「诶?(えっ?)」
それが、あたしと織斑十秋の出会い…
当時あたしは十秋の居る日本の学校に転入して来ていた…ただ、日本と言う国は…どうにも文化の違いも有り、中々馴染めない…
そして、あたしが特に嫌だったのが…学校での虐め。
「别这样了!(もうやめてよ!)」
「だから、何言ってるか分かんねぇって言ってんじゃん!」
当時あたしが何とか覚えた拙い日本語では、長文で話すのは初日の自己紹介が限界…その後は、こうして焦ると中国語が出てしまう…ただでさえ、たどたどしい話し方の所為で馬鹿にされてるのに…向こうに分からない言葉で話すと、余計に嫌がらせが酷くなる…
両親にもうこんな国は嫌だ…中国に帰りたい、そう言いたかった…でも、二人は店をやるのに忙しくて…とてもじゃないけど、そんな話は出来無い…あたしが、我慢すれば良い…そう思ってた…そんな時、声を掛けて来たのが織斑十秋。彼女は私が転入して来た日を含めて三日間学校に来ておらず…後で聞いたら、風邪を引いて休んでたとの事だった…
「一夏から貴女の事は聞いて…あ…对不起,我的中文也不太好…(ごめんね、私もそこまで中国語は得意じゃないから…)」
確かに、当時の十秋の中国語の発音は…正直あたしの話す日本語並みにたどたどしい…でも、嬉しかった…少なくとも通じないわけじゃないし、何より…ある意味この国では異物でしかないあたしに合わせて、中国語で話し掛けてくれる事が本当に。
「如果你愿意的话,我来教你日语怎么样?(良ければ私が日本語を教えようか?)
「!…イイノ?」
「如果你愿意的话…(貴女が良ければだけど…)」
「ヨロシクオネガイシマス…」
「うん…我们一起加油吧。(頑張ろうね。)」
その後は十秋の双子の弟だと言う一夏も加わって、あたしは日本語を教わる事に…
「十秋、これってどう言う意味?」
「ん?これはね……だよ。」
「…あ、そう言う事…にしても十秋って、本当に教えるの上手いわよね…ま、一夏もだけど。」
「だったら良いんだけどね…正直どっちかって言うと、鈴の覚えが早いんだよね…」
「ま、たどたどしさは早々に消えたし…今は授業で当てられても、鈴はもうあまり詰まる事も無いもんな。」
「…でも、あたしの今の喋り方で本当に良いの?生意気に思われたりしない?」
「敬語は難しいし、後からでも覚えられるからね…それに、私は鈴の話し方…結構好きだよ。」
「そう…なら、良いけどね。」
「!…何か、鈴って…笑うと結構可愛いよね…」
「何よ?普段のあたしは可愛くないわけ?」
「そうは言ってないよ…いつも可愛いよ、鈴は…でも、そうやって笑ってるともっと可愛いかな…」
「…ハァ…何か知らないけど、お姉さん振らないで…同じ歳じゃない…てかアンタ…自分より、あたしの方が可愛いとか…思ってないわよね?」
「っ…何で、私がそう思ってるって…」
「勘だけどね…アンタは普通に可愛いと言うか、寧ろ綺麗なんだから…自信持ちなさいよ…と言うか…!」
あたしは手を伸ばし、十秋の胸を掴む…
「鈴?」
「…前から思ってたけど…絶対アンタ、あたしより大きいわよね…?」
「!…ちょっ…鈴…痛いって…!いや、同じぐらいだと思うよ…多分。」
「絶対大きい…!」
「あの…これでもコンプレックスなんだけど…って、本当に痛いってば…」
あの頃は若干の対抗と、色々な事への照れ隠し…いつからか、そんなつもりで良く十秋の胸を揉んだりしてたけど…最終的に思った事が一つ…十秋の場合…口では痛いと言いつつも、そこまで嫌がらないし…ろくに抵抗もして来ない…そこに、あたしは一抹の不安を覚えずにはいられなかった…
そして、もしやと思って一夏にとある事を聞いて…あたしはその事を十秋に問い質した。
「ねぇ、十秋?実はアンタも虐められてるって本当?」
「んー…誰から聞いたの?そんな話?」
「一夏から…で、どうなの?」
「う~ん…別に虐めって程でも無いけど…ちょっと、色々とね…」
十秋の話だけだと、どうにも要領を得ない…だから、あたしはしばらく十秋の行動を観察する事にした…そして、ある日…あたしは目撃した。
「ちょっと!何やってんのアンタたち!」
「…ありゃ?鈴?何でここに?」
