「ま、そうでしょうね…」
正直、肉体的には何もしてないのにどっと疲れた感じを味わいながら…一夏と別れ、私は部屋に戻って来ていた…相変わらず部屋に戻るなり絡んで来る、懲りない先輩を雑に剥がしつつ……いやまぁ、今回は先に顔色が悪いとか言われたから心配込みでのスキンシップのつもりなんだとは思うが…本当に勘弁して欲しい…私は正直、そう言う触れ合いは苦手だ…もちろん、十秋はナチュラルに誰とでも手を繋いだりはするタイプだし…ここに来る前の学校にも、挨拶代わりに抱き着いて来る様な同性の友人はいたので…別に全く慣れてないわけでもないが、この人の場合…どうも十秋や、そう言う奴と違って…確かな身の危険を感じる…と言うか、十秋はアレで…ちゃんとそう言う距離感をある程度本能的に察してる節は有った…要するに、純粋にこちらが一人にして欲しい気分の時はこちらの状態を多少確認はするが…ちゃんとそう言う時は、あまりこっちに絡まない気遣いが出来るのだ…ま、その癖…こっちが本能的に求めてるのに素直じゃない時は、それも敏感に見抜いて…思いっきりこっちを振り回すとかもやる奴では有るがな…やはりアイツと言う見本が居たから、今の私が居るんだろうと思……話が逸れたな。
とにかく今私は部屋に戻って来て、絡んで来たアホな変態を成敗しつつ…凰鈴音の事を知ってるかどうか聞いてる所だ。
「…あの、ところで…お姉さん、こう言うアグレッシブなスキンシップは嫌いじゃないけど…ちょっと辛いかなって……痛っ!?いたたたた!?ちょ、頭潰れちゃう!?」
「何度言っても理解しない頭なら、いっそもう…潰しても良いかと思いまして…」
「ごめん!本当にもう着替えるから!お願いだから離して!?中身出ちゃう!?」
「……」
片手で掴んでいた"物"から手を離す…ちなみに、今やってたのは俗にアイアンクローとか言われるアレだ…ハァ…だから、毎回私が部屋に戻る度に水着エプロンで出迎えるのはやめろと何度言えば分かるのか…十秋は結局いつもコレに耐えてたのか?私なら無理だな…とは言え、やめろと言ってもやるんだから本当にどうしようも無いが…私の今まで生きて来た中でもここまで学習しない奴は…まぁ、並べるのはアレかも知れないが十秋を合わせて二人目になるか…当初あれだけ罵り合った相手である私に、こっちが折れるまで散々絡んで来たからな…ま、あっちはその後…もう過度なスキンシップは必要無いと判断したらしく、急激に大人しくなったが…この先輩は本当に懲りない…と言うか、毎回同じ事しかしないんだから芸が無いと言うか何と言うか…少しでも捻って来るんなら私もまだ、冗談として反応を返してやる気にもなるが…こうも何度も同じ事ばかりされると、さすがにもうイライラしかしない…と言うか、一夏にやるならまだしも(それはそれでどうなのかと思わなくもないが…)何故私や十秋にやるのか…やはり身の危険しか感じんな…そもそもコイツは、十秋に裸の自撮り写真要求した様な奴だしな…ハァ…早く部屋を代わりたいが、今一夏の所に戻るのはそれはそれで、な…
…と言うか、私は何の話をしてたんだったか…?
「…ふぅ…それで、鈴音ちゃんがどうかした?」
「……」
割と本気で掴んでいた覚えが有るし、この学園に来るまでは毎朝重い木刀をそれなりの回数素振りしてたつもりだから…これでもパワーには一応自信が有ったのだが、制服に着替えて戻って来た更識先輩には特に堪えた様子は無い…溜め息を吐きながらも、話を続けるつもりは有る様なので私は取り敢えずキッチンに向かう…
「せっかくなので、朝食を用意しながら話をします…今日は時間有りますか?」
「え?今日なら時間は全然有るけど…作ってくれるの?」
「…まぁ、せっかくなので。」
「…やった!貴女の作るご飯美味しいのよね!お姉さん胃袋掴ま「やっぱり無理に作らなくても良いですかね」…ごめんなさい、真面目にするから…」
私も甘くなったな…そんな事を考えつつ、止めた手を動かして行く…まぁ、部屋を十秋と代わった日の邂逅からしてアレだったのに(一応十秋に事前に忠告はされてたとは言え…)既に印象は最悪の筈の相手にせがまれて飯を用意したくらいだから、最早今更な話では有るのだがな…
「え?彼女、こっちに来るの?入学の打診こそ有ったけど普通に突っぱねたって聞いたから…てっきり来ないものだと…」
「途中編入、との事です…普通の公立高校の場合ですら試験の難易度は高く、倍率も通常入学の場合より高い事が多いとの話ですが…それに加えてここはIS学園ですからね、試験も当然かなりのレベルでしょうし…倍率も相当跳ね上がると思われますが、それをパスして来るんですから本人は相当優秀な様ですね…ちなみに、元は十秋が仕入れて来た話なのですが…聞いてませんか?」
「…あー…だったらどうかしらね…最近は比較的安定してるけど、十秋ちゃんが元気だった頃なら色々と忙しい時も有ったし…聞いてても覚えてないかも…いや、でも…私が鈴音ちゃんと面識無いと思ってるだろうし、話してないんじゃないかしらね…」
「…あくまで、間接的に鈴を知ってるだけと言う事ですね。」
「一応中学の頃に私たちは一夏君と十秋ちゃんを護衛してた事になってるけど…私は当時と言うか、今もだけど…普段は一応、学生だったからね…通ってるのは私立の中学だったし、一夏君と十秋ちゃんはしばらくウチに住んでる形になってたけど…二人は元より鈴音ちゃんも、通ってるのは普通の公立中学校だったからね…加えて言えば、彼女をウチに招いて貰うわけには当然行かなかったし…結局私は、彼女と直接会う事は無かったわ…ただ、鈴音ちゃんはある意味…ウチではしばらく要注意人物だったけどね…」
「…と言うと?」
「…まぁ、今だから言えるんだけど…あ、でも…今からする話は、十秋ちゃんには内緒で…お願い出来る?」
……いつもの様な冗談じゃなくて、ガチの話か…これ以上秘密を増やしたくないが、まぁ…私もここまで聞いてしまったし、今更か…と言うか、一夏は知ってるわけか…
「良いでしょう…話を聞かせて貰えますか?」
「まぁ、至極簡単な話だし…今なら、それだけでそこまで警戒する様な事じゃないんだけど…当時はウチも少し、ピリピリムードだったからね…要はね、貴女も気付いてたらしいけど…彼女、例の件で誘拐されたのが一夏君じゃなくて…実は十秋ちゃんだったって事に、気付いてたそうなの。」
「…成程、それで?」
