「いや、本当にすまんな…」
「わ…良いよ良いよ、気にしないで。」
部屋に入れるなり、私に頭を下げる千冬に少し慌てる…いや、だってまた一本ビール貰っちゃってるし…何より今更だからね…
「…で、結局何を悩んでるんだ?」
「はえ?」
「……お前、自分が何でここに居るのか…忘れたのか?」
「……あ。」
あ、うん…そうだったね、結構本気で忘れてた…
「まぁ、その…忘れる程…下らない悩みだったって事で一つ…」
「それで納得出来ると思うか?」
「駄目?」
「普段からそうなら分かるが、お前が抜け出すのはここ数日になってからだろ?元々そんな事無かったんだから、怪しまない方が可笑しいだろ…」
「結構、私の事見てくれてるんだね…」
「当たり前だ。私は、お前の姉だぞ?」
姉か…どうしても少し黒い感情が湧き出て来る…でも、それは言っても仕方が無い事…だって、ここに居る千冬は…何も知らないんだから。
「話したくない、じゃ…駄目?」
「……お前ももう高校生だ、色々有るんだろうしそれで良いと言ってやりたいが、な…ここで流したら、お前また抜け出すだろ。」
「……」
まぁ、否定は出来無いかな…
「……ところで、一つ聞きたいんだが…」
「何?」
「お前、私のビール飲んでるだろ。」
「え!?あー…なっ、何の事かな…?」
「その反応で誤魔化せると思ってるのか?」
「……ごめんなさい。」
「ハァ…ま、私も本来…高々ビール一本位でグダグダ言いたくは無いんだがな…」
……じゃあ、言わなくても良いじゃない…とは、口に出さない…だって、千冬が教師の顔してるから…
「家でやる分には良いが、ここは学生寮で…しかも学園敷地内に有る…」
「そうだね…」
「……いつからだ?」
「……一緒に住んでた頃は、飲んでない。」
「つまり、初めてこの部屋に入った日が初めてだと?」
「いや、二回目に入った時が初…」
まぁ、さすがに嘘…家の冷蔵庫に入ってるのをこっそり何度か飲んでる…そう頻度は多くないけど。
「タバコは吸ってるのか?」
「吸ってない…」
少なくとも、そっちは前世の頃も無い。千冬が吸ってたし、何度か吸ってみようかと思った事は有るけど…
「自分で買った事は? 」
「無いよ…」
少なくとも、今世では無いね…
「……停学や退学にでもする?」
「して欲しいのか?」
「……」
そうなったら多分、しばらく千冬には会えないね…
「大体、仮に退学になったとして…お前どうする気だ?」
「ん…そうなったら普通に働くよ。」
「本気か?働く、と言う事が…どれだけ大変か分かった上で言ってるのか?」
「少なくとも、他の高校へ通う気は無いよ。」
元々、今更私が普通の高校生として生きてるの自体が可笑しいとも思うしね…
「それを、姉で有る私の前で言うか。」
「……貴女は…私の姉の織斑千冬で有る前に、この学園の教師でしょう?私情入れたら、駄目なんじゃない?」
「……」
千冬が私の方まで歩いて来る……っ!
「……何も言わないんだな。」
「いや、まぁ…叩かれても仕方無いかなぁって…」
千冬に頬を張られる…そう言えば、前世ではそんな事無かったし…今世でも怒られるのは初めてだ…
「取り敢えず、座れ…悪い様にはしない。」
「それはどう言う意味なのかな?」
「良いから座れ。」
ふぅ……私は言われた通り、その場に正座で座る…
「いや、足は崩して良いぞ。別に説教する気は無いからな…」
「……結局、姉さんは何が言いたいの?」
「教師としてでは無く、お前の姉としてお前と話したいだけの事だ…最近は…何だかんだちゃんと話をしてなかったからな…」
「…で、良いの?お酒出しちゃって?」
「その方が、お前の本心が聞けそうだからな。」
本心か…
「私、大抵の事は何だかんだ姉さんに言ってるよ?」
「抱えてる悩みは話せないのにか?」
私は置かれた缶ビールのプルタブを開け、口に付けて傾けた…
「ぷはぁ…それは姉さんも同じなんじゃない?姉さんだって色々私に言えない事、抱えてたりするでしょ?」
確信は無い…ただ、言われっ放しが悔しいからそう言ってるだけ…
「そりゃ有るさ…大人だからな。」
「……自分の身の回りの片付けも、一人でろくに出来無い様な人が大人ねぇ…」
「そこを言われると弱いが、な…だが、自分の生活費を自分で稼いで無い奴を…世間では大人とは呼ばないぞ?」
「……ま、生活費を姉さんに出して貰ってる私はどう足掻いても子供だろうけどさ…でも、私と一夏がバイトするのを反対したの…姉さんでしょ?」
「当然だ、子供のお前たちが気にする事じゃないからな…」
「……姉さんが初めて働いたのだって、学生時代なのに…」
「一夏はともかく、お前…仕事と学業両立出来る程器用か?」
「……出来るかどうかなんて、やってみなきゃ分からなかったでしょ?」
「じゃあ、その間は何だ?」
「……私の揚げ足取って、楽しい?」
「楽しいさ…お前がいつも色々我慢してたのは分かっていたからな…こうしてお前の本音が聞けて、私は嬉しいぞ。」
「……ホント、自分勝手…」
「そうだな…だが、それはお前も同じだろ?」
「……ま、否定はしないけどさ…」
でも、それは貴女がいつも私を振り回すから…それでいて、本人にその自覚が無いのが一番、腹立たしい…
「まだモヤモヤしてる顔だな?良いぞ?この際、言いたい事は全部言ってしまえ…いくらでも、聞いてやるぞ?」
全部ねぇ…
「悪いけど、それはビール少し飲んだくらいで語れないなぁ…」
「未成年が調子に乗るな、全く……要は、もっと強いのが欲しいと言う意味なんだな?」
「そうだよ?」
「仕方の無い奴だ…」
千冬が目の前のテーブルに手を付いて立ち上がり、流し台の傍まで来て歩みを止めた……どうする気?
「ここ、収納有るの気付いていたか?」
千冬が流し台傍の床の上…マットが敷かれてるそこに片足だけ乗せて、トントンと足踏みする…
「床下収納が有るって事?いや、気付かなかった…」
千冬がマットを退ける…そして…
「……本気?」
「お前が飲みたいと言ったんだろう?」
出して来たのはどう見ても日本酒の一升瓶……いや、さすがに冗談だったのに…
「お前から言い出したんだ…付き合えよ?」
「……今日もまだ、授業有るけど?」
「今更飲めないと?」
「……分かった、良いよ…でも、私…酒癖悪いかもよ?」
「別に構わないぞ?」
へぇ、そう…そう言う事言っちゃうんだ…なら、酒のせいって事にして、襲っちゃっても良いって事だよね……うん、多分ここを逃すと当分チャンスはやって来ない……覚悟してよね、千冬…前世の分引っ括めて…今夜私の想い、纏めて受け取って貰うんだから…