「悪いとは思ったけど…アンタの後を付けさせて貰ったの…で、アレはどう言う事?どう見ても、虐めの類いだと思うんだけど?」
「んー…そこまでじゃないよ…ちょっと揶揄われてるだけ。」
そう言う十秋の顔は、別に怖がってるわけでも…何なら我慢してるわけでも無く、特に何とも無いと思ってるのはあたしにも分かった…ただ、アレは…やっぱり虐めだ…どう考えても、ズレているのは十秋の方としか思えなかった…とは言え、十秋はそれを理解してない以上…あたしが彼女に何を言っても無駄。だから、取り敢えず一夏に話をしに行った…
「一夏、アレは…確かに虐めだと思う…でも、十秋は全然気にしてない…」
「だよなぁ…なぁ鈴…一つ、頼みが有るんだけど…」
「…十秋の事?だったら、あたしは何でも協力するわよ。」
十秋にも、一夏にも…あたしは助けて貰った恩が有る…だから、大抵の事はしてあげるつもりだった…
「頼もしいな…で、何をして貰いたいかなんだが…」
「十秋、アレは…本当に虐めなの…いい加減、理解してくれない?」
「…って、言われてもねぇ…私からしたら…そうは思えなくてさ…」
十秋は…あたしを助けてくれた時も思ったけど…とにかく、優し過ぎる…本当に、度が過ぎる程のお人好し…加えて言えば、誰かを助けたとしても…ほとんど見返りは求めない…あたしが中国に居た頃の友人でも、ここまで人の為だけに動ける人は中々居ない…もっと言えば、人は理不尽に攻撃されたなら…普通は僅かでも抵抗を試みるもの…でも、彼女は相手がそれで被害を被る事すら厭う…本当に、病的なまでのお人好し…その癖、自分の事はまるで気にしない…"織斑十秋"。彼女の事を知れば知る程…助けられた恩だとか、もうそう言う事も考えなくなる…
ただ純粋にあたしは、彼女の事が心配だった…こんな事を繰り返してたらいつか、彼女の方が擦り切れて消えてしまうんじゃないか…そんな気がして…
「…で、本当にあたしはああやって十秋を守っているだけで良いわけ?全然、解決の兆しも見えないんだけど…」
「ああ、悪いが…もうちょっと待ってくれ…後ちょっとなんだ…」
「…ふぅ…一夏、アンタの事…信じるわよ…絶対、十秋の事を助けてよね?」
「ああ、分かってる…鈴、お前が居てくれて本当に良かった…」
その後虐めのリーダー格だった女子が転校すると同時に、十秋への虐めはぱったり無くなった…一夏に何をしたのか聞いてもはぐらかされた…その辺は後から紹介された一夏の友人の弾や、数馬も同じ…まぁ、十秋は助かったし…それで良いのかも…これからは普通の学校生活が送れる…あたしは、その時はそう思ってた…
「一夏、ちょっと良い?」
「…ん?どうした鈴?」
「…何か最近、このクラスの雰囲気可笑しくない?」
「…あー…やっぱりお前も分かるか?」
「これだけあからさまだとね…そりゃ、分かるわよ…で、やっぱり原因は十秋?」
「…ま、先ず間違い無くそうだろうな…ただ、虐めの時もそうだけど…基本的に十秋姉が悪いってわけじゃないし…何なら、今回のコレは虐めじゃないしな…これだと、こっちも下手に手を出せない…」
ま、平たく言えば…十秋は色々とやり過ぎたのだ…誰彼問わす助けていたら、いつの間にか…恋愛感情の様なものを持ち始めた人が増えた…そんな話。
「…ま、普通なら…あたしも安心する話なんだけど…そう言う気持ちを向けてくれる人が居ると十秋が知って…更にそれに応えようとするなら、十秋ももう少し自分の事を大事にしてくれるかもって思うし…」
「…ふぅ…相手が一人や二人なら、俺もそう思えるし…何なら、持ってるのも普通の恋愛感情なら…後は、俺もそいつがまともな奴なら良いって話になるんだけどな…」
「…けど、コレは不味いでしょ…どう考えても、クラスの半数がそうだし…何なら、女子が多いし…ま、あたしは別に偏見無いし…一夏の言う通り、ソレが普通の恋愛感情ならどうにかなると思うんだけどね…」
「…ま、俺も偏見は無いけど…アレ、どう見ても所謂ヤンデレの類いだからな…もうコレ、一人に絞れば済むとかの話でも無い…」
「…そうなったらなったで…選ばれなかった面々が暴れるわよ、多分…」