「…あの頃は、それが僅かでも外に漏れるとちょっと不味かったのよね…そもそも、十秋ちゃんは無事…救出こそ一応されたけど…それでも私たちの護衛が必要になった理由が、二人がこの国で改めて別件で狙われる可能性が有ったから……と言うか、実際当時…思いっきり、狙われてたんだけど。」
「…では、真実に気付いてしまった鈴の口を念の為塞がないと…ただでさえ、人の悪意に対して鈍い所の有る十秋が集中的に狙われる可能性が有り…当時は色々とリスクでしかなかったと言う事ですね…ちなみに、誘拐されたのは一夏だと世間に歪んで伝わっていた時…訂正しないで欲しいと言ったのは、一夏ですか?」
「鋭いわね、その通りよ…ちなみに、マスコミが織斑家を囲んでいたあの日…一夏君は私たちの静止を振り切って、自宅に戻ろうとしてたのよね…」
「…まぁ、一夏ならやりそうですね…」
アイツは基本、どんな時でも冷静だが…極稀に、特に十秋の事になると突拍子も無い事をやるタイプだった記憶が有る…ま、それでも冷静に…淡々と無茶をやる一夏と違い、同じく冷静だが…十秋が攻撃を受けてるとギリギリまで耐えて平和的解決を模索しつつもキレると元凶を暴力で直接叩きに行こうとするのが数馬、そして真っ先にキレるが基本は所謂…レスバをするのが弾…キレながらも相手の所には行かず呑気な十秋を諭して、背中を蹴って重い腰ごと十秋を色々けしかけるのが私…毎回何故皆が怒ってるのか分からないと、一人頓珍漢な反応をしてるのが十秋…あの頃、十秋が本格的に虐められていた頃は私たちの役割が綺麗に分かれてた記憶が有るな…
「…で、一夏はどうなりました?」
「…一応、プロの筈の私たちが出し抜かれる形であっさり脱走されてね…あの時はまだ、彼が所詮素人だと思って…皆完全に油断してたとは言え、まさかあの厳戒態勢の中…ああも簡単に逃げられるとは、私たちも思ってなかった…ま、言い訳にしかならないけどね…結局、一応事が発覚してから様子見として…一夏君がウチを脱走する前から織斑家を囲む野次馬の中に紛れ込ませてたウチの人間がたまたま捕まえたわ…普通にウチから、そのまま彼の追跡に出た人たちは全員振り切られたそうよ…ちなみに、あの時の私は…他の家族と一緒に一夏君が脱走した事でパニック状態になった十秋ちゃんを宥める為に残ってた…まぁ、あの時仮に私も一緒に出た所で…一夏君を捕まえるのは、恐らく…不可能だったでしょうけどね…」
「……」
まぁ、アイツの場合…相手がいくらプロでも普通に出し抜けるくらい、規格外だったとしても…今更、そこまでの驚きは無いがな…私の知る限り、小学生の頃からもうかなり…アレだったしな…
「…っと、まぁこれは余談ね…で、鈴音ちゃんの事なんだけど…織斑家には戻れないとは言え、漸くウチから二人が中学に通える様になってしばらくしてからの話なんだけど…鈴音ちゃんが放課後に、二人を人気の無い場所に呼び出してその事を問い質したそうなの…勘とは言ってたけど、ある種の確信を持った雰囲気でね…」
「……」
「当然、その時学校に潜んでいた人たちは彼女をどうするかの協議に入る事になった…私の通う学校なら、私立って事も有って…自然と生徒の家の格がある程度重視され易いから、更識家の"顔が利く"し…色々と上手い事出来るんだけど…三人が通ってるのって、さっきも言った様にあくまで普通の公立中学だったのよね…そうなると、普通にこっちで色々言った所で"要望"が簡単に通るとも限らない…かと言って、仮にも二人のクラスメイトを下手に排除するのもどうかと迷う…と言うか、あの時の彼女の場合…丸っきり好奇心とか、色々と良くない思惑で暴こうとしてるならまだしも…明らかに二人を、と言うか十秋ちゃんを本当に心配してる雰囲気が有ったからね…だからどうしようか、そう思ってた所に学校に用務員として潜り込んで…この時のやり取りをこっそり聞いてたウチの人たちに一夏君が接触して来たらしいの…"こっちが"連絡して来た、と言う事にして十秋ちゃんと鈴音ちゃんの所から離れてね…ハァ…あの頃、一夏君はある程度…ウチの技術をあくまでも、"護身"の為にある程度学んでたとは言え…気配を消してたウチの人たちに普通に接触して来たのよね…と言うか、あの時一夏君が接触したのは…彼がウチの中で何度も出会った事が有る人たちとは言え、違いは見た感じほとんど分からないレベルで変装してた筈なんだけど…普通に見抜かれてて、戦慄したって言う話を後で聞いたのよね…」
「…それで、その後は?」
「彼は鈴音ちゃんの人柄を説明して、少なくとも簡単に秘密をバラす様な人間じゃないとしっかり話を着けて戻って行った…ま、結局今回は見逃そうムードに入ってた人たちが…その後すぐに、殺気立つ事になったんだけど…」
「それは、何故ですか?」
「…そう言えば貴女には一応言っておくべき話かしらね…例の誘拐された日、あの時は強引に協力を申し出て来たドイツ軍の人たちと千冬さんと一夏君が一緒に行動してたそうなの…とは言え、誘拐の現場に辿り着いたのは良いけど…無理に突入しても十秋ちゃんを人質にされるだけだからね…どうするか迷ってた所で、十秋ちゃんが普通にその場を隙を見て逃げ出したそうなの…全員で誘拐犯グループに悟られない様、気を付けながらも慌てて追い掛けて…その後、追い込まれてピンチになった十秋ちゃんを助ける為に…ISを展開した千冬さんが突入したそうなんだけど…誘拐犯の男たちは普通に倒せたから良かったんだけど、結局ただ一人残ったリーダー格の女に十秋ちゃんがナイフを突き付けられてね…問題はその後、十秋ちゃんは刺されに行ったらしいの…自分から。人質で有る自分が居なければ、自分の姉は勝てるだろうって踏んで…」
「あの、馬鹿者が…!」
ちょうど持っていたお玉の持ち手を思わず握り締める…ああ、そうだろうな…結局お前がそう言う奴なのは分かってる…ただ、それと私が気に食わない事は別の話だ……っと、持ち手が指の形に凹んでしまった…と言うか、コレは私のじゃないんだよな…
「…すみません、弁償します…」
さすがに見えていただろう更識先輩に向かって、私は頭を下げる…
「ああ、良いのよ…安物だし、何なら幸い…まだ使えるみたいだしね…にしても、本当に彼女は愛されてるわね…」
「…私はあくまで友愛ですが、そうですね…」
アイツの"悪癖"関連や、虐めへの反応など…色々アイツに怒った事は有るが、それもあくまで…心配しているが故だ…ま、こっちの神経を逆撫でする様に(本人にそんなつもりは無いのは分かっているが)何を言っても笑って大丈夫だとか、心配性だとしか言わないから余計にイラつくパターンがほとんどだが…
