「う~ん…束さんの頭脳を持ってしても、全く持って予想外だったね…」
「感心してる場合じゃないだろう…動かないのか?」
「「必要無い(と思う)」」
「……は?」
「ほらちーちゃん、見て…」
「……何だ、これは…」
「こいつら…皆ISの扱いに関してはド素人だね…二人なら全く問題無いどころか、お釣りが来るよ。」
「寧ろ、上手く手を抜かないと殺してしまうレベルだな…不安なのはその点のみだ……まぁ今回の場合、一人や二人殺してしまっても不可抗力だと思うがな… 」
「それでグダグダ文句言う連中は…私たちが動く前に向こうの私が叩き潰しちゃうだろうねー…」
「いや、しかしそれは…」
「向こうの君は元より、そんな事で今更あいつは折れんだろうよ。」
「そうでしょうか…」
「うん、全く問題無し…と言うか、もう撤退始めてるよこいつら…」
「……恐ろしく統率が取れてないな…この状況で逃げを打てる辺り、一部の奴らは単なる素人では無い様だがな…」
「戦場で手ずから武器を用いて戦うのと、ISを使って戦うのではまるで次元が違う、と言う事ですね…」
「いきなり戦えた君が特別なだけだ…普通はこうなる…」
「よ~し!やっちゃえ!そこだ、逃がすなぁ!」
「……束、見付かるぞ…」
「大丈夫~♪私たちの姿は誰にも見えないし、聞こえな…!」
「どうした?」
「ちーちゃんが…私が仕掛けたカメラの方を見てる…」
「さすがだな…向こうの君も、気配には敏感な様だ…もしかしたら私たちの居場所にも気付くかも知れん…」
「ここ…ISの上昇限界ギリギリだしね…仕方無い、カメラは機能停止させて、離れ…あ…」
「どうした?」
「いや、襲撃の影響で壊れちゃったのか音声は届いて無いけど…あ…」
「一体どうしたんだ…私にも見せ…!どう言うつもりだ…?」
「成程な…あいつは…今、ここで…決着を着ける事を選んでしまったか…」
「いや、何故…大会が有るのに…」
「何かを感じ取ったのかな…大会で何かが起きて、勝負が出来無いと思っちゃったとか…」
「いや、それは…仮にそうだとしても、不味いだろ…」
「いや…このままやらせるのも…悪くないかも知れん…」
「何故「言ってしまえば…あいつが、今この瞬間をベストなタイミングと判断した…ただ、それだけの話だ」そんな…」
「私たちは所詮部外者だしね…止められないよ…」
合宿所にISで降り立った私…千冬に遅れて暴れている襲撃者たちを相手にする事にしたけど……手応えはまるで感じない…無機質、と言うかあまりにも動きの拙いソレは一瞬無人機を想像したけど…何処か、人の動きも彷彿させる…と言うか、彼女たち全員…ISで戦う事に全く慣れてない感じ…
相変わらず私の意志を組んでくれる相棒が、視界を埋める液晶画面に表示してくれた私と千冬のキルカウント…それを見る余裕すら、今の私には有る……勝ち目無いなぁ…
「と言うか、ありがとね…手加減出来無い私に合わせてくれて…」
ISに存在する『絶対防御』…束も口を酸っぱくして言ってたけどそれは完璧じゃない…何より、散々この子はそ警告してくれた……彼女たちのISには、シールドエネルギーシステムが存在しないらしい…つまり、いくら攻撃してもISが解除されないのだ…どうしたら良いか悩む私に彼女は相変わらず言葉では無く、意志そのものを伝えてくれる…『思いっ切りやって構わない』って…
「良かった…貴女が助けてくれなかったら、私…彼女たちを殺す所だったよ…」
元々ケンカを売って来たのは向こう…まかり間違って死んだ所で気にするつもりは無いけど…それでも、気分は…やっぱり良くない。
千冬と一緒に彼女たちを何とか追い返した私はISを解除しようとして……
『それで良いのですか?』
「え…」
『本当に、それで良いのですか?』
聞こえる…今までとは違って、ちゃんと言葉として私の耳に届く…
「シュナイダー?貴女なの?」
『……』
今度は何も聞こえて来ない…でも、さっきのは確かに声だった…きっと、この子の声…
「……ふぅ…そうだよね、ここまで来たら…貴女も引っ込みが着かないんでしょ?」
私も、そうだよ…私の耳に今度は千冬の声が聞こえて来る…
『どうした?連中はもう居ないぞ?』
「千冬…私と戦って。」
『何?』
「今、ここでやろうよ…千冬。」
『……何故、と…聞くのは無粋か?』
「そうだね、今私が聞きたいのは…YESかNO…その二択だけ。別に、嫌ならそれでも良い…」
出来れば、受けて貰いたいけど。
『……ふふふ…通信越しでもお前から熱が伝わって来るな…理由を聞くのは元より、断るのは有り得ないか。良いだろう、来い…全力でな。』
「手は抜かない…これは、試合じゃない…」
『ああ、きっと最初で最後になる…正真正銘、真剣勝負だ…』
「……千冬も望んでた?だとしたら…ちょっと嬉しい…」
拡張領域から取り出した槍を握って…力を入れたり、緩めたりしてみる…うん、凄くしっくり来る…散々振ってた甲斐が有った。
『そうだな、試合では…お前と本当の決着は着けられないと思っていた……いや、違うな…そうだ、私は望んでいた…昔から…お前と死合う事をな…!』
「じゃ…行くよ…!」
『来い!』
槍をしっかり握り、スラスター吹かせて千冬に突っ込む…ごめんね、シュナイダー…?一蓮托生になっちゃうかも…
『マスター…』
っ…シュナイダー?
