「はい、あ~ん「いや、もう目は覚めてますし…自分で食べます…」あ…もう、無理すると熱が上がるわよ?」
「最低限は動かないと落ち着かないものですから…後、毎回ペース握られるのも嫌なんで。」
部屋に戻ってみたら十秋ちゃんはもう身体を起こしていて…スプーンと器を奪い取られた…ハァ…もっと注意したい所だけど、この子は割と頑固だしね…今はここらで折れておくのが妥当かな。
「…何か有りました?」
「…え…何が「誤魔化すのが下手ですね、それで暗部の長とか務まるんですか?」う…見抜けるのは多分十秋ちゃんだけよ…と言うか、何か棘が有るわね…」
「いや、良く良く考えたら…今回は私が下手に出る必要無いじゃですか。」
まぁ、それは確かに…今回十秋ちゃんが体調崩したのも明らかに私の所為だしね…
「ごめんってば…「ハァ…もう良いです、で…何が有ったんですか?」…言わないとダメ?」
「……言えない様な話ですか?」
「まぁ、十秋ちゃんにはちょっと…」
本人がひた隠しにしている過去の話を勝手に聞いたとは…ちょっと言い難い…
「…なら良いです、聞きません。」
「!…良いの?」
「良いも何も…私には言えないんでしょう?しつこく聞いても無駄なのは何となく分かるんで…聞きません。何より、面倒ですし。」
…それはそれで何か納得行かない…
「…いや、そんな顔されても…」
「だって…」
「この話は終わりって事で…もう一度言いますが、面倒なんで。」
「うー…」
「唸られましても…ならやっぱり聞いた方が良いですか?」
「……」
私は口を閉じた…まぁ、やっぱり言えないわよね…
「…そこで黙るなら、結局私としてはどうしようもないんですけど…」
「いやその、何かごめんね…?」
「別に怒ってるわけじゃないんで謝られても…ハァ…何か調子狂いますね、いつもみたいに堂々と…と言うか、飄々としててくださいよ。」
「いや、飄々としててって…言葉の使い方としては可笑しくない?」
「まぁ、私もそう思いますけど…刀奈さんって、人前では基本そんな感じじゃないですか。」
「…貴女や一夏君の前では割と素でいる事の方が多いと思うんだけど…」
「実質身内とは言え、暗部の長が素人の前でそうなのはどうかとも思いますけど。」
「…だって、隠してたって貴女たちには大体バレるんだからしょうがないじゃない…」
ま、とは言え…実際十秋ちゃんには見抜かれる事はそう無い…一夏君には色々指摘されるパターンは少なからず有るけど…言ってる事は基本的に正論だから余計なお世話とも言えないんだけどね…ま、それはそれとして…ここまで十秋ちゃんに本音をぶちまけるのは実は今まであんまり無かった様にも思う…ま、これは…要は八つ当たりになってる気がしないでも無い。
結局の所…この辺りの色々は虚ちゃんか、一夏君に言うのが本当は一番良いのだろう…尤も、一夏君は十秋ちゃんより聞き上手な方だから余計な事まで喋ってしまう事も多々有るので普段あんまり相談はしない…虚ちゃんは積極的には聞いてくれないし…
「…何考えてるか何となく分かりますけど、その辺は私に言われましても…一夏にでも言ってください。」
「…やっぱり分かる…?」
「何となくですけど。毎回聞いて貰ってばかり…と言うか、大体いつもバレてしまってるだけですけど…私、そもそも人の愚痴聞くのが得意って訳でも無いんですよ…何だかんだ相談役になってるパターンも結構有りますけど…」
「…嫌そうに言ってる割に、基本的に十秋ちゃんが人の相談を断ってる所って見た事無いんだけど…」
「あー…まぁ、性分なんでしょうかね…」
ま、確かにウチでも昔から割とそんな光景を何度か見掛けた記憶は有る…私や虚ちゃんより歳上であるウチの使用人たちは元より、結構な頻度まで私たちの両親たちまでそうしてた…ちなみに、十秋ちゃん以上にそう言う場面を見掛ける事の多かった一夏君曰く…