「…で、話を戻すけど…一夏君は一応その辺も話した、と言うか…十秋ちゃんがうっかり余計な事を言ってね…それだけでバレる様な言葉じゃなかったけど…結局勘の良い鈴音ちゃんにはバレちゃったみたいで「そう言えば、刃に身を晒した十秋がどうなったのか聞いてないのですが…もちろん、今現在もアイツはちゃんと生きているので…刺されなかったんだとは思いますが」…あ、ごめん…話を逸らさない様にって、気にし過ぎてうっかりしてた…十秋ちゃんは一応助かったわ、焦って飛び出して来た一夏君がその女に体当たりをして倒してね…その後十秋ちゃんは意識を失っちゃったけど、幸い、命に別状は無く…ただ、無茶をしたのと女からの暴行の所為で顔も身体も痛々しい傷が残ったし…何より、左腕を骨折…ま、時間は掛かったけど…幸い顔と身体の傷は何とか消えたし、骨折も治ったけど。ちなみに、彼女は身を隠す以外にも…その療養の為に、一夏君共々中学校への復帰が遅れてたりするわ…さてと、直前までの話に戻るけど…結局、十秋ちゃんが自分から刺されに行った事を知った鈴音ちゃんが怒ってね…その場で十秋ちゃんを大声で怒鳴りつけたらしいの…で、ウチの人たちは結局協議再開…友人の為に本気で怒れるその姿は、確かに人として正しいし…美しいけど、コレはそう言う問題じゃないからね…さすがに、彼女をそのまま逃がすのは難しいと言う判断になった…」
「まぁ、確かに…そうなるでしょうね…」
家族の為に、何の躊躇いも無く凶刃の前にその身を差し出せるその自己犠牲精神はアイツの悪癖の最たるものと言える…そして、その行いは一見美しく思えなくも無い…ただ当然、同時に反吐が出る様な想いにも駆られる…結局、そんな物が美しいと思えるのは…やはり何処までも創作物の世界でだけだ…現実に、それも自分の親友が平気でそれをやる様なタイプだとは…分かっているつもりだったが、それでもこうして実際にやろうとしたと聞くだけで腸が煮えくり返りそうになる…加えて、それを自分を命懸けで助けに来た家族の目の前で且つ、自分の想い人の筈の人間の眼前でもまるでお構い無しにやろうとする辺りが…アイツの異常性を物語っているな…
…何より度し難いのは、少なくともその時の十秋は…本気で、そこで仮に命を落としても構わないと思っていたのだろうと私には分かってしまう事だ…最早怒りを完全に振り切って、呆れの方がやって来てしまう……まぁ、お陰で…冷静さが戻って来たがな…
「…落ち着いた?」
「!…ええ、まぁ…仮にそちらに行くつもりなら、こう言うのは抑え込むべきですかね…」
あっさり心の内を見抜かれたのが少し癪に障る…なので、話を逸らす様にそんな事を聞いてみる…
「…いいえ、私はそうは思わない…確かに、自分の感情より…あくまで任務を優先しろ…昔の私ならそれにただ、唯々諾々と従うでしょう…でも、今の私は更識家の当主…"私"が、今のウチのルールよ…そして、私はどちらかを選べと言われたら自分の感情に従うわ…もちろん、多くの人たちとたった一人の"家族である少女"のどちらを選ぶかと言われても答えは単純。私が選ぶのは家族よ…私は"楯無"では無く、"刀奈"として家族を助けたい…その為の障害になるなら何の力も持たない普通の人たちでも私は、蹴散らして進むわ…もちろん、どちらも救える道もちゃんとギリギリまで模索してからの話だけど…私、これでも結構欲張りなの…だから、ウチに来たら貴女もそうしてくれて良い…責任は、全て私が取るわ…与えられた任務より、どうしても優先したい事が有るなら…いつもワガママを聞けるとは私もさすがに言えないけど、それでも…基本は、そっちを優先してくれて構わない…」
…ふぅ…いつもそう言う態度で居てくれるなら、私もこの人を尊敬出来るし…信頼も出来るのだがな…ま、それはそれとしてだ…
「…それはそれで、暗部の長としてどうなんですかね?」
「…フフッ…十秋ちゃんと同じ事を言うのね…あの時と同じ答えを返そうかしら…私が守りたいのはね、この国じゃないの…この国で生きる人たちなの。そして、最優先で守りたいのは"家族"。特に、こんな多くの人の返り血に塗れ…穢れた私を家族と呼んでくれた優しい二人…一夏君と十秋ちゃん…私は、とにかく二人を守り抜きたいのよ…ねぇ?貴女も手を貸してくれないかしら?」
「…考えておきましょう。」
最早逃げている様なものだが…将来の話だ、もう少しじっくり…考えたい…だが…
「ただ、"あの二人"に危機が迫った時…仮に私がそちらに居なくても手が足りないのならご連絡を…私が近くに居れば必ずこの足で駆け付けますし、そうでなくても…迎えを出してくれれば必ず、私はその戦場に馳せ参じましょう…」
親友の為なら、再び…この手を血に染めても、私は構わない…今度は憂さ晴らしなどでは無く、ちゃんと親友の為に。
「…クスッ…ねぇ、それ言ってて恥ずかしくない?」
急激に気持ちが萎えて行く…そして同時に、私の心に黒い炎が灯った様に感じる…取り敢えず、私は片付けるのを忘れていた包丁の柄を掴んで目の前の女の方に向けて振り被る…
「!…ちょ、待って待って!?私も恥ずかしくなっちゃったから、つい茶化しちゃっただけなの!?ごめんなさい!取り敢えず一旦落ち着いて、それを下ろしてくれないかしら!?」
「…ハァ…先程の言葉は、全て貴女の本心ですか?」
「…ええ…本当よ…こんな大事な事で、嘘は吐かない…もちろん全部、死ぬまで私は貫くつもり…例えどれだけ、甘いと言われたとしてもね…」
「そうですか…」
私は包丁を置きつつ…すぐ横の、同じく片付け忘れていた物を掴み…更識先輩に向かって投げた…
「っ!」
「…中々の反射神経です…先程はこんな事で大丈夫かと、疑っていましたが…この分だと背中を預けたり、私が貴女の横に立つ事になっても大丈夫ですね?」
「…何のつもり?」
「一応将来そちらに入れて貰うかも知れないので、私の特技を一つ教えておこうと思いまして…木刀や竹刀は、朝の鍛錬以外…特に、学校に持って来るとまたうっかり振り回してしまいそうなので…出来るだけ持ち出さない様にしてた為に、一定の結果の出せている剣道と違い…昔に比べたら、剣術の方は多少錆び付いてるかも知れませんが…今やった通り私は、"物を投げる"のは得意です……ネギの味噌汁を作るつもりだったのですが、さすがに一本丸々使う気は有りません…それは余った分です。申し訳有りませんがラップを掛けて、冷蔵庫にしまっておいてくれますか?」
