『あー…成程ねぇ…そう言う話かぁ…』
『思ったより冷静だな?』
『そりゃあまぁ…ろくでも無い週刊誌とか出してる様な所なら社会的に抹殺する所だけどぉ…一応そこの雑誌読んでみたけど…かなり、クソ真面目でつまらなかったし…』
『つまらない、か…』
『色んなスポーツ選手一人一人の戦績だけじゃなくて、私生活にもそこそこ踏み込んでるけど一線は超えず、選手の個人情報にも配慮…記事の中身自体特に型破りな所も無く、王道を行ってる内容…まぁ、これだと本当にコアなファンでも無いと読まないだろうね…』
『成程な…』
『と言うか、束さんとしては逆に…ちーちゃんが知らなかったのが不思議だけどねぇ…』
『まぁ、聞けばあいつが生きてた頃に…私とあいつ……自分で言うと気恥ずかしいのだが…二人の美人女性剣士としてセットで特集をする企画も嘗て有ったらしい…起源こそ多少曖昧でオリンピック競技にこそ入らないものの日本で多くの国民に親しまれている剣道で名を馳せた私と、フランス発祥にして同じく国民に親しまれ、こちらはオリンピック競技にもなっているフェンシングで立場はほぼアマチュアに近いが必ず名の挙がるあいつ……企画が持ち上がった頃は、まだお互い出会う前の話の様だがな…』
『ふ~ん…何で流れたの?』
『更に聞けば…最初にあいつにオファーを出した時点で、もう断られたらしい…あいつ自身一度フェンシングに対して情熱を失っていたから、あるいはそのせいかも知れんな…一応、私とあいつの対談を記事の中心に据えるつもりだった様だが……最も、あいつを外して私一人の特集を組む事を考えたらしいが…本決まりになる前に別の企画が持ち込まれ、それが通ってしまい…結局は私一人の特集記事ですら幻になってしまったそうだ…』
『やけに詳しい話が出て来たね…』
『聞いてみたら、今回の取材の担当者は…当時の企画を持ち込んだ人物らしい…時間は掛かったが、こうして一つ…形に出来そうで良かったと言っていたよ……まぁあいつの兄だけでは無く、両親にも話を聞きたかった様だが…電話をした際に正常で無いのが分かってしまい、諦めた様だがな。』
『えっと、ごめんね…ちーちゃん…』
『……何故、お前が謝る?』
『だって、結局ちーちゃんには黙ったままだったから…』
『……良いさ、ここに来る前に知っていたら…結果的に冷静に動けたお前と違い…暴走してたのが容易に想像が付くからな…』
『ちーちゃん…仕事さえ無ければ普通にフランス飛んでそうだもんね…』
『給料だけはそこそこだからな、あの学園は…最も予め聞いていた業務内容にすら載ってない様な厄介事が腐る程起きる上、休みは毎回の様に潰れて……金を使う余裕なんて、まるで有りはしないからな…』
『ちーちゃん…結局またお酒飲む様になっちゃったもんね…』
『まぁな…それなりに飲んでも金が余るのは良いのか悪いのか…』
『タバコ、また吸うよりは良いんじゃない?』
『……あいつに散々言われたからな…元はアスリートとして名を馳せていたあいつに言われれば単に健康的に宜しくない、と言われれるだけで不思議と説得力は有る…』
『そうだね、さすがに元は選手だけ有って■ちゃんは吸わなかったみたいだからねぇ…あ、話ズレちゃったけど…結局ちーちゃんは何で、取材受ける事にしたの?』
『結局の所な…私自身、あいつのフェンシング選手としての腕がどれ程か知らないのさ…だから多くの人に知って欲しい、と言うより改めて私も知りたくなったのさ…雑誌として出版されるならその辺も当然、クローズアップされる事になる…』
『取材受けるってなると…本、届くよねぇ…』
『そんな目で見るな…一夏には送ってやりたいし、少なくとも一冊は買う事になるな…』
『タダで貰える方は?』
『もちろん私用だが?』
『……束さんのも『お前は自分で買え』…ちぇ。』
『と言うか、お前なら自分にも取材しろと名乗り出るかと思ったがな…』
