合宿所に来て六日目の夜…明日も含めて私たちには漸く来た自由時間となる…
……初回モンド・グロッソの反響が予想以上に凄く、まだスポーツ分野はオリンピックに力を入れたかった政府はその後の世論の反応をあまり考慮していなかったが故…いつも通りの感覚で開催されたオリンピックは例年に比べて明らかに注目度が低かった…
一年経っても世間の話題はまだモンド・グロッソ一色…テレビではいくつかの局は連日オリンピック中継をやっていたのに、多くはオリンピック期間中もずっとモンド・グロッソ関連の話題を放送していた…聞く所によると、一部の選手は家族ですら自分の活躍をろくに見ていなかったらしい…
それは必然的に選手のモチベーションを削ぐ原因にもなる…多くの国はすぐに方針転換し、ISの方に力を入れようと画策する中…日本を含めた一部の国の政府はまだオリンピック選手の育成に力を注ぎたがっていた…(日本に関しては嘗て戦後の復興の兆しの一つにもなってるから、仕方無いだろうけどね…)
とは言え、選手のやる気が出ない事に関してはどうしようも無い…しかし、あからさまに今以上に予算を投入して報奨金を増やせば…それは最早オリンピックそのものの理念にも反して来るし、下手をすると選手も含めて批判の的になる…(今はISの方に予算を当てろ、と言う世間様の本音も有るだろうけど)
なのでそれ以外の部分…例えば私たちも今居る合宿所内に娯楽施設を作ってみたり、寄付金としてチームに多額の投資をしたり…さすがに却下されたみたいだけど、報奨金以外にも何か賞品をメダル取得者に与えようとか考えたりもしたとか…
そんな感じで…突貫でああでも無い、こうでも無いとか色々やってる内に方針もろくに定まらないまま合宿所にはもう選手も入って来てしまい…とまぁ、そんなわちゃわちゃした状況で強引に捩じ込まれた私たちの合宿スケジュール…当然、無理は有る訳で…
「しかし…休みを貰っても出来る事は何も無いな…」
「合宿所内の施設はそもそも私たちの為の物じゃないからね、仕方無いよ。」
私たちがここを使用する一ヶ月間…せっかく作られたオリンピック選手の為に合宿所内に有る娯楽施設は全て稼働が止まってしまっている…要するに、私たちは…休みの日に出来る事は何も無い訳だ…
「いっそ練習でもしようと思ったら、肝心のISも出せんと来てるからな…」
「ISって要は機械だからね…そりゃメンテは要るでしょ…」
と言うか、千冬の話だと合宿中ISに触れて稼働時間を伸ばす練習メニューも含まれてるって聞いてたんだけど…実際スケジュールを見ればISを纏えるのは一日の内…せいぜい一時間程度の上、試合とかはさせて貰えない。それ以外は普通に筋トレや走り込みなどの生身での運動が主…まぁ今回は既に二回目の千冬と違い、ISに関してはド素人で、学生時代以来剣に触れるどころか…普通に社会人だったので激しい運動もしばらくしていない筈の私もいる事を考えたら、妥当な練習メニューを組んで来たとも言える……少なくとも前回の合宿で、同じく素人だった筈の千冬の練習メニューの大半がほぼ…IS一辺倒だった事を思えば遥かにマシとも言える…
とは言ってもだ…実際は千冬は最初からISに関しては実質素人じゃないし…元々身体能力自体、生身であっても千冬は常人を遥かに上回るから…今やってる筋トレや走り込み自体にはほとんど意味が無い…
そして私も…既にISはここに来る前に束のラボで何度も触って身体に馴染ませているし、もちろん通常の運動もした事で…幸い若いせいも有ってか、今は学生時代…ほぼ全盛期に迫るレベルの身体能力まで回復している…
元々肉体のポテンシャル自体は千冬程には無い私は、これ以上やっても無駄に疲労が溜まるだけで、それ程能力は上がらないだろう…
……早い話、今の練習は私と千冬にはまるで意味は無いから…千冬は余計に退屈なのだろうとは思う…なのでせめて、休日をどう過ごすかに興味は移る訳だけど…
「暇だ…!」
「それ、そろそろ人が寝ようかと思ってた所にいきなり部屋に乗り込んで来て…散々愚痴るからこうやってせめて、トランプに付き合ってる私の前で言っちゃう?」
「しかし、暇な物は暇なんだ……あ、上がりだな。」
「だから…目の前で私に連勝し続けてる千冬が、それ言うかなぁ…」
現在ババ抜き15戦目…千冬はある程度私の表情から読めるものが有るらしく、それでいて私は…千冬の表情からは全然、何も読み取れない…でも、それにしたって到底笑えない15戦15敗と言う驚異的な負け数を記録している…私、そんなに弱い方じゃないと思うんだけどなぁ…
しかもそのトランプも私のなんだけど……まぁ普段、フランスに住んでる両親の所に行く時に使っていたボストンバッグに今回着替えやら色々詰めて持って来たら、出し忘れていたのが底の方にたまたま入ってただけなんだけどね…まぁ結果的に持って来て正解……この状況見るに、そうでも無い気はする…
今は後もう寝るだけだから良いけど、明日になったら千冬はもっとボヤいてそうだし…こうやってワガママを言う千冬は可愛いけど、さすがにここまでだと私も困っちゃうな…
「ふむ、飽きたな…」
「さすがに、そろそろ怒って良い?」
「いや、すまん…明日も一日暇だと思ったらついな…」
「一応、正式な休みは明日なんだけどね…ハァ、何なら他のゲームでもやる?」
「他に二人で出来るトランプのゲームか…ジジ抜き「確かにどれがババか分からなくなるけど…ゲーム内容そのものはババ抜きとほとんど一緒でしょ。他のやらない?」なら、スピード「却下。反射神経の勝負で私は千冬には勝てないよ」むぅ…」
「そもそも二人って言うのも無理有るよね…」
現在、合宿所内には私たちを含めて…必要最低限の人しか居ない。仮に全員呼べれば他にもやれるゲームは有るだろうけど…どちらかと言うと皆、オリンピックの方に期待してる人たちで明らかに私たちの事はあまり良く思っていない。プライベートな誘いをしても、残念ながら誰も乗っては来ないだろう…と言うか、そろそろ時間も遅いんだよね…
「大体、前回はどうしてたの?」
前回は一人だから、余計に退屈だった筈だけど…
「前回は娯楽施設自体、元々ほとんど無かったから不思議と我慢出来たな…だが、有るのに使えないと言われればつい、な…」
「つい、で済まされてもね…」
「むぅ…仕方が無い、飲むか。」
「まだ残ってたんだね…」
初日にもお酒、結構飲んだんだけど…少しとか言って、全然少しじゃないじゃないんだよね…と言うか、妙に大きめのバッグ二つ持って来てたのはお酒大量に詰めてたから?
「まぁ明日は休みだし、別に良いけど…」
「なら、持って来よう。」
「そこのトランプ片付けてからね…それ、一応家族で集まった時に使ってる奴だから。」
……二日酔いにならない程度にしないとね…明後日からはまた練習だから、疲労が残ったら困るし…