「…ハァ…はいはい、全く…私じゃなかったら止められなかったかも知れないわよ?予備動作も分からなかった…まぁ、ネギなら余程不味い場所でも無い限り仮に当たっても…そう大した怪我はしなかったとは思うけど。」
「ちなみに、この技術だけでも…そっちでやって行けそうですか?」
「…今流しに置いた包丁でもコレ出来る?…あ、投げないでね?ネギはともかく、あのスピードの刃物を確実に止める自信は…まぁ、無くはないけどちょっと…私の身に付けてる技術上、止めれたら止めれたで…刃物だとさすがに私の"スイッチ"が入るだろうから…反射的にキャッチすると同時に、そのまま貴女に投げ返してしまうだろうし…その場合、私ももう…意識して止められないだろうから…」
「…出来るかと言われたら…ええ、恐らく…」
先程は危うくそうしそうになったが、今はさすがにやらん…と言うか、投げるのはともかく…投げ返された"ソレ"は、恐らく私には止められん…さっき怒りに任せて投げなくて良かったな…相手がいつも緩い態度だから忘れていたが、一応プロの人間だったな…この人の相手はもう少し、慎重にした方が良さそうだ…
「…正直、期待以上ね…こんなの何処で学んだの?」
「これでも昔から運動能力は比較的高かったもので…町内野球のピンチヒッターで出たり、川で水切りやったり…後は、あくまで子供向けの…針の無い物ですが、ダーツを教わったりなどしてる内に自然と…まぁ、単純に私より上手い人はそれなりに居ましたが…どちらかと言うと私は、"武器"として使う方が向いてた様で…」
「…それだけ?…まぁ、あまり危険な物を学ぼうとしてたら…ウチにもすぐ、情報が入ってたとは思うけど…」
「ええ、別に人を的にして投げ方を習った事は無いですね…ただまぁ、こっちに来るまでそれなりに暇だったのと…根が凝り性だった様で、特にダーツに関しては動かない的を狙ってる内に飽きたので…何となく部屋を飛んでいるハエを狙って投げたりもしていたら、自然とこんな感じに。」
「…動く物でも、ある程度狙えるのね?」
「ええ…まぁ、狙撃銃とかでやれとか言われたら…さすがに、私も厳しいですが。」
「…貴女の素質は、きっとウチでなら活かせるわ…ウチは暗殺を請け負う事も実は有るけど、何より…要人の護衛業が多い…暗殺も、あくまでそれが"必要な事"だからやるだけ…貴女の"力"を、間違った方向で使わせる事は絶対にしないわ。」
「…そこまで聞いてしまうと、入らざるを得ない気がするのですが…」
「もちろん、断ってくれても良いわ…ただ、それなら…今聞いた事はちゃんと、墓場まで持って行って。」
「私がそうすると、信用してくれるんですか?」
「…貴女が簡単に他所へ漏らしたりしないと、私は信じる…けどその分、裏切ったら…ちゃんと報復はするわよ?あまり私たちを舐めないで。」
「…ハァ…肝に銘じます…しかし、舐められたくないなら…普段からもう少し、真面目にしてくれませんか?」
「…ふぅ…だって、いつも気張ってるの…疲れるんだもの。"身内"の前でくらい、気を抜かせて欲しいんだけど?」
「私も、そう呼ぶんですね…」
「私、貴女の前でもアレだけ普段から露出してるし…色々喋ってるつもりなんだけど?」
「…あの格好はその所為ですか…」
タチが悪い…
「まだ貴女の前でやってないのは、十秋ちゃんの前でやった下着とエプロン、十秋ちゃん相手ならちゃんと裸にエプロンもやったわね、後は貴女の前では全裸もまだね…こっちも十秋ちゃんには見せたけど……見たくない?」
ちゃんとって何だ、ちゃんとって…と言うか、私は別にそちらの趣味は無い…何故その必要も無いのに同室の、それも同性の裸が見たいかと聞かれて…私が見たいと答えると思うのだ…まぁ、昔…初めて十秋の裸を見た際にその初回の一度だけ、まだ私も小学生にも関わらず…一瞬妙な気分になり掛けた事が有るのは確かに認める…認めるが、結局十秋以外では今までにそれは無く…しかも十秋に関しても、その最初の一回以外無いし…何なら、少なくともこの人に自分から…そう言う気持ちはとても抱けそうにないな…
「結構です…一夏の前ではやってないですよね…?」
「あら…?聞きたい…?」
「……」
「…そんなに睨まないで…えっと…答えるなら、全部?裸は、さすがに事故だけど。」
つい、一夏の事なので反応してしまったが…正直あまり聞きたくなかった…まぁ、聞いてしまった以上…今更か。
「…ちなみに、一夏の反応は?」
「エプロンの時は大体、『風邪を引くので早く服を着てください』…面白いくらい、十秋ちゃんと反応同じなのよね…」
「私としては、貴女の頭の具合も心配しますね…」
この学園に来てから一夏とこの人は同室になった事は無いが…まぁ、それでもやってるタイミングは有りそうでは有るが…この分では、二人が更識家に居た頃から何度もアレをやってるんだろうな…
「裸の時は、一体何が有って…そうなったんですか?」
さすがに、裸の時もあの茶番をやろうとしてたなら…理解に苦しむ…
「事故って言うか、ワザとなんだけど…私が一人、お風呂から上がって脱衣所で身体拭いてる時に…一夏君がドアをノックして、私の父が呼んでる事を教えてくれたの…直前の仕事が割と重い内容なのと、そもそもあの時はまだ一夏君が好きだったから…ちょっとからかおうと…ハァ…ごめん、嘘…あの時は、どうしても彼が私をどう思ってるのか知りたくて…試しに、『着替えも終わってるし、開けていいわよ』…って、言ってね…まぁ、彼は勘が良いし…あの時はただ、そもそもドア越しで出来る話をしに来ただけだから…その必要も無いんだし、開けないんじゃないかとも思ったけど…あの時は油断してたのかしらね…脱衣所と廊下を隔てる引き戸がスーッと横に動いたから、タオルをワザと落として…一瞬で閉まったけど、多分彼の目にはバッチリ映ったし…記憶もされたんじゃないかしら?…ま、次の日は完全に何も無かった様な反応されたから傷付いたんだけど…ホント、酷いのよ?乙女が一世一代の覚悟で裸見せたのに、何も無かった様な反応…思わず十秋ちゃんの所に泣き付きに行ったの…頭は撫でて貰ったけど、結局…『刀奈さんが全面的に悪いですね』…って、言われちゃったけど。
「……」
もうコイツは、ただの痴女としか思えん…そして、その時の十秋の言葉には私も同意する…