「だよなぁ…こんなの、十秋姉にも言えないし…どうしたもんか…」
「逆に、どうして本人は気付かないのかしらね…不思議でしょうがないわ…」
「…ま、十秋姉は割と鈍いからな…」
「…と言うか、十秋の場合…ちゃんと好きな人居るんでしょ?」
「ん?気付いてたのか?」
「…ま、アンタたちの家でお世話になる度…あんなの見せられてたらね…千冬さんでしょ?あれだけ過剰なスキンシップされてて…口ではああ言ってるけど…毎回十秋の顔がニヤけてるし…他に考えられないわよ…」
「…ちなみに、お前はどう思う?」
「十秋が実の姉が好きな事に付いてどうかって事?…良いんじゃない?最終的に十秋が気持ちを告げたとして、決めるのは千冬さんだし…何なら、アンタたち親も居ないし…もっと言えば、女性同士なら子供も出来無いんだから…結婚出来無いくらいでしょ、問題なんて…少なくとも、あたしは良いと思うわよ?何なら、他人がどうこう言う話じゃないと思う…ちなみに、アンタは?やっぱり反対?」
「…正直に言えば、将来的に二人に相手が出来無かったらそれもアリかと思ってる…ま、俺も反対しないよ。」
その時はそれで話は終わった…ただ、さすがにシャレにならなくなったのはそれからすぐ後…割と十秋と一緒に居る事の多いあたしたちが、嫌がらせを受ける事が多くなったのだ…
「…一夏、大丈夫?」
「何とかな…お前は?」
「あたしも…何とか…ちなみに弾から聞いたんだけど、前もこのタイプの嫌がらせ有ったって本当?」
「…いつの間にか、十秋姉への虐めの方が増えたけど…箒…お前が来る前までここに居た俺たちの幼馴染が一人居てさ…あの頃も、そいつも一緒に色々とな…」
「…ハァ…それは、そいつに同情するわね…」
「…ふぅ…ねちっこいんだよな、本当…」
「…と言うか、その癖手段選ばなさ過ぎて犯人がバレバレだしね…」
「まぁな…ほら、あそこ見てみろよ。」
「!…あいつら…!」
「!…おい、待て。」
「っ!…何よ…」
「その様子だとあいつらの事、覚えてるんだな…」
「前に十秋を虐めてた連中でしょ…あたしたちにこんな事してるんだから、いつの間にか気持ちがそっちに反転したって事なんだろうけど…ふざけてるわ、こんなの…さすがに十秋だって怒るわよ…」
「…ま、十秋姉も身内が傷付くのは本気で嫌がるからな…」
「…いつも人の事ばかり気にしてるしね…ハァ…こんなの、十秋にも逆に言えないわよ…」
「地味に虐めと嫌がらせの中間…加えて、証拠も残りにくい…もっと言えば、大事にすれば十秋姉に伝わるから…俺たちが教師にも言えないの、分かってるんだろうな…」
「…ふぅ…何なら、こっちが耐えられるギリギリのラインを選んで仕掛けて来てるしね…本当に、タチが悪いし…ムカつくわよ…」
前の虐めと違い…十秋に絶対に悟られたくないから、本当に耐えるしかない…その癖、十秋はこっちの顔色が悪いとすぐに気付いて心配して来るから…黙ってる罪悪感も凄い…
「…鈴?最近、体調悪い?」
「ちょっとね…大した事無いわ…てか、アンタこそ大丈夫?」
「私?私は最近は特に何も無いけど…ねぇ?本当に大丈夫?」
「大丈夫よ…そうだ、今日ウチに一夏と一緒に来ない?」
「今日?良いけど…迷惑じゃない?」
「大丈夫。寧ろ、アンタが一杯食べてくれるの…見てて気持ち良いって、二人共喜んでるから…」
何より、あの頃はウチの両親二人がケンカする事が多くて…それも辛かった…ただ、十秋と一夏が来た日はそれも少し落ち着く…と言うのも、ケンカの主な理由は使ってる言葉も違えば、文化もまるで違う国で商売してる事のストレス…でも、十秋と一夏は中国語が話せるから…二人の機嫌が少し良くなる…
「…でも、行く度にお金は要らないって言われるパターン多いのはちょっとなぁ…」
「…ま、どっちみちあんまりお金無いんでしょ?こっちの好意なんだから、素直に受け取って…それでも嫌だなって思うなら…時々あたしを匿ってくれてる恩返しみたいなものだと思ってくれれば良いから。」
