私の名前を告げた後、彼女は何やら考えこんでいる…いや、人の名前まで聞いといてそこから黙るってどう言う事?てか、何となく抱いた感情だけど…私は多分、この人が嫌いだ……初対面で且つ、多少会話した程度でそんな事思う事なんて今まで無かったんだけどね…さて…
「……あんまり人の顔をジロジロ見ないで欲しいんだけど…何か言いたい事が有るならハッキリ言ったら?」
言葉に棘が有るのは自覚してる…でも、どうしても私は彼女の存在そのものが受け入れ難い…さっさと用事済ませてどっかに行けば良いのに…
『ん?あ、ごめん…その…一つ聞きたいんだけど…』
「何?」
『……その、貴女は最初からその顔なの?』
……この世界に生まれて来て、十年以上付き合って来た顔を否定された…イラッと来たけど、まぁ…私も彼女が嫌いだと感じてるし、お互い様かと考え…この場で怒るのは抑える事にする…
「何それ?別に私、顔は弄ってないよ。と言うか今は化粧もしてないよ…これが私の素顔なんだけど?」
また彼女が口を閉じ、考え込み始める…だから人に色々言わせといてまた黙るの、やめて欲しいんだけど…
そろそろ怒っても良いかな…?
『ん~と…もしかして貴女、前世の記憶とか有る?』
彼女に何を言ってやろうかと考えていたら、完全に斜め上の発言が飛んで来た……どうしてここまでのやり取りだけで、そこに至るの?答えてやる義理なんて無いと思ってたのに、つい私は反応してしまった…これじゃあ、もうその通りだと言ってる様なものじゃない…
「どう言う意味?」
ただ認めるのも癪だからこうしてシラを切ったけど、明らかに彼女が確信を抱き始めてるのが分かる…何かもう、自滅なのは分かっててもただただムカついて来る…ホント、何なの…この人…
『そのままの意味だけど?貴女はこの世界に産まれる前に…全く別の人生を過ごした記憶とか、有ったりしない…?』
本当に、さっきからもうずっと…良く分からないイライラが治まらない… 正直もう、この人を視界に入れてるのが不快でたまらない…
『えっと…ごめんね、答えたくないなら良いんだけ「有るよ」ど…ん?』
「確かに私には、今とは違う別の人生を生きた記憶が有る……これで満足?」
質問には答えた、だからもう帰って欲しい…そう思っているのに、彼女は私の前から消えてくれない…何となく感じてたけど、この人には私の考えが伝わらないみたい…本来なら良い事の筈なのに、ここまで鈍感だと…それも単純に私の怒りを助長する結果にしかならない…
『ごめん「何で謝るの?」それは…』
そう思っていたら、私が怒っているのは向こうに多少は伝わってたらしく謝罪をして来る…でもさ、何で私が怒ってるのか分からないなら謝らないで欲しいんだよね…
……ま、私自身も何でここまでこの人に対して怒りを覚えているのか分からないんだけどさ…ま、存在を否定したいレベルの怒りなんだから彼女が居なくなればそれで済む…実際、その方がお互いの為。
「それ以上用が無いならもう出てって欲しいな…私、今誰とも話したくないんだ…」
ま、正直に言えば…この人以外となら最低限会話はしても良い…と言うか、この状態で刀奈が帰って来たらまた色々心配掛けちゃうし…(この人があくまで私の見てる幻とかだったら確実にそうなる…)
『……それは無理かな。』
……はぁ?
「何で?」
『帰り方が分からないから…と言うのは冗談で…』
明らかな戯言が飛んで来たので思わず睨み付ける……まぁ、実際は冗談に聞こえなかったんだけど…こう言う場合はどうするべきかな…ハァ…何でこんな時に嫌いな相手の為に気を揉まないといけないのか…
『多分、このまま貴女を放置して帰ったら私は…とてつもなく後悔すると思うから。』
……うん、今何となく分かったよ…私が貴女を嫌いな理由…
「何それ?意味が分からないよ…どうして私を放置したら貴女が後悔するの?」
彼女は…私にとても良く似ている…と言うか、見た目以外はほとんどそのもの…私の感じてるコレは多分、同族嫌悪…これ以上この人にここに居られたら、私がもたない…
『貴女は今、凄く悩んでる…そして、その悩みは簡単に答えが出せるものじゃない…違う?』
……他人から見た私ってこんな感じなんだね…うん、滅茶苦茶ウザい…こんなんで良く人に好かれるよね…そりゃ、最初は嫌われた訳だよ…
「仮にそうだったとして、それが貴女に何の関係が有るの?放っておいてよ、他人にどうこう言って欲しい事じゃないから。」
ふぅ…いくら似ていても、私と彼女は結局赤の他人だ…口出しはして欲しくない…そう、思い込みたかった…
『……違うよ。』
……もうやめてよ、本当は分かってるから…
「他人じゃないって…貴女は一体誰なの?私、貴女の名前なんて聞いた事も無いんだけど…」
正直、本当は私も彼女が誰なのかもう分かってる…認めたくないけど、彼女の言う通り…彼女は他人じゃない…彼女は…
『……本当に分からない?』
「だから…分からないよ!貴女は誰なの!?」
彼女の言葉を遮る様に私は思わず叫んでいた…やめて、もう聞きたくない…
『私は多分、貴女自身…』
「は?」
認めたくない…だから、私は自分の出した答えから目を背ける…例えもう無駄だったとしても、私は絶対に彼女の存在を認められない…何故なら…
『私はきっと…今こうしてここに居る貴女とは違う人生を送って来た貴女……話してよ、この出会いは多分…何か意味が有るんだと思うからさ…』
……吐き気がする程の不快感が襲って来る…彼女を認めるのは、今ここにいる私自身の否定になる…だって分かるんだもの。目の前に居る彼女は、きっと千冬と結ばれる事の出来た"私"なんだと……ねぇ、誰か教えてよ…どうして私じゃ駄目だったの…?私は、一体何処で間違えたの…?