結局の所、千冬の様子が可笑しかった原因は…何て事は無い(って言ったら失礼だろうけど…)仕事上の鬱憤が溜まりに溜まってたからだった…思いの外ハイペースで飲んでたし、千冬は元々かなりお酒が強いとは言え…途中から目付きも怪しくなってたから、他の理由が有るって事は無いと思う…(重い話とかじゃなくて良かった…)
まぁ千冬はモンド・グロッソ初代優勝者としての知名度は高いけど…聞けばバイト仲間以外、外部からの人間は千冬の正体に気付いた様子は無いとの事だから適当な扱いを受けるのは仕方無いのかな…(女尊男卑が蔓延しても、バイトの地位が低いのは昔とあまり変わらない…)
普通の仕事してれば状況も違うんだろうけど、完全に国の代表扱いになった今だと…肝心な時に抜けられないせいで普通の就職が出来無いだろうから、普段はバイトで食い繋ぐ事しか出来無い(囲っておきたいなら、もっと国の方でお金出せば良いのに…)
……まぁ、とかそんな感じで…今思い起こしてるのは実は既に二時間ほど前の出来事で…私がしてるのは現実逃避だったり…
「ほら、千冬…こんな所で寝てたら風邪ひくよ?」
「……」
「駄目か…」
疲れたからなのか、それともハイペースで飲んだからなのか…千冬は完全に酔い潰れて寝てしまった…仮にこのまま放っておいても千冬の場合…そこまで体調を崩す事は無いと思うけど…ちゃぶ台に突っ伏したまま寝てるし、身体は痛めそう…それに…
「っ…ヤバッ…」
こうも無防備な寝顔見せられると、さすがに私の方がもたない…
「私が寝るのはこの部屋で良いとして、千冬を部屋まで運ぶしかないね…」
……寝顔もそうだけど…これ以上千冬の傍に居ると、お酒の匂いに仄かに混じる…千冬から漂う体臭で変な気分になりそう…
「千冬?一旦寝かすよ?」
「……」
寝息以外の返事は無し、私は千冬の腰の辺りに手を入れて引っ張って後ろに寝かせる…
「ふぅ…」
一息吐いてから運ぼうとして気付く…先に部屋に布団敷かないと駄目だね…
「ふわぁ……あ、■■さん…来てたのか。」
声が聞こえてそちらを見れば、部屋の入り口にパジャマ姿の一夏君が立っている…
「こんばんは、一夏君…ごめんね、起こしちゃった?」
「いや、俺はトイレに起きただけだよ……千冬姉、寝ちゃったのか。」
「そうなんだよね…取り敢えずこれから部屋に運ぼうと思って……あ、悪いんだけど…ちょっと頼んで良い?」
「何?」
「…千冬の部屋に布団敷いてくれない?私は千冬をこれから運ぶから。」
「了解。千冬姉の事頼むな?」
「ごめんね、何か埋め合わせはするから…」
「別に良いって…じゃあ、布団敷いたら俺はまた寝るから…」
「うん、おやすみ。」
「おやすみ■■さん。」
一夏君が部屋を出て行く…
「さて、と…」
私は千冬の傍にしゃがむ……う…また千冬の匂いが…
「早い所運んじゃわないと…」
このままだと襲ってしまいそう…私は千冬の上半身を起こして背中に手を置き、足を持ち上げる…
「よい、しょっと……わわ…」
思ってたより重みが有って、一瞬バランスを崩しそうになる…こりゃ集中しないと駄目だね…と言っても…
「うう…千冬の顔が近い…」
少しでも顔を下に向けたら、千冬の顔がすぐそこに有るんだよね…さっさと運ぼう…
「ハァ…やっと着いた…」
千冬を布団の上に寝かせて、その場で溜め息を吐く……本来なら悪くても数分で済むのに…倍以上に時間が掛かった気がする…
「全く…振り回してくれるよね…」
束みたいにあからさまに破天荒って訳じゃないけど…私はこうやって昔から千冬の言動、行動に悩まされてる気がする…ま、結局は私が勝手に一喜一憂してるだけかも知れないけど……そんな事を考えながら、退けていた掛け布団を千冬の身体に掛ける…
「おやすみ、千冬。」
千冬の部屋の押し入れから毛布と枕を借りて行こう…そう思って立ち上がろうとしたら…
「千冬?」
私の手はいつの間にか布団から伸びていた千冬の手に掴まれていた…声を掛けたけど返事は返って来ないし、寝惚けて掴んだのかな?それ程力は入ってないし、外そうと思えば外せるけど…
「しょうがないなぁ…」
どう見ても寝てるのに、千冬の顔は笑みを浮かべていた…そんな顔されたら…どうしようも無いじゃない…
「ふふ…おやすみ、千冬…」
私はもう一度千冬に声を掛けてからその場に横になり、目を閉じた。