『…休みはたった二日しか無いのに、その二日の内…数時間としないで私の親友と先輩が身体の関係を持ってしまった…そして、そこから大して時間も掛からずに…親友が身体の関係を持ってしまった先輩の奴隷になった…と言う報告を、よりにもよって件の先輩の方から受けた…しかも、その二人はどちらも女性であり…何なら、報告を受けている私自身も女性で有る…こんな情報量の多い話を聞かされている私が今、何を考えてるか…貴女に想像出来ますでしょうか…?』
「本っ当に!ごめんなさい!」
今回の話を広めるつもりは無かったけど…さすがに、"彼女"には言わないとならないとだろう…そう思い、十秋ちゃんには適当な理由を言って…織斑家の外で電話…とは言え、当然ながら…私の話自体は静かに、疑問を挟む事も無く聞いてくれたけど…私の話が終わった瞬間…溜め息を一つ零し、そこから底冷えのする程…静かに、低い声で言葉が返って来て…私は外なのも構わずその場に座り込み、携帯を地面に置いて…それに向かって土下座をして、謝罪の言葉を叫んでいた…私も、これまでに"暗部"の人間としていくつもの修羅場を潜って来たつもりだったけど…その声からは…今までに無い程に、本気で命の危険を感じた…
『…ハァ…取り敢えず、頭を上げてください…』
しばらくの間が有って聞こえた声は先程よりも高く…そこで私は一瞬気を抜いたけど、すぐに血の気か引くのを感じた…
「あの…何で私が頭を下げてるって…」
『…この状況で謝罪も出来無い程、一応貴女も馬鹿じゃないとはさすがに私も思っているのと…もう一つ…こちらに届く声の感じで、何となくですかね…先の聞こえ方から察するに、土下座でもしていましたか?』
「…ええ、そうよ…」
…未だ戦慄を感じつつも、私は切り替える事にする…そうね、寧ろ…私がそれだけ申し訳無く思ってる事が伝わって良かった…そう考える事にしましょう…
『ちなみに、今は…外ですか?』
「!…そうよ、今は外から掛けてる…」
『…今、貴女が私に電話を掛けてる事をあいつは知っていますか?』
「…いえ、伝えずに外に出て…貴女に電話を…」
『…さっき言った契約の話…持ち掛けたのはあくまであいつの方からだった…それに嘘偽りは無いですか?』
「…ええ…それは、本当よ…」
『…半分、形だけと言う事になってるとは言え…契約書の内容を纏めたのも?』
「ええ…」
『…首輪と鎖を付ける様に言ったのもあいつだと?』
「そうよ…」
『……ふぅ…まぁ、本人が自分でそう言ったなら…結局私がどうこう言える話では無いですが…で、この事は一夏には?…千冬さんには言えないのは、分かりますが…』
「その…まだ…やっぱり言った方が良いかしら…?」
『当たり前…と、言いたい所ですが…ま、正直…私が貴女の立場だったら言えないな、とも思います…』
「……」
『ただ、勘違いしないで欲しいのですが…私が仮に、貴女の様にあいつに恋愛感情を持ってしまっていたとしても…"それ"は絶対にさせません。』
「まぁ、結局…私が悪いわよね…」
『一概に、そうとも言えないですが…ただ、もう少し考えて欲しかったとも思いますね…貴女も、気付いていたんでしょう?あいつが、どう言う性格なのか…』
「…あの子は自分に縋り付こうと迫って来る手を…それが、かえって向こうに良くない事だと分かっていても…簡単に振り払ったり出来無い…そして、その相手が"身内"で有るなら特に…その癖、あの子自身はメンタルが弱いのに平気でそれをやろうとする…」
『…もっと言えば、今回の場合…あいつ自身ももう限界だった…貴女があいつに縋り付こうとするその手が…あいつにとって、差し伸べられた手に見えたんでしょう…だから、あいつの方もまた貴女に…そのまましがしがみ付いた…普段の様に、自分では力が足りないと思っていても…見捨てられないから、引っ張り上げ様とするのでは無く…』
「…だから、あの子はそのまま私の元まで落ちて来た…」
『…平たく言えば、そう言う事でしょうね…どうですか、喉から手が出る程欲しかった物が…こうして手に入った気分は?』
