「じゃあ私はバイトに行って来る…一夏、十秋…っと、凰も居たんだったな…お前の家にはもう連絡してあるし、今から帰るのは時間的にも色々不味いからな…このまま泊まって行くと良い…じゃ、行って来るからな…三人とも留守番を頼むぞ?朝には帰る…」
「はい、いつもすみません…行ってらっしゃい、千冬さん…」
「行ってらっしゃい…姉さん。」
「ああ、行ってらっしゃい…千冬姉。」
千冬さんを玄関で三人で見送り、居間に戻る。
「…千冬さん、この時間からバイトなんて大変ね……アレ?千冬さんって…確か…」
「うん…鈴の思ってる通り、年齢的にはアウト…一応、お店の店主さんにすぐバレたんだけど…頭下げて、今でも知らない事にして…働かせてくれてるんだって…えっと…まぁ、鈴なら大丈夫だと思うけど……」
「…まぁ、事情が事情だもんね…大丈夫、心配しなくてもあたしは誰にも言わないから…と言うか、後一年かそこらだし…最終的に時効だとも思うけどね…」
「まぁな…ただ、だからと言って後でバレても色々不味いのは事実だ…基本的にはずっと言わないでくれると助かる…」
「分かってるわよ…てか、お世話になってる身なのに…あたしはその恩を仇で返す気は無いから。」
「ふぅ…鈴、ホントに日本語の使い方…上手くなったよね…」
「まぁ、慣用句やことわざ…たまに四字熟語もそうか…俺らより詳しかったりするもんな…」
「まぁね…と言うか、四字熟語はこっちにも有るから…寧ろイメージしやすくて覚えやすかったわ…ところで、その…千冬さんのしているバイトって…」
「…ま、そりゃ気になるよね「あっ、ごめん…!…その無理に言わなくても良いし…と言うか、例えアレな仕事だとしてもあたしは別に偏見とか…!」…ふぅ…うん、鈴の今感じてるその感覚は正しいと思うよ?でも、重い話なのは先に分かるだろうし…口に出す前に一度考えるって言うのも、覚えておこっか。」
「お前のその裏表の無い性格…美点でも有るけど、要らない反感を買うことも有るからな…」
まぁ、こうやって日本語を話せる様になってからも…あたしは何度かそれでやらかしかけてるしね…
「本当にごめん…!」
「フフッ…良いよ、私も一夏も鈴に悪気が無いのは分かってるし…これからは気を付けるって事だけ心掛けてくれれば良いから。」
「…ま、どっちみちお前の思ってる様なバイトでも無いし…大丈夫だ…ま、仮にそうだったとしてもお前が自分が言ってる様に…偏見持つ様な奴じゃないってのは、俺も十秋姉も…ちゃんと分かってるさ…」
「ちなみに、姉さんが今向かったのは深夜も営業してる居酒屋。姉さんはお客さんにバレない様にあまり深夜には出ない様にしてるけど…時々人手が足りない時だけ、声掛けてくれる様にして貰ってるんだってさ…」
「だから、普段は規定時間内までに千冬姉はシフトを終えてる…ま、だから店側の事情とウチの事情…両方が合致した上でのギリギリの特例って言えば聞こえが言い様に思うが…実際はアウトだからな…」
「…ま、何にしてもこれからは気を付けるわ…でも、千冬さんが居酒屋でバイト…」
「…うん、鈴が何を言いたいのかは分かるけど…今言ったばっかだし、そこでやめよ?ね?…ちなみに、姉さんは厨房には立たせて貰えてないから…それも一応、大丈夫。」
あー…またやっちゃった…
「ごめん…」
「うん…それにしても、ホント…鈴は日本語の覚えるの早かったよね…」
「実際、頼って来た割にはほとんど俺たちが教える事なんて無かったからな…ま、つか…どっちかと言うと、十秋姉の方がテレビで少し聞きかじった程度の俺より遥かに中国語話せてたからな…ほぼ俺のやった事なんて無いに等しいけど。」
話の転換としてはやや強引だが、二人があたしに気を使ってくれてるのは分かるから…あたしもそれに合わせる…
「…そんな事無いわよ…アンタと十秋が居なかったら、あたしは今でもろくに日本語話せてなかったと思うしね…」
