「ん?何だ?」
「…十秋、悪いけどアンタも来てくれる?」
「ん…私も?」
それはあたしたちが中学に入り、その後十秋と一夏が割とすぐ長期休学に入り…それが漸く、開けて少ししてからの事…復帰してしばらくは二人は質問攻めにされていて、あたしは中々入り込む余地が無く…と言うのはまぁ、さすがに嘘…小学生の頃こそ十秋のあの癖が原因で、あたしたちは中々校内で三人で集まると言う事が出来無くなってたけど…(本当に、クラス内が割と最悪な空気になってたのに何で十秋は気付かなかったのかしらね…)
逆に言えば、あの頃それでも一夏と二人で耐え切った事が良かったのか…その後小学校で何度もクラス替えとかを繰り返してる内に(普通日本の小学校で六年間でそこまで何度もクラスメイトがバラけるってあんまり無いらしいけど…さすがに先生方もヤバいって思ってたのかもね…)いつの間にか、十秋を囲もうとしていた連中も空中分解…少しずつあたしたちへの嫌がらせも減って行き…今では、ある程度あたしたち三人に入り込むのは難しいと思ったのか…十秋とあたしの二人きり、あたしと十秋、一夏の三人で集まるのはある程度容易な感じに…まぁ、あたしたちへの嫌がらせが完全に無くなったわけじゃないけど…中学って他の小学校からも子供が入って来るし…さすがに色々やりにくくもなったんでしょうね…
ま、前置きが長くなったけど…あたしは二人に声を掛けようと思えば、いつでも出来たのだ…と言うか、今のあたしはこれでもクラス内である程度発言力を有してると自負してるし…何なら、あの頃よりあたしの味方も多い…実際、何度か二人と話さなくて良いのって友だちにも聞かれたけど…それでも、あたしは二人に集まってる人だかりが完全に消えるまで待っていた…実を言えば、あたしが中学に入学した辺りから両親もやっとこの国での生活に慣れて来たらしく…未だケンカこそ無くならないけど昔程酷くはないから…あたしも織斑家に頼る事は無くなってた…ま、そうでなくても今回のとある一件が原因で…現在は千冬さんも含めて織斑家には誰も住んでないって話だけど…とにかく、だからあたしは今日…本当に二人と久しぶりにまともに話をする事になる…
「…一応鈴がずっと俺たちと話すタイミング窺ってたのは気付いてたよ…で、ここまで待った上にこんな所に連れて来たんだ…人に聞かせられない話って事で良いよな?」
ここは所謂、体育館裏…昔こそ、不良が日中時間問わず溜まり場にしてたとか言われてるらしいけど…さすがに今の時代は放課後にもなればほとんど人気は無い…
「あたしも二人がさっさと帰りたいのは察してるし、単刀直入に聞くわ…例のドイツでの誘拐の話…世間的には誘拐されたのは一夏ってなってるけど…実は誘拐されたのって、本当は十秋よね?」
一応あたしは小声で言ったつもりなんだけど…一夏はあたしに鋭い目付きを向けて、次に人差し指を窄めた唇に当ててシーと声を出し、更には手を前に出して…あたしに背を向けてその場から離れた…まぁ、昔はともかく…今はそれだけで言いたい事はあたしも分かる…声を出すな、ちょっと待ってろ…である…
その内残った十秋が携帯を取り出して何やら操作して、次に画面をあたしに見せて来た。
『ごめん。私たちは今、一応監視が付いてるの…さすがに今の鈴の発言は色々と不味いから、多分向こうで今…鈴の事をどうするか話し合ってると思う…でも、今一夏が話を着けに言ってるから待ってて…多分、大丈夫だと思う…』
割と衝撃的内容がそこに書かれていた…と言うか、最近アンタたちの雰囲気が変わったなとか思ってたけど…改めてあたしの知らない何かが有ったんだと確信した…それでも、あたしを守ろうとしてる二人の姿に根本的部分は変わってないんだと少し安心もしていた…
やがて、一夏が戻って来る…
「どうだった?」
「今日の人たちは割と話の分かる人たちだったからな…一応向こうには黙っててくれるそうだ…もちろん、鈴…お前がこれからする話を黙っててくれるのが条件だけどな…」
「…じゃあ、話してくれるわけ?」
