千冬は私の予想通り昼までには何とか回復し、起きてすぐに空腹を訴える千冬に吹き出しつつ…取り敢えず着替える為にベッドから出て、自分の部屋に戻ろうとする千冬に声を掛ける。
「あ、千冬…ちょっと待って。」
「ん?どうした?」
「はい、コレ…部屋の鍵、床に落ちてたよ?」
「むっ…そうか…ありがとう。」
「……ねぇ、千冬?」
「ん?」
「部屋の鍵、ちゃんと掛けないと駄目だよ?…後、空き缶片付ける為とは言え、勝手に入ったのは謝っておくね…」
「ああ…掛け忘れていたか…いや、そう言う理由なら入った事自体は構わないさ…と言うか、今更お前に見られて困る様な物は特に持って来て無いがな。」
……そう言う事言っちゃいますか。まぁ…昔から平気で、下着姿どころか裸で普通に私の前に出て来る人だもんね…
「それでもだよ、私以外が入らないとも限らないし…」
「……まぁ、確かに外部から誰かがここに入り込む可能性も十分に有るか…分かったよ、気を付ける。」
オリンピック選手が合宿に使っている時なら、警護もしっかりしてるだろうけど…今は平日でさえ、最低限のスタッフが居るくらいだし…今日みたいな休日は何故か私たちと同じく部屋を使っているトレーナーさん以外、スタッフは誰も居ないからね…
着替え終えた千冬が私の部屋に戻って来て、外で一緒に昼食を摂る事に…
「しかしお前…」
「ん?何?」
「……一応店に行くのに、ジャージはどうかと思うぞ?」
「……そんなに気の利いたお店に行くの?」
「いや、そう言う訳じゃないがな…」
まぁ、苦言を呈されるのは分からなくも無い…ただ…
「千冬だって、結構ラフな格好だよね?」
千冬は上が白のパーカー、下は黒のズボン…私とそんなに変わらないと思う…
「何と言うか、変わらないな…お前は。」
「どう言う意味かな?」
「他意は無い、そのままの意味だ。」
いや、分からないよ…
「しかし…相変わらず黒が好きなんだな?」
「まぁね…」
意外と見かけないよね、黒いジャージ…
「昔からね、何でか私は黒色が好きなんだよね…まぁ母さんが私の為に買ってくる服は…明るい色が妙に多かったけど。」
「……それはあの人が正しいな。」
「え?」
「どちらかと言えばお前は…明るい色の方が似合う、と言う事だ。」
「そうかなぁ…」
「…と言うか、お前普通に真夏でも黒だよな?暑くないのか?」
「う~ん…夏場でもつい黒着ちゃうんだよね…いや、確かに暑いけどさ…一応夏は半袖も着るし…」
「その割にほとんど日焼けもしないよな、お前…」
「あれ?言ってなかったっけ?私の場合肌が弱くて、夏場はほとんど火傷みたいになるからさ…露出してる部分はいつもがっつり日焼け止め塗ってるの。」
「あー…そう言えばお前は…昔からせっかく海に行っても絶対にビキニ、着なかったな…」
「……いや、それに関しては見せるほどの身体じゃないのも有るんだけど…」
少なくとも私は…千冬みたいにビキニなんて着れないって。ちなみに母さんはちゃんと胸有るから…そこら辺も親と似てない辺りだったりするんだけど。
「…と言うか、何処に入るの?…特に希望無いなら、そこのファミレスで良い?」
「お前そこに入りたいのは安いからだろ。」
「安ければそれに越したことは無いでしょ?」
「まぁそうだが…あまり食い過ぎるなよ?お前が太りにくい体質なのは知ってるが、見てるこっちの食欲が落ちて来る…」
「大丈夫だよ……多分。」
「今ボソッと『多分』とか言わなかったか?」
「……聞き間違いだよ。」