ま、確かに二人にあまり迷惑掛けない様に…一人の時でも必死で勉強してたのは事実…けど、少なくとも二人が居なかったらその基本の段階に入るのすら難しかったのは確か…だから二人に感謝はしてるし…何より、あたしがここまで話せる様になった一番の理由は…あたしが二人の母国語で有る日本語で、ちゃんと話したかったから…二人が居なかったら、あたしはここまで頑張れなかった…
「ま、だから…ありがとう…アンタたちが居なかったら、間違い無く…今のあたしは無いってそう言える…」
「…ま、お前がそう思うならそれで良いんじゃないか。」
「んー…そうなのかなぁ…」
…とは言え、割と素直になれない方と言う自覚の有るあたしがここまで言って…返って来た二人の反応に関してはちょっと不満では有る…ま、それでも一夏はまだ良い…この反応自体は半分照れ隠し込みなのは何となく分かるし…何なら、一夏がこの件に関してあたしに出来た事がそう多くないのは客観的に考えても確かにそうだとは思う…だから、この反応自体は納得する部分も有る…
ただ、十秋…アンタは駄目だ。如何にも自分は大した事はしてないと、本気でそう思ってるのが先の反応から伝わって来ていた…あたしだって、十秋の性格もいい加減分かって来てはいるつもり…それでも、やっぱりあたしは十秋のこう言う所は気に入らない。
「ちょっと十秋…最初にあたしに中国語で話し掛けてくれたのはアンタでしょうが…少なくとも、最初にアンタがそうしてくれなかったら…あたしは絶対、こうなってないのよ?」
「えー…だって私の中国語、伝わってたかも怪しいし…てか、今の状況で何で私だけ責められるの?一夏は?」
「…生憎だけど…俺も鈴の状況をどうにかしたいと感じてたが、実際は手を出しあぐねてたからな…十秋姉が最初に動いてくれたから、俺も鈴の事で出来る事をしようって思えたんだぞ?」
「いやちょっと…一夏、私の味方…してくれないの?」
「味方するも何も…不当に攻撃されてるとかならまだしも…今回の場合は、十秋姉がいつもの悪い癖で…受けるべき賞賛を辞退しようとしてるって話だろ?鈴は、本気で十秋姉に感謝してるって言ってるんだ…素直に受け取らないのは失礼だろ?」
「…って言われても、私は本当に大した事してないって…」
「…ハァ…请坦率地接受这份感激之情吧!(素直に感謝を受け取りなさいよ!)
「ちょ、ええ…!?…えっと…努力的是你吧!?(頑張ったのは貴女でしょ!?) 我这种人什么都…(私なんて何も…)」
「っ…ほら!確かに発音は拙いかも知れないけど…ここまで中国語を話せるアンタが居てくれたから、あたしはここまで来れたのよ!あの時アンタが話し掛けてくれなかったら、今のあたしは絶対に無い!」
「ほら、十秋姉…いい加減に観念しろよ。」
「…その…だって、本当に私は…」
「…ハァ…ホント、あたしの事もそうだけどさぁ…アンタはどうしていつもそうなわけ?」
「…ふぅ…って、言われてもね…」
またこの顔だ…時々、十秋はこう言う顔をする…自分の様な存在がまともな賞賛を受け取る権利は無いと、そう言ってる様な…あたしは素直に十秋の事は好きだと言える…もちろん恋愛的意味では無く、友人として…でも、この顔に関してはあたしは本当に嫌いだ…とにかく、見ててムカついて仕方無いのだ…別にあたしに限った話じゃない…十秋は誰かから感謝を受ける度に良く、この顔をする…
そして、あたしはこの顔を見る度にもう一つ思う事が有る…この自称日陰者の親友を陽の当たる場所に連れ出し、とにかく振り回してやりたいと…お節介だとか、そんな事は知らない…あたしが、そうしてやりたいのだ…
「…ハァ…ねぇ一夏、お風呂ってもう入った?」
「ん?…お前の知ってる通り、千冬姉は家事がポンコツでな…さっきまで俺と十秋姉でやってて、今さっき…お前が来る直前に漸く終わったから、これから入る事になるな…」
「…あたしも実はまだなの、ねぇ?あたしと十秋が先でも良いかしら?」
「ん?十秋姉と二人で入りたいって事か?構わないぞ…俺は後で良い。」
「良し!じゃあ行くわよ十秋!」
「え…ちょ…!待って!まだお湯溜めてもいないから慌てないで!?一回手離して!?」