「全部は悪いけど今は無理だけどな…ま、何れ詳しく話せる時も有るかも知れないけど…そうだな、先ずお前が今言った疑問が正しいのかは答えるよ…その答えは、YESだ。」
「やっぱり…」
「…ちなみに、鈴は何でそう思ったの?」
あー…何らかの材料が揃ったら他の人にもバレるかも知れないってのを気にしてるのね…ただ、そこは問題無い。
「勘よ…正直、十秋には悪いけど…一夏が誘拐される姿が浮かばなかったからね…」
「成程…ま、ただ…今回一応正解では有ったが一つ言っておく…俺じゃなかったのは結局たまたまだ…場合によっては、俺だった可能性も十分に有った…何せ向こうは突発的に、モンド・グロッソ日本代表織斑千冬の兄妹を身代金目的で狙ったとかじゃなくて…綿密に計画を立てて、俺たちを狙って来た…要は、相手は完全にプロの連中だったらしいからな…ま、最後の最後で色々とヘマをやらかしてくれたお陰で…人の手を借りてこそいるが、俺と千冬姉で行方を追えたし…制圧も出来たけどな。」
「制圧って…アンタも戦ったわけ?」
「まぁ、な…美味しい所は全部千冬姉が持ってったし、俺は大した事出来てないけど…」
「…ふぅ…そんな事無いよ、一夏はナイフを向けられた私を身体を張って助けてくれたじゃない?」
「あ、バカ!」
「…十秋…それ、どう言う事…?」
「あ…しまった…」
あたしがその時怒ったのは…正直、いつもの勘…誘拐された事を思えば、人質にされるのは当たり前…でも、あたしはまた十秋が何かやらかしたんじゃないかと…すぐに、そう思った…
「…ハァ…仕方無い…俺が誘拐場所の倉庫に制止を振り切って突入した時、既に先に突入した千冬姉が手を出せなくなっててな…十秋姉が人質になってたからな…けど、あの時十秋姉は自分から刺されに行ったんだ…恐らく人質で有る自分が居なければ、千冬姉は勝てると踏んだから…だから、俺はそんな十秋姉を守る為にそのナイフを持った女に渾身の体当たりをした…ま、こんな所だな…」
「十秋ぁ…!?アンタ、何やってるわけ…!?」
「いや、だって…明らかに私が足手まといになってたし…」
「そう言う問題じゃない!何の為に二人が危険を冒してまで助けに来たと思ってるわけ!?千冬さんに至っては、その後のバッシングも多分承知の上でアンタの元までやって来た!一夏に至っては、アンタの為に命を懸けて助けようとした!それなのにアンタは「鈴、怒る気持ちは分かるが…そこまでだ…これ以上騒ぐと、さすがに人に聞かれる」っ…ごめん…」
「いや…まぁ、良い…十秋姉はやっぱりその辺抜けてるからな…お前みたいに本気で十秋姉の事を心配して怒ってくれるのはありがたい…俺や千冬姉だと、家族って事も有って…どうしてもその辺、ちょっと手心加えちまうからな…」
「…その、ごめん…鈴、私「ハァ…謝る相手が違うでしょ?ま、その辺の話は一応もう三人でしてるんだろうから…あたしからはここまでにしとくわ」…うん…」
「…ふぅ…で、監視が付いてるってどう言う事?それも答えてくれるんでしょうね?」
「…ハァ…ま、全部話せるわけじゃないが…一応ある程度納得出来る説明はするつもりだ…一応、ここからの話も他言無用だ…出来るよな?」
「分かってる…アンタたちが危険になる様な事はしない。」
「…どっちかと言うと、ヤバいのはお前の身の安全だけどな…実は今回の一件が原因で、俺たちの事を良く思ってない連中が結構居るらしい…だから、今俺たちは…ある特殊な訓練を受けてる人たちに護衛されてるんだ…ちなみに、その連中の排除も同時に請け負ってくれてる…ただ、まだまだ全部潰せるまで時間が掛かるらしい…」
「そいつらは、信用出来るの?」
「…うん、それは大丈夫…」
「…ま、そう言う事なら分かったわ…最後に、いくつか聞いても良い?」
「何だ?もうお前にはここまで話したし、一応ある程度までなら答えられるとは思う…ただ、限度は有るぞ?」
「先ず、そいつらのやる排除ってのは相手を殺す事なのかどうかと…それと、アンタらも実はその訓練とやらを受けてるのかって事…後は、あたしはアンタたちとこのまま友達でいていいのかって事。」
「鈴…」