『十秋姉は昔からお人好しな所が有りますからね…ちなみに本人が言ってた事ですけど…『基本的に相談されてもろくに解決策を出せないパターンがほとんどなんだけど、それでも結構大袈裟なくらい感謝される事が多いんだよね…しつこいくらいお礼言われたり、それで何か貰うのも困るし…疲れるから相談受けるの自体断りたいとも思うんだけど…中々ね…』…まぁ、俺の知る限り十秋姉は昔から割と不器用な方ですし…当然上手い事あしらうなんて事も苦手ですから…それでも、相談されて断るなんて事も基本有りませんから…どれだけ時間が掛かっても逃げずに親身になってくれてるんですから…まぁ、そりゃそれなりに感謝はされるでしょう…その癖、感謝の言葉ですら照れ臭いのか素直に受け取らないパターンがほとんどですから…余計に相手も意地になるんでしょうね…ま、俺も色々巻き込まれる事が多いんで結果的にこっちまで疲れる事も多いですけど…嫌いになったりとかはないですね、俺にとっては千冬姉とは別のベクトルで尊敬出来る存在です。』
……改めて考えると、この内容を一言一句覚えてる私も我ながら凄いかも…私はさすがに簪ちゃんからそこまで思われてるとは思えないし、羨ましさと同時に…胸焼けを感じる…私たちの事も含めて、家族は昔からとにかく大事にしてる一夏君から出て来る言葉としては自然では有るけど…ちょっと、引いちゃうかも…
「…刀奈さん?」
「!…えっと…何…?」
「いえ、何か急に黙り込んだので…また何か考えてました?」
「…今度は分からないの?」
「ええまぁ…と言うか、昨日だって何となく分かっただけで…いつもは一夏と違ってそんなに見抜けないですから…まぁ、刀奈さんが私たちの前では素でいる時の方が多いのはそうなんだろうとは…思った事は何度か有りますけど…ま、実際あんまり隠す意味はないかも知れないですね…結構一夏にはバレてる訳ですし。」
まぁ、指摘されないだけで…今回自分で思ってるよりバレてるパターンが有るかもと思っちゃったけど…
「…ハァ…結構甘えちゃうのよね、貴女や一夏君には…」
「…まぁ、時々なら良いんじゃないですか。色々抱え過ぎて潰れられても困りますし…」
「……普段そんなに弱そうに見える…?私…」
「一夏も同じ事を言いそうですけど…基本そう見えないから心配なんですよ、こっちとしては…」
「…心配してくれるの?」
「血が繋がってる訳じゃないですけど…家族みたいなもんですしそりゃ、心配だってしますよ。昨日の事だって、私の事が好きなのも本音なんでしょうけど…色々溜め込んでた影響も多分有るんでしょうし…」
「…私、十秋ちゃんに酷い事しちゃったのに…」
「それなりに身体が弱い自覚も有りますけど、別に私もあのくらいで死ぬ訳じゃないですし…何より、普段そう言う事をしない貴女がああも暴走したら…怒るより寧ろ、心配の方が勝ちますよ…まぁ、そりゃ…思う所がないわけじゃないですけど…今の私の心境としてはこれはこれ、それはそれって感じですかね…」
「本当に怒ってないの?」
「私、前世の時から数えてもそんなに怒った記憶ってないんですよ…ま、もちろんゼロじゃないですけど。と言うか、一々些細な事で怒るのって疲れるし…面倒じゃないですか。」
「まぁ、私も十秋ちゃんが怒ったのって見た事ないけど…」
「…ふぅ…ところで、刀奈さん?」
「何?」
「…私に前世の記憶が有るって、一体誰から聞いたんですか?」
「え……あ…」
しまった…
「どうも可笑しいと思ったので、ちょっとカマを掛けてみました…貴女は少なくとも、今のやり取りで何も思わずそのまま流すタイプの人じゃないと私は思ってます…聞いたんですね?」
「…ごめんなさい…」
「…ハァ…まぁ、良いです「その、誰から聞いたのかは」…言わなくても分かりますよ「そうなの…?」私も限られた人にしか話してませんから…まぁ、もちろん…私から話してない筈の人に気付かれた可能性だって有りますけど。」
「その、彼女の事を怒らないであげて…私から無理矢理聞いただけだから…」
「…あの、刀奈さん…少なくとも隠す気が有るなら、候補を絞れる言い方したら駄目でしょ…」
「あ…」
「今日と言うか、昨日からホントボロボロですね刀奈さん…一応確認します、箒ですよね?」
「…そうよ…その、十秋ちゃん…」
「…別に怒りませんよ、箒は口は堅い方です。それでも貴女に言ったのは…きっとそれだけ、私が心配だったからでしょうね…」
「…十秋ちゃん…」
「何ですか?」
「…後悔してる?」
「何をですか?」
「私とその、しちゃった事…」