「おー…一応、夜も遅いし…風呂場だと声響くから、向こうでは静かにな。」
「分かってるわよ!」
「だから待って!?ちょっと!?一夏助けて!?」
「十秋姉は気付いてなかったみたいだが、実はもうお湯は溜めて有る…だからそのまま入れるぞ?」
「用意が良いじゃない「だからこれから入るって言ったろ…たまたまだ」ま、とにかく…それなら問題は何も無いわね!ほら、行くわよ十秋!」
「分かった!行く!行くから!行くからせめて着替えとタオルだけ取りに行かせて!?」
取り敢えず、今日はこのあたしがどれだけアンタに感謝してるか教える第一歩として…一つ背中でも流してやろう…
ちなみに、今まで何度か織斑家に泊まった事は有るけど…あたしが訪れる時間が結構遅い事も有り、実はこの家のお風呂に入るのは初めて…何なら、十秋は日焼けするのがあまり好きじゃないとかで夏場でも露出の少ない服を着ている事も多い…そして、今日…初めて十秋の生まれたままの姿を見て…あたしの思考が割と危ない方に傾き掛けるのは、これからほんの数分後の話…まぁ、この時は何とか踏みとどまって…友情が壊れる事は無く…と言うか、今となっては…多分、あの時あたしが仮にやらかしたとしても…結局十秋はあたしとの付き合いをやめなかった気がしてならない…本当に無防備で、優しいあたしの親友。
アンタはいつも人の心配ばかりしてるけど…こっちからしたら、アンタの方が心配よ…ホント、毎回疲れるわ…
「ハァ…やっと寝てくれたわね…」
あたしは今、散々手を尽くして…漸く眠った親友の姿に安堵の息を吐いていた…
お風呂場を出て、身体を拭いてやり…十秋の胸の傷に薬を塗ってやって…二人でパジャマ着て…十秋の髪を乾かしてやって…今の十秋に負担を掛けたくないからそれはもう、あたしは頑張った…あたしが何かしてやる度に申し訳無さそうな顔をする親友に何度も気にするなと声を掛けて…全く、そうやって人の事ばかり気にして自分を労る事を忘れてた所為で今みたいな状態になったんだから…こんな時くらい大いに頼ったら良いのよ…
…経緯はどうあれ、あたしがビンタしてしまった時に叩かれた頬は元より…胸の傷も痛くなって来たって言葉が聞けたから…それはそれでちょっと可哀想では有るけど、ある意味今の十秋なら良い兆候でも有るかと安心してたら…今度は薬塗ってる時にまた痛みが分からなくなったって言うし…ハァ…あたしは今週一杯しか居ないってのに…この家に一人で残されるこいつがどうなるかって考えたら、これからが心配よ…
ま、もう朝だけどあたしもクタクタだし…取り敢えず、昼までは寝てしまおう…後の事はそれから考えれば良い…何て、考えてたけど…いざ二人で部屋に入ってから漸く思い出す…ああ、そうだった…さっきお風呂場でコイツと面倒臭い約束をしたんだったわ…ふぅ…実際には朝だけど、あたしの長い夜はまだ終わらないみたいね…
「その…鈴…」
「…そんな辛そうな顔でこっちを見なくても大丈夫…あたしがしてあげるって言ったんだし、ちゃんと約束は守るわ。」
…とは言え、あたしも十秋のこんなに酷い顔は初めて見る…本当にコイツは、何でこんなになるまで誰にも相談しなかったのよ…何より、こんな事じゃなく…普通の範囲で甘えるとかなら、多分コイツにそうさせてくれる奴なんて…今でもコイツの周りにいくらでも居る筈…本当にバカね…
「…と言っても、さっきみたいな体勢だとさすがにあたしがキツいから…布団で横になってしましょう。」
取り敢えず十秋の手を引いて敷きっぱなしになってる布団、を…?何か違和感が有る…普段の十秋なら、部屋が万年床状態になってるのは有り得ない…ま、とは言え…今の十秋の状態なら一応分からなくも無い…ただ問題は、この布団が一体いつからこの部屋に敷いて有ったのかと言う事……あ。
「…ごめん、ちょっと待って。」
「…え?」
「…うん、お預け食らった犬みたいな顔したくなるのも分かるんだけどね…この布団、一体"何に"使ったの?」
「え?……あ。」