あたしは両親のケンカが激しい日は織斑家にお邪魔させて貰って、そのまま家に泊まる事が多い…元はと言えば、夜に家を抜け出したあたしがちょうど買い物の為に外に出ていた十秋と一夏に遭遇したのが切っ掛けになる…あの時の恩、と言うか…今もズルズルと家に通ってるんだから…こんな程度で、あたしも返せたとは思ってない…と言うか、二人は元より…二人の姉の千冬さんですら、あたしが夜遅くに突然家を訪ねても嫌な顔はしない。
二人はいつも気にするなと言って笑顔であたしを迎え入れてくれるし…千冬さんは大抵『お前も色々大変だな』と一言言うくらいで、事情もあまり深くは聞いて来ない…何なら、その後あたしが困らない様に…後で千冬さんはウチに電話を入れたりしてくれたりしているらしい…ハァ…本当に、あたしは…何ならウチの両親もそうなんだろうけど、織斑家の面々に頭が上がらない…
「…別に私は何が出来てるわけでもないと思うんだけど…」
「十分よ、アンタも一夏も…もちろん弾や数馬も…何なら千冬さんも…あたしを助けてくれてる…本当に、いつもありがたいって…あたしはそう思ってるんだから…」
人に何かをして貰っても、あたしは素直になれない事が多い…でも、今あたしの周りであたしを助けてくれる皆にはそれが出来無い…特に、今あたしの話を聞いてくれてる十秋には…
「そんなに気にしないで…友達でしょ?」
「…ありがと。」
ま、正直…あたしはアンタの事は単なる友達だとは思ってない…何なら一緒に寝てる事も多い所為か、"家族"みたいに思える事が有る…ま、だからってわけじゃないけど…あたしは中国に戻るあの日…一夏に告白した…ちょっと言い方が遠過ぎたのか、伝わってなかったみたいだけど…雰囲気で分かった。
少なくとも一夏は、あたしに恋愛感情は抱いてはいないと…でも、それならそれで良かった…あの頃、一緒になってあの嫌がらせを共に耐え切った一夏の事は戦友みたいなものだと思ってる…そして、十秋…アンタの事は親友で、今でも家族みたいな存在だとあたしは思ってる…
…だから、十秋…アンタがもし、今…辛い目に遭ってるって言うなら…あたしは放ってはおけない…アンタの事を助けたい…アンタが嘗て、あたしにそうしてくれた様にね…
「……」
私の話は終わった…私の話を黙って聞いていた鈴はまたコップのお茶を飲み干す…
「…ふぅ…ごめん、取り敢えず…トイレ借りて良い?」
「良いよ。」
「…ちゃんと、そこに居てね?すぐ戻るから…」
先程の様に、やけに私に念押して…鈴は居間を出て行く…トイレね、ま…2L入りペットボトルのお茶の大半を一人で飲んでれば、そうもなるよね…ちなみに、私は今も…コップのお茶には一切手を付けていない…時計を見れば今は、鈴が来た時のちょっと夜遅いって言う程度じゃなく…既に深夜の時間に差し掛かっている…要するに、優に二時間以上は喋り続けたわけだ…でも、未だに喉は乾いてる気がしない…
「お待たせ。」
少しして、鈴が戻って来た。
「…アンタ、それ飲んでないの?」
鈴が私の前にあるコップを指差す…
「…うん、喉乾いてな「飲んどきなさい」え?」
「良いから…あれだけ喋って、喉乾いてないわけないでしょ?」
「…うっ、うん…分かったよ…」
釈然としないものを感じながら取り敢えずコップに口を付け、傾け……アレ?
「…ハァ…ね、乾いてたでしょ?」
私はコップの中の温くなったお茶を一気に飲み干していた…止める事が、出来無かった…何より、凄く満たされた感が有った…コレが意味するものは…実は私が喉が乾いていた、と言う…
「どう、して…」
「だから…あれだけ喋ったら、普通は喉が渇くもんなの…」
改めて鈴にそう言われて、初めて私は異常に気付き…っ。
「大丈夫、落ち着きなさい…少なくとも、今ここにはあたしが居る…」
身体の震えと共に、気が遠くなりそうになった私の意識が戻る…いつの間にか、鈴が私を抱き締めていた…
「りっ、鈴…私…」
「ほら、大丈夫…」
鈴の身体は小さいのに、私を抱き締めるその身体の体温は高く…私を慈しむ様に抱く様はまるで、母親の様にも思えて来てしまう…ふぅ…
「…鈴、もう大丈夫「震えが止まってない…もう少し、こうされてなさい」でっ、でも…何か、恥ずかしいし…」
「大丈夫。ここにはあたししか居ないし…別に誰にも言わないから。」
そう言われても…っ…なっ、何で…?