「一つ目に関しては、一応俺たちの口からは答えられない…二つ目に関しては、全部じゃないが…俺たち二人共、ある程度は身に付けさせて貰ってる…三つ目、それは大丈夫と言うか…ここで縁を切られたら、寧ろ俺たちとしてはさすがに悲しいな…ま、こんな風になった俺たちの事が…もう嫌になったって言うなら、仕方無いけど。」
「…ハァ…あたしだって今更、アンタたちとの縁を切りたくなんてないわよ…」
まだ二人に恩も返し切れてないし…そうでなくても、もうあたしが嫌。
「なら、良かった「最後に聞いて良い?」何だ?」
「アンタたちがこれから先、普通の生活に戻れる日は来るの?」
「それは一応確約されてる…ま、俺たちの後ろに居る人たちもプロだ…ま、とは言え一概には言えないが…最低でも、後一年は掛かるって言われてるけどな…」
「そう、分かった…あたしの聞きたい事はこれで全部…久しぶりに、アンタたちと話せて嬉しかった…」
「そうか…ん?悪い、ちょっと待っててくれ…鈴も、悪いけどまだここに居てくれないか?」
「それは良いけど…何?」
「悪いな…とにかく待っててくれ。」
一夏がまたその場を去って行く…
「何?」
「多分…例の人たちから連絡。やっぱり鈴の事で揉めてるんだと思う…」
「そう…」
ま、仕方無いわよね…今あたしが聞いたのって…所謂、機密ってやつなんだろうし…
「その、ごめん…巻き込んで…」
「アンタが悪いんじゃないわ…あたしが、自分でアンタたちに聞いたのよ…」
「でも、悪い様には絶対しない!それだけは約束する…!」
ハァ…アンタやっぱり、人の事では熱くなるのよね…何なら家族の為なら、簡単に命だって捨てようとする…ホントその癖、いい加減直して欲しいわ…
やがて再び、一夏が戻って来る…
「…鈴、これからまだ時間有るか?」
「それは有るけど、何?」
「…お前のこれからに付いて色々と話が有るそうだ…ま、要は…"口止め"ってやつだ…一応、話が終われば家の近くまでは送ってくれるそうだ…」
「"口封じ"…の、間違いじゃない?」
「それは絶対に私がさせない…一夏、私も行って大丈夫?」
「…ま、大丈夫だろ…と言うか、あの人たちもそこまで鬼じゃない…きっちり約束さえ出来るなら、滅多な事はしないさ…もちろん、これから先…ほとぼりが冷めるまではずっと口を噤むのが条件だけどな…」
「"墓場まで"…じゃないの?」
「あくまでも、"ほとぼりが冷めるまで"だ…俺も十秋姉もお前にそんな重荷をずっと背負い続けて欲しいとは思ってない。何より、俺たちもいつか…日常に帰るつもりなんだからな。」
「…ハァ…重くないわよ、この程度なら…何よりアンタたちの為になるなら…本当に、墓場まで背負って行くわ。」
とまぁ、気合い入れて望んだのは良いんだけど…二人に案内されて向かった車は外の景色こそ見えなくなってたけど…少なくとも、拘束とかはされなかったし…話もある程度スムーズで、私に話をした人たちも普通に優しい口調だった…ま、それでもきっちり当分は漏らさない様口止めはされたけどね…と言うか、口止め料として割と厚めの封筒出て来た時はさすがに面食らった…さすがに受け取れないって、断ろうとしたけど…十秋から…
『こう言うややこしい交渉事の場合…煩わしいと思っても、しっかり金品を"受け取る"って事が信用契約の証にもなるから…ま、ちょっと大目の臨時のお小遣いを貰ったと思ってしまっちゃって…』
結局あたしは断り切れず…受け取ってしまった…さすがにどうしようと思ったけど…帰る時に十秋も車から降りて来て、こっそり…あたしの耳元で教えてくれた…
『それは本当に悪いお金とかじゃないから安心して…こう言う形になったし、怪しむのも仕方無いけど…本当にそのお金は大丈夫。だってソレ、元々出処は千冬姉さんだからね…』
十秋からそう言われ、あたしは肩から力が抜けた…その後十秋はあたしから離れ…『じゃあね、また学校で…』とだけ行って、あたしに笑顔で手を振って車に戻って行った…
車が視界から消えた時、足の力も同時に抜けて思わずその場に座り込む…本当に寿命が縮むかと思ったわよ、もう…!