そこで十秋も漸く気付いたらしい…つまりはこの布団…恐らく十秋が例の刀奈って奴と色々とした時のままなのだ…一応、見た目的にはグチャグチャになってる程度で…ここからは特別匂いとかはしないけど…
「…ごめん…アンタには悪いんだけど、あたしはこの布団では寝れないわ…」
「…ううん…こっちこそごめん…」
「…ふぅ…そんな顔しないの。取り敢えず、コレは一旦このままにして…一夏の布団を借りましょ?」
…あたしもバカね…さっきこのウチに来て、十秋の部屋に行った時もこの布団を見てるのに…どうして、改めてこの部屋に入るまで気付かなかったのか…ハァ…ま、うだうだ考えてても仕方無いわ…とにかく、隣の一夏の部屋に行くとしよう…
「ん…取り敢えず、カビの臭いとかは無さそうね…ま、そこまで長期間使わなかったわけでもないだろうし…当然かしら……さてと。ほら、十秋…」
「うん…」
押し入れから引っ張り出した布団を床に敷き、部屋の入り口に突っ立ったままの十秋をの手を引く…さっきもそうだけど、部屋に入ってもろくに動こうとしない十秋に若干のイラ付きを覚える…ハァ…ある意味アンタから要求した様なもんなのに、何で今更気後れしたり…緊張したりとかなるのかしらね…ま、どっちみち…今の十秋にその辺言うわけにも行かない…十秋もさっきの事も有って少し凹んでもいるだろうし、さっさと布団に入ろう…
…と、いけない…
「ほら、先に布団に入って…電気消すから。」
部屋は人が居ない事も有り、しっかりカーテンが閉まっていて、今はもう完全に朝では有るが…このまま電気を消せばある程度真っ暗になるだろう……と、そうだ…
「暗くなると不安になりそうとか、有る?」
今までに何度か一緒にお風呂ぐらいは入ってるし、当然十秋にも何度か…あたしの裸は見せた事有るけど…今しようとしている事を考えたら、あたしもさすがに電気点けたままだと恥ずかしいから消したい…けど、今の十秋の精神状態としてはどうなのか…十秋が辛そうなら点けておこうか、とは…あたしも考える…
「…特にそう言うのは無い、けど…」
「後で言われても困るし、ヤバいかなと思うなら先に言いなさい。」
「…うん、大丈夫…消して良いよ。」
「そう…なら消すわよ?」
取り敢えず我慢してる雰囲気も無さそうなので、あたしは少しホッとしつつ電気を消す……少し待って見たけど、十秋が特別取り乱してる様子とかは無い。
「…鈴?」
「…そんなに急かさなくても今行くわよ。」
「っ…ごめん、そんなつもりじゃ「良いから待ってなさい」…うん…」
部屋の電気は消してるとは言え、この部屋には何度も入ってるから構造自体は分かってる…てか、さっきまで電気点けてたし余計に…ただ、さすがに消した直後と言う事も有り、あたしの視界が少し覚束無い…手探りで進む事になるから若干時間は掛かる……と言うか、床に何か落ちてたりしないでしょうね?…ま、一応さっき見た覚えは無いし…一夏なら有り得ないとも思うけど…ん、着いたわね。
「ほら、入るわよ十秋。」
「うん…」
…ホント、嬉しそうな声出しちゃって…どっちかと言うと綺麗って印象を覚える事が多いのが十秋で、たまに…可愛いなコイツ、とか思う瞬間はあたしの知る限り何度か有るには有ったけど…今程弱り切ってる姿を初めて見て思うのは、どうしてこうなるまで相談もしなかったのかと言う呆れと痛々しさ…とは言え、それ以外にも僅か程では有るが思ってしまうのだ…普通に、可愛いなと。本来の十秋の綺麗と言う印象がかなり薄れている…見た目は変わらないし、少なくともあたしよりは背も高いのに…何処か、今の十秋は小動物的弱々しさが有るのだ…ふぅ…あたしはノーマルだと自負してる上に、コイツとはそれなりに長い付き合いだし…初めて裸を見たあの日はともかく…今は耐性もある程度出来てるつもりだけど…
…コレ、コイツに惚れてる奴に見せるのは色々と不味いわよね…
仮にそう言う奴が今の十秋の姿を見たら…変にコイツに夢を見てるとかでない限り、速攻で理性がぶっ飛びそう…何なら、今のあたしですら正直…さっきから少し、危ないかなとも思ってる…まぁ、今のこの状態のコイツと間違いを起こそうと思う程…あたしはクズでは無いつもりだけど。
