「いっ、一夏!」
「ん?」
休日、俺は今日は特に出掛けたりはせずに学園の寮の部屋の机に向かって勉強をしていた……マジでこの学園、IS関連以外の事に関するレベルも高いから…せめてこうやって時折無理矢理にでも頭に詰め込んで無いとすぐに置いて行かれちまう……と言うか、高校の範囲遥かに超えて…それも一流大学レベルの内容やらせるってどう言う事だ…卒業後は国の代表になったり、IS関連の企業と専属契約結んだりして実質社会に出るからって、いくら何でも授業内容を詰め込み過ぎだ…
挫折した奴や、元々代表候補生にすらなれない生徒が出て来るかも知れないってのは分かるが…さすがに、度が過ぎている…
途中から休憩も兼ねて、そんな取り留めのない思考に耽っていたらさっきまで出掛けていた箒が息切らして部屋に入って来た…どうしたって言うんだ、一体…
「ほら、箒…一旦落ち着けって…深呼吸でもしろよ。」
「ハア…!ハア…!これが落ち着いていられるか!千冬さんが…!千冬さんが!IS学園を辞めるかも知れないと「あー…その話な、さっき千冬姉から連絡有ったよ。結局理事長に引き留められて残る事にしたそうだ」そっ、そうなのか…「最も、長期休暇は取ってるからな。正直いつ戻るのかは…俺にも分からないな…時間が掛かっても、時々戻っては来るつもりらしいけど」なっ…お前、千冬さんが居なくなったら「箒、千冬姉一人居なくなって立ち行かなくなる様なら…それって最早学校としてどうなんだ?ここって結構特殊な扱いでは有るけど、一応高校だぞ?」う…しかしだな…!」
「まぁ聞けって…千冬姉は今まで働き過ぎなんだ…俺の為なのは分かるけどな…少しは休んでくれた方が良いんだよ…よっぽどの問題でも起こさない限りは俺はここを退学にはならないし、学園に居る間は…俺の身辺にはほぼ何の問題も無いしな。」
まぁ俺個人は命の危機は絶えず感じる事は有るけど…正直、俺ももう慣れて来てるんだよなぁ…
「それは…確かにそうかもしれないが…しかし、お前も居るのにどうして突然辞めようなんて…」
「んー…そう言や、お前には言って良いって許可は貰ってるな…」
「何の事だ…?」
「お前には聞く権利が有るって事だよ。何で千冬姉が今になって辞めたいって言い出したのか…その理由を聞く権利がな。」
「そっ、そうなのか…?つまりそれは…私にも関係が有る話なのか…?」
「まぁ…間接的に、だけどな…」
「?…ますます分からん、どう言う事なんだ?」
「もう二ヶ月くらい前になるか…■■さんの話したの、覚えてるよな?」
「ああ。」
「千冬姉たちはあの人を連れ戻しに行ったんだよ「いや、分からん…何の話をしてるんだ?」言葉通りの意味だよ。俺も詳しくは知らないけど、千冬姉たちは…死んだ■■さんをこっちに連れ戻そうとしてるんだ。」
「それは…幽霊がどうとか、そんな話か?」
「いんや、オカルト的な話じゃなくて…まぁこっちも科学的根拠が有る訳じゃないけど…箒、お前はパラレルワールドの話は信じるか?」
「もしもの世界の話か?」
「そうだ、千冬姉たちは■■さんをそのもしもの世界からこっちに連れて来ようとしてるのさ…」
「そんな…有るかも分からない世界を探す為に?」
「いや…発見はもう出来て、行く方法も見つかってるって言ってたよ。ただ、実際に連れて来るのにどれ程の時間が掛かるかも分からない…だから千冬姉は辞めようとしたが、却下された…それで長期休暇って事になってる…認めないなら、理事長にどっちにしろ本当に辞めるって…脅しを掛けたらしいな…」
「しかし…そんな事の為に「箒、間接的に関わっただけのお前や、既に死んだ事を受け入れてる俺にとってはそうかも知れないけど…千冬姉にはそんな事じゃないんだよ…お前にも、分かるんじゃないか?」……まさか!」
「そうだ、千冬姉はやっと自覚したんだよ…自分にとってあの人がどれ程大事だったのか…それこそ、俺の事より優先したくなるくらいには…大切な存在だってな…」
「そうか…」