「そりゃ泣きもするでしょ…アンタの場合、いつも人の事ばっかりで…自分を労らないんだもの…今回の場合、自分も限界だったのに…また他人に手を伸ばして…アンタはもう、行き着く所まで来ちゃったの…」
私の目から雫が流れてるのが分かる…何で?私、今…別に悲しくも何とも…
「何故かしらね…アンタが今の状態が、あたしには…手に取る様に分かるわ…アンタは悲しくなかった…そう思ってるのは伝わって来る…考えてる事が伝わりやすいのは昔から全然変わってない…でも、今は…それ以上にあたしに色々と伝わって来る…」
「私…」
「アンタは自分の辛い気持ちに蓋をし続けて…人に手を差し伸べ続けた…だから、壊れたの…アンタが思っている以上に…滅茶苦茶に。」
「私、は…」
「アンタは昔からそう…どうして、キツイ…辛い…苦しい…まだそう思えてる内に、ちゃんと誰かに相談しなかったの?アンタなら、聞いてくれる人は沢山居た筈よ?」
「…言え、ない…それで、皆に負担を掛けるのは嫌だから…」
「でも、アンタがそんな風になったら結局皆が悲しむ…それは、分からなかった?」
「それは、分かってる「分かってなかったから、こうなったんでしょ?」…でも、やっぱり言えない…」
「アンタのそれって、良い所では有るし…間違い無く、アンタの魅力の一つにはなってると思うけど…短所でも有るわよね…」
「……」
「いつも嫌な事は嫌ってちゃんと言わないから、誰もアンタが本気で苦しんでるのが分からないし…アンタはその状態でも、他に苦しんでる人を見付けたら平気で手を差し伸べる…良い機会だから覚えておきなさい?誰かを助けようとしても、それをする自分の方に余裕が無ければ…他人の問題は、絶対に解決出来無いの。」
「鈴…」
「私は、アンタを助けたい…でも、あたしが今それを言えるのはアンタのお陰。アンタのお陰で、今のあたしが在るの…」
「鈴、私…どうすれば良いのかな?」
「あたしに縋ろうとする事の出来る、今のアンタなら…きっと大丈夫。色々と山積みでは有るけど…一つずつ、問題を解決すれば良いの…まだ間に合うわ。」
「うん、分かった…その…手伝ってくれる…?」
「もちろん。アンタの為なら、いくらでも手を貸すわよ?」
「ありがとう…」
「その言葉は…アンタの抱えてる物が全部無くなった時まで、取っておきなさい…」
「…ふぅ…さてと、アンタも落ち着いて来たみたいだし…色々と整理して行くわよ?いくつか質問すると思うから…今のアンタの考えてる通りで良い…最終的に筋が通る、通らない…何なら辻褄が合わないとか、そう言うのは全く気にしなくて良いから…今は取り敢えず、全部素直な気持ちを答えなさい…もちろん、誤魔化しとかは一切無しでね?」
「うん、分かった…」
「…で、さっき一応、一通り聞いたけど…確認の為に、敢えてもう一度…基本の部分から行くわね?先ず、アンタは千冬さんが恋愛的に好き…それで合ってるわね?今も心変わりとかはしてない?」
「うん、それは今も変わってない…」
「…で、それはそもそも…織斑十秋としての今のアンタがそう感じたんじゃなくて…前世の今となっては名前も顔もろくに分からない誰かからの想いを引き継ぐ形になってる…つまり、アンタはそのどっかの誰かさんの生まれ変わり…そして、前世の時点でアンタは千冬さんと親友としての交流こそ有ったけど…結局告白はしないまま、知らない内に死んで…今の織斑十秋…アンタになった…ややこしいけど、その辺はまぁ、一応理解したわ…合ってる?」
「うん、大体ね。」
「…で、アンタはその想いを今も引き摺ってる…ふぅ…そもそも、それだけ強い想いが今も有るのに…何で、千冬さんに告白してないの?」
「だって…出来無いでしょ…相手は実の姉だよ?」
「…じゃ、もう一つ聞くけど…何で前世では告白してないの?多少曖昧にはなってるとは言ったけど、今世になっても千冬さんの事を忘れられないくらいなんだし、理由に心当たりくらい有るでしょ?」
「それは、だって…相手は同性だよ?」
「その同性を好きになっておいて?何でそこに、今更忌避感が有ったわけ?」
「逆に聞くけど…同性を好きになって、それを簡単に相手に伝えるなんて出来る?」
「それは…あたしの場合だったら、どうするのか聞いてんの?」
「そうだけど…」
「…ふぅ…あたしの場合、確かに素直じゃない部分は有ると自分で自覚もしてる…でも、遠回しな言い方にはなったとしても告白はちゃんとする…そこに異性も同性も関係無くね…」
「……」
「真面目な話、聞きたいんだけど…前世のアンタって、一体何を気にして千冬さんに告白するのを散々伸ばしてたわけ?」
「それは…一応言ったと思うけど…」
「確かに聞いてる…でも、あたしにはそもそもそれが分かんないわけ…異性か、同性かなんて…初めから気にする理由が無い。少なくとも、赤の他人には文句言われる筋合いは無い…千冬さんは向こうでも有名人だった…それは分かる、でも…さっきも言った様に、元々世間がどうのとか関係無いでしょ?恋愛は結局、何処までも当人同士の問題。それを同じ気持ちを持ったライバルでも無い奴が、とやかく言えるわけも無い。」
