「ところで、千冬はどうして私の部屋に来るの?」
「何だ…私が居ては邪魔か?」
「いや、そんな事無いけど…」
今居るのは例の空間内に有る束のラボ…その中に有る私が利用する部屋…例の一週間、ISの操縦の練習をした時も(まぁあの時は結局途中で帰る羽目になったけど)土日を使って練習する時も私はこの部屋を使わせて貰っている…で…そろそろ寝ようか、みたいな話をしてたのに何故か千冬は私の部屋までついて来た……明後日にはもう私たちはIS強化合宿入って、それが終わるまでは一夏君としばらく会えなくなるのに…
まぁ、嬉しくないって言えば嘘にはなるけど。
「…一夏君と居なくて良いの?」
「まだ明日が有るし、寝る時は一夏の居る部屋に行くしな…何より一夏の方から『合宿中にまともに話す暇有るか分からないから■■さんと会話しとけよ』…と、言われてな。」
一応、一夏君には私の気持ちはバレてるからね…と言っても…そこまで気使わなくても良いんだけど…ちなみに一夏君も今日ここに来ていて、隣の部屋に居る…土日私がここに来る様になって…千冬も時々来る様になったけど…一夏君を一人には出来無いからね、自然とこう言う形になった。
「さて…明後日からはお前も特別枠とは言え、こうして選手扱いで合宿に向かう事になるわけだが…どうだ、感想は?」
……ニヤニヤしてるね、千冬…
「前にも言ったように、千冬と戦うのを今更拒否する気は無いけど…立場に関してはまだ実感が湧かないかな…」
「一応お前はシード枠だ…さすがにパス出来るのは初日の試合のみになったが…」
「そもそもそれが可笑しいんだけどね、だっていくら千冬の紹介でも…私は完全に無名なんだけど…」
「私としては、実力の有るお前をこのまま無名の扱いにしておくのは勿体無いと思ってるからな…」
「…って、言うけど…千冬も別に自分の事を誇った事無いじゃない…」
まぁ…千冬に着いてる女性ファンの多くは最早崇拝の域に達してるから…正体がバレると日常生活もまともに送れないだろうけど。
「当然だな、格下に勝っても自慢にはならんからな。」
うわ…そう言い切っちゃいますか…一応第一回の出場者も各国の代表たちなんだけど…確かに全然相手になって無かったけどさ…
「…そもそも正体に気付かれると面倒だからな…と言うか無理矢理出させて何だが、お前もこれからは他人事じゃないぞ?」
「あー…やっぱり?」
「ああ。間違い無くお前と私は決勝で当たるだろうからな…おっと、手は抜くなよ?」
「ハァ……大丈夫、ここまで来て今更手は抜かないよ。」
と言うか…手加減して他の出場者に勝つ余裕、多分無いだろうし…
「今からでも束に変装させて…って頼もうかな…」
「それは駄目だな。」
「何で?」
「お前はせっかく綺麗なんだから、隠すのも何だろう?」
「……千冬が…それ言うの?」
千冬にジト目を向けつつ…多分、顔が赤くなってる自覚は有る…不意打ちで褒めるの止めて欲しい…と言うか、絶対千冬の方が正統派大和撫子って感じで綺麗なのに…
「言うさ、間違い無くお前は綺麗だ。」
「止めてよ、もう…」
「そう言えば…容姿の話で思い出したんだが、良いか?」
「何?」
「…お前は日本人の母親とフランス人の父親とのハーフだった筈だが…フランスの女性は多くの場合、茶髪が多いと聞いたんだが…お前のその髪、地毛だよな?」
「あれ?話した事無かったっけ?」
千冬とは長い付き合いだし、話したとばかり思ってたんだけど…
「ああ…いや、もちろん言いたくないなら別に良いんだが…」
あー…気にはするよねぇ…そもそもフランス人の男性は多くの場合黒髪で、当然父さんも兄さんも黒髪…何なら母さんだって普通に日本人らしい黒髪で私だけ鮮やかな金色の髪…仮にフランスの血が色濃く出たとしてもフランスの女性は栗色…まぁ多くの場合薄い茶色の髪になるし…と言っても、種明かしするとそう大した理由でも無かったりするんだけど。
「いや、別に話しても良いよ。えっと…私も詳しくは知らないんだけど…何でも私って、一種の先祖返りみたいな物らしいんだよね…」
「先祖返り?」
