束のラボで鍛錬を続け、いよいよ明日は第二回モンド・グロッソの会場であるドイツに向かわないといけない日…
「ま、もうそこまで時間経ったって言うのもそうだけど…正直、今回は選手として私も出るって言うのがもう実感湧かないよね…」
「それだけあっという間だと思えるなら、お前もスタミナ着いた証拠だな…」
今、私はラボ内に設けられた自分の部屋で千冬と会話してる所…今夜は気を使ってくれたらしく、母さんとクロエも部屋には居ない(その代わり、束と兄さんの所に突入したみたいでさっき束から…"■ちゃんたすけて!\(^o^)/"…と、メールが来てたけど…さすがに私も今夜は二人きりにして欲しいからスルー…まぁ、顔文字付きで送って来る余裕有るならまだ大丈夫でしょ…正直私も意味は分かるからふざけてるのか、ガチなのかも判断しにくいし…)
「まぁ、それは良いんだけど…またお酒飲んで良いの?」
「前祝いの様な物だ…何か問題有るか?」
「本番は明日、会場になるドイツ着いてからも更に三日有るんだけどね…」
「……口調の割に過剰な緊張とかはしてない様だな…」
「まぁ、元々私って…純粋な日本人とも言い難いから。もちろんドイツ自体には馴染みは薄くても、フランスには何度か行った事有るから…取り敢えず外国に行く事自体に特に気負う所は無いかなぁ…」
日本とドイツとの時差は八時間…進んでるのは日本の方…実は、私にとってある意味もう一つの故郷…フランスと同じ時差だったりするので尚更その辺の不安は…あ、そう言えば今ってサマータイム中か…なら七時間戻すのが正解だね…
ところでサマータイムとは、日本では現状導入されてないので日本人には馴染みが無いけど…要はまんま夏期期間にだけ(まぁ、だけって言っても実際はそれなりに期間は長く取る…大雑把に言えば、北半球では大体三月頃からスタートして終わるのは大体11月初旬頃…ちなみに、南半球では北半球と季節が逆になるから必然的に導入開始と終了のタイミングも逆になったり…)導入される時間制度の事で、要は日照時間の長くなる夏場の昼間の時間を有効に活用する為、時計を一時間進めておく制度になる……ま、私もハッキリ意味を理解してるとは言い難いけど、要は夜明けも早い訳だから夏期期間は早起きして節電や省エネの経済効果を高める為とか(まぁ、私は導入してない日本生まれ日本育ちでそんなに頻繁にフランス行く訳じゃないからどうもこの制度のメリットに付いて、あまりイメージは出来て無い)
ただ、時差のズレはたかが一時間でも意外と重要になるから…万が一時差の有る国に行く時はちゃんとそこも踏まえて計算しないといけないんだよね…まぁ、基本的に現地行けば街中に…普通にサマータイム踏まえた時間差した時計有るから、そこら辺気にしなくて良いと言えば良いのかも知れない…要はこっちの身体が時差に合わせられるかどうか以外の問題はほぼ無い事になるから。
ちなみに、日本でも実は嘗てサマータイム自体は導入した事が有る…具体的に言うと、日本がアメリカ占領下に有った1948年~1952年…当時GHQ(第二次世界大戦終了後、敗戦国の日本に突き付けられた突き付けられた要求であるポツダム宣言を執行する為に当時、日本も参加していた枢軸国と敵対した連合国軍が置いた組織…まぁ、要は当時の日本軍の解体と幹部の逮捕、それからその後の日本の動向の監視の為に置かれたんだね)からの打診でアメリカでやってたサマータイムそのままに導入したその名もサンマータイム…まぁ、これに関しては結局失敗に終わってる…要は急に今までと習慣が変わり、感覚的には労働時間が長くなってる上に早起きを強制される事に馴染めなかったから…で、日本が解放された1952年に満場一致で制度は廃止されたとか。そして再導入の話自体は出た事が有るものの現在に至るまで導入の兆しは無い。
……いや、何の話だっけ…と言うか、今の所千冬に聞かれた訳でも無いのに何で私は説明口調で想像したのか…
「ああ、そう言えばそうだったな…お前の場合見た目こそ日本人と言う気はしないが、こうして流暢に日本語喋るからどうも忘れそうになるな…」
取り敢えず千冬の声はちゃんと聞こえたから、一旦意味の無い思考は止めた。
「んー…まぁ、私もフランス人の血が混じってるって事すら普段はあんまり意識してないしね…基本的には自分の事は日本人だと思って過ごしてる…まぁ、私の事を知らない人には中々そう見て貰えないけどね…」