「……」
「…ふぅ…ま、この話は取り敢えずここまでで良いわ…もう終わってるしね…で、アンタは告白出来無いまま…織斑十秋として転生した…そして、それでもアンタの気持ちは消えてなかった…加えて、今世では恋焦がれた織斑千冬は実の姉だった…それで?」
「それで、って?」
「だから、すぐ近くに居たんだからいくらでも気持ちを告げるチャンスは有ったでしょ?それぞれ、フランス…日本って言う風に前世の様に住む場所が違ったわけじゃない…千冬さんは昔からバイト漬けで確かに家に居ない日も多かった…でも、あたしは知ってる…それでも、千冬さんはアンタと一夏との時間を極力作ろうとしてた…家で、アンタとちょっと過剰なくらいのスキンシップを取ろうとしてるのも何度も見てる…で、何で告白してないの?」
「だって…それは…実の姉だから…」
「あのねぇ…今世でせっかく姉妹になったのに、ろくに仲良くも無い姉妹だったって言うなら気後れするのも分かるわよ?ただ、千冬さんはどう見ても…それこそ、猫っ可愛がりするレベルで…アンタの事を愛してた…アレは正直、普通の家庭の姉の姿じゃないわよ?」
「…何が、言いたいの?」
「アンタ、千冬さんの気持ち…ちゃんと確認したの?」
「どう言う事?」
「…もっと言えば、少なくとも千冬さんはアンタに疚しい気持ちは有ったんじゃないかって事…恋愛感情じゃなくて、最早それすっ飛ばして…性的な感情は有ったんじゃないかって、言ってんのよ。」
「…まさか、そんな…」
「…で、実際には千冬さんの気持ちは分からないけど…仮に、もし…本当にそうだったら…アンタは、どう思う?気持ち悪いとか、そう言う風に思う?」
「それは、全く…思わないかな…」
「じゃあ、アンタはどう感じる?」
「正直、普通に嬉しいかな…それでも。」
「ま、そうよね…当時からアンタ…明らかに本気で嫌がってる様子無かったからね…」
「正直に言えばその…距離も異様に近いし、欲情しない様に必死で堪えてて…」
「うん、そこまで聞いてない…ま、とにかく…仮に千冬さんにとって、アンタがそう言う対象だったとしたら…気持ち悪がるどころか、最早嬉しいと感じちゃうくらい千冬さんが好きなんでしょ?」
「うん、大好きだし…普通に愛してる…と言うか、そうだったとしたらもう…いっそ、私の方から襲いたい…」
「はいはい…で、質問を戻すけど…何で、気持ちを告げてないの?正直、千冬さんのソレが恋愛感情じゃなかったとしても…疚しい気持ち持ってる可能性大だし…アンタの言う様に向こうに気持ち悪がられるどころか、千冬さんは大喜びする可能性の方が高いと思うんだけど?」
「…でも、万が一…」
「ヘタレねぇ…で、挙句に他に自分を好きだと言って来た女と奴隷契約して自分の道が決まったとか言って喜んでる…アンタ何やってんの?つか、好きだと言って来た方も…アンタの覚悟が重過ぎて、明らかに引き気味じゃない…」
「だって…本当に嬉しいって、そう思っちゃったから…」
「加えて、アンタが最初断り切れなかった理由が性欲に負けたからと…アンタじゃなかったら、軽蔑してるわよ…」
「うん、自分がクズなのは分かってる…でも、嬉しかったのは事実だし…刀奈の気持ちに応えるには…もうそれしか思い浮かばなくて…」
「…てか、そこでアンタが安易に身体許すから向こうも離れられなくなったんでしょ?挙句の果てに、身体に噛み跡なんて付けられて……あ、ちょっとその跡…悪いんだけど、もう一回見せてくれる?」
「うん……コレで良い?」
私は着ていたシャツを捲り上げる…鈴が少しずつ顔を顰め…やがて顔を逸らす…
「…うん、もう良いわよ…」
「…ごめん、嫌な物見せて…」
「…ハァ…あたしが見たいって言ったんだから、謝らなくて良いわよ…取り敢えずソレ、明らかに傷になってるから…後で救急箱持って来なさい…薬塗ってあげるから。」
「え…でも、自分で「恋愛感情も無い相手に身体平気で許して、そんな傷付けられても怒らないバカを信用出来るわけないでしょ…あたしがやるわ」…分かった、分かったよ…」
ホント、鈴には敵わないなぁ…正直、私にとっては箒より強い存在なんだよね…
「…と言うか、そいつの為に…下着も着けてないって言ってたっけ?」
「うん…」
「…で、そいつが居ないのに…さっき裸で居た理由は?」
「…面倒だったから…」
「…ハァ…それが可笑しいって、思わないわけ?」
「え?」
「あたしもアンタも人形じゃなければ、犬でも無い…人間よ。人間だから、必要が無ければ服を着てるのが当たり前なの…面倒だから、とか無くね…てか、百歩譲ってそれも分からなくないけど…さっきアンタ…家のドアに鍵も掛けて無かったわよね?入って来たのがあたしじゃなかったら、アンタどうする気だったの?」