取り敢えずこのお金は両親に見られても不味いので、一旦通学カバンの中にしまい…両親にただいまとだけ告げ…店の手伝いをする為に着替えるとだけ行って部屋に駆け込む…いつものルーティンだ…怪しまれてないと信じたい…
そしてあたしは封筒を取り出し…中身を確認する…
「1…2…3…4…5…」
中に入っていたお札を一枚ずつゆっくり数えて行く…生憎実は全部千円札でした、みたいな優しいオチは無く…ちゃんと一万円札…
「…45…46…47…48…49…50……50、万…」
さすがに机に突っ伏した…いくら悪いお金じゃないって言われても…こんなお金、一体どうしたら良いのよ…!あたし…隠し切る自信無いわよぉ…!本当に…恨むわよぉ!十秋ぁ!
…と言う叫びを実際に声には出さず、心の中で留め切ったあたしを本当に誰か褒めて欲しい…思わずそう思ってしまうくらい、あの時のあたしは余裕がなかった…ま、とか言いつつ…一週間もすれば開き直ってそのお金で放課後に買い食いとかしてるんだから、あたしもホント図太いわよね…
…とは言え、最終的には臨時収入とか思って文字通り開き直ってたけど…使い切るまで両親どちらにもバレてなかったのは、文字通り…奇跡に近い。あたしも元々、それ程贅沢とか出来無い性格みたいだから…結局、あたし的には豪遊でも…使い切るのに実際には一年以上掛かってるんだから…普通の家庭だったら絶対にバレてたと思う…と言うか、あたしだってそこまで多いわけじゃないけど…月に一度、一応お小遣いくらいは貰えてるから…本当に中々減らなかった…あの頃は本当に色々、大変だったわね…
一応、二人が心配だったのは確かに有るけど…好奇心も多少込みだった事を考えれば、本当に余計な事を聞いてしまったと…今となっては、少し後悔してたりもする…ま、それでもいつかはあの時の恨みを込めつつ…笑って、二人にこの時の事を話せる日が来たらいいわね…
「…十秋、痛くないかしら?」
「大丈夫「本当は?」…ちょっとピリピリはするかな…」
ここはウチのお風呂場…私は今、本当に鈴に身体を洗って貰ってたりする…と言うか、鈴は手付きは優しいし…嫌らしい感じとかも全然無い…洗ってあげるって普通こう言う事を言うんだなと、しみじみ思う…んー…結構快適…
「…ハァ…だから、痛いなら痛いってちゃんと言いなさい…」
…とは言え、鈴は少し小言が煩いかも知れない…でも、それが私を純粋に心配するものから来てると思えば…やっぱり悪い気はしない、と言うか…普通に嬉しい…
「…んー…本当に痛いって、わけじゃないよ…ただちょっと、ピリってするかなって…」
「だから…それは普通、"痛い"って言うのよ?」
…って言われても、私としては本当に良く分からなかったりする…
「…ハァ…本当に重症ね…多分、元に戻るまで相当の時間掛かると思うわよ?」
「…うん、もう覚悟はしてるよ…」
ま、でも…今の私が普通の人の感覚から…大きくズレてしまっているのも理解はしてる…そしてそれは、壊すのは僅かな時間でそうなるとしても…いざ元に戻すとなると、実際はかなりの時間が掛かるだろうって事も…もう分かってる…
「…と言うか、アンタのその目…」
「目?」
私の目がどうかした?