「ま、何か有るなら言えよ?」
「うん、大丈夫…でもま、学生の時はともかく…社会人にもなれば、割と日本語話せればどうにかなるもんなんだよねぇ…」
ま、もちろんちゃんと…最低限の教育受けてるのが絶対条件にはなる…その点では、千冬と束に出会う事の出来た私は恵まれていたと思う。いや、小学校に入ってすぐの頃なんて私普通に虐められてたし…正直、とても勉強なんてしてる場合じゃなかった…あの日千冬に会えたから、今の私は有る…そう言い切っても、過言では無いと思う…
「ありがとう、千冬…」
「どうした、急に?」
「へ?私、何か言った?」
「気付いてないのか?いや、突然私に礼を言うから何事かと思ってな…」
「あー…口に出ちゃってたか…実は昔の事を思い出しててさ…」
「……いつの頃の話だ?」
「私と貴女が、初めて有った日の話…」
「あー…覚えているぞ。あの日お前は、教室の床をほとんど這う様にして探し物をしていたな…」
「……そう言えば聞いた事無かったね、実は千冬って…あの時の時点で私が虐められてるって気付いてた?」
「ハァ…お前のあの姿見て虐めだと思わなかったら…そいつの目はどうかしてるか、よっぽど純粋かのどちらかになるだろうな…」
「あー…やっぱり分かったんだ…でも、何も聞かなかったよね?」
「当時、聞いて欲しかったか?」
「う~ん…聞いて欲しくは無かったかもね…ま、それでも千冬と束…二人と友達になったら勝手に虐めも止まったんだけどさ…」
「ま、私と束は当時本当に腫れ物扱いだったからな…お前と違い、そもそも触れてはいけない連中と見られていた訳だ。」
「そう言えばハッキリ聞かなかったけど、結局何をしてそうなったの?」
「ん?理由は話してなかったか?」
「当時、束はそもそも私とクラスも違ったんだし…気付いて無かったんだろうけど…千冬は敢えて気付かない振りしてくれてる様に見えたし、私からもその辺聞かない方が良いのかなと思って…」
「……そう言えば、お前は中学に入ってから、小学校では虐められていた事を私たちに話したんだったな…」
「まぁ、そのつもりは無かったんだけど…二人以外の友人まで出来たのが嬉しくなってついね…まぁ、微妙に嫉妬する束が可愛かったのは記憶に有るなぁ…」
「……加えてあの場で話を聞いた束が、お前を虐めていた相手に復讐を企てた事は覚えてるか?」
「う…思い出さない様にしてたのに…」
あの時は束を宥めるのが大変だったんだよねぇ…
「まっ、まぁ…!ちゃんとあの時の千冬の事も覚えてるからさ!」
「あの時の私の対応なんて…『そうか…』と、一言言っただけの様な気がするんだがな…」
「もうあの時には終わってた事だし、変に慰められたり…束みたいに大騒ぎされる方が困るからねぇ…」
残念ながら千冬は忘れているみたいだけど、あの時一番嬉しかったのは私の話に相槌を打った後…私の頭を何も言わずに撫でてくれた事だったり…照れ臭くはあったんだけど、何せ当時の事は家族にも言えなかったし、やっぱり引きずってる部分は有ったから…千冬のその口には出さない気遣いがとにかく嬉しかった…ん?
「あー…ごめん、脱線したね…」
「気にするな、で…私たちが腫れ物の扱いになった理由だったか?まぁ、私も今となってはさすがにもうあまり思い出しくないから、悪いがヒントだけ出す…ヒントは、束の他人に対する対応だ…」
「!…成程ね、束のあの態度だと嫌でも敵を増やすよねぇ…」
「まぁ、クラスの連中と私たちに本格的に溝が出来た原因全てを束に押し付ける訳にも行かないがな…」
「つまり、千冬も何かやっちゃったと…」
「お前の知る通り身体能力も高い束だが、さすがに大人数に囲まれたらあいつも厳しいからな…ま、要はそう言う事だ…当時は束のせいでは無いとは言え、それでも要らん事に巻き込まれたと頭を抱えていたが…気付いたら今でもあいつとの腐れ縁は続いてるし…結果的に当時…お前を助ける事も出来た…まぁ、語弊の有る言い方になるとは思うが…今思えば、良い経験をさせて貰ったと言う所だな。」
「私としては、あんまり思い出したく無い事でも有ったりするけどね…」
「何だ…私と会った日の事も、本当は思い出したくないのか?」
「まさか。あの日私は…陳腐な言い方にはなるけど、正に私の運命に出会った…そんな風に思ったの。何より、あの時私の目には貴女の事が天使の様に見えてて…本当に、とても綺麗だと思ったの。」
「……いや、だいぶ酒が回ってないか?」