「そんな理由じゃ、俺だって止められない…と言うか、寧ろ納得したし、そもそも止める気にもならなかったな……まぁ、未だに気持ちそのものは自覚してないのには呆れたけど…」
「?…千冬さんは■■さんが好きだから行くんじゃ無いのか?」
「『大事な親友だから』だってさ…普通、親友と愛してる存在じゃ比重が違うもんだろ。血を分けた、たった一人の弟の俺より優先したくなったんだから…もう答えは出てる様なもんだと思うけどな…」
「それはまた…と言うか、一夏?お前はそれでも良いのか?」
「何が?」
「その…姉を取られた気分とかは…」
俺は思わず溜め息を吐いた…普段から散々言っててもそこに関してはまだ分からないのかと思いながら…それでも俺はやっぱり箒が良いんだろうな、と再確認出来たけど。
「俺は…今なら千冬姉の気持ちが良く分かるな…今の俺は千冬姉より、先にお前を守りたい…それくらいお前が大事なんだ…千冬姉も、そうなっただけの話だろ。」
「いっ、一夏!だからそう言う事を言うのは「二人きりなのに、本心を口にして何が悪いんだ?」一夏!」
「怒るなよ…つまり、千冬姉は…俺よりずっと大事な人を見付けた…ただそれだけの話だよ。というか、お前は嫌なのか?あの人が俺のもう一人の姉貴になるのは?」
「いや…そんな事は無いが「心配しなくても、俺が今一番大事なのはお前だよ…箒。」一夏ぁ!?」
「だから怒るなって。とにかく、実質千冬姉より先に大事な存在を見付けた俺としては…もちろん弟としてもそうだけど…寧ろ、応援してやりたいとすら思うんだよ。」
「そうか…」
「最も、未だに気持ちに気付いて無いのは頂けない…仮に連れて来れても…■■さんはこれから苦労するだろうな…」
「それは確かにそうだろうな…」
「まぁそれこそ束さんが言ってたけど…『気持ちを知られてる以上、■ちゃんは猛アタックして来るよ!ちーちゃんも満更じゃないんだから、時間の問題だね…少しでも脈が有るなら、絶対諦めないよ■ちゃんは!何せ、本性は束さんよりしつこいからネ!』だとさ。」
「一夏、あんまり姉さんの真似…似てないぞ?」
思わず肩からガクッと崩れ落ち、座っていた椅子から落ちそうになる…そこを突くなよ。
「仕方無いだろ、俺は…■●さんみたいに器用じゃ無いんだから…」
あの人、俺や千冬姉の声真似まで出来るからな…
「■●?誰の事だ?」
「あ、■■さんから聞いてないのか…■■さんの兄貴だよ。何だかんだ俺は…ある意味■■さん以上にお世話になった事も有るな…例えば、何度かフランスからこっそり日本に居る俺に会いに来てさ……今だから言えるけど、これまた何度か千冬姉には内緒で…ちょっとシャレにならない額の小遣いを貰った事も有る…ちなみに、今回の件にも参加してるぞ。」
「そう言えば千冬姉たち、とか言っていたな…姉さんは関わってるだろうとは思ったが、二人だけじゃなかったのか…しかし、いくら■■さんの兄だからと言って…あの姉さんが受け入れたのか?」
「それなんだけどな箒…一回、俺があの人と二人で会ってる時に束さんが来た事有るけど…束さんがめちゃくちゃ懐いてたんだ…正直、俺も驚いたよ…」
「あの姉さんが私たち以外、それも異性に懐いてたのも驚きだが…そもそも会話が出来ていたのか?」
「器用な事に、束さんの話にちゃんと対応しつつ…俺の相手までしてくれていたよ…後になってから俺一人の時に会いに来た束さんに聞いたら『■くんってめっちゃ頭良いんだよ!』って…もう目をキラキラさせながら言ってて、また驚いたんだよな……ありゃ多分だけど束さん…■●さんの事、本気で好きだと思うぞ。」
「だから似てない…待て、姉さんがその人の事を好きだと?」
「ああ。」
「恋愛的な意味で、か?」
「ああ、間違い無い。」
「……衝撃的な話を立て続けに聞かされて、もう頭がパンクしそうなんだが…」
「う~ん…正直これから先も箒は…束さんとの付き合いかなり薄いままになるだろうし、良いんじゃないか?別に恋愛してても。」
「いや、しかし「受け入れられないか?」そう言う訳では…」