「…あの、鈴…?」
「!…慌てないの。今出すから…」
…ふぅ…にしてもまさか…エッチまでは行かない約束とは言え、初めてこんな事をさせる相手が恋人じゃなくて…一応そっちの気の有る同性の親友とは…しかもふざけてとかじゃなく、割と真面目なテンションで…ま、コイツもあたしにその気は本当に無さそうだし、あくまで弱ってるコイツのメンタルケア的意味では有るけど…と言うか、結局あたしの胸をそこまで気に入ってくれる奴が居るのかも問題では有るけど…今気になってる奴こそ居るし、話した感じだと割と好感触かなとは思ってるけど…そいつがあたしのコンプレックスでも有るこの胸に関してはどう思ってるのかも、正直分からないし…
…っと、色々と複雑な気持ちになりながらもあたしは手探りでパジャマのボタンを外す……ん…明るい所ならまだしも、完全な暗闇で手探りでボタンを外すのって結構難しいわね…今は薄ら明るさの有る部屋の中そのままじゃなくて、完全に身体が布団に入ってるから目線をいくら下に向けても本当に暗くて見えない…これなら恥ずかしいとか言ってないで、いっそ初めからボタンを嵌めずにいた方が楽だったかしら…何なら、今の十秋をあまり待たせたくないとも思うし……ふぅ…やっと外せた…取り敢えず、広げてと…
「…お待たせ…って、そこじゃ吸えないでしょ…もうちょっとこっち詰めなさい。」
取り敢えず恥ずかしさを何とか抑え込み、あたしは十秋を不安がらせない様に笑顔を作る…と言っても、ホントに今…あたしは笑えてるのかしらね…一応、あたしから微かでは有るけど十秋の顔は見えてるし…表情から察するに、あからさまに嫌そうな顔とかは…あたしはしてないんだとは思う……ま、正直な所…コイツなら、良いかなとも思う…もちろんこれは性的にどうとかの話でなく、それぐらいあたしはコイツに色々としてやっても良いと思ってると言う話…正直、他の奴相手なら仮に友人でもここまでしてやろうとか思わないんだけどね…
…何故か、この親友相手にはそう言う風に思えてしまう…所謂、この程度なら…の、ハードルが…自分でもどうかと思うくらい滅茶苦茶低くなるのだ…ま、十秋の場合自分からあたしに何かを要求して来たパターンって、あたしの覚えてる限りほとんど無いから…本当にこんなの今回が初めてだったりする…素直に言えば、毎回して貰うばかりで…あたしは何も返せてないと思ってたのに、今日こんな事になって…色々と複雑では有るし、何なら…いくら親友と言っても、あたしが今してあげようとしている事は色々とその範囲を逸脱してる事なのは分かる…それでも正直、やっと…コイツのワガママをあたしが叶えてやれる瞬間が来たと言う事が、あたしはちょっと嬉しかったりもする。ホントに待たせ過ぎよ、コイツは…
ま、とは言え…こんなのはあくまで今の状態のアンタだからしてやってる事…元気になってから頼んで来た日には、さすがに返すのはビンタ一択だけど…全く、こんな事あたしに言わないで…早く千冬さんに告白して頼みなさいっての。
と言うか、コイツは何してんのかしら…来いって言ってるのに動く気配無いし…何を今更躊躇してんのかしらね…
「ほら、早く来なさい……しまっちゃうわよ?」
…と言うか、確かにワガママを聞いてやれる嬉しさは有っても…行為そのものは別にあたしがしたい事ってわけじゃない…コイツの事は嫌いじゃないけど、あくまであたしはノーマルで…コイツに感じてるのも間違い無く友愛で、性愛含む恋愛感情じゃないのだ…ハァ…するならさっさとしてよ、アンタ相手ならあたしも確かに嫌って程じゃないけど…普通に、恥ずかしいんだから。
「…その、本当に良いの…?」
「さっきから良いって言ってんでしょうが…女に二言は無いわ。」
自分でもこんな事に何をカッコ付けてんのかとも思う…ただ、そうでもしないとこっちも本当に恥ずかしいし…自分のやってる事が馬鹿みたいにも思えて来たから、いい加減吸うならさっさとして欲しいのだ…
「そっ、それじゃあ…」