「…ハァ…ま、『刀奈さんは安易に男に見せるには勿体無いくらい綺麗な身体なんで、簡単に見せたら駄目ですよ』…って、言われたのはちょっと…嬉しかったけど…と言うか、今考えたら…一夏君にも速攻ドアを閉められた辺り、ちゃんと"私みたいな人間"を女性として尊重してくれたのかしらね…
「……」
そんな事は聞いてない…まぁ、スタイルが良いのはあの格好で十分に予想出来るし…十秋の言ってる事も確かに正しい…そもそも風呂に入ったんだから、直前の仕事が仮に"殺し"で有っても…表面上綺麗になってた筈だ…だからどっちにしても、十秋の言う事はやはり正しい…その筈では有るのだがな…
「…ふぅ…ま、私からしたら十秋ちゃんもかなり綺麗な身体なんだけど…彼女の場合、男性に裸見られてもあんまり気にしないのよね…長い付き合いの一夏君は元より、他の仲の良い…えっと…弾君に、数馬君だっけ?あの二人に見られても土下座始めた二人に狼狽えるだけで、見られた事自体は気にもしてなかったって言うし…何なら、彼女はたまたま私の父に見られた時も平然としてたからね…あの後私の母に、かなり絞られてたけど…」
まぁ、それも予想と言うか…そもそもそう言う奴なのは、私もある程度知っていると言うか…ただ、この分だと恐らく中学時代も…その辺私が思う以上に、全く…気にしてなかったんだろうな…私が知るのは、あくまで小学校低学年までのアイツだが…私の家に泊まりに来て、裸を父に見られてしまった時も…まるで気にしてなかったそうだからな…
「…ま、今思えば…大人だった頃の記憶が有るからこそ男子に見られても…いや、でも…彼女の場合…大人の男性に見られても気にしないのよね…まぁ、私が知るのは父に見られちゃった時の事だけだし…何なら、彼女はあの頃ウチでは家族みたいに扱われてたし…それ故に、気を許してたのかも知れないけど…」
まぁ、大人になるまで生きた…前世の記憶が有るとは言え、普通そう思うのは確かに自然だが…ただ、初めて前世の話を聞いたあの日に聞いたかどうかは…生憎、忘れてしまったので完全に推論になるが…アイツの場合前世も女性だった割に、当時も思いっきりその辺隙だらけだった気がしてならないんだよな…多分、例えば痴漢をされても…ほとんど狼狽えたりはしてなさそうな気がする…当時とほとんど体型が変わってなかったと言う所まで聞けたのは、しっかり記憶に有るが…何故かアイツは、どちらの自分も寸銅体型と呼んで…男の興味は全く惹いて無いと思っているが…実際は全然そんな事は無いと思うんだがな…
…気付けば更識先輩の方も、話してる内にその辺に違和感を感じたのか何やら考え込んでいる…やがて、彼女の顔色が変わった所で…
「…やめましょう、この話…嫌な予感しかしないわ…」
「……」
まぁ、何となく答えは出ている様なものだが…あまり考えたくない話なのは私も賛成だ…
「…そもそも、完全に話が逸れてたわね…何処まで話したんだったかしら…」
「……」
まぁ、私も忘れ掛けてたし…途中で話を引き戻さなかったのも事実だから何も言える事は無い…しかし、本当に何処まで聞いたか…っと、出来たな…途中つい、手が何度か止まったので手間取ってしまったな…
「取り敢えず朝食も出来ましたので、後は思い出してからで結構です。」
「あら、そう?じゃあ、今日はこの後…普通に授業始まるまではここに居られる筈だから、食べた後思い出せたら話すわね?」
「…分かりました、お願いします。」
…そう言えば、鈴の事を聞こうとした理由もまだ説明してなかった様に思うが…まぁ、この人の話が終わった後で良いか…ただ、あの話は一番しなくてはいけない筈の一夏や千冬さんにも黙ったままの話だが…この人に関しては先に、共有はしておかないと…後々、色々と不味い事になりそうだからな…
「…そう言えば、本題に戻る前に一つ聞きたい事が有るのですが…」
「何かしら?」
「…私や十秋…比較的襲われる心配の無い同性の相手の前を選んで、頻繁に露出の高い装いをするのは…いや、さすがにやめておきましょう…」
コレは…私が踏み込んではいけない、話だな…
「…そこまで言ったならもう言ってよ…貴女も気が付いてるんでしょう?」
…ハァ…ま、今のは私が悪いか…人のメンタルケアは、苦手なのだがな…
「…自分の身体がちゃんと"綺麗なまま"なのかどうか…第三者に確認して欲しいからですか?」
「…ふぅ…まぁね…十秋ちゃんは敢えて普段はハッキリ言わないし、一夏君もだけど…二人とも、実は気付いてるんでしょうね…その、ね…時々お風呂に入ったり、シャワーを浴びても…全然落ちないのよ血が、身体に…こびり付いて…」
「十秋を選んだのは、そう言う理由も有るんですか?」
「…うん、そうだと思う…一夏君は、敢えて"ウチの仕事"にあまり触れない様にしてる節が有ったし…本当はどう思ってるのかって思ったら、ね…十秋ちゃんは、踏み込まないけど…全部分かった上で、私に対していつも、自然な笑顔を向けてくれてるように思えたから…そう思っちゃったら、あの子に…どうしようも無く、惹かれちゃって…ね…実際、その疑問をあの子にはぶつける事が出来たんだけど…それでも、彼女は私の事を汚いとは言わなかったの…ましてや私なら、彼女を即座に殺せる事が分かっていても…私から触れられる事を、絶対に拒まなかった…こんな私を、あの子は…受け入れて、くれたから…」
嘗て垣間見た、十秋の抱える"闇"…それと同じか、あるいはそれ以上の物を今、この先輩は抱えてる様に思う…普段をコレを完全に隠し切ってるんだから…二人とも大したものだ…いつも、心の内から消える事は決して無いのだろうに…
「私、どうかしら?ちゃんと…今この瞬間も、綺麗なのかしら?」
私はその質問に答えず、一つの疑問をぶつけてみる事にした…
「…殺人に対して、何らかの良くない嗜好はお有りですか?」
「…いいえ。人を殺すのは大嫌い…出来る事なら、本当は誰も殺したくない…」
「…ふぅ…なら、貴女は正常です…そして、貴女に今も纒わり付くその返り血は…ただの幻です…貴女にしか、見えていない…綺麗だと、私も思いますよ…十秋も、嘗て似た様な事を言ったんじゃないですか?」
「…ええ、あの子も…そう言ってくれた…何なら、あの子は私が仮に"ソレ"に快楽を感じてるとしても、否定こそしても…受け入れはするとまで、言ってくれた…」