「人間的にはかなり出来てる人だぞ……まぁちょっと変わり者では有るけど…そう言う意味では、束さんともお似合いかも知れないな…」
とある世界の何処かにて。
「ハックション!」
「どうした束?風邪か?」
「まっさか~!束さんが風邪なんてひく訳無いじゃん!多分誰かが束さんの噂してるんじゃないかな……例えば、そう…いっくんとか!」
「お前の妹なら分かるが…何でそこで一夏なんだ?」
「それはもちろん、束さんの勘だよ!」
「勘なぁ…」
「まぁ噂されてるかどうかは別にしてだ…束、君は少し無理をし過ぎだ…後は私がやるから、少し休め。」
「え~!まだ大丈夫「自分の娘に心配を掛ける気か?」うー…」
「束様…」
「分かった…分かったよ…■くん、後お願いして良い?」
「ああ、ゆっくり安め。」
「うん!クーちゃん、一緒に寝よ?」
「はい!」
「やれやれ…やっと寝てくれる気になったか。」
「凄いですね、ちょうど私もそろそろ寝かせた方が良いと思ってたんですが…私の言う事は中々聞いてくれなくて…」
「束の様なタイプは頭ごなしに否定したり、押さえ付けたりすると余計に反発するからな…搦め手で攻めるのが一番早いんだ…まぁ大抵の事は一人で出来てしまったが故の歪さだろうな…」
「成程…」
「さて千冬…君も少し休むと良い、君もだいぶ顔色が悪いぞ?」
「いや、それは…しかし…私は何も出来ていませんし…」
「君の存在はあいつを連れ戻す重要な鍵となる…極端な話、君は居るだけで役目を果たしてすらいるんだ…私たちが話してもあいつは渋るかも知れないが…君が居るだけで、あいつは必ず君を求めてこちらに来る…倒れて貰っては困る…頭を使うのは私や束の役目だ…だから君は…今は休むんだ。」
「分かりました…後の事は任せます…」
「ああ、君もゆっくりな。」
「それにしてもまさか…あの姉さんがな…」
「束さんだって普通の女性だったって事だろ?何せ束さんには…もう娘も一人居る事だし。」
「は?…はぁぁぁぁぁ!?」
箒が急に大声を挙げたので俺は耳を塞ぐ。いや、知らなかったのか?
「娘とはどう言う事だ!?その人と姉さんの間にもう子供が!?わっ、私は…知らない間におばさんになってしまったのか!?」
「落ち着けって「落ち着いていられる訳が!」おいおい、さっきも似た様な下りやったじゃねぇか。」
「だから!落ち着いていられる訳が無いだろう!?」
「順番に話すから、一旦落ち着けよ…と言うか、知らなかったのか?その子は別に束さんの実子って訳でも無いし、もちろん■●さんの子供とかでも無い…束さんが引き取った子だよ。名前は確か…クロエ・クロニクルだったな…」
と言うかこうなると…束さんが俺と千冬姉、■●さんにしか言ってないのが一番問題なんだよな……あ、多分■■さんも生前聞いてるかな…何で箒だけ聞かされてないんだ?束さんが箒を蔑ろにするとは思え……あー…もしかして、忘れてたのか?束さんは箒にちょっと会うだけで…色々手間も掛かるし。
「何で私は聞かされてないんだ…最近も、連絡を取っていたのに…」
「連絡?束さんから電話が有ったのか?」
「■■さんが生きてた頃は、私に普通に会いに来てた事も有るがな…最近は専ら姉さんがこっちに電話をして来る。だが私は…!一言もそんな話を聞かされていない…!」
やっぱり、言うのを忘れてた説が濃厚だな…まぁもうこうして聞いた訳だけど…そう言えば、結局俺から言って良かったのか?……ま、良いか。
「そんなに怒るなって…少なくとも、その子に罪は無いんだからさ…」
「そんな事は分かっている!私は!姉さんが私に何も言って来なかったのが気に食わないんだ!」
……あー…そう言えば、束さんのいつものサプライズで黙ってた可能性も有るのか。う~ん……まぁ、言っちまったものはしょうがないよな、うん。
「何れはさすがに言うつもりだったんだろ…そんなに怒るなって。」
「むぅぅぅ……何か知らんが、どっと疲れた…一夏、私は寝る…食事の時間になったら起こしてくれないか?」
「ああ、おやすみ箒。」
「おやすみ、一夏。」