「正直、先祖って程昔の人じゃないけど…父さんのお母さん、つまり私の祖母…と言ってももう病気で亡くなっちゃってるし、私も会った事無いから詳しく無いんだけど…その人は実はイギリス人で、ブロンドの髪色だったらしいの。」
「つまり…元々お前の親父さんもフランスとイギリスのハーフで、そこから日本人のお袋さんと結婚してお前が産まれて…お前は何故か二人の方では無く、お祖母様の特徴を受け継いだと?」
「そういう事。私も最初は悩んで、父さんに聞いたら写真見せてくれてさ…写っていたおばあちゃんはもう白髪が結構混じってたけど…金色の名残は残ってたから、間違い無いと思う。」
「そうだったのか…」
「いや、あの…千冬?私はおばあちゃんに会った事も無いから、しんみりされても困るんだけど…」
とは言え、後で兄さんに…『仮に向こうにお前が住んでれば、小さい頃に会う事は出来ただろうな…』とは言われたから少し複雑では有るんだけど…ちなみに兄さんは記憶に有る限り、数回会った事が有るんだとか…
「いや…これは私の性分みたいな物だから気にするな…とにかく、お前は綺麗なんだから隠すのも勿体無いとだな…!」
椅子に座っていた千冬がベッドに座っていた私の方まで身を乗り出し、顔を近付けて来る…ちょ、近い!近い!
「分かった!分かったからそんなに熱弁振るわなくても…と言うか近いってば!」
「すっ、すまん…」
「もう…どうしたの?緊張でもしてる?一応本番までまだ一ヶ月有るよ?」
大体、千冬はもう二度目なのに…
「そう言う訳では無いんだが…何と言うか、気が逸ってしまってな…自分で思ってるより、本気のお前と戦うのが楽しみだったのかも知れんな…」
そう言って俯く千冬が何となく小さくなった様に見える…やれやれ、しょうがないなぁ…私はさっきから手に持っていたカップに残っていたコーヒーを飲み干す…
「…ふぅ。戻ってもう一試合でもする?そんな状態じゃ、寝れないでしょ?」
「いや、しかし…良いのか…?」
「良いよ…あ、一応機材の使い方は束に聞いてるから私も使えるし、この後戻ってもすぐ試合出来るよ。」
束はもう寝ちゃったから、起こすの可哀想だしね…まぁ私も、本当はもう眠いんだけど…後一試合くらいなら出来ると思うし…
試合場に向かう途中…
「あ…ところで変装したいと言ってたが、どっちにしろ多分無理だぞ?」
「え?」
「お前の話を通す時、お前の写真と…私たちが通っていた中学、高校に話を通して公式戦の記録を纏めて貰った物を向こうに送ってるからな。」
「え……わっ、私の写真勝手に送ったの!?」
「いくら優勝者の紹介でも…実力は元より、顔も分からない様な奴を選手として採用する訳が無いだろう?ちゃんと私と束、それにお前の三人で写った写真を送らせて貰った。」
「……」
「ま、だからな…そもそもお前の顔はもう向こうは知ってるし…先にそこまでした訳だから…」
「……つまり、私は初めから断れなかったって事…?」
「あくまで学生時代の話にはなるが、私と匹敵する実力だったと口添えもしてあるから、な…これで断る方が難しかったかもな…何せ、ISを扱った事こそ無くても公式の試合で私と互角だった美人女性剣士…最もそれは最初の私も同じだと言う事になってるし、話題性も十分だ。向こうも太鼓判を押していたぞ?ちなみにメディアには…私たちの合宿中にお前の事が放送される事になっているらしいな。」
「いやもう何してるの…本当に何してるの…いや…と言うか、もしかしてその言い方だと私…取材でもされるの…?何も聞いてないんだけど…?」
確か…最初の大会の時も合宿中の千冬に取材が来てた様な…
「ああ、その事なら私の方で話を止めて貰った…ま、私が許可を出せば問題無いとは言ってあるが。」
「……ねぇ、それって…私が槍を持って出るの不味いんじゃ…メディアにも私は…剣士として情報を先に渡すんだろうし…」
「いや、今回お前が槍を使う事は既に向こうには報告済みだ…良い対比になると寧ろ喜んでいたな。」
「えー…どっちにしろこれ、私負けたら恥掻くじゃない…」
「お前は追い込んだ方が本気になるだろう?」
言ってる事は分からなくもないけど、それはあまりにもズル過ぎる…