『私の事は気になさらず…行ってください…貴女の、気の済むまで!』
ありがとう…大丈夫、壊れる時は…一緒だから!
「ハァッ!」
千冬の前で、全力で突き出した槍は千冬を穿たない…瞬時に視界から消え…!違う!
「っ…速すぎる…!」
既に千冬が纏う暮桜は私の懐に入って来てる…シュナイダーのアシストが有っても…反応が全然追い付かない!
「っ!まだだよ!」
それでも、今の私も反応速度は人のソレじゃない…出来る!私とシュナイダーなら!
「あぁぁぁ!」
突き出していた槍を強引に持ち上げる…右から袈裟に振り下ろされる千冬の刀に槍の底…石突きと呼ばれる部位を突き出し、受け止める …くっ!重い!でも、まだ!
「フンッ!」
両手に力を込めて、槍を斜め右にズラす…!
『っ!?』
千冬の持つ刀が右に滑るようにズレて行く…その僅かな隙だけで十分!このまま振り抜く!
「でぇぇぇい!」
体勢の崩れている千冬は踏ん張れず、そのまま刀の軌道に合わせる様に千冬自身も右に押されて行く…ここ!
「ごめん!初めから…槍で勝つ気無いんだ!」
私の言葉に応えるようにすぐに槍が別の武器に換装される……ありがとう、やっぱり私は…刀の方がしっくり来る…ちょっと、重いけどね…!
『っ…!それは…!』
「本当にごめん!暮桜…破壊させてもらうから!」
刀身が異様に長く、そして分厚い…それはあの野太刀…千冬が体勢を立て直す前に振り下ろす…技術なんて関係無い!ただ、叩き潰す!
『くっ!この大馬鹿者が!』
「馬鹿で良い!どうしても…私は勝ちたいから!」
振り下ろされるソレを千冬は雪片で受け止める…ごめんね、無理だよ!
「千冬、受けるなら…それごと押し潰すよ!」
頭上で受け止められた野太刀に力を込めていく…間接部位からミシミシと音が聞こえる…シュナイダー、ごめんね…付き合わせて…でも多分、私の腕も壊れるから……それで、許して…?
『本当に…これでは負けられんな!』
「嘘っ…!何で…往生際が悪いよ!?」
私の野太刀は千冬の雪片に押し上げられて行く…本当に、何てパワーなの!?
「シュナイダー!踏ん張って!チャンスなんだから!」
『っ…おい!お前の相棒の腕が壊れるぞ!?それで良いのか!?』
分かる…千冬のその言葉は私に言ってない…この子に、伝えようとしてる…!
「やって、シュナイダー!全力で!」
『くそっ!』
関節部から響く異音が強くなって行く…同時に私の腕の痛みと言う危険信号を脳に送って来る……今しか無い!今しか、無いの!そのまま、押し潰して!
『っ…勝負を、急ぎ過ぎだ…!』
「え…」
足の裏で踏み締める地面の感触が急に無くなるのを感じた…ふわりと私の身体が持ち上がる…これ、まさか…合気!?
「っ…!?」
気付くと私は地面に転がっていた…まさか、あの状況で力を利用されて投げられるとか考えも…っ!
千冬の雪片の切っ先が仰向けになった私の鼻先に有る……あー…駄目だ、ここからひっくり返す方法…何も浮かばないや…
「分かった…降参する…」
『……腕は?』
「っ…あっ、アハハハ…うん、全然動かないよ…」
思わず笑いが込み上げて来る…地面に着いている私の腕はうんともすんとも言わない……あー…本当にコレ、もう駄目かも…これじゃあ立ち上がる事も出来無いね…
『無駄かも知れんが、一応救急車を呼ぶ…そのまま寝てろ。』
「うん…ごめんね、千冬?」
『ハァ…今更だ…自慢の相棒にも、ちゃんと謝っておけよ?』
「うん…」
気を利かせてくれたのか、千冬が何処かに歩き去って行く…
「アハハ…ごめん、負けちゃったよシュナイダー…でも、ありがとね…凄くスッキリした!」
負けて本望なんて良く言うけど…今は本当にそう…これから先の事を考えると不安にもなるけど…それでも、今私は…とても良い気分!
「千冬とギリギリの戦いが出来た代償がこの腕だけとか、うん…悪くないかも…」
これから先、もう一生動かなかったとしても私に悔いは無い。だって、本当に楽しかったんだから…
「でもまぁ…付き合わせちゃってごめんね、シュナイダー…」
『いえ、私も…楽しかったですから…』
「ホント?じゃあ、良かった…」
また会話が出来ている…さっきまではともかく、今こうして冷静に考えたら可笑しな話だけど…うん、きっとそう言う事も有るんだろうね…
「ありがとね、束…貴女の作ってくれた子…本当に、最高だよ!」
まぁ、束は眉間に皺を寄せるんだろうけど…でも、良いでしょ?こうでもしないと勝てそうも無かったから…結局、負けちゃったけどさ…
「あ、しばらくお別れかな?シュナイダー…」
遠くから救急車のサイレンが聞こえて来る…惜しいな、この子は今、私の半身みたいなんだもの…解除したくない…
『ええ、また…お会いしましょう…』
「またね、しばらく…休んでて…」
眠い、全力出し切って疲れちゃった…どうせこの後は運ばれるだけだろうし、私も少し寝ちゃおうっと…
近付いて来るサイレンの音を聞きながら、私は目を閉じた…