「…目のハイライトが消えるって、てっきり架空の話かと思ってたけど…本当に有るのね…」
「え?私の目、そんな状態になってる?」
「気付いてなかったの?」
「うん、結局刀奈とホテルから戻って…家に入ってからもずっと…鏡は視界に入れても、顔は全然見てなかったし…」
「…そう言えばアンタ、例の首輪を外す為に鏡を見てるし…何なら、携帯で自撮りもしてるのよね…それで気付かないのか…ホント、アンタって昔から鈍いわよね…」
「まぁね…良く言われてるよ…」
「…ま、下手に鋭かったら…それはそれで色々と生きにくいでしょうけど…」
「…んー…鈴みたいに?」
「…ハァ…手前味噌って感じになるし、あんまり自分でそう認めたくないけど…実際、中学の時に勘を信じてアンタたちに余計な事聞いて…酷い目に遭ったし…違うとも言い切れないんだけどね…っと、もうコレ…時効って事で良いのよね?」
「ま、多分ね…それでも、あんまり大っぴらには話さないで欲しいけど…」
もう流れ的に仕方無いとは言え、更識家に付いては鈴にも今回ある程度話しちゃったし…でも逆に言えば、今は監視兼、護衛が私たちにもガチガチに付いてない分…鈴が秘密を何処かで漏らしてしまって更識家と敵対する人たちに聞かれでもしたら…咄嗟に守ってくれる人が居ないんだよねぇ…
「…ふぅ…あたしも死にたくないし、分かってるわよ「何か有ったらすぐに言って…ここまで来たら刀奈にもその辺話すつもりだし、何より…私も助けに行くから」…ハァ…それは嬉しいけど、それはそれで何か不安…アンタの場合、あたしの為に平気で命懸けそうだし…」
「それはもちろん「アンタ、自分かあたし…どっちか選べって言われたら」鈴。私はその場合…貴女しか選びたくない…私は、貴女に死んで欲しくないから。」
「…バカ。そう言う時は、探すのよ…それでも二人共生き残れる道をね…あたしはね、アンタが死んで…それであたしだけ生き残っても、全然嬉しくないんだから…」
「でも、その道が無かったら?本当にどちらかしか生き残れなかったら?」
「無いじゃなくて探すの…言っとくけど、もしアンタがあたしを庇って死にでもしたら…あたしはアンタの後を追うわよ…アンタをぶん殴りに行くから。」
「…本気?」
「本気よ…あたしだって簡単に死にたくなんてないけど、アンタがあたしを庇って満足して死ぬなんて事が有ったら…人が何て言おうとあたしはアンタのその行いに反吐が出るし、それこそふざけんなってなるわ…後を追うか、それじゃなきゃ何が何でもアンタを連れ戻す…アンタの死は…ちゃんと人並みに幸せを掴んだ後の大往生以外あたしは認めない…最終的にどっちが死ぬかとかはさすがに選べないだろうけど、それでもあたしを庇って満足して…笑ってアンタが逝くとか…あたしはムカつくし、許せない。」
「…ハァ…じゃ、私は簡単に死ねないね…困ったなぁ…」
「困る必要ないでしょ…それが人として普通の事だし、自然なんだから…てか、アンタ…もういつ死んでも良いみたいな事…例の箒って奴に言ったそうね?」
「うん、言ったよ…」
「そいつもアンタの事…親友だと思ってるんだって?」
「うん、そう言ってくれてるよ。」
「…ハァ…アンタの事は心配だけど、そいつに早く会いたいとも思うわね…」
「んー…何で?」
「だって、あたし普通に仲良くなれそうだもの…一夏の事でライバル視されてそうだけど…あたしは本当にもう、一夏の事は吹っ切ってるし…何より、アンタの愚痴で盛り上がれそうだからね…こっちは散々心配してるのに、何回言っても…アンタが全然理解してくれないって感じで…」
「うん、鈴なら絶対仲良くなれるよ。」
「アンタねぇ…理解してくれないの下り、スルーしたわね…?」
「だってさ…私としてはどうしても皆の事が気になるし、心配だから…」
「あたしも、多分そいつも…何なら一夏に千冬さん…弾や数馬…それから弾の妹の蘭…少なくともアンタが心配してるって言う"皆"は、アンタに比べたら全然大丈夫だと思うわよ…弾は、一夏に比べたりするとちょっと頼りない所は有るかも知れないけど…アレで、あたしの見た所芯は相当強い…少なくとも、周りを見つつも自分を蔑ろにしないって事がちゃんと出来てる…アンタと違ってね…」
