「すまん…面倒を掛けた。」
「あ、うん…」
学生の身分でお酒飲んでる以前に…そもそも千冬のお金で買った物で有る事も考えると…さすがに私も後ろめたさで歯切れが悪くなる…まぁ、その癖…一昨日の空き缶が大量に入ったゴミ袋に紛れてるし、冷蔵庫にもそれなりの量がストックされてたからバレないでしょ、とか計算もしてる訳だけど…あ。
「そう言えば…こんな所にゴミ収集車なんて来ないよね…どうやってこのゴミ捨てるの?」
「ん?IS学園から参考書の他…施設利用に関してのパンフレットも届いてなかったか?」
「あー…そう言えば有ったかな…つい、参考書ばかり見てたから忘れてた…」
「……まぁ、厚さも厚さだからな…アレを覚える事ばかり気にしてしまうのは仕方無いか…まぁ、実は捨てるこちらにとってはシステム自体はほとんど同じだ。」
「要は回収場所に持って行ったら専属の回収業者が来て回収して行くの?」
「そうなるな…一応女子しか居ない事も踏まえて、かなり厳しい基準で業者を選んだとの事だ。」
「へぇ…」
「一応聞くが、持っては来てるのか?」
「あー…家に忘れて来てるかも…一夏は多分持って来てると思うけど…」
「……私も元々ズボラな方だし…どうしてもアレに一番気を取られる事を鑑みて敢えてうるさくは言わんが…早めに確認しないと曜日が分からんから捨てられなくなるぞ。」
「うん、今日の夜にでも確認してみる…」
「早めにな…料理もするお前らはどうしても生ゴミが中心になるだろう?時間が経つと臭って来るからな…」
「分かってるって…と言うか、姉さんが言ったら駄目でしょ…」
「む…そうだがな…」
「と言うか、整理整頓…何とか覚えようよ…さすがにこの部屋の状況はヤバいって…自分の家じゃないんだよ?」
「分かってるんだが、どうもな…」
「ふぅ…ま、そう言うと思ってたよ…次の週末から、出来るだけ部屋に来る様にするよ…私が片付けてあげる。」
「いや、しかし…」
「業者さん呼んでも、その後も変わらず散らかしてたらまたゴキブリ出て来るよ?」
「……そう、だな…すまんな、これからも頼む…」
……まぁ、色々私の精神的にキツい部分も有るから毎回来るのはなぁ…とは思う…いっそ役得、なんて割り切れたら気も楽なんだろうけど。……何か、一夏にああ言われたせいか通い妻って感じがして来ないでも無い…まぁ、相手は同性の…しかも実の姉のとても色気の感じられない程散らかった部屋を片付けに行くってだけなんだけどね…
「と言うか姉さん、多分ゴキブリ自体はまだ居るからね?」
「……」
うん、あからさまに顔色悪くなった…まぁ、私も苦手だけどさ…
「飲み物をと、思ったんだが…」
「あー…うん、良いよ。」
「……すまん。」
千冬の部屋の冷蔵庫には、極わずかの食べ物以外は缶ビールしか入ってないから…千冬は一々お茶っ葉とかも買わないだろうしね…
「本当にすまんな、これからは用意しておく様にする…」
「うん…」
今も冷蔵庫で冷えてるビールの方が良いって言ったら、怒るかなぁ…怒るだろうなぁ…
「そう言えば一つ聞こうと思ってたんだが…」
「何?」
「……いや、お前セシリアとの試合で西洋剣を使っていただろ?」
「うん。」
「妙に様になっていると感じたが…何処かで習ったのか?」
前世の時にやってたよ、とは…もちろん答えられない。まぁ、ちゃんと今世の千冬の納得する理由が有る…改めて考えると何かチラッと千冬に言った様な気もするんだけど…良い機会だし、もう少し詳しく話そうか…
「更識家で習ったの。」
「……日本の剣術なら分かるが…更識家の人間は、西洋剣術まで使えるのか…」
実際、使用人の人ですら…何かしら最低限自衛出来る手札をいくつかは持ってるのがあの家…ましてや、政府直属の暗部組織と言うだけ有り…屋敷には普通に荒事専門の人たちが居る…と言っても、私や一夏にとっては普通に優しい人たちばかりだし、普段は他の使用人の人たちと同じ仕事をしている…正直、言われないとそう言う人たちだって分からないくらいには日常に溶け込んでる…
もちろん、あの家で匿われるに辺り…私と一夏にはきちんと説明がされた…命令とは言え、人を害する仕事を受けた事も何度となく有ると…
私としても衝撃的な話では有ったけど…まぁ、仕事で有る事を考えれば飲み込む事も出来る…まぁ、私は前世では既に社会人だったからね…
一夏の事は心配だったけど…それについて特に何かを一夏が言う事は無かった…まぁ、前世で会った一夏君と違って…今世の一夏って私の知る限り、小さい頃から何処か達観した所は有った……まぁ、私が居たからなのかも知れないね…前世の一夏君も大人びては居たけどそれでもまだ歳相応の雰囲気だったし…
