠ノ之流は剣道としてよりも実戦で剣術としての側面が強いでしょ?』
『…言ってる事は正しいが、難しいと思うぞ?』
そう言って溜め息を吐く千冬…と言うか何時までこのまま会話してるつもりなんだろ…
『一夏は確実にまだ伸びる…箒やお前を置き去りにしてな。』
『…そう思う?』
『…あいつは昔から、男である自分は強くなければいけないと言う想いに取り憑かれているからな…本人は隠してるつもりだろうが。』
『でも、一夏は箒を置いて行く事は無いと思うよ?』
『成長スピードは変えられんよ、仮に本人にそのつもりが無いとしてもな…と言うか、お前は追い付く気が無いのか?』
『…正直に言えば…うん。』
模擬戦にしろ、実際に戦うと私は限界を超えてでも食らいついてしまう癖はある…でも、平時の私に特にその気は別に無い…間近でそれを超える天才を見て、一緒に過ごしていた時間があるせいもあるだろうけど。
『私は凡人だからさ、もちろん出来るだけの研鑽は怠るつもりは無いけど…基本的に追い付けないものを無理に追いかける気は無いよ。』
『…お前は…昔から欲が薄かったものな…』
『…強くなりたいって、普通は渇望の部類だからまた違わない?…特に一夏は、ね…』
私が言ったのは何も言葉の通りってだけじゃない…欲望と言うのは欲しく欲しくて堪らないって言う際限の無い想いで、渇望は自分に無い物を求める想いの事だ。
私は箒と一夏から顔を背ける様にして、横にいる千冬に顔を向ける…
『一夏には憧れがあるの…自分の遥か先を行くある人を追いかけて…最後は追いついて、今まで自分を守ってくれたその人を…自分で守り抜きたいって想いが。』
私には持ち得ない強くて真っ直ぐな…つい嫉妬しそうな程、誰にも負けない強い想い…もちろん方向性は私とはまた違うけど…
『…全く…何時になるんだかな…』
『一夏はその方が追い甲斐があるってきっと喜ぶよ。憧れで…守りたい人であるその人は…超えるべき目標でもあるから…』
「……一夏…そろそろ声をかけなくて良いのか?」
「何か踏み込みづらい雰囲気だし…正直、俺にとっては割と恥ずかしい話されてるから…そろそろ止めたいとは思うんだけど…」
「……二人で行くか?」
「もう起きて大丈夫なのか?」
「ああ、もう大丈夫だ。」
「…そっか。じゃ、行くか。」