十秋があたしの方に身体を詰めて来る…目の前に来られて、さすがにあたしもビクッとする…そして、少ししてから…
「ちょっと…何してんのよ……吸うんじゃないの?」
「…ごめん…先に、ちょっとだけこうさせて…」
トンッと音が聞こえて来そうな軽い衝撃と共に…十秋の頭があたしの胸の真ん中辺りに落ちて来た…そのまま十秋が身動ぎし始めたので…さすがにくすぐったく感じて、文句を言おうかと思ったがすぐにハッとした…これ、は…
「…十秋…もしかして、寒いの?」
「うん、ちょっと…」
「熱…は、無さそうよね…」
実質十秋のおでこがそのままあたしの胸の上に来てるのでそのまま体温が伝わって来るが熱さは無い…とは言え、一応微熱の可能性は有るが何とも言えない…救急箱に入ってた市販の風邪薬を取りに行くべきかとも思ったが…すぐにその考えは打ち消す。
…あからさまに風邪の症状が出てるわけでも無いし、下手に飲ませるべきじゃないわね…と言うか、さっきのコイツの話だと確か…コイツがご飯食べて…それから少ししてからあたしが来てた筈…その後は二人で色々話して…そこからお風呂とか諸々…コイツは確かその後、寝る前に一度トイレに行って…時間は、どれくらいだったかしら…?排出されたのが大きい方か、小さい方か……何とも言えないけど、どっちにしても時間的にはとっくに消化もしてる筈…胃の中が空っぽの可能性が高いし、今の所緊急って感じもしないから…どう考えても飲ませるわけには行かない…と言うか、コイツの今の精神状態の場合…それが原因で体調が可笑しくなってる可能性も有るのよね…なら、この場合の正解は…
あたしは十秋の頭の下辺りに手を置き、少しだけ力を入れて…こちらに引き寄せる…
「ほら、寒いならそんな中途半端な体勢してないで…もっとくっ付きなさい…」
「うん…」
十秋が完全に身体を預けて来るのに合わせ、あたしは十秋の背中に腕を回す…取り敢えず、今コイツが感じてるものを和らげるべきよね…
「温かい…」
「そう、なら良かったわ…しばらくこうしててあげるからそのまま寝ても良いし、それか…吸いたくなったのなら言いなさい…やってあげるから。」
「うん、ありがとう…」
…あたしにはまだ親の気持ちとかは分からないだろう…ただ、もしあたしに…歳の離れた弟か、妹が居たなら…今までに、こんな気持ちを何度か感じたりしてたのかもね…ホント、あたしより背も高い癖に…今のアンタは小さい子供みたいね…
「その、鈴…」
「ん?…吸いたい?」
「うん…」
しばらくして、十秋がそう言い始めたのであたしは背中から腕を外す…少しして、胸の突起…乳首の辺りに独特の生暖かい風と、濡れた物の感触を感じた…
「ん…!」
「…あ、ごめん…痛かった…?」
くすぐったくて思わず声が出ただけなのに、勘違いした十秋が慌てて口を離すのに溜め息を吐く…
「…ハァ…大丈夫、くすぐったかっただけ…痛ければ痛いって言うから…」
「…うん、なら…」
そしてまた、十秋があたしの乳首に口を付ける…ん…何と言うか、話に聞いてた快感とかはあまり無く…とにかくくすぐったさが強い…まぁ、あたしはその…自分でしてる時も、そこは敢えて弄らないから感覚が鈍いのかも知れない…だって、弄り過ぎるとそこだけ大きくなるって聞くし…さすがにただでさえ胸が小さいのに、そこだけ大きくなるとちょっとねぇ…ハァ…しかし…ムズムズする…ちょっと思った以上に辛い…
取り敢えず、気を紛らわす為に他の事を考える事に……そう言えば、さっきお風呂場で見た時…十秋の胸の大きさは、昔とほとんど変わってなかった様に思うけど…何か、乳首に関しては大きくなってた気がしたのよねぇ…前世は誰ともそう言う事をした事が無いと本人は言ってたけど…ま、何とも言えないし…何なら、前世と今では当然身体も違うんだから考えても仕方無いか…