「…弾君は…アレで、家で色々有って卑屈な頃が有ったからさぁ…」
「でも、それを助けたのはアンタでしょ?」
「別に助けたって程でも…」
「…ハァ…何処の世界に、頭に飛んで来た鍋から男子を庇う為に咄嗟に自分の額で受けて…出血が止まらない中…やったその男子の家族、それも…歳の離れた強面の大人を相手に一歩も引かず、泣きながらも正論で完全に黙らせるなんて事が出来る小学生女子が居るのよ…あたしもそれ聞いた時、思わず耳を疑ったわよ…それで助けてないってのは、無理が有るわよ?」
「んー…アレなんて結局切っ掛けでしかないし…自分の状況を変えたのは弾君自身…私は、大した事はしてないよ。」
「あいつは…俺を救ってくれたのは十秋だって断言してたけどね…と言うか、自分でそこまで言っといて弾を信じられないわけ?」
「…私は、いつも皆の事が気になるからね…多分、これからもそうじゃないかなぁ…」
「…ハァ…ちなみに、前世ではどうだったの?」
「飛んで来た中華鍋は無事キャッチ…ちゃんと大人として怪我もせず、話し合いで終わったよ。」
「…結局アンタのその癖って、前世での大人時代の行動理念がそのまま今に至るまで来てるのね…」
「ま、そうかもね…何か、どうしても身体が動いちゃうんだよね…」
「当時と能力も全然違うのよね?」
「…ふぅ…あっちで出来た事は、こっちでは大体出来無いね…それでも私は、見なかった事には出来無いかな…」
「…ハァ…能力が違う以上…そうなって当たり前でしょ?だから同じやり方をしようとしない…もうちょっと頭使って行動しなさいよ。」
「んー…無理かなぁ…」
「何でよ?」
「私は結局、千冬と同じ脳筋だからね…いざって時は、頭が回るより先に…もう身体が動いてるの。後の事なんて、考えられない…もちろん、いつもそうしてるつもりは無いけど…大事な人たちが危ない時に、私は…グダグダ考えててその結果その人を失う事になったら一生後悔する…それこそ、守れるのに見殺しにしたって思ってしまって…多分、後を追ってるかも…だから、どうしても無理なんだよね…」
「…ハァ…成程…アンタのそれがもういい加減、良く分かってるから…例の刀奈って奴は、護衛としてアンタを守るんじゃなくて…お互いに守り合うって話になったわけか…自分が護衛としてアンタの前に出ても、アンタは平気でその前に出る…それが分かり切ってるから…」
「…うん、間違い無く…私はそうするだろうね…」
「…と言うか、そんな傷付けた相手に良くそう思えるわね…アンタのその傷…多分、いずれ何とか消えるとは思うけど…しばらく残ると思うわよ?」
「…何て言うかな…それが大事な人から付けられた傷なら、それすらも私は嬉しいって…そう思っちゃうんだよね、昔から…何なら一生残るとか言われても愛おしいし、誇らしいってさ…」
「…ハァ…アンタには悪いけど、それはただのまやかしよ…良い?傷を付けてしまった人間が経緯はどうあれ、本気で後悔してる時…アンタが消えなくなったその傷見せてその事を言ったらどうなると思う?それをやれば、そいつは最悪一生立ち直れない…下手するとそれこそ、そいつに消えない心の傷が残るの…喜んでるのはアンタだけ…仮にアンタが今言った事で、本当に過ちが忘れられる奴が居たなら…悪いけど、そいつはどっか可笑しいわ。」
「そうかなぁ…やっぱり駄目かなぁ…」
「あのねぇ…アンタが前世で、男だったならその勘違いは仕方無いのかも知れない…男同士で有れば、それも確かに一つの勲章かも知れないし…せめて同じ痛みを分かち合おうとか考えて…身体の同じ場所に傷を付ける奴も居るって聞いた事も有る…けど、それは女だったら普通違うの…差別って言われるかも知れないけど…基本、男が女の身体に消えない傷を付けたなら…女の方が余程のクズでも無い限り、大抵多くの人間は…男をとにかく理由が分からなくても責め立てるわ…そして何なら、加害者と被害者…仮にどちらも女だったとしてもそれは同じ…身体に傷が残るって事は、女として一番の幸せとも言われる結婚の可能性が無くなるって危惧を孕む話…もちろん、あたしもそれが女としての全てだとは思わないけど…それでも、女の身体に一生残るタイプの痛々しい傷が有れば…それだけで謂れの無い中傷をされる事も有る…すぐ目に付いてしまう顔の傷程じゃないかも知れないけど、女は身体の傷だって…それだけ、色々と重いの。」