「ふぅ…してませんよ、と言うか…私もそれなりにノリノリだったのはさすがに覚えてるでしょう?」
「それは、まぁ…」
「アレは嘘じゃないですよ、刀奈さんとしたいと思った…それは、間違い無く私の本心です。まぁ、現状実際刀奈さんに恋愛感情を抱いてるかと言われても…違うと言うしかありませんけど…」
「…ハァ…ホント、敵わないわね…前世から今もこの瞬間も十秋ちゃんはずっと…織斑先生の事が好きで好きで堪らないんだから…貴女を心変わりさせるのは私じゃとても無理なんだって…そう思っちゃう…」
「ふぅ…刀奈さん?」
「何?」
「…かえって傷付ける事にはなるとは思いますけど、一応言わせてください…私は、貴女に全く好意が無い訳じゃないんですよ?私だって、嫌いな相手とあんな事をしようとは思いませんし…」
「でも…十秋ちゃんのそれは、結局は家族愛の延長でしょう…?」
「…私は…昨日貴女に告白されるまで異性同性問わず、姉さ…千冬以外とそう言う事をしたいなんて考えた事もありませんでした…貴女が、初めてなんですよ?」
「…他にも告白して来た人は居たんでしょう?」
「前世は元より今世でも…私にそう言う気持ちをぶつけて来た人は確かにそれなりに居ました…でも、千冬以外を選ぼうとは思えませんでした…昨日まで。」
「…一応、改めて聞くわね…少しは脈は有るって、そう思っても良い…?」
「……良いよ。貴女には、かえって酷な話かも知れないけど…」
彼女の口調が…いや、口調だけじゃない…雰囲気もいつもと違う…今目の前に居るのはまるで…私よりずっと歳上の様な…いえ、その通りなのよね…前世の記憶を持っているなら…実際彼女の精神年齢は私よりずっと歳上だろうし…加えてもう一つ…
「貴女は…前世では本当に金色の髪色だったんですね…」
「っ…え?」
「箒ちゃんから聞いた時は半信半疑でしたけど…」
いつの間にか…そこに私の見慣れた織斑十秋と言う名前の黒髪の少女は居ない…今、私の目の前には…
「とても、綺麗…」
そこに居たのは日本人とは明らかに違う彫りの深い顔立ちで、少し癖毛気味だけど薄暗い部屋の中でも光を帯びてる様にすら見える鮮やかな金色の髪…そして、どう見ても少女には見えない…大人の…とても、とても綺麗な女性。日本人は欧米人の顔はほとんど印象に残らず、見分けも付けにくいと良く言われる…ちなみに逆も然り。
でも彼女の顔は正直際立っていた…恐らく向こうでたまたま見掛けたりしたらきっと一生忘れる事が出来無い…そして、性別関係無くきっと十人中十人がすれ違えば振り向き…場合によっては思わずその背中に声を掛けてしまうだろうと…こちらを向いた彼女の顔を自分の脳裏に完全に焼き付ける為に…見分けが付かないと言っても、その実日本人の多くは彫りの深い欧米人種の見た目に本能的に憧れるとも言われている…
彼女の美しさは日本人の憧れ、正しく理想そのものだろう…私の見てるものが錯覚じゃないのなら、向こうでもこの顔だったなら…確かにモテただろう…美しさに惹かれるのは万国共通。憧れの強さは日本人が上だろうけど…それでも、向こうの人にとってもここまでの美貌を持つ人はそうは居ないだろうと…そう、断言して良いのではないかと思う。
…逆にここまでの容姿の美しい女性を前に邪な気持ちを一切抱かなかった織斑千冬と言う女性に改めて尊敬の念を抱いてしまう…いや、正直かなり苦労して劣情を抑えていたのだとしか思えない。確かに織斑十秋としての彼女も綺麗だったけど、今ここに居る女性は間違い無くそれ以上に美しい。
…同性で歳も下で…際立った容姿の彼女に恋焦がれ…ううん、違う…その美しさを汚したいと…不純な、ドロドロした欲望をぶつけてしまったと後悔していた私のそんな想いが…全部何処かに掻き消えてしまう程に…全てがどうでも良くなって、このまま新たに芽生えてしまった劣情に身を委ねてしまいたい…本気で自制しないとこのまま彼女を滅茶苦茶に壊してしまいたいと…そんな風に思ってしまう…妖しい魅力を確かに彼女は持っている…
さっきはモテるなんて言ったけど、改めて考えるとそんな風なレベルでは決して無い。
