手伝いは断られたので、私は刀奈が何を作るのかは当然知らなかった…ただ、今の私でもちょっとスルー出来無いくらい…かなり良い匂いがして来たので私は台所を覗き込んだ…
「…やけに買ったものの量が多いなと思ってたら、鍋ですか?」
「少し季節外れ気味だとは思うけどね、今の十秋ちゃんは汁物の方が食べやすいかなと思って…それに、温かい物の方が元気も出そうだしね。」
「…ありがとうございます…」
……正直、あんまり食欲が…あ。
「…フフッ、もうすぐ出来るから待ってて?」
「はい…」
私のお腹が鳴った……私の経験上、創作物で良く言われるくらい大きな音が鳴るって言うのは基本的に無いもの…実際、今のもそんなに大きな音じゃなかったんだけど…割と耳が良い方の刀奈にはしっかり聞こえていたみたい…うん、あの日から私…ちゃんとした食事はろくに摂って無かったしね…あまりに良い匂いに私のお腹が見事に白旗を上げたらしい…この分だと、食べられない心配はしなくて良さそうかな…と言うか、二人だとさすがに鍋は少し多いだろうと…私でもちょっと思……いや、そう言えば…前世では一夏君居ない時に千冬と二人でやったかな……うっ…千冬作の寄せ鍋改め、闇鍋を食べた時の記憶が蘇った…味は覚えてないけど気持ち悪さが…
くっ…さすがに今吐くとヤバいね、胃が空っぽだし…取り敢えず飲み物でも…あ、でも…今この家には刀奈が買って来た物以外何も…
「十秋ちゃん?」
「はい?」
「…喉乾いたなら、買って来た飲み物冷蔵庫に入ってるからそれ飲んでて。」
「……え、何で私が飲み物が欲しいって分かったんですか…?」
刀奈は今、私に背を向けたまま…こっちを見てもいなかったのに…
「う~ん…勘?」
「……」
ちょっと、ゾッとした…最早私の顔を見なくても、刀奈には私の考えた事が分かるらしい…
「十秋ちゃん?どうかした?」
「!…あ、いえ…それじゃあ、頂きますね?」
「ええ。」
まぁ、とは言え…飲み物が欲しいのは事実だし、少なくともこの場では何か実害が有る訳でも無い…気にしなくても良いか…
「ふぅ…」
取り敢えず私は台所に入り、作業を続ける刀奈を横目で見つつ…冷蔵庫を開けた。
「今更だけど、お茶で良かった?」
「ええ、大丈夫ですよ。」
少なくとも、今は変に味に特徴が有る飲み物を飲みたくない気分だった…だからお茶で正解…この際、ピンポイントで私の飲みたい飲み物を当てられてる事実に関しては気にしない事にする…別に私、普段だったら普通にジュースも飲むんだけどね…まぁ、さすがに偶然だろうと思う……最も、刀奈もお茶だけでなくジュースも飲むタイプなのに…大きいペットボトル入りのお茶が三本しか冷蔵庫に入ってなかったのも違和感では有るんだけどね…あくまで刀奈が飲みたかっただけなのかも知れないし、気にし始めたらもうキリが無いしね…
ちなみに…
「……」
「十秋ちゃん?どうかした?」
「!…いえ、何でも無いです。」
「そう?」
魚や肉に野菜…テーマを決めずにとにかく、色々な具を出汁と醤油で煮込んだその鍋…刀奈が作ったソレを一般的に"寄せ鍋"と呼ぶ事に気付いて、再びトラウマが蘇ってしまったのは…まぁ、ご愛嬌だろう…実際、味は普通に美味しかったし…見た目も千冬の作ったアレと似ても似つかなかったしね…その辺はさすが刀奈と言った所。
食欲が無いとか思ってたのは何だったのか、私はしっかり締めの雑炊まで頂いた(一般的にこっちでは締めは麺だと聞いた事有るけど、私はやっぱりご飯派)と言うか、ほとんど一人で鍋を空にしてたり……ま、私の場合は昔から美味しいご飯を前にしたら大抵の悩みは放り投げられるタイプだから…この結果は当然と言えば当然か(相変わらず解決はしてないけどね…)