「…最悪ね、取り返しの付かない事をしてしまったって…今、後悔してる…」
『それは一応、不器用なりに貴女に応えようとしたあいつへの侮辱にもなるでしょうが…そう思えるのなら、貴女はまだまともでしょうね…』
「…ねぇ?私、どうしたら良いと思う…?」
『…それを私に聞くんですか?』
「ごめんなさい…でも、本当にもう分からないのよ…」
『…責めて欲しい、裁いて欲しいと言う話なら…それを私に言うのはお門違いですね…経緯はどうあれ、結局この結果を望んだのはあいつです…私が何かを言える話じゃない…』
「でも、私は『ただ、強いて言うなら』…何かしら?」
『あいつは貴女の手を取る事が多分…自分への救いの道に見えたんだ…良かったですね、ちゃんと救えましたよ。』
「こんなのが救いですって…?」
『そう言う事です…あいつは貴女に、依存する事で満たされたんでしょう…あいつが責任を取ると言った様に、貴女もあいつにそうさせた責任を取ってください…メンタルケアをするのでも、それを喜び…享受するのでも良い…もし、貴女があいつを簡単に切り捨てたりしたら…それをあいつは責めないとしても…私は一生、貴女を許さない。例え何処へ逃げたとしても、あらゆる手を使って私は貴女を追い続け…生涯を懸けて、貴女を地獄の底に落とします。』
「…私の方が切り捨てられる可能性は考えてないの?」
『…ハァ…逆にあいつが回復したとしても…貴女が立ち直れてないなら、そう簡単にあいつは貴女を捨てないと思いますが…ま、もし仮にそうなったとしたら言ってください…慰めたり、背中を押す手伝いくらいはしましょう…』
「…逆に聞きたいんだけど、貴女はどうしてそこまでしようとするの?」
『別にあいつ程お人好しのつもりも無いんですが…言ってしまえば私自身も、あいつに毒された身です…それに、あいつには個人的な借りも有りますから…何より、私の方も貴女を焚き付けた責任は有るでしょうから…その時は、最低限出来る事はしますよ。ただ、私はあいつ程…甘くはないですよ?』
「…ふぅ…怖いわね…かなりのスパルタで接して来そう…」
『生憎私は、縋り付く手を簡単に見捨てる事は無くても…立ち直る気の無い人間を最後まで面倒見る気は有りません…やる気が無いなら、さっさと見捨てます…時間の無駄なので。』
「本当に怖い…そうならない様、気を付けるわ…」
『…ふぅ…と言うか、そろそろ戻ってください…主人が近くに居ない奴隷が、普通何をするか分かりますか?』
「え…?」
『その主が心底嫌いなら、主が不在の場合…逃げようとするか…あるいは短い時間でも自由を謳歌するでしょう…何なら、その後見付かって罰を受けるとしても…ただ、本気で忠誠を誓っている奴隷は違う…そう言う場合奴隷は、最悪自分自身の手で自らに枷を付けます…主に対して服従の意を示すために…例え主からその指示が無くてもです…あいつの性格と今のメンタル…現在の状況などを込みで考えると…きっちり正座でもして待っている事でしょう……何なら、トイレなども行かずに。』
「…ちょっと、待って…私、そんな酷い事命令したりは…」
『そうじゃ有りません…行動指示が無い以上、奴隷はそうするしか無いんです…貴女はそもそも、その辺きちんと…あいつに言ってから外に出るべきだった…』
「…分かった、すぐに戻るわ…ホントに、色々ありがとね…箒ちゃん…」
『…ハァ…礼は良いので早く戻ってください…取り敢えず、この事は一夏にも黙っておきます…また、あいつの事で何か有ったら電話してください…もちろん、緊急事態以外は時間を気にして欲しいですが。』
「うん、分かった…じゃあ…また…」
電話を切り、私は織斑家のドアを開けた…
…ちなみにその後、床に正座…そして、明らかに顔色の可笑しい彼女を見て…急いでトイレに連れて行く羽目になった…まさか、本当に私の指示が無いと行かないなんて…全く、『おかえり、刀奈』って…無理矢理笑顔作って言わなくて良いのよ…こんなんで私、明日学園戻っても大丈夫なのかしら…心配になって来たわ…