「…どうするって?」
「だから、不審者だったら…それも男だったらどうする気だったのか聞いてるの…アンタ襲われてたわよ?」
「え?…いや、こんな寸胴体型「アンタの身体は自分で思ってるより魅力的なの…てか、あたしはその気は無いし…何なら、アンタに恋愛感情は今も抱いてないけど…そのあたしですら、昔見た時…邪な気持ち抱きそうになったんだから」…あんまり、聞きたくなかったなぁ…」
「現実逃避しないの。そのあたしがそうなったのよ?つまり、アンタの身体はそれだけ魅力的って事…下手に見せたら本当に襲われるわよ?出し惜しみするくらいでいなさい。」
…正直、あんまり納得行かないけど…
「うっ、うん…分かった…」
「それと…更識刀奈だっけ?例の契約だけでも切った方が良いわよ?仮に切るって言えば、切れる余地は残してるのよね?」
「…そうしないと駄目かな…?」
「下手に温情を残すから皆アンタを好きに扱おうとするのよ…少なくとも、奴隷契約なんて以ての外…何より、アンタがそいつに恋愛感情が無いんだし…変に希望持たせる方が残酷よ…どうしても傷付けたくないから、とかほざく気なら…契約は切った上で、千冬さんをキッパリ諦めて…ちゃんと普通の恋愛として向き合わないと駄目に決まってんでしょ。」
「う…やっぱり、そっか…」
「…と言うか、裸の写真要求して来るクズに温情なんて要らないわよ…アンタどうせ、顔も込みで送ってんでしょ?万が一、その写真を知らない奴に見られる事になったら…アンタの人生終わりよ?」
「……」
「ちなみに、最後に聞きたいんだけど…もし、今回本当に変な奴に襲われてたらどうしてたわけ?」
「それは…正直、面倒だし…犬にでも噛まれたと思って忘れ「二度とそんな事言わないで!」…え?」
「アンタにとっては余計なお世話かも知れない…けど、あたしは…本当にアンタが大事なの。アンタにそんな目に遭って欲しくないし、それを簡単に無かった事にもして欲しくない…アンタにもっと、自分を大事にして欲しい…ちゃんと、自分を守って欲しい…そう思ってたら、いけない?」
「鈴…」
「今は、まだアンタには良く分からないかも知れない…でも、何れアンタにもちゃんと分かる時が来ると思ってる…あたしは、そう信じてる…」
「うん、ありがとう…」
「取り敢えず…例の契約は早々に切りなさい…それと、そいつはアンタを守るって言ってくれてるんだっけ?信用出来るの?」
「うん、それは大丈夫。」
「…じゃ、寧ろ大いに利用するくらいの気持ちでいなさい…アンタは、もっとズルく立ち回る事を覚えた方が良いわ……それとコレ…渡しておくわ。」
鈴が取り出した手帳に何かを書き付け、それを破り、私に手渡して来る…
「えっと…コレって?」
「あたしの今の携帯の番号とメールアドレス…今週一杯あたしはここに居る事になるけど…多分、アンタのその可笑しくなった身体は…こうして問題がハッキリして来た所で、そう簡単には多分戻らない…だから、何か有ったら…ううん、何でも良い…伝えたい事が出来た時でも…他愛の無い雑談でも良い…いつでも、連絡して…あたしが電話に出れなくても、最悪はメール飛ばしてくれたら後で見れるし…」
「…でも、そしたら鈴が…」
「そうじゃないの。あたしが…そうしたいって言ってるの…アンタはもっと、人に頼る事を覚えて…お願い…」
「…うん、分かった…ごめ「違う…違うでしょ?」ありがとう、鈴。」
「うん、宜しい…ふぅ…にしても、疲れたわねぇ…まさか、来るなりこんなに重たい話を聞かされて…こんなに喋る羽目になるなんて…」
「ごめんね、鈴…」
「…ハァ…ま、良いわ…これでもあたし、アンタに返し切れない恩が有ると思ってる…覚悟しなさい?まだまだ、あたしはアンタが幸せになるまで…絶対、目を離してあげないんだから。」
「…でも、そしたら鈴の幸せは…」
だって、鈴だって…一夏に…
「こう言う時は…そうそう、お生憎様って言うんだっけ?あたしね、向こうで好きな奴出来たの…だから、もう一夏の事は吹っ切れてるの…だから、今回は一夏に会いに来たんじゃなくて…実はアンタに会いに来たの…一夏は最終的に自分で色々どうにか出来るだろうけど…アンタは、絶対何かやらかしてると思ったから…ホント、今日ここに来れて良かった…だって、今日アンタに会わないまま学園に来てたら…アンタ多分、本当に取り返しの付かない所まで来てたと思うから…尤も、あたしじゃ完全に引き戻す事は出来無い…切っ掛けは、もう十分でしょ?踏み出すのはアンタよ…出来るわよね?言っとくけど、今週一杯はずっとアンタを見張ってるわよ?」
「そこまで言う…?」
「だってアンタ、今自分の身体の不調にも気付かないくらい可笑しくなってるのよ?と言うか、その胸の噛み跡…本当に何も感じない?」
「え?別に何とも……あれ?」
何か、今になってズキズキと…あっ、あれ?