『……束さん出て行くと騒ぎになって取材どころじゃないし…なら、問題が起こらない様に静観しておくだけにするよ。』
『そうか…』
「千冬?」
「っ…はい、何ですか?」
「……緊張してるのか?」
「注目されるのは慣れていたつもりなのですが…そうですね、不思議と…今日はそうみたいです…」
「……そんな君に一つ、話をしてやろうか?」
「……何でしょう?」
「例の取材をあいつが断った時の話だが…何故断ったと思う?」
「……何故でしょうか?」
「当時、母から聞いた話だが…『質問に答えるだけならまだしも…初対面の相手との対談なんて自信無いです…大体、私も日本語は話せますけど…それでも失礼が有ったらいけませんし…』」
「……いや…毎回思うんですが…何処から、その声出てるんですか?」
「職場でも中々ウケが良いんだ…私の数少ない特技さ。」
「成程…ところで、そうなるとあいつは先に私の名を聞いていた、という事ですか?」
「ああ…と言うか、順番が可笑しいがな…何故君との話が纏まって無いのにあいつに先にオファーを出したのか分からん…ちなみにあいつは君の名前は出会うまで忘れていた様だし、当時渡された写真もろくに見てなかった様だ…ちゃんと見てたなら…恐らく、取材は受けていただろうな…実は後で気付いて非常に悔しがっていたが…自分から断わったのに今更もう一回特集を組んでくれ、とは言えんからな…」
「何回言われても半信半疑なのですが、全くの初対面なのにそこまで私に興味を持つんですか?」
「『一目惚れ、とかじゃないけど…すっごく綺麗な顔で…初めから気になる存在では有ったの…まさか、好きになっちゃうとは思わなかったけど……いや、千冬には絶対言わないでよね!?私の真似もするのも禁止だから!』」
「クッ…いや、もう下手な録音機器より音質も良いですよね…何せ声帯から直接出てますし…」
「せっかくだ…生前あいつが言った事で私が君に伝えるべきと判断した事なら…これからは私の口から言う、と言うのはどうだ?」
「……その事自体はありがたいですけど…あいつの真似は程々にお願いします…色々、思い出してしまうので…」
「そうか……残念だ…」
「本気で残念そうですね?」
「あいつの真似が、一番自信が有ってな…」
「妹の声真似が一番得意な兄……良く仲直り出来ましたね?」
「あいつは昔からちょろいんだ……少し、心配になるくらいにはな…」
「あー…そうかもしれないですね…」
「『いや、ちょろいって何!?』」
「ぶふっ…いや、真顔だと色々破壊力凄いのでやめてください…」
「『兄さん、声真似はともかく…女装とかはしないでよね…』……実は、最近は変装にも興味を持っていてな…束がノリノリで、質感が人の皮膚に近いマスクまで用意してくれるそうでな。」
「貴方は何処に向かおうとしてるんですか…」
「せっかく与えられた能力だ…限界まで使ってみたいじゃないか……さて、少しは緊張も解れたかな?」
「ええ…だいぶ気持ちは、楽になりました…」
「そうか。さて、そろそろ時間だ…まぁ気楽に行こう…幸い、テレビ取材では無いからな……録音はされるが。」
「そうですね…」
「ところで…変装云々は冗談ですよね?」
「『どっちだと思う、千冬姉…?』」
「今度は一夏の声ですか…」
「一夏には体格的に化けられそうも…いや、案外誤魔化せるかも知れんな…」
「本当に冗談ですよね…?と言うか、その理屈なら女性になるのはもっと無理ですよね…?」
「『■くん!束さんはいつでも協力するからね!』求めてくれる人間がいるなら、応えてやるのは吝かでは無いな。」
「貴方の精度だと、最早世界的に混乱が起きそうなので絶対にやめてください…と言うかそんなに、女装したいんですか?」
「似合わないかな?」
「……寧ろ、ほとんどメイクしなくても似合いそうで困りますね…」