パラパラと厚みの有る日記帳のページを捲って行く…あいつらしくない殴り書きの癖の有る筆記体で書かれているその内容は…あいつから時折フランス語を教わった私でも読むのは厳しかったが…それでもあいつが私へ抱いていた想いの丈の全てが綴られていると…そんな事をあいつの母親に言われてしまえば、私は読まない訳には行かなかった…
当時、色々身辺が慌ただしくはなったが…それでも私は…空いた僅かな時間を使って必死に解読した…そして今では、こうしていつでも読み返せる……いや、別に書かれてる内容は変わらんから読めてると言うより、単に暗記しただけなのかも知れんが…
「Je t'aimeか…お前は意図的に避けてたのか習ってないし、調べるまで分からなかったが…お前は私に本気で、そう言う想いを抱いていたんだな…」
一部日本人の中にもふざけて、Je t'aime(ジュテーム)と口に出す奴が居るが…先ずJeは普通に私、つまり自分の事を意味していてそこまでは良いんだが…ここで問題になるのがaimeは好き、とも日本語では訳せてしまうが…実際には愛していると言うニュアンスも多少含まれて来るらしく、更にtが付くだけでニュアンスは強調されてしまい…纏めるとJe t'aimeと言うのは私は貴方を愛している、と言う意味になると言う…簡単に言えば、例えば学生が告白に使う言葉としては相当に重い表現扱いされるそうだ…
ほとんどの場合は更に別に単語を付けて、もう少しニュアンスを軽くする物らしい…最も軽い気持ちでaime、と口にするのが既に問題になる事も有るらしいが……正直、私に理解出来たのはここまでだ…あいつの家族は全員日本語が話せるし、IS学園内では海外から来てる奴が居ても話す時は基本的に日本語が原則…これから先、私がフランス語を口に出す事はほぼ無いだろう…まぁ元々、実際にフランス人と話せる程に使いこなす自信はそもそも無いがな…それにしても…
「実家では一応フランス語を話せるがそれほど得意では無い日本人の母親に合わせる形で、昔から何だかんだフランス語より日本語の方を口にする事が多かったと言っていたお前が、それでもフランス語で日記を書いたのは…せめて私にだけは読まれるのを防ぐ為なんだろうな…」
何せ、普通にその日その日の出来事を書いただけの日本語の日記帳まで、実家のあいつの部屋の机から見付かっている…部屋の本棚の後ろに隠してあったこの日記帳とは違い…まるでこっちだけを見付けてくれと言わんばかりに、引き出しを開けてすぐに見える位置に置いて有ったらしい…とは言え、その割にはお前は私にフランス語を教える事も有った……気付いて欲しい…そんな想いも、心の何処かに有ったのか?
「だが、私が習ったのは簡単な日常会話だけ…筆記体も読めないし、これでは見付けてもその場では内容を読めないぞ?」
結局お前は…墓場まで自分の想いを持って行くつもりだったのか?私以外の周りに、自分の想いを何度も吐露しておきながら…
「まぁ、私の…したかどうかも覚えてないちょっとした仕草一つ一つに反応して、暴走しそうな想いを必死で抑え込んでいたらしいお前に…そんな質問を私がする事自体、お前にとっては酷な話なのかも知れないが…」
それでも…もう少し、信用してくれても良かったんじゃないか?私は…例えお前の気持ちに応えられなかったとしても拒絶はしないと言え…いや、その場合…今度はあいつの方が辛くなるのか…だが、私にお前を拒絶する事など…出来る筈も無い…
「全く…死んでからもこうして散々私を振り回すんだな、お前は…」
なぁ…決して長くは一緒に居られなかったが、私はお前と共に過ごした時間…悪くはなかったと思っているんだ…お前は、どうだったんだ?
「今度は…答えてくれないんだな…」
仏壇に置かれた遺影は…ただ私に向けて微笑むだけ…何の言葉も返っては来なかった…