「ほら、だから言ったでしょ?そのままだとどうにも出来無いし…取り敢えず、一緒にお風呂…入りましょ?あたしが念入りに身体洗ってあげる…」
「…あの、変な事しないよね…?」
「失礼ね…って、言いたいところだけど…アンタの場合…それ言えるだけ、成長ですら有るのよね…アンタ、本当に元社会人?そう言えば前世ではアンタフランスに居たんだっけ…向こうって、電車での痴漢とかどうなってたの?」
「ん?そりゃ、そう言うのはあっちでも有ったよ。」
「アンタがされた事は?」
「一応有るけど…」
「…何回くらい?」
「…何回だったかな…」
頭を捻ってみるけど…まぁ、一回や二回では無いかな…顔はともかく、体型は今の私とそんなに変わらなかった様な記憶有るけど…私みたいな体型が良いとか、皆結構物好きだよねぇ…
「…その感じだと、結構何度か遭遇してるっぽいけど…ちなみに、どう対処してたわけ?」
「ん?別に何も?」
「何もってまさか…触らせっ放し?」
「私は特に気にしないし…その内皆諦めて去っていくし…一々、何かするのも面倒だから…」
「あのさぁ…向こうで千冬さん以外に友人とか、居なかった?」
「そりゃまぁ、一応居たけど…」
名前もほとんど思い出せないけど…それなりに仲の良い人は居た…何なら、ちょっと色々怪しい人も…
「うん…アンタの顔から伝わって来た…つまり、そう言う気の有りそうな人が何人か居たわけね…じゃ、そっちは忘れて…アンタに色々、アンタのその在り方について…忠告してくれる様な友人、居なかったの?」
「それはまぁ…居たけど…」
「アンタそれ、真面目に聞いてた?」
「…聞くのは、聞いてたよ?」
「…つまり、流してたと「いや、聞いてたってば」結局身に付いてないんだから、ちゃんと聞いてないでしょうが。」
むぅ…反論出来無い…
「…ハァ…その人が不憫ね…せめて、今度は忘れない様にしてよ?…言っとくけど、また馬鹿な行いする様なら…いつでも、あたしがぶん殴りに行ってあげるから覚悟しといて…これからはちゃんと…一夏は元より、千冬さんにも確認するから。」
「え?でも鈴だって色々大変でしょ…と言うか、これから先…好きな人と付き合えたら私に構ってる暇なんて…」
「大丈夫…あたしとほとんど同じタイプの奴だから。最終的に上手く行ったら…どうせアンタや一夏…千冬さん、弾や数馬にだって紹介もしたいし…アンタの事はしっかり教えておくわ…アンタが馬鹿な事やらかしたら、一緒に叩きのめしに行くかもね?」
え…私、二人の人間に殴られるの?
「それが嫌なら、今言った事はちゃんと頭に入れといて…頼むから、普通にこっちに遊びに行ける様にしてよね?」
「…そもそも、殴ろうとしないと良いんじゃ?」
「…うん、伝わってなかったみたいだから…この場でやっても良いかしら?」
「え?…良いよ?」
と言ったらその場に鈴が倒れた…?…あ、ズッコケたってやつかな?
「…だから…自分を大事にしてって言ったわよね?全然、伝わってないじゃない…」
「…って言っても、鈴になら殴られても良いかなって…」
「…だから、身内相手だからってろくに理由も無く危害を加えられるのを容認すんじゃないわよ!そうしたから、今回こうなったんでしょうが!」
「痛っ!痛い!鈴、足踏まないで!」
「だから嫌なら動け!逃げなさいって言ってんでしょうが!」
「理不尽!」
とまぁ、そうやってドタバタやってる内に時間は過ぎ…気付けば明け方に…
「…ハァ…本当にもう…夜が明けちゃったじゃない…」
「アハハ…何かごめん…」
「…ま、良いわ…取り敢えずお風呂行きましょ…言っとくけどその傷…傷そのものは浅かったけど、割と化膿仕掛けてたから…早く処置しないと危ないわよ?」
「え?マジ?」
「…マジよ。…と言うか、その刀奈って奴…裸の自撮り送らせてといてソレに気付かないんだから、さすがにどうかと思うんだけど…浮かれ過ぎじゃないの?」
「あー…まぁね…」
「ま、ちょうど良い機会だし…付き合い方考え直した方が良いわよ?」
「んー…そうする…」
何かもう、色々と身に染みたよ…