一応今世でそう言う事をしたのは今回の刀奈って奴が初めてってコイツはさっき言ってた…ちなみに乳首を弄り過ぎると大きくなる、は…余程色々行き過ぎるくらい虐めない限りは、数日やそこらで大きくはならないって話だし…一応胸に関しては吸われたのと、何度か強く噛まれたくらいで、それ以上はしてないとも言ってたから…コイツの場合、昔から自分で弄っててそうなったのかしらね…ま、そこまでヤバく見えるくらい肥大化してるってわけじゃないし…後は千冬さんの好みの範囲なら良いけどね…あたしとしては何とも言えないけど…っ…と言うか、ホントにコイツも飽きないわね…あたしの左右の乳首を交互に、飽きる事無く吸い付いてる…
「っ…ママ…」
「っ…は?」
誰がママよ誰が…と、言おうとしたあたしは口を開けたまま言葉が止まる…何か十秋の様子が可笑しい…
「十秋、どうしたの…?」
「ママ……ママ……」
コレ多分、ふざけてるとか…良く聞く性的プレイでのなりきりとかじゃない…本当に幼児退行して来てるのかも…そう思うくらい、今の十秋は本当に子供の様に思えて来る…さすがにヤバいかと感じて一旦引き剥がそうかとも思ったが、そこで気付く…
そう言えばコイツ、今世では親が居ないし…千冬さんはアレでポンコツな所が多いのはあたしも知ってるし、他には頼りにはなるけど…あくまで同じ年齢のである一夏しか家族が居ない…そして、コイツは前世では今の千冬さん程では無いけど…まぁまぁ過保護気味な母親が居たと言うのはチラッと話してた…ただ、聞いた感じ…どうも前世のコイツは今の織斑十秋より、不器用と言うか…最早、それ以前の問題と言えば良いのか…一応そこまで詳しく覚えてないと前置きしつつ…コイツが語ったのは、前世の…それも幼少期の時点でのコイツは…親に愛情を向けられてるのは分かるけど、それに対しての返し方も良く分からなかった子供だった気がすると…
要は間違い無く、愛情はちゃんと注がれてるのに…当時のコイツにはそれがちゃんと伝わってなかったらしい…つまりそうなると、分かってすらいないんだから…せっかく愛情深い両親が居た所で、コイツは当然…甘える事は無いだろう…と言うか、さすがに幼少期の時点でそれなんだから…そもそもそれを理解する機能そのものに、何らかの異常が有ったんじゃないかとも思う…そして、仮にそうだったとして…最終的に何処でコイツがちゃんとそれを理解出来たのかは分からない…ただ、あるいはその辺がちゃんと分かる様になったのが前世で千冬さんに会ってからだった場合…本人もそれまで誰も恋愛的に好きになった人間は居なかったとか言ってたし…あるいはそこで、初めてそこら辺を理解出来る人間になった可能性は高いのだ…
…とは言え、その時点ではもう大人なんだから…さすがに親にはもう甘えられないだろう…そして、千冬さん以外の友人にも…当然、そんな事は出来無い…千冬さんなら、一応そう言う相手になり得た可能性は有るけど…このバカは、前世の時点で告白どころか向こうの気持ちを確認してすらいない…最終的に友人以上に距離を縮められないまま、コイツは死んだ…そして、今世…新しい人生を踏み出した以上…千冬さんと結ばれるかは別にしても、理解出来た時の記憶を継承してるコイツは…自覚は無くても、そう言う愛情を求めてたのかも知れない…が、そうしてこの世に誕生した"織斑十秋"には両親は居ない…そして、他に子供として甘えられる相手は居ない…その癖、大人だった時の記憶も持ってるコイツはその本能に蓋をした…我慢が出来てしまった…今の状況はもしかして、その蓋が外れてしまったのかも…つまり、コイツは…前世から数えても…今正に、生まれて初めて…人に甘えようとしているのかも…
…そこまで一気に思い浮かんでしまったあたしの取った行動は一つ…
「…ハァ…あたしはアンタのママじゃないし、なるつもりもないけど…ま、今だけはそうだと思って…甘えたら良いわよ…」
「ママ…」
何処にも居ない母親を探そうとすると言う、物悲しい行動を始めた親友の頭を優しく撫でる、だ…ホント、こんなに可笑しくなる程…今まで人に甘えて来なかったのね、アンタは…アンタの周りには、いくらでも…頼めばいつだって、アンタの為に動いてくれる人間が居たんだから…ちょっとずつでも甘えていれば、その飢えは…きっと、こんな風になってしまう前に何処かで満たせていたでしょうに…
