私と千冬の間に、共通の趣味なんてのは…意外に無い。
……と言うより、千冬の方に何処かに遊びに行く…と言う発想が元々無く、子供の頃から休日に一緒に居ても普通にブラブラしてるだけで終わるのはしばしば…
中学からは私にも他の友人が出来たから、そう言う気質の自分よりそっちを優先する様に言われたけど私にそんな気は更々無かった。いくら波風立てたくないからって、それで離れて行く様な友人ならさすがにこっちから願い下げ…そう考えていたら、案外私の周りに居たのは本当に私の事を気に入ってくれた子たちだったらしく、結果的に千冬とは絡まないけど…それでも私との付き合い自体はやめない子ばかりだった…彼女たちとは、今でもたまに食事に行く事も有るくらいだし…
まぁそれでも、やっぱり休日は千冬と一緒に居る事が多かったせいで…社会人になった今でも私自身、遊び方なんてそんなに知らない…なので私も、未だにほとんど無趣味と変わらない…いや、本は暇潰しに読むけど。
「しかし…時間も空いてるし、何処か行くかと聞けば…別に一緒に居るだけで良いとはな…」
「いけない?今は一夏君も居ないし、無理に遊びに行く事も別に無いんじゃない?」
「……」
「何?」
「いや…一連の内容がまるで恋人にする様な発言だな、と感じてな…」
ドキッとする…そこまで分かるなら気付いて欲しいなぁ……やっぱり無しで。それで気持ち悪がられて避けられるなんて嫌だし…いや、千冬は多分…それでも親友として付き合ってくれそうな気はするけどね…んんっ…軽く咳払いしてから私は口を開く。
「大体、千冬…病み上がりじゃない…こうやって外をウロウロしてても大丈夫なの?」
「私の場合、寝てる方がかえって…体調は崩れそうだからな…」
「まぁ、千冬はそうかもね…と言うか、千冬は逆にしたい事有るの?」
「……別に無いな。」
「でしょう?」
聞くまでも無い…何だかんだ千冬は前の職場でも、今のバイト先でも…同僚とは付かず離れずの付き合いだそうで、休日に遊びに行く事は無いらしいしね…まぁ具体的に休日、どうしてるのかは知らない…ただ、大体私の身体が空く時に私から連絡する分には…ほとんどの場合、バイト以外の千冬の予定は空いている…
「何度も言うけどね、私はこうして…千冬とお茶してるだけで十分楽しいんだよね…」
「相変わらず、変わった奴だな…と、すまん…電話だ…出て良いか?」
「どうぞ。」
「すまんな…」
私はカップに口を着ける……うわ…話に夢中になり過ぎて、温くなってる…
「……いや、一体どう言う事ですか?もう少し落ち着いて話してください…!」
「?」
電話を受けた千冬は…店内なので一応気を使ってるみたいだけど…それでも声を荒らげそうなのを必死に堪えてる様に見える……何か有ったのかな?
「!…分かりました、すぐ戻ります。」
千冬が若干乱暴に携帯のボタンを押して、ポケットにしまい込む…
「どうしたの?」
「それがな…合宿所の方に襲撃が有ったらしい…」
「え…しゅ…!」
叫びそうになった私の口を千冬が押さえる……そっか、ここは店の中だったね…私が落ち着いたのが分かったのか、千冬が手を離す。
「襲撃って…どう言う事?」
「どう言う事も何も…そのままの意味だ…束からそう言う可能性が有ると聞いていて良かったよ…私も、取り乱していただろうな…」
「いや、だから…どう言う事なの…?」
「オリンピック以上に力の入っているモンド・グロッソだが…今回もほぼ、私の優勝は確実視されてるからな……ま、更に今回はお前の様なダークホースも居る訳だが…」
その言い方だけで何となくピンと来た私は、頭に浮かんだ事をそのまま口にする…
「つまり、正攻法ではどうやっても千冬に勝てないから…試合と関係無い所で妨害して来たって事…?」
既に立ち上がり掛けていた千冬が頷く…
「まさか…大会開始前に来るとは思わなかったがな…要はそう言う事だ…」
「そんなの…許されて良いの…?」
「良い訳無い…まぁ、今回私たちは外に居たし…唯一合宿所に居たトレーナーは既に避難出来てるからほっといても問題は無いかも知れんが…例えばこれを口実に、大会自体中止になるとしたら…お前としてはどうだ?」