そして、私たちは更識家で戦える術を学んで行く…いや、まぁ…あくまで自衛やお互い、お互いの大事な人たちを守る為にね…私たちはこれから先も狙われる可能性が有ると言われたら断る訳ないし…私だって一夏や姉さんに守られるだけなんて嫌だから…
……まぁ、微妙に脱線したけど要は…
「一応他言無用と言われた部分も有るからあまり詳しくは言えないけど…あそこの人たちはいつ何時、どんな状況でも戦える事を想定して日々鍛錬を積んでる…別に西洋剣や刀だけじゃない…武器として使えるものなら何でも使うよ。」
私は使い慣れてたからそっちを重点的に習っただけ…今なら、持ってるのは刀でも昔よりは戦えるだろうし、別に他の武器だってある程度なら使いこなす自信は有る…実際、素手でも私は特に鍛錬もしてない一般人なら…例え大人の男性相手でも一応それなりに戦えるだろう……まぁ、さすがに更識家でも銃は持たされてないから…射撃は苦手だけどね…ま、今ならISも有るから西洋剣術以外当分は使わないかも知れないし…と言うか、私の場合スタミナが少なかったり、ちょっとした事で体調も崩しやすいと言う弱点も有るから…
「しかし…なら、刀でも良かったんじゃないか?」
「先生…柳韻さんも言ってたじゃない…私には、剣術は向いてないって。」
元々、千冬…姉さんとしてはあまり納得の行ってない事だろうけど…私にとっては、当時その指摘は自分の中でストンと落ちた…まぁ、どうしてもフェンシングの癖が抜けないからねぇ…
「それに、別に全く使えないって訳じゃない…でも、結局…西洋剣術の方がしっくり来ちゃったんだよねぇ…」
当然と言えば当然…だって、私が嘗てやってたのはそれなんだから…
「まぁ、そんな顔しないで…ここなら腕を見せる機会は有るから……一夏は、やめた方が良い気もするけど…」
寧ろISを纏う事が、ある意味で本当の実力に対してのストッパーになってるのが…何とも一夏らしいと言うか…
「一夏は…殺せるんだったな…」
「殺せる…私より遥かに速く、手心なんて加えず、それも少ない工程で。」
「……」
それを聞いた千冬から発せられる雰囲気は重い…まぁ、仕方無いけどさ…
「でも、力や技術って言うのは結局使い方次第…一夏は、間違え無いよ。」
寧ろ、半端にしか技術を吸収出来無かった私の方が問題とも言える…中途半端って事は弱いと言う事では無く、明らかな格下相手にも加減が出来無いと言う事だと…当時耳にタコが出来るくらいには言われた…
「そうだろうか…」
「大丈夫。だって一夏は…織斑千冬の弟だよ?」
まぁ、ほとんどの人には意味不明なこの論理…私たちを含めた一部の人たちの間では通ってしまう…姉と弟…ここから導き出される理屈は一つ…
「そうだな、仮に間違いを起こしたなら…お前と私で、叩き潰せば良い訳か。」
姉と弟…腕力には由来しない、その力関係が完全に逆転する事は先ず無い…多くの場合姉が上で、弟が下になるのだ…こればっかりは女尊男卑が蔓延る前から変わらない…これが男兄弟だったり、男の方が兄ならまた事情は変わって来るけど…え?私と千冬?……私が妹で有る前に、私が千冬に勝てる訳が無い…そもそも、今の私に勝つ気なんて無いけどね。
……とは言え、盛り上がってる所悪いんだけど…
「ごめん、その時は私はパス。」
「なっ、何…?」
「いや、私じゃ今の一夏…それも生身での勝負なら絶対勝てないって…私だけIS纏うなら違って来るけど、さすがにそんな訳には行かないし…」
千冬と同じく人外の領域に片足どころか、両足突っ込んでる弟に…人の範疇を超えられない私にどう戦えと言うのか…それに…
「私と一夏はそもそも双子、性別の違いこそ有るけど普通双子なら…ヒエラルキー的上下差はそこには無い。」
「だからと言って、やらずに逃げるのはどうなんだ?」
「逃げ場が無いならやるしか無いし…私の場合、一旦スイッチ入るとズタボロになってもやめないんだろうけど…逆に言えば、一夏相手なら最初から戦う状況自体を作る気が無いんだよね……まぁ、いざって時は一夏に相対する前に姉さんに押し付けて逃げるだろうね…」
いやまぁ…完全な一般人から見たら私も相当アレなのかも知れないけど…一夏や千冬って私より遥かに上澄みの所に居るし…何でそのレベルの格上とハンデも無しにやらないとならないのか…今世では私の姉と弟になる二人だけど…二人の戦いって一種の怪獣対決にすら思えて来る…まぁ、漁夫の利狙いでも無ければ正直、絶対…参加はしたくないよね。