「ママ…ママ…」
「はいはいママですよ……ま、今だけね…」
まぁ、普通で有れば気持ち悪いとか…戸惑ったりとか有るんだろうけど…何でかしらね…アンタ相手だと、あたしはやっぱりそういう風には思えないのよね…ま、おままごとか何かだと思ってしばらく付き合おうかしら…
そうしてしばらく撫でている内に、あたしの言葉もろくに届いてなかったと思われる親友は…それでも、最終的にあたしの気持ちが伝わったのか…安心した様に眠りに落ちて行った…
…そして、話は冒頭に戻る…
「まぁ、寝てくれたのは良いんだけどさ…」
少々問題が起きてたりはする…
「すー…ん…すー…ん…すー」
「っ…ん…どうして…っ…アンタは…んんっ…結局…あたしの胸から口を…んっ…離さないまま寝るのよ…!」
まぁ、文句を言いつつ…あたしの顔は少しニヤけてるんだろうとは思う…あたしが、今までどうやって恩を返したら良いのかと散々悩んでた親友が…今は、ここまであたしを頼ってくれるんだから嬉しさは確かに有る……ま、正直…色々と複雑では有るんだけども…何かもうさっきから、明らかにくすぐったさ以外のものを感じてて色々ヤバいから…そろそろどうにかしないと、あたしが困る…
「っ…このまま引っこ抜いても大丈夫かしら…起こしたら可哀想では有るけど…仕方無いわね…ん…!……ふぅ…助かった……うわ…」
さっきまで嬉しいと、確かに感じてもいた…ただ、いざコイツの身体を押し退けて…乳首を口から引っこ抜いて、今の現実を認識すると…色々気持ちが冷めて行くのを感じた…
「よだれでベトベトだし、噛まれこそしてないみたいだけど…何かもう、乳首がジンジンと痺れてもいるし…コレ、明るい所で見たら絶対赤くなってるわよね…」
取り敢えず、相変わらず起きる気配の無い親友をゆっくり胸の上に下ろす……また吸い付かれるかとも思ったが…幸い、十秋はそのまま寝ていた…
「…ハァ…多分だけど、後で起きてもコイツはさっきまでの事を何も覚えてない気がするわね…ま、今回は何も無かった事にしようかしらね…」
あたしも、恥ずかしさは有るからちょっと言いたくないし…何より、今のコイツにこの状況を伝えた後の行動が予測出来無いからね…ま、仮に言うとしても…コイツが落ち着いて、余裕も出て来てから…二人きりの時に笑い話として話せたら良いって感じかしら…ま、それはそうと…
「…ふぅ…正直、新しい扉が開きかけたかも…」
まぁ、あくまであたしはノーマルだ…ただ、同性且つ…ほぼ同い年の親友がママ、ママと言いながら甘えて来る姿は中々に響くものは有った様にも思う…と、考えてるのは半分現実逃避に近い…いやまぁ、そう思ってるのも丸っきり嘘ではないけど…正直、本当はそんな事考えてる場合でも無かったりはする…
「…ハァ…取り敢えず、タオル持って来た方が良いわね…」
親友のよだれだらけになってるあたしの胸…正直、この現実を前に劣情とかは催さない…こうなったのはあくまで不可抗力だし、何なら汚いとまでは言わないけど…さすがにせめて、拭き取るくらいはしないと寝る気にならない…
「よいしょ……ふぅ…」
取り敢えずあたしの胸の上に居る十秋の身体を一旦退けて、あたしはそっと…布団を出る……そう言えばコレ、一夏の布団だったわね…ごめん、後で洗うから許して…
あたしは一度目を閉じて、この場に居ないもう一人の親友に向けて両手を合わせる…ハァ…とにかく、早くタオルを持って来よう…
その後あたしは濡らしたタオルで自分の胸を拭き取り、同じくよだれだらけになってる十秋の顔も拭き取り…もう一度部屋を出て、タオルを洗濯機に放り込んでから一夏の部屋に戻る…ハァ…全く、コイツは呑気にグースカ寝ちゃって…ま、良いけどね…あたしは親友の頭を撫でて、再び布団の中に……うっ…布団に生暖かい濡れた感触が…まぁ、冷たいよりは良いかしらね…そんな事を考えつつ、取り敢えず離れた所に居る親友を抱き寄せてやってから…あたしは目を閉じた…