長ネギを包丁で刻んで行く…私自身凝った物は作れないけど、それでもちょうどさっき起きて来て…何やら私の後ろでウロウロしてる千冬よりはまともな物を作る自信は有る……と言うか、今世では最初は私が織斑家の食事の担当だったんだけど…いつの間にか一夏に追い抜かれてたんだよねぇ…あの腕を目の当たりにしたらもう悔しいとも思わないよ……寧ろ、やっぱりそうなるか、と納得してた。
前世で会った時点で素朴な家庭料理は元より、その気になれば洒落た物も作れた一夏君…と言うか、フレンチの技法を使って和風に仕上げるとかもう何がなにやら…とてもじゃないけど真似する気にはならなかったね…
…で、今世…最初は普通に私が食事の用意をするのを一夏が手伝ってただけの筈なのに、気付いたら抜かれてるんだから天才って身近に何人も居るんだなぁって…つくづく思った。
ただそれでも…『俺の料理の原点は十秋姉の作った物だ』…なんて、事ある毎に口にされたら…頑張ろうとは思うもの……まぁ、結局私には向いてないって事が分かっただけだったんだけど……って、あ。
「姉さん、座ってて。」
「いや、しかし…」
「取り敢えずその包丁は置いてね?」
手伝いたいのは分かるけど、千冬が動くと後始末が大変だから…と言うか、野菜切ろうとしただけでまな板ごと両断する人に何をやらせたら良いのか…ホント、昔から不器用だよねぇ…結局、千冬が何とか出来る様になったのって炊飯器で米を炊く事くらい…前世の時は元より、今世でもその辺全然変わらないのは私にとって懐かしくも有った……まぁ、一夏はあの時凄く怒ってたけどさ…
「姉さんの場合、最悪指も一緒に落とすからやめて…」
「むぅ…」
「とにかく、座ってて。」
「……分かった。」
……出来無いの分かってる筈なのに、突然何か始めようとするからこっちも目が離せない。いや、手伝おうとするその気持ちは嬉しいんだけどね…ちなみに、一夏が台所に立った時は千冬は動かない…一回やらかして、一夏に怒鳴られたからね…アレはさすがに堪えたみたい。
私の場合は千冬にキツく言えないから、こうして隙あらば手伝おうとして来る……一夏には一回、本気で注意した方が良いと何度か言われてるけど…出来無いよね…
だって、こうやって何か出来る事無いかとウロウロする千冬…毎回見てて可愛いんだもん…普段は失敗の少ない千冬が、右往左往してる姿見てたらキュンキュンして来ちゃうよ。
もう何度抱き締め様かと思ったか……ふぇっ!?
「ねっ、姉さん…?」
「ん?」
「危ないから抱き着くのはやめて、お願い…」
「……すまん。」
そんな捨てられた子犬みたいな目で見ないでよ…本当に昨日から全然余裕無いよね……いや、抱き着かれた瞬間に口から心臓飛び出そうなくらい驚いた私が言える事じゃ無いけどさ…
「もう…とにかく座って待ってて、出来たら持ってくから。」
……ちょっと朝食には早い時間の気がしないでも無いけど、今日は早めに職員室行くって言うし良いよね…
相変わらず私を抱き締めて離れない千冬…
「あの、姉さん…?食べるのに集中出来無いんだけど…?」
「……」
いや、黙らないで…ひゃん!にっ、匂い嗅がないで…千冬ってノーマルの筈だよね…?何で、そんな夢中になって私の首元に顔埋めてるの…?
「ほっ、ほら…冷めちゃうから早く食べて…?」
「すまん…もう少しだけ…」
……声に全く余裕が無い…もう…私、どうしたら良いの…?っ…!息が当たってこしょばゆい…!
「本当にすまん…嫌なのは分かっているが「嫌じゃない」何?」
「嫌じゃ、ない…私は、姉さんを拒絶しないよ…」
だって私は、本当に貴女が好きなんだから…
「本当に…っ…何か、有ったの…?昨日から…ん…変だよ?」
っ…力強いよ…そんなに締め付けないで…
「……夢を見た。」
「夢?」
「その夢の中で私は、一人の女と会っていた…」
ズキっと、胸の辺りが痛む…
「彼女は私の親友だった…そんなあいつが死んだ、ある日突然な…」
……。
「所詮は夢の話だ…そんな事は分かっている…だが、私はもう失いたくない…そう思ってしまってな…すまん、変な話をしたな…忘れてくれ。」
千冬が私から離れて、向かいに座る…忘れろって…だって、それは…
「……ん…もう良いよ…あの、姉さん?」
「何だ?」
「これからはこんな風になる前に、私と一夏…どっちでも良いから部屋に呼んでよ。せっかく今は一緒に居られるんだし…」
「……そうだな、すまなかった。」
「だからもう良いってば…」
千冬が夢で会った女性…それが誰かなんてどうでも良い…千冬に伝える必要も無い…今の私には、結局もう関係の無い事だから…