「十秋ちゃん…そろそろ本音、離してあげない?」
「もうちょっとだけ…」
「……」
私は本音を抱き抱えたまま部屋に戻って来ていた…本音はあの後さすがに疲れたのか特に、抵抗する事無く私と共にここまで来た……ちなみに、この姿も何人かの生徒に見られてたけど…正直さっきのアレよりマシだし、もうどうでも良い。
「とーちゃん、私…お腹減ったんだけどぉ…?」
「うん、じゃ…何か作るね。」
私は本音を解放する…すぐに私から離れようとする本音の肩を叩いた…ビクッと、硬直しながらも振り向く本音…私は本音に背を向けてその場で屈んだ。
「ごめん…離れて欲しくないなぁって…」
私は壁を視界に入れつつ、そう口にする…そう、私が取ったのはおんぶの体勢で有る…刀奈は一旦静観する事に決めてくれたらしく、何も言って来ない。……後は、本音がどうするかになる…
「ハァ…」
本音の物と思われる、呆れの溜め息が聞こえて来る…やがて、私の背に一定の重さが加わり…首元に細い腕が回された……うん、私が普通の同性愛者だったら背中に感じるむにゅりと言う感触だけで色々我慢出来無くなってたと思う…ホント、何で本音って…小柄で細身なのにこんなに大きいの…?本音自身、めちゃくちゃ軽いから、尚の事…この背中に押し付けられる柔らかさだけに集中出来ちゃう…
「とーちゃん、早くぅ…」
「うん、すぐ作るね。」
耳元に届く、本音の声にすら感じるほんわかとした癒し…あー…幸せぇー……ハァ…私、これからはもう私の扱いについて千冬の事を責められないね…だって私今、同じ事してるし……うん、今は考えない事にしよう…さて、作るとは言ったけど、どうするかな…何せあんまり食材残ってないんだよねぇ…
さすがに、食事の時は本音を離した…いや、抱き抱えられながら食べる辛さは…私も分かるから…疲れも有るのか、ずっと渋面だった本音も食べてる最中は笑ってくれたからホッとした…うん、やっぱり笑ってくれる方が良いよね…
食事が終わってからはまた本音を抱き抱えて、本音から出てる癒しオーラを浴びる…いや、何でか本当に元気になって来るんだよねぇ…
「あの…とーちゃん、そろそろ消灯だからぁ…私、部屋に戻らないとぉ…」
「ん…もう少し……ねぇ、本音…今日この部屋に泊まらない?」
「うん、普通に嫌だ。」
……そっ、即答…しかも本音らしからぬ、早口で断られた…そっ、そんな…口調が崩れる程、嫌なの…?
「とーちゃん、何が有ったのか私は分からないけど…ここで私にくっ付いてるだけじゃ、何も変わらないんじゃない?多分…元を断たないと駄目だよ。」
本音の喋りが、早い…いつもの独特の間がほぼ無い…そして、凄いまともな事言ってる…
「クラスも同じなのに、とーちゃんが悩んでるの知らなかったのはごめんね?でも、きっとその悩みって…私じゃ、解決出来無いんじゃない?」
「……うん、コレは…結局私が自分でどうにかしないといけない問題…だと思う。」
本当は分かってる…ここで本音に癒して貰っても、このままだとまた…こうなる……でも…あ。一瞬気が緩んだ隙に本音が私の腕からするりと抜けて、私の顔を見詰めて来る……本音って、こんなに真剣な顔…出来るんだ…
「大丈夫、とーちゃんは味方がいっぱいいるでしょ?…もちろん、私だって味方だから。」
本音が私の頭を撫でる……ホント、皆私より強いよねぇ……あ~…自分より小さい子にこうして撫でられてるのって恥ずかしくも有るけど、何か…良い、かも……ふぅ。
「本音。」
「何?」
「最後に、抱き締めて貰っても良いかな…?……この悩みを解決する勇気が欲しいの。」
「良いよ……はい、ぎゅ~…」
……この高校生らしからぬ、歳不相応の普段の子供の様な仕草と…さっきの様な聡明で尊敬に値する"女性"の姿…相反する二つの要素が同居してる…それが本音の魅力…うん、愛される訳だよね…何と言うか、私にはどっちも無理だから…本当に羨ましい…
「うん、ありがとう本音…もう、大丈夫。」
「……そっか。じゃ、私帰るね?…また今度、ゆっくり話そぉ?」
「うん、またね…」
本音が私から離れて、部屋を出て行った。
「……私から言おうと思ったけど、本音に大体言われちゃったわね…全く、美味しい所だけ持って行かれたわ…」
さっきまで黙っていた刀奈が口を開く…そんな事言って、本当は本音の行動見守ってた癖に。
「元気になった途端に、そうなるのね…」
「あ!ごっ、ごめんなさい…何と言うか…今日は本当にご迷惑をお掛けしました…」
「……それは、本音に言うべきだったんじゃない?今日一番大変だったの、あの子よ?」
「ですよねぇ…」
「……で、十秋ちゃんの悩みの内容は…この場で聞いた方が良いのかしら?」
「あー…」
と言うか、この問題は刀奈も関わり有る事になるんだよね…どうしよう…
「正直な所、内容自体は個人的なんですけど…ウチのクラスで起きてる問題なんですよねぇ…」
……取り敢えず、刀奈に相談するなら…"生徒会長"としての刀奈か、あるいは"更識家当主"としての楯無…どちらかの力を借りたいくらい拗れた時の気もする…幸い、今の所ウチのクラスでそうなのは…静寐だけだし。
「じゃ、今は私が動く話じゃないわね…大変そうだけど、何とか頑張って。」
「と言うか、実は刀奈さん把握してるのかと思ってました…」
いや、一夏のクラス代表就任を知ってた訳だから…何故か学年も違うクラスの内情知ってる事になるし……あれ?そう言えば…この話って一夏を取材した薫子に聞けば分かるんだから、生徒会長としての権力も…更識の情報網とかも別に関係無いんじゃ…?
「私だって何でもは知らないわ…知ってる事だけ、よ。」
……微妙に可笑しい表現…と言うか、何かこの言い回し…聞き覚えが…
「……簪の影響、ですか?」
「あの子の好みとは違うけどね、アレ面白いわよねぇ…」
……アレ、結構シリーズ有るし…一冊、一冊がそれなりに厚い筈なんだけど…いつ読んだのか……まぁ、気にしても仕方ないか。
「ん~…さて、そろそろ消灯ですね…」
「寝るの?」
「そのつもりですけど「今日習った事の復習と明日の予習、しなくて良いの?」……あ。」
しまった、完全に忘れてた…
「ふわ…私は悪いけど今日はもう寝るわ…頑張って。」
「はい…」
ま、やらないと明日が大変だしね…ハァ…さっさとやりますか。