箒ちゃんの言っていた通り、本当にこの見た目で"そう言う経験"が一切無かったとしたら…間違い無く奇跡と言えるだろう…彼女は本気で自覚がなかったのだろうか…正直、もし当時彼女が実際に織斑先生に告白していたとしたら…上手く行くなんてレベルじゃなかったと思う…一応は耐えていた(と、思われる…)織斑先生も我慢の限界に達するだろう…少なくとも私なら、彼女を手元から決して離そうとはしない。
故郷のフランスには絶対帰さず、その場で彼女の自由を完全に奪ってしまうだろう…次もまた無事に自分の元に会いに来る保証なんて全く無いのだから…と言うか、本当に織斑千冬と言う女性が好きだったのなら彼女は良く織斑家を訪れていた筈…恐らく向こうの一夏君の初恋の相手は彼女だっただろう…その頃は多分子供だったからまだ良かっただけで、それでも彼にとってはきっと毒でしかなかっただろう…当時の彼女が今の十秋ちゃんとそう変わらない性格だったのなら、きっと面倒見は相当良かった筈…間違いが起きる気しかしない。
そして…弟の様に思っていた少年から襲われても、彼女は笑ってそのまま受け入れてしまいそうな…そんな予感が有る…
「刀奈さん?大丈夫ですか…?」
「っ…十秋ちゃん…?」
十秋ちゃんの声が聞こえた瞬間、私は我に返った…日常生活でこんな事を実際に思うのは可笑しいと思うけど…それでも、そうとしか形容出来なかった…気付けば、あの女性はもう居ない…そこに居たのは見慣れた、私の好きな織斑十秋と言う少女だけだった…それを認識出来た瞬間…私は力が抜け、その場に座り込んだ…さっきのは一体…いや、そんな事より…
「…十秋ちゃん…」
「…あの、大丈夫ですか?」
「…十秋ちゃん、聞いても良い…?」
「何ですか?…と言うか、凄く汗掻いてますよ?取り敢えずシャワーでも浴びて来た方が「大丈夫。それより…どうしても一つだけ、聞きたいの…答えてくれる…?」…そう言われても、内容を聞かない事には何とも…取り敢えず言ってみてくれますか?」
「…十秋ちゃん…本当に向こうで織斑先生に気持ちを伝えてないの?」
「え?…ええ、そうですけど…と言うか、箒からもう大体聞いてるんですよね…?」
「そうね…確かに、そう聞いてるわ…」
多分…箒ちゃんもあの光景は見ていないだろう。正直、さっきまでの事は今となっては曖昧で、まるで悪い夢か何かの様にすら思えて来る…完全に思考が塗り潰された…普段だったら絶対考えない様なとんでもない事を考えていたのは間違い無い…それだけ、あの美貌は危険だった…本当に、どうして織斑先生は耐えられていたのだろう…親友だったとは聞いたけど、あの容姿相手にその形を選び続けるのは到底不可能としか思えない。
まぁもちろん…それはさっきの女性が本当に前世の十秋ちゃんの姿だったらと言う場合の話では有る…ただ、不思議と私には確信が有った。
アレは…私が見た錯覚でも、私の妄想が作り出した幻でも無い。私は、間違い無く十秋ちゃんの真実の姿を見てしまったのだと…
「なら、今更何で「私、前世の貴女を見たわ」…はい?…いや、何処でですか?」
「今、この場でよ…貴女はさっきまで大人の姿だった…とても、綺麗だった…」
「…あの、どう言う意味ですか?「言葉通りの意味よ、この場に前世の姿の貴女がさっきまで居た…とても、綺麗だった」…ふぅ…嘘を言っている様にも見えませんし、百歩譲って私じゃない誰かの姿を見たと言うのを信じても良いです…でも、どうしてそれがあっちの私だと分かったんですか?」
「何故って言われてもね…でも、不思議と私にはそうとしか思えないの。アレは、間違い無く前世の十秋ちゃんの姿だって…」
「はぁ…金髪でした?」
「ええ。」
「…どんな顔でした?」
「それは……あら?」
いざ思い出そうとして気付く…何となく曖昧になったとは感じてたけど、改めて考えてみて愕然とする…さっきまで見ていた彼女の顔の記憶が…その部分だけ、何故か綺麗に私の頭の中から抜け落ちている…一応第一印象についての記憶は有るから、そこだけを言うなら…
「…ハッキリとは思い出せないけど…でも、とても綺麗だった…」
「…さっきもそう言ってましたね…でもそれならきっと勘違いですね、私そんなに綺麗じゃなかったと思うんで。」
「念の為聞くけど、当時の自分の顔がどんなだったかちゃんと覚えてるの?」