「…私にはそこまで言うのは難しいですが、アイツは…昔からそう言う奴です…と言うか、私は貴女が殺人に対して快楽を感じた事が有ったとしても…それを本気で否定する事は出来無いでしょうね…私は、嘗て力を振るって…人を血の海に沈める事で、心の内のモヤモヤを晴らしていた…醜い人間ですから…」
あの頃の私は、自分の所為で他人が死んだとしても…一向に構わなかった…結局死者が居なかったのは、ただの結果論でしかない…何なら、今もやられた人間は後遺症を抱えている…そう聞いても、私は…今もその事に何も感じる事が出来無い…今も、当時の事を恥じ…自罰している…そう言えば聞こえは良いが…それをした所で、私に嘗て…人生を狂わされた人間に救いが有るわけでは無い…そして、その連中の痛みを…私は、今も理解出来ていない…それでも、こんな私でも…今は一線を越えず、踏み留まっていられるのは…やはり十秋の存在は大きい…そして、こんな私だからこそ…今は、出来る事も有る筈だ…
「貴女が十秋に、要らない負担を掛けた事…それを、私は許す事は出来ません。」
「ええ、そうよね…」
「ただ、十秋には言えない言葉を貴女に贈る事は出来ます…」
「何かしら?」
「…貴女の"ソレ"は、あくまでも仕事として…これから先も必ず、死ぬまでやり通してください…嘗ての私の様に、自分を満たす為にやってはいけない…これから先、何が起ころうとも…貴女は、その場所に踏み留まっていてください…例え、どれだけ辛くてもです。」
「…それをやったら、貴女の様に自分を一生許せなくなるから?」
「ええ…貴女のそれはあくまで"仕事"で、"必要"だから…関係者には話せるし、中にはソレに苦しむ貴女を癒そうとする人間も…これから先、十秋以外にも多く…現れる事でしょう…ただ、私の様に…"自分の為"に、ソレをやったのなら…二度と、ソレに許しや…癒しを求める資格は無くなります…一生、一人で背負う事になります…」
「…貴女は今も、一人で…贖罪を続けているの?」
「そんな大層なものじゃ有りません。自分を責め続ける事…その上で、それを人に悟らせない様に隠し続ける事…当時きちんと罰せられていたなら、まだ気も楽だったでしょうが…私は、結局その機会をも失いました…やられた相手は今も生きているとは言え、今更…償う事も出来無い…仮に機会が与えられたとしても、もうそれをするわけにも行かない…それはただ、私が許されたいが為にやる事でしか無いからです…ならばせめて、その分多くの人間を助けようと…色々と、やってはみました…ただ、その行為にもそもそも意味は無い…何故なら、それは…人として当たり前の事をやってるだけだからです…犯した罪は、過去は…一生、消えません…何をしようとも…当時の私は、それが分かっていなかった…そして今も、私は…いつも一線を越えない様、必死で耐えているんです…いつ、また同じ事をしてしまうかと怯えながら…浅ましい限りです…人の痛みはてんで分からない癖に、自分が傷付くのは…執拗に、恐れている…こんな醜い人間に、進んでなる必要は無い…だから、貴女にはこちら側へ来て欲しくない。」
「…肝に銘じるわ…でも、箒ちゃん?貴女は、辛くないの?」
「…ふぅ…さぁ、どうでしょうかね…」
「そこで隠すのね…踏み込むには、好感度が足りないってヤツかしら?」
「ま、そうですね…ちなみに、私が当時やった事は…十秋は知りません…アイツには、これからも知って欲しくないと思っています…勝手な話ですが。」
「…その言い方だと、一夏君は知ってるのね…ありがとう、私の為に言ってくれたのね?」
「…まぁ、十秋にはもう…縋って欲しくないので。」
「本当にあの子を、大事に思ってるのね…」
「嘗てこんな私を、何も知らなくても救ってくれた大馬鹿な…それでも、大切な親友ですからね…」
「…分かってる、これから先…私とあの子の関係がどうなるとしても、私ももう…あの子に、何も背負って欲しくないから。」
「さすがにもう時間が無いわね…続きは放課後でも良い?今日は早く戻れるとは思うから。」
「では、夜食を用意して待つことにしましょう…どうせ、夕食を抜くのでしょう?」
「…あー…どうしても忙しいとね…十秋ちゃんにも時々言われるし、どうにかしたいんだけど…中々ね…箒ちゃん?十秋ちゃんや一夏君にも、実はコレは言ってるんだけど…生徒会の仕事に、興味は無い?」
「…それも良いですかね「誘っといてなんだけど…貴女、剣道部の見学してたんじゃなかった?」…何故…ああ、生徒会なら情報は入りますか。」
「まぁね…この学園の場合、全部そう言うの…教師の所で止まらずに生徒会に丸投げだから…で、剣道部には入らないの?」
「つい、懐かしさから覗いてしまいましたが…その気は有りません…今まで通って来た多くの学校でも、所属した事は無いです…まぁ、仲が良くなった相手にある程度身に付けている事をうっかり漏らした所為で…気付いたら大会に出る事になり、それなりの結果も残せましたが…だからこそ私には、その気は無い。」
「アレは、普通に誇るべき結果だと思うけど…どうして?」
「私には結局、技術も何も無く…ただ、力任せに剣を振るう事しか出来無いのだと…その事実を、改めて突き付けられてしまったからですね…やはり私は、剣を持つべきでは無かったのだと思っています…それでも、完全に辞める事も出来無かったのですが…」
「ウチでなら良いかもって?」
「技術が全く身に付いて無いとも言いませんが…私は、試合では使えない様なので…なら、それも良いかと…この国を守る為なら、忌むべきものでしか無い筈の暴力を使える…それも、一つの贖罪になるかと…こんな動機は、不純ですか?」
「…いいえ。ウチにも普通の社会では到底生きられない人たちが所属してるしね…けど、貴女に一つ…言っておくわ。」
「何でしょう?」
「…貴女は、贖罪と…親友の為に力を振るうつもりなんでしょう?…なら、感情の無い暴力装置になろうとするのは駄目…そんなのは私は認めないし、させる気も無い…将来ウチに来るつもりが有るなら、それを覚えておいて…言ったでしょ?貴女の"力"を間違った方向に使わせるつもりは無い。」
「…ええ、分かっています…」
「…ふぅ…って、もう本当に時間が無いじゃない…急ぎましょ?二人とも遅刻するわ。」
「ええ、準備はもう出来てますし…さっさと出ましょうか。」
二人で慌ただしく、部屋を出る…走りたいが、それをやると何処からともなく千冬さんが現れそうだな…ま、仕方無い。
「…んっ…!アンタ、そんなにあたしの胸が好き?飽きないの?」
「うん…ずっと、吸ってたい…凄く、落ち着くの…んっ…」
「っ!だから!それはもう千冬さんに頼みなさいって、言ってんでしょうが…そろそろ限界なんだけど!?」
「…私、ずっと鈴のおっぱい吸ってたい…駄目…?」
「おっぱい言うな!てか、千冬さんの方がデカいでしょうに…うっ!?…アンタねぇ、噛むなって言ってんでしょうが!?」
「…ちゅっ…んっ…甘噛みも駄目…?」
「駄目!…だって、それやられると…またイキそうになるから…」
「…おっぱいはもう良い?じゃあ、下は?」
「じゃあってアンタねぇ…毎回こっちがイッても、いつもお構い無しに舐め続けるでしょ?…お陰で、何回もトイレ行く羽目になってんのよあたしは!?そろそろ一回休ませて!」
「うー…分かった、じゃあ一旦休憩……鈴のだったら、一回飲んでみたいのに…」
「聞こえてるわよ?…ハァ…そう言うプレイも千冬さんに頼めば良いじゃない…ま、あの人もさすがに嫌がると思うけど…てか、こっちには舐めたいとか言いながら…自分はソコ、舐められるの嫌がるの…何なの?」
「うー…だってそれは、私のは汚いけど鈴のは絶対綺麗だから…」
「口尖らせながらアホな事言ってんじゃないわよ…そんなの、あたしだって同じよ…何なら、千冬さんや例の刀奈って奴もそうよ。」
「それは絶対に無い。」
「何を真顔で言ってんのよアンタは…ハァ…だから、一々自分を卑下するなって何回も言ってんでしょ…てか、自分のは汚いってアンタ…千冬さんがアンタを本当に好きだったらどうするわけ?当然、舐められるのよ?」
「大丈夫。もしそうだったらちゃんとアルコール消毒を「炎症起こすからやめなさい?やるにしても、普通に洗うだけにしときなさい」…だって、それだけだったら…」
「あのねぇ…大なり小なり、そこは皆…ある程度汚れてるもんなの。普通に洗った所で不十分…確かにそう思うのも分からなくは無いけど…でも、変に徹底しても意味は無い。ましてや、あたしたちの歳だとどうしても…新陳代謝が激しくなりやすい…だから、男女問わずあたしたちの歳の頃だと日々そこはとにかく汚れるのは当たり前…何なら、それがある程度落ち着く大人だってそれなりに汚れるわ…でも、それでもね…その人を本当に好きだから、それでもソコを味わいたいってなるのが普通なの…それだけ、その人を愛しているから…普通そうしたくなるもんなの…こんなの、異性に限らず…同性同士のカップルでも普通の話よ…それが嫌だって言うなら、そもそも関係を持つ必要自体が無い。アンタ、千冬さんと"こう言う事"…したいんじゃないの?」
「それは…したい、けど…」
「だったらアホな事言わない…最低限綺麗にしてれば、それで良いの…そもそも、洗った所でソコは行為の最中にだって、いくらでも汚れるの…変に徹底しても無駄よ…そもそも、消毒用アルコールは飲用禁止。濃度は大抵普通の飲用可能なアルコールより遥かに高いし、加えてそもそも…飲めない様に消化器官や肝臓に有害な添加物を敢えて含んでるパターンが多いの…コレは酒税を掛けられるのを回避して、安価に販売する為って理由も有るわね…てか、こんなの常識なんだけど…アンタ、千冬さんを病気にさせたいの?正直、それなら身体を三日洗ってない程度の方が…まだ、軽くお腹壊す程度で済むわよ?何なら消毒用アルコールは物によっては、工業用アルコールのメタノールが含まれてる場合も有るわ…言っとくけど、メタノールが体内に入ると失明の可能性も有る…ハァ…それでも、アンタはさっき言ったのと同じ事を言うつもり?」
「う…それは知らなかった…」
「メタノール…昔はメチルアルコールと呼ばれたアレについては、今となっては知らない人はまるで知らないからね…とは言え、消毒用アルコールはそもそも飲めないってのは…さっきも言った様に常識よ?」
「ちなみに、失明って本当?」
「…ふぅ…まぁ、そうね…アンタも今世ではこの日本と言う国で生まれた人間だし、知っておくべきかしらね…所謂終戦後、この国は多くの物資が不足してたってのはさすがに知ってるわよね?」
「うん、それは学校でも習ったし…知ってるよ。」
「…そう、でも…コレは知らない様ね…物資が不足し、あの頃の日本人は皆心も荒みきってたそうよ…子供よりも、大人がね…で、今の時代に生きる大人なら…ストレス解消の手段って言えば、大抵はお酒を飲んだりするわよね?アンタも、前世ではこの国の人間じゃなかったけど…社会人やってたなら、飲酒の経験は有るんじゃない?」
「…まぁ、それは…有るよ。」
「…そうよね、で…あの頃の日本人も、逃げれるなら酒に逃げたかった…でも、物資は不足し…普通に飲用エタノール…飲用可能な、アルコールもほとんど残ってなかった…でも、その頃…救世主とも言える超安価なお酒が出回ったの…それが通称"バクダン"…多くの人がコレに手を出して…そして、最期は中毒で亡くなり…生き残った人も失明を含む、多くの障害に苦しむ事になった…コレが何だったのか、もうアンタには分かるわよね?」
「それが、メチルアルコール?」
「…上手い事やって、何とか中毒症状を起こすメタノールを取り除いて飲用可能にしようとしたけど、結局…完全には取り除けなかった…アウトなのに、誰も最初は気付かなかったのよ…薄めてる所為で、すぐに中毒症状が出なかったからね…ま、話が逸れたけど…生殖器のアルコール消毒は絶対やめなさい…アンタのソコも恐らく大変な事になるだろうけど…一番大変なのは、それを体内に入れる事になる千冬さんよ…てか、色々とどうでも良い知識持ってたアンタが…コレを知らないとはね…」
「んー…まぁ、忘れてただけなのかも知れないけど…」
「…ま、とにかく…だったら覚え直した方が…いや、今言った事についてはそこまで必要な知識って訳でもないし…別に無理に覚えてなくても良いけど、消毒用アルコールで生殖器の消毒は絶対に厳禁。コレだけは、とにかく何が何でも覚えなさい…と言うか、普通の人はやろうとも思わないんだけど…てか、もう一つ言っておくけど…僅かに尿が人の体内に入ったからって…その尿を出した人がよっぽど重篤な健康障害起こしてるとかでも無い限り、いきなり摂取した人が身体壊すとかもほぼ無いから大丈夫よ…てか、アンタの場合…あたしが嫌がっても…毎回あたしがトイレから戻った直後に、平気でベロベロ…舐めてるでしょ?」
「だって、鈴のは汚くな「うん!今まで言ってた事が全然理解出来てないのは分かったわ!もう殴るから、痛みと共に刻みなさい!」はーい♪」
「っ!?平気で頭差し出してくんじゃないわよ!?」
「いや、だって…殴るって言うから「抵抗しろって言ってんの!てか、殴られなくても初めからちゃんと覚えろ!」痛っ!……鈴?」
「…何よ?」
「…何か覚えられそうに無いから、もう何発か「誰がやるか!何で癖になってんのよ!?」いや、あの…何か鈴に殴られるのって、お母さんに怒られてるみたいな気分になって嬉しいから…」
「誰がアンタの母親か!?そう言うプレイも千冬さんにお願いしろ!」
「…だって、それは…恥ずかしいし…」
「モジモジするな!何であたしなら良いのよ!?…ハァ…疲れる…もう勘弁してよ、本当に…てか、そんだけ元気なら…もうあたしがアンタの為に頑張る必要無くない…?」
「やだ…もう鈴が居てくれないと、私…寝る事も出来無いもん…」
「だからあたしじゃなくて、千冬さんに言いなさいよ…もうすぐここ出るのよ、あたし…」
既に、あたしがここに来て六日目の夜を迎えている…離人症の症状そのものは、あたしの見た感じ…ほぼ無くなった様に思えるし…コイツも、あたしの知る十秋にだいぶ戻りつつ有る様には見える…初日のあの状態からここまでになったんだから、あたしも凄いと言うか…いや、コイツからあたしへの…特に胸への執着が凄まじいって言った方が良いのかしらね…とは言え、寝付いたと思えば…気付けば無意識状態のコイツに吸われてて、それであたしも起こされるとかやってるから…体力的には本当にもう限界…まぁ、ちゃんと終わりが見えて来てるなら…あたしも、もう少し…報われた気分でいられるんだけど…コイツ今も明らかに、あたしにバリバリ依存してるのよね…あたしが居なくなったらまた元に戻りそうで、怖いのよ…
「お願いだから、アンタももう少し頑張って…ちゃんと元気になったら…千冬さんに、また会えるのよ…?」
「…でも、今は鈴から離れたくない…」
「アンタが欲しいのはあたしじゃなくて、胸でしょ?千冬さんのでも良いじゃない…」
まぁ、ここまで言って…実は千冬さんにはその気が無かったとかなったら、あたしももう…どうしようも無いんだけど…
「違うよ、鈴のおっぱいだから良いの…こうして、顔埋めてるだけでも落ち着くから…」
「…ハァ…仮に千冬さんにその気が無くても…あの人なら、それくらいは許してくれると思うわよ?」
あたしが織斑家に行ってた頃…中学の頃はもう泊まる事こそ無かったけど、その頃でも暇さえ有れば…あの人は、十秋に愛情重めのスキンシップをそれなりに頻繁に掛けてたのを…あたしはちゃんと覚えてる…エッチをしたいとは思ってなくても、時々…母親にするみたいに甘えたいと、十秋からそう頼まれたとしても…多分、決して嫌だとは言わないと思う。
「…でも、そうならなかったら…」
「それは絶対無いだろうから安心しなさい…ま、その気が無くてもアンタが甘え続けていれば…勝手に、あの人も落ちるわよ。」
今のアンタは、いっそ何でも許したくなっちゃうくらい…こんなに、可愛いんだから。
「そうかなぁ…」
「そうよ「でも、今は鈴に甘えてて良いかな…?」…今のアンタの場合、"甘えたい"じゃなくて…"溺れたい"の間違いの様な気もするけど…ま、良いわよ…あたしがこの家に居る間は、そうさせてあげる…」
「…じゃあ、そろそろまたした「うん、それは良いんだけど…そろそろ、ご飯食べて良いかしら?もう夜遅くなってるんだけど」…私は、今は鈴の事が食べたい…」
「あたしを食べても、心は満たされるかも知れないけど…お腹は満たされないでしょ?」
「…えっと…おしっこ飲ませてくれたら、喉の乾きは「飲むなら普通に水かお茶にして…あたしは嫌よ、そんなの」え~…!?」
「パートナーが嫌がってたら、引くのも大事なの…ちなみに、あたしは何回頼まれても嫌よ…まぁ、千冬さん相手なら…ずっと頼み続けるのもアリかもしれないけど…」
ごめんなさい、千冬さん…あたし、そう言うの…本当に嫌なんです…そう言うのは、もう貴女に任せます…
「姉さんには、頼めないかなぁ…嫌われたら嫌だし…」
「うん、あたしも嫌だから…いい加減諦めてくんない?」
「え~…!?」
「…アンタねぇ…あたしがずっと我慢出来ると思ったら、大間違いよ?」
「…私を嫌いになる?…なら、ないで…許して…」
「…ハァ…嫌いにならないから、安心しなさい…でも、あんまりしつこく言うなら…もうこの時間も終わり。」
「それも嫌ぁ…!」
「ワガママ言わない…てか、あたし好きな奴居るんだけど…こんな頼み、そいつの口から出て来たら本気で殴ってるわよ…」
「…私は、良いの?」
「言われるだけなら、ね…「なら、聞いてくれても…一回だけで良いのに」…多分、一回で済まないと思うから…こっちは、余計嫌なのよ…」
いい加減理解しなさいよ…これだけ執着されてるんだから、こっちは…そうとしか思えないのよ…
「うー…どうしても、駄目…?」
「駄目。」
「…ハァ…分かった、もう諦めるよ…あ、でも代わりと言ったら何なんだけど…」
「何よ?」
「…その、ここを出る時に使用済みの下着を一枚置いて行って欲し「あのねぇ…嫌に決まってるし、そもそもそんな物…無いわよ」え?」
「あたし、もうずっと服も着てなければ…下着も着けてないんだから、初めからそんな物…有るわけないじゃない。」
「じゃあ今からでも着て欲「嫌よ、置いて行くのも嫌だし…てか、どうせすぐ脱ぐんだから意味無いでしょ?」…じゃ、じゃあ…元々は着てたよね!?そっちは!?」
「…ハァ…アンタが寝てる間にとっくに洗濯して…干して、乾いたから…もう荷物の中よ。」
「うー…鈴の匂いが無いと寝れない…」
「だから、早く学園に戻って…千冬さんにでも頼みなさい。」
「姉さんには、頼め「いい加減にしなさいよアンタ!?何で!あたしなら良いのよ!?」鈴なら優しいから許してくれ…痛っ!?殴るなら先に言ってよ!?感触をちゃんと味わ「キモイわよ!?何でそれで興奮すんのよ!?」鈴に殴られるのは、ちょっと良いなって…」
「もうそれも千冬さんに頼みなさい!」
「え~…姉さんのだと興奮してる余裕も「手が痛くなって来たし、次は物で殴るけど…それで良いかしら?」…それは、嫌かな…ごめん…」
「…ハァ…とにかく居間に行くわよ、あたし…もうペコペコなのよ…」
「…その、無理させて…ごめん…」
「ホントよ…」
ま、これだけ色々やられても今更コイツを嫌いにもなれないし…あたしも本当に、甘いわよね…