あれから一夜明けて…私はあの空間まで戻って来ていた…
「…で、■ちゃん…本当にやるの?」
「いや、だって…理論武装した上で挑まれたら断るのも…ね?」
「あれが理論武装かぁ…結局■ちゃんが戦いたいだけじゃない?」
「……まさか。勝てる訳無いし…まぁ、軽く流すだけなら良いかなって思っただけ。本番はまだ先だし、どれくらい差が有るのか確認しておきたいなって…ま、とにかく行ってくるよ……データ取り、お願い出来る?」
「了解…ちーちゃんの場合、正確なデーター取るの難しいけど…何とかやってみるよ…頑張ってね、■ちゃん。」
「うん。じゃ、後でね…」
……さてと、私はどこまで千冬に通用するのかな…
『嘘つき…本当は負ける気なんて無い癖に…素直じゃないんだから…』
「まさかこんなに早く…お前と戦えるとはな。」
既にIS「暮桜」を纏った千冬が獰猛な笑みを浮かべて私を見る…かなりの圧を向けられてるのに、カッコイイ…とか、綺麗…みたいな感想が先に浮かぶ私はもう色々とダメなんだろうな、と思う……それはさておき、ね…私は一度頭を振って煩悩を振り払ってから、早くもヒートアップしそうな千冬に声を掛ける。
「いや、あくまでコレは模擬戦だからね?あんまり本気ではやって来ないでよ?このISだってまだ試作品なんだから…」
それにしても…一夏君の事が有ったとは言え、千冬に連絡したのは私だけど…まさか残るって言われるとは思わなかった…仕事じゃなかったの?……まぁ、急遽休みを取ったんだろうけどさ…ま、今言っても仕方無いか…
「もちろん私はそのつもりだとも。…だが、お前はそれで満足するのか?」
「……」
痛い所を突かれて押し黙る…そうだね、今ここに至って本当に浮かれてるのは実は私の方…勝てないって分かっててもこうして実際に場を与えられたら…抑えが効かなくなるのは結局…私の方。
「ふふ…良い顔になった…私としては普段の姿より…今のお前の方が好きだぞ?」
平時なら狼狽えてるだろうそれは…私にとって完全な殺し文句…でも、今はそれすら発奮材料…今はただ、目の前の彼女と戦うのに心血を注ぎたい…勝てる勝てないじゃない…ただ、私は彼女と戦いたい…全力で。
「そんなに私を煽って…どうなっても知らないからね…?」
「構わないさ…何だかんだまだ、私もお前の本気を見た事が無い…全力で来ると良い…私が全て受け止めてやるさ。」
本当、カッコイイなぁ…同性で有るとか以前に…とんでもない人を好きになっちゃったよ、もう…
「そろそろ、始めようか?」
「いつでも良いぞ。」
余裕ぶってる千冬…もちろん、私を侮ってるんじゃなく、驕ってる訳でもなくて全ては積み重ねた物から来る自信なのは分かってる…でも、たまには彼女が本気で凹む姿もちょっと見てみたい…
……まぁ千冬はああ見えて、苦手分野は凄く多いから全く見た事無い訳じゃないけど…彼女が自分の得意な物で顔を苦痛に歪めるのは見た事が無いから、一度くらいは見てみたい…且つ…それが私によって引き起こされた結果なら…それはきっと何にも変え難い興奮となるだろう…あ、駄目…顔がニヤけるの…止められないや…ふふ…困ったなぁ…
「じゃ、行くよ?」
「ああ…おっと。」
拡張領域から自分の得物を取り出し…千冬の了承の言葉が終わる直前にもう私は飛び出していた…瞬時加速<イグニッション・ブースト>なんて大層な名前の付いてるそれは…ISに付いてるスラスターを一気に吹かせる…要は推進力に物を言わせた高速移動テクニック…ただ、基本的に一度方向を定めたら他の方向には進めず一方通行…使い勝手が良いかは微妙…でも、ISを使っての試合なら必須の技術でも有る…
「…剣を腰だめに構え、相手の正面まで一気に距離を詰めての斬り上げ…前に来てから剣を振り上げるまでのタイムラグもほとんど無い……もし相手が私で無ければ、一撃は当てれたかもな…」
「もちろん躱されると思ってたよ…!」
下から振り上げた剣は後ろに下がった千冬に躱される…けど、まだ終わりじゃない!