「ん?箒から聞いてませんか?」
「もちろん聞いてるわ…実際は覚えてないんでしょ?」
「ええまぁ…」
「なら、私の言ってる事は間違いとは限らないわね…」
「…当時の自分の顔は覚えてはいないですけど、多分会った事は有りますね…」
「え?…会った…?」
「ええ…昨日刀奈さんが一人で買い出し行ってる間に…」
「…あの、家に不審者が入って来たって事…?」
「いや、アレは本人じゃないですかね…多分私の別の可能性と言いますか「パラレルワールドから来たって事?」…さすがですね、普通今の言葉だけでそんな風には考えないと思います…」
「まぁ、うっかり寝てしまって夢でも見たって感じじゃないし…じゃあ後はそう言う可能性しかないじゃない。」
「…今更ですけど、そもそも信じるんですか?こんな話…」
「まぁ、私は今回実際見てるしね…ま、その十秋ちゃんは私が見た存在とは違う気がするけど。」
「…間違い無く、前世の私だと…?」
「ええ…と言うか他人の顔として昨日見たなら、逆に綺麗かどうか判断出来るんじゃない?」
少なくとも他人の顔として見たのだ…自分の顔であった当時よりは美醜の判断がつけやすいように思う。
「…う~ん…」
彼女はそこで考え込み始め…そして…
「…良く分からないです…」
「分からない?」
「改めて考えてみると、あの時見た顔がちゃんと思い出せなくなってまして…まぁ、本当にアレが別の世界から来た私かどうかも判断出来無い訳ですけど…でも、あの時抱いた印象としては、平々凡々な顔って感じだったんですよねぇ…実際、前世の頃もそんなイメージだった記憶が有ります…」
…自分の顔だし、当時と今の彼女の中で変なフィルターが掛かってるのかも知れな…いや、それでもあの顔を"普通"と判断するのは…う~ん…まぁ、結局私としても何とも言えない話かな…美醜の価値観って言うのは人それぞれ異なるものだとも思うし…と言ってもアレは……まぁ、これ以上考えても仕方無い話か…あるいは、あの時の彼女に未練が有ったから…今の十秋ちゃんがここに居るのかも知れないし、そう考えたら…案外当時彼女が織斑先生に告白出来無かった事を私は喜ぶべきなのかも知れないとさえ思う…一瞬襲って来た罪悪感はすぐに消えて行った…だって、前世で彼女が告白出来無かったから彼女がこの場に存在する事になったのなら…私は十秋ちゃんがここに居る今以外を望む気は無い。
「と言うか、刀奈さんの方も全然覚えてないんですか?…案外、似顔絵とか描けたりしないですか?」
「う~ん…人の顔描くのってあんまりやった事無いんだけど…ちょっとやってみましょうか。」
一応、私は絵は描けなくも無い。仕事上、色々な人に趣味を合わせる必要が有るから…私の特技の一つとして絵は確かに描ける。ただ、風景画や抽象画はともかく…似顔絵や肖像画は基本的にと言うか、絶対描かない。相手に提出した際、向こうがどう言う反応を返すのか分からないからだ…仮に忠実に描いたとしても向こうのイメージする"自分の顔"と合ってなければ、それだけで向こうを怒らせる可能性が有るからね…それなら下手に描かない方が無難とも言えるし。
…で、フロントに行って紙とペンを借りて今回実際に描いた結果は…
「…刀奈さんって絵が下手だったんですね…いや、私も人の事はあまり言えないんですけど…」
「…そもそもちゃんと覚えてないんだから仕方無いじゃない…」
今回の敗因は…ろくに覚えてない顔を描こうとした事もそうだけど、あの時感じた強烈なイメージが先行し過ぎた事だろうか…私は自分の描いた顔を改めて見る…うん…コレは人の顔では無いわね…単に下手って言うより、顔としての体を成してない…これだと図形の集合体みたい…いやまぁ、今まで似顔絵を描かなかった私の実力がコレかも知れないから何とも言えないけど…
…とは言え、次に描いた十秋ちゃんの顔に関しては…一応鏡に映っている自分の顔と数度見比べた十秋ちゃんから…
「…うん、そっくりですね…すみません、刀奈さんは下手な訳じゃ無かったんですね…」
こうして、私の絵は下手では無いことが証明された…ま、あの悪魔的な美貌は再び本人を前にしてもきっと…私には絶対描けないとも思うけどね…