「……さすがに嫌かなぁ…」
こっちはせっかくやる気になったんだから…今になって水を差されるのは、さすがに気に入らない…
「なら、さっさと戻るぞ…不届き者はとっとと駆逐する…襲撃者は複数居る上、生意気に全員ISを使っている様だが…お前と私なら楽勝だろ?」
千冬の向けて来る獰猛な笑みに、私も笑顔で応える…
「当然……私の分も残しておいてよね?」
「悪いな、早い者勝ちだ…それに…」
手に持った店の伝票をチラつかせる千冬…
「貸し一つ、だな?」
「ちょっと…ズルいよ、それは…そんな事言うなら先に行くし、一人で全部片付けちゃうからね?」
「フッ…私だってそんなに掛からん…どうせISで向かうのだろう?」
「そりゃそうでしょ…てか話してる時間も無駄でしょ。私、もう行くからね?」
「ああ、先に行ってろ。」
千冬の言葉が終わらない内に、私は店を飛び出す…ブレスレットにして、持ち歩いてる私の専用機に声を掛ける…
「やるよ、シュナイダー…」
それは…嘗てフランス軍で運用されたと言う戦車の名前…意外にも名付け親は束だったりする…兵器運用としてISを作った訳じゃないって割には、そこら辺ズレてるよね…まぁ全ては使い方次第だし、私としてはこの相棒の事を結構気に入ってる…
一応路地に入ってからISを起動する……そんな事しても上空に出たらどうせ見付かるだろうけど、緊急事態だし…見逃して欲しいところ…
「行こっか…」
スラスターを吹かし、一気に上空に上がる…うわ…さすがにちょっとふらつく……気付くと千冬の専用機、『暮桜』が既に私に背中を向けて飛んでいる……いや、何そのスピード…ギリギリついては行けるけど、正直全く追い付ける気がしない…
「本当、困っちゃうよね…」
特に指示した覚えは無いけど、賢い賢い私の相棒は勝手に暮桜に通信を繋いでくれていたらしい…通信が入って来る…
『何だ、もうへばったのか?』
「いや…こんなに高く飛んだり、スピード出すのも初めてなんだけど…」
私の相棒、ちょっと気合い入れ過ぎ…一応出来るだけ見付からない様に高く飛んで欲しいなぁ、とは…思っていたけどさ…
『……どうやら完全に主導権は、お前の相棒に有るらしいな…』
「うっ…良い子だよ、本当に…」
やばっ…ちょっと吐き気が…もうちょいスピード落とすか、姿勢制御しないと……あ、何か凄い安定した…本当に私の考えてる事…分かるの?
『それで戦えるのか?』
「……多分、これで良いんじゃないかな…」
不思議と私には今…この子の気持ちが分かる…この子は今、本当に私の無茶な注文に応えようとしてくれてる…
「本当、賢くて良い子だね…貴女は…」
更に可笑しな事に…私は今、この子を女の子だと考えた…頭の中に一人の女の子の姿が浮かんで来る…背格好から察するに、中高生くらいの…後ろ姿だから、顔は分からない…
今まで何度か彼女を纏った事は有るけど、こんなの…初めて…
「シュナイダー…もう少しスピード上げれる?私、負けたくないんだ…千冬と暮桜に。貴女に、負担を掛ける事になっちゃうけど…」
グンっと負荷が身体に掛かるけど思ったより苦しさは無い…スピードが勝手に上がってく。
「ふふ…この子、今なら私の気持ちに何処までも応えてくれそう…」
『ふむ、ではこちらも…スピードを上げようか。』
並びそうになっていた暮桜の背中が遠くなる…いや、速いね…
「シュナイダー、もう上げれない?……うん、やっぱり無理だよね…今の私じゃ…まだ耐えられないし…」
言葉として返って来る訳じゃないけど…この子の気持ち、今なら…本当に良く分かる。
『見えて来たぞ、私は先に降りる…お前も準備しておけ。』
「了解……ごめんね?頼りない相棒で。」
凹む私の耳に、何やら優しい響きの音色が届く……慰めてくれてるの?
「そうだね、落ち込んでる場合じゃないか。貴女の力…私に貸して、シュナイダー。」
ちょうど合宿所が見えて来た……いや、どう見ても黒煙上がってるんだけど…相手は何やったの?
「ふぅ…さてと、お掃除と行きますか。」