「そんなもん?」
「…逆に、何で前世で女で…今世だって普通に女なのに、アンタはそれが分からないのかしらね…」
「んー…って、言われてもなぁ…」
「…ハァ…ま、今アンタにそれを言っても無駄なのは分かってる…前世で一応大人になるまで生きてて分かってないんだから…今世でそう簡単に理解出来る話じゃないのは当然だからね……さてと、膿は大体掻き出したし…こんなもんかしらね…」
「うん、ありがとう…ごめんね、汚い物…触らせちゃって…」
「これぐらい平気よ…洗えば何の問題も無いし…と言うかそもそも、アンタが思ってる程…汚くなんてないし。」
「…うん、本当にありがとう…」
「ふぅ…さてと。取り敢えず背中でも流してくれる?」
「うん、良いよ。」
それから少しして…私は胸の辺りを両手で隠し、顔を真っ赤に染めた鈴に…その場に正座を命じられていたり…
「アンタねぇ…!あたしにまで手を出そうとするなんて、一体どう言うつもり…!?」
「…いや、ホントごめん…!そう言うつもりじゃなくて…!」
「…ハァ…ま、本当は分かってるわよ…甘えたくなったんでしょ?あたしは、アンタにあからさまに縋ったりしないもんね…」
「う…その、ごめ「もう良いわよ…てか、その役目を頼むべきなのはあたしじゃないでしょ?」へ?」
「それは千冬さんにお願いしなさい…多分、向こうは本当に大喜びでそうしてくれるだろうから。」
「そうかなぁ…」
「そうよ…てか、本当に驚いたわよ…まさか、大きいわけでもないあたしの胸に吸いつこうとするなんて…」
「ごめんなさい…」
「…正直に言えば、アンタとあたしじゃ体格違うから重いのよ…今になって、冷静に考えれば何がしたかったのか分かるけど…いきなり覆い被さって来るから、こっちは何されるのかと思って怖くなったわよ…」
「ホントごめん…私もあの時は、何か無意識で…」
「…ハァ…ま、それだけ自分に余裕が無かったんだって…自覚も出来たでしょ?」
「うん…」
何せ、鈴にビンタされた頬が今も滅茶苦茶痛いからね…お陰で、痛みもある程度正常に感じる様になった気がしないでもないけど…実際、胸の辺りがかなりズキズキと痛み出して来たし…本当に、例の歯型…傷になってたんだ…
「…ハァ…ま、そんなにしたいならそれくらい、この後布団に入ったらやってあげるわよ…」
「…はい?」
「今この場に千冬さん呼ぶわけにも行かないしね…それでアンタが落ち着くならそれくらい良いわよ…でも、噛まないでよ?噛んだらその瞬間アンタの両目を潰すわ……ちなみに、ここまで言っても…そうしたい?」
「う…まぁ、正直に言えば…」
何せ、今も鈴の胸から視線が外せないから…まさか…どちらかと言えば、何処までもさせてあげる方だと思ってた私にこんな欲求が芽生えるなんて…それも、こんなに体格差の有る鈴に…
「ハァ…じゃ、この後ここ出て…身体拭いて…髪乾かした後にやってあげるわ…」
「…本当に良いの?」
「あたしが良いって言ってるんだから…良いの…ただ、もう一度言うけど噛まない事…後、あたしも恥ずかしいから部屋は絶対暗くする事…それと…あくまでも、アンタを落ち着かせる為だけにそうするだけで…その先とかは無い事……間違ってもエッチはしないわ…それだけは忘れないで。」
「うん、分かった…」
「…ハァ…じゃ、少し湯船に使ってから出ましょ…っと、まだ何もしないでよ?」
「うん、分かってる…」
…その後…私は本当に鈴の胸を堪能させて貰ってたり…感想?何と言うか、言葉では言い表せない感動が有ったと言うか…取り敢えず、私の胸に執着する刀奈の気持ちは少し分かった様な気がする…ま、さすがにあの時の刀奈みたいに幼児退行状態にはならなかった…と、思う…結局いつの間にか寝てたし…起きてから気付いたけど…途中から記憶が無いんだよね…何もやらかして無いと良いけど…その答えは、本気で疲れたのか…今も私の眼前で眠る鈴のみぞ知る…ま、起こすつもりは無いし…取り敢えず余計な事はせず、鈴が自然に起きるのを待つつもりだけど…正直、あの時の私の事を聞くのは…ちょっと怖いかな…