「んー…まだそこまで酔ってないし、今言ったのは本当の事…私には、あの時の貴女の事が本当にそんな風に見えてたから…」
とは言え、確かにアルコールが入ってないと…とても言えない事では有るけどね…まぁ、自分の容姿が良いの自体は自覚していても(いや、私や束が散々言ったからだけどね…)さすがに"天使"なんて表現は受け入れ難かった様で…
「何処を見たらそんな表現になるのやら…大体、それを言ったらお前のほ…!…いや、すまん。」
「大丈夫…」
千冬が気を使ってくれたのか、途中で言葉を止める…今でこそたまに私の容姿を半ば冗談交じりに千冬や束が褒めたりするし、私もそれに照れる事は有っても…特にそれ以上の問題は無いんだけど、ね…当時の私にとって男子からちょっかい掛けられたり、妬みから来る女子からの虐めなど…原因となった自分の容姿はコンプレックスでしか無かったから…
「今ではまぁ、この見た目も受け入れる事自体は出来てるから、ね…」
例え日本は元より、フランス行ってもやっぱり目を引く事にはなるとしてもね…
「てかね、束や千冬に褒められるの自体は一応素直に嬉しいんだよね…まぁ、照れるのが先に来るけど…大体、私にとっては今でも千冬が一番綺麗だから、ね…」
「ま、当時お前があまりにしつこくて…私がキレた事が有るくらいには言われてるしな…」
ちなみに一度スイッチが入ってしまうと…束は元より他の友人にも引かれる程、私は千冬の容姿を褒めてた事も有ったそうな…とは言え、正直仕方の無い事でも有る…
「ごめんね…?」
「……いや、今はもう理由も知ってるしな…お互い今となっては笑い話、と言う事で良いだろう。」
中学に入った頃の私にとって…自分の容姿についてはまだコンプレックスとして捉えてた…そこで何も知らない人から褒められたりすると、容姿に触れられる事自体が最早スイッチになってる私は普通に小学校でのトラウマが蘇る…で、当時私が精神を安定させる為に選ぶのが…千冬の容姿と性格の良さを熱弁振るって語る事…
「と言っても、私とお前が同じクラスになったのは三年の一度だけだったのに…途中の二年間の間、何度も私はお前のクラスに乱入したからな…普通にお前のクラスの奴にも私の顔は知られてしまったな…」
「でも、中学で千冬に人気出るかと思ったらそうでも無かったんだよねぇ… 」
「お前以上に一緒に行動する事の多い束が凄まじい勢いで嫌われて行ったからな…」
「そうだろうね…でも多分、束のせいだけとも言えないだろうけど…」
元々、束は他人に対して自分から何かは基本的に求めない…どうせ自分を理解出来る訳でも無いんだから中途半端に輪に入れて欲しく無い、と言うのが束の考え方…
「ま、私としてはそこは良かったけど…」
「何が言いたいんだ?」
「他意は無いよ。」
散々千冬の良さを人に語ってなんだけど…私にとってはやっぱりライバル少ない方が良かったから…とは言え、それにしたってあまりにも千冬に対しての評判は良くなかった…なので比較的私が安定してからも千冬の事を語る事に…ま、結果私もクラスの中で若干孤立したけどね…まぁ、それでも虐められるより遥かにマシだし…そんな私を暖かく見守ってくれる友人は残った…と言っても、当然の如く私が千冬に友情以上の気持ちを抱いてるのはバレてたから、普通にからかわれる事も有ったけど…
「…と、そろそろ休むか。」
千冬の声が聞こえて、私はまた思考の海から戻って来る…で、時計の確認…
「……いや、もう日付け変わってるんだけど…明日、ちゃんと起きれる?」
「……何とかなるだろ。」
「その間は何?……いや、やめた…ここで色々言う方が寝る時間少なくなって、結果…千冬の寝坊する可能性高くなるしね…」
「分かっている…明日はちゃんと起きるさ。」
「なら、良いけどね…」
……ここから数時間後…結局寝坊した千冬を叩き起こして、寝ぼけ気味の千冬の出掛ける準備を手伝う羽目になるのをこの時の私はまだ知らない…
「じゃ、おやすみ千冬…」
「ああ、おやすみ。」
千冬が私の部屋を出て行った…
「ふわ…」
千冬が部屋に居た余韻とかを感じる間も無かった…いや、だって普通に眠いし…
「さっさと寝るかな。」
取り敢えず歯を磨き、既に着替えも済ませた私はさっさとベッドに入った……千冬にああ言ったけど… 何だかんだ興奮して寝れないなんて事も、とか思ってたけど…アルコール入れたせいか、さっきまでとは違ってもう頭も回らず…私は普通に眠りに落ちた。