「っ!?」
「ハァァァ…!」
剣の柄部分の排出口から吐き出される推進剤…それに押し出される様にして、前に出た勢いに逆らわず、私は振り上げていた剣の向きを変え、そのまま振り下ろす!
「クッ…!」
「んぎぎぎ…!」
受け太刀されたが関係無い…このまま押し込むだけ!……いや…女性に有るまじき声を上げている自覚は有るけど…千冬相手にそんなの気にしてられないし。いっそこのまま千冬の持つ剣…「雪片」をへし折りでもしないかな、とは思ってたりする…
「っ…このまま力比べも悪くないんだがな…」
「っ!逃げるの!?もう少し付き合ってくれると、私は嬉しいんだけど!?」
「グッ…ここで終わったら、勿体無いと思わないか…?」
「思わないかな!このまま押し込んだら私の勝ちは確定したも同然だしね!」
「それは生憎だな…私はもう少し、続けたい所なんでな…」
「うわっ!?」
急にフッと…押し込んだ先の障害物が消えて、剣が床まで落ちる…あの状況で後ろに下がられた…!?
「……一度仕切り直しにする、と言うのはどうだ?」
「……そうしようか。」
いつの間にか距離を詰められていて、私の首に当てられた「雪片」…うん、コレは文句無しに私の敗北かな…一応シールドエネルギーがゼロにならない限り私の負けじゃないけど…私の使ってる武器の都合上、懐に入られたらひっくり返すのは難しいんだよね……それにしても、初見だから今の通用したけど…もう一回やったら勝てる気はしないなぁ…
「で…それはひょっとして野太刀か…?また極端な武器を選んだ物だな…」
そう、私は束に武装は剣…それも長大な野太刀を頼んだ…刀身自体もかなり分厚めにして貰ってる…
「一応大会の映像見直したら、皆銃を選んで千冬のスピードを追い切れずに敗北してるからね…なら、私が選ぶのは剣…それも千冬の間合いの外から攻撃出来る長さで、千冬の斬撃を受け止めてこちらから押し込む事が出来る様に…刀身も厚めの奴にして貰ったの。」
厚みが有る以上…多少無茶な事をしても折れにくい、と言う目論見も有る…
「更に推進剤による加速か…完全に私対策だな。」
千冬は一太刀で勝負を決めようとするから、土壇場ではコレは有効な武器になると思ったのは確かだけどね…ただ…
「そこは別に千冬に限った話じゃないけどね…その気になれば、案外…IS本体のスラスターより方向調整しやすいかなって…」
「…瞬時加速は一度使うとその場でもう一度使うのは難しいからな…続けて移動出来るなら確かに相手の不意を突けるかもな…ただ、私でなくてもさすがに大会に出る様な連中なら…すぐに対応して来ると思うぞ?」
「そこは束にも言われたよ…」
まぁ、千冬程綺麗に破る相手はさすがにそう居ないかも知れないけど…正直これなら他の人にも負けそう…要改良、だね…
「問題はまだ有るぞ?」
「何かな?」
「……そんなバカデカい剣振り回してたら、ISの方が先にイカれる…」
「あー…」
まぁ実を言うと今…この剣、持ち上がらないんだよね…多分、関節部分が死んだのかな…
「ところで、お前の腕の方は大丈夫か?」
「えっと… 」
私は千冬から目を逸らす…実はさっきから腕の違和感が凄い…一応ISを纏ってたのに、ここまで影響が出るなんて…
「……正直に答えろ。」
「……別に痛くはないけど、痺れが抜けないかな…」
「……この戦法は使えないな…」
「いや、それはほら…改良次第で『■ちゃん、束さんにも無理な事は有るよ』やっぱりダメ?」
エコーの掛かった束の声が聞こえる…
『取り敢えず腕は動く?なら早くISを解除して。』
「分かったよ…」
ハァ…別の方法を考えないと駄目か…まぁ、